e-bike試乗レビュー

ヤバいe-bike!? 試乗後に貯金が始まったトレック「Rail 9.7」

 なんとっ!! トレック(TREK)から発売されるっ!! e-MTBのっ!! 「Rail 9.7」にっ!! ガッツリ乗れることにっ!! って興奮してワケわかんない感じで失礼しました。

 冷静に書きますと、目下ウルトラ注目されているトレックの「Rail 9.7」を借りられたんです。「Rail 9.7」はMTBタイプのe-bikeで、いわゆるe-MTB。アシスト部にボッシュ(Bosch)の最新&最強ユニットこと「Performance Line CX(パフォーマンス ライン シーエックス)」を採用。車体はMTBとしては本格的なフルサス(前後にサスペンションを装備)のモデルで、フレームはカーボン。最強ドライブユニット×カーボンフレーム本格フルサスMTBの夢のコラボ♪ 夢だけに価格は790,000円(税抜)!!

 余談ですけど、現在e-bike部員が声を揃える「いちばん欲しいe-bike」がこの「Rail 9.7」。知れば知るほど、調べれば調べるほど、「いーなーRail 9.7~」って部員全員でハモる感じです。

e-bike部員羨望の的、トレック「Rail 9.7」。トレックの最新テクノロジーを惜しみなく投入しつつ、ボッシュの最新&最強ドライブユニットを搭載。790,000円という価格ながら既に初回注文分は全サイズとも完売だそう
メーカー名トレック
製品名Rail 9.7
実売価格790,000円(税抜)

 非常に良さそうですよね、「Rail 9.7」。というか、既に試乗を終えてこの原稿を書いているので、イイのかイマイチなのかをイキナリ書けば、最高です最高!

 試乗を終えたその日から「Rail 9.7」貯金が始まりました。そのうち絶対買う!! そしてMTBパークに通う!! と決意させるほど、ステキなe-bikeです。ともあれ以降、「Rail 9.7」について見ていきましょう♪

「Rail 9.7」はどんなe-MTBか?

 まずは「Rail 9.7」の概要から。MTBとしては「オールマウンテン」というカテゴリーに入ると思います。いろいろなダート走行に対応できるよう設計されたMTBで、上りも下りもOKといったバランスがあります。どちらかといえば競技志向ではなく、オフロード走行を楽しむために作られた「どこでも走れるマウンテンバイク」です。

 そんなMTBに、強力なアシスト力があるドライブユニットを搭載しています。トレイルまでの自走や急峻な上りを余裕をもって走れつつ、ハードな下り坂にも対応できる、おいしいどころ取りのe-MTBというイメージ。ともあれ、細部を写真と説明文で見ていきましょう。

トレック「Rail 9.7」は前後にサスペンションを備えたフルサスMTBで、フレームはトレックのロードバイクでもお馴染みの「OCLVカーボン」で作られています。ドライブユニットはボッシュ製のPerformance Line CXを搭載。Performance Line CXは従来品と比べて25%軽量で48%小型でありつつ、最大75N・mのトルクを発生(Active Line Plusは最大50N・m)。急峻な上りでも力強いアシストが得られます。ホイールは29インチ(29×2.60'')で、いわゆる29er(ツーナイナー)
バッテリーはダウンチューブに内蔵したインチューブタイプで見た目スッキリ。ドライブユニットも小型なので、あまり“e-bike感”がありませんね。バッテリー容量は500Whと大容量で、走行距離は79km(Turboモード)~140km(Ecoモード)。一日たっぷり走れます。ドライブトレインはフロントがシングルでリアが超ワイドレシオという、MTBでは現在の主流スタイル。変速はリアのみ12段で、歯数はフロント34T×リア11-50Tです。なお、フロントギアにはチェーン外れ防止のためのチェーンデバイスを装備しています
フロントサスペンションはRockShox Yari RCで、トラベル量は160mm。大きなギャップでも難なく衝撃を吸収してくれます。コンプレッションも手軽に調節でき、サスペンションが縮むスピードを容易に変えられます
リアサスペンションはRockShox Deluxe RL(230×57.5mm)で、トラベル量は150mm。リバウンド量などの調整も容易に行なえます。路面変化への追従性が高いトレック独自のThru Shaft搭載RE:aktivダンパーを採用
ドロッパーシートポストを搭載しており、サドル高を瞬時に変えることができます。高さ調整時に使うレバーはハンドル左側
ハンドル幅は78cmで、左ハンドル右側にドライブユニットのコントロール用のPurionディスプレイが装着されています
フレームジオメトリーを工具一つで変えられるMinoLink、Thru Shaft搭載RE:aktivダンパーOCLVカーボン素材、Knock Blockシステム等々、トレック独自のテクノロジーがふんだんに盛り込まれています
こちらはトレックのMTBに搭載されている独自ブレーキングシステムABP(アクティブ ブレーキング ピボット)。リアブレーキング時でもリアサスペンションが問題なく可動します。また、ABPロゴの下にはサイドスタンド装着用のネジ穴が。欧米ではフルサスMTBを「旅行のための乗り物」としても利用し、その場合は荷物もたくさん積み、自転車自体を自立させる必要があるので、こういう仕様になっているそうです

 といった感じで、装備はかなりゴージャスです。ちなみに、トレック製の人力フルサスMTBで「Rail 9.7」に似た装備のバイクの値段を見ると、700,000円以上するというのが筆者のイメージです。ので、「Rail 9.7」って、そちら方面の人が見ると“格安e-MTB”なのかもしれません。

MTBパークで練習&トレイルライド!!

 さてさて、「Rail 9.7」の試乗。本格派のオールマウンテンe-MTBですから、やはりそれなりのトレイルを走ってみたいもの。ということで、都内唯一のMTBパーク「Smile Bike Park」で走ることにしました。

 また試走当日、コラテック(corratec)のe-bike開発・設計に携わっているプロライダー・兼岡 邦旭氏がSmile Bike Parkにやってくるとのこと。コラテックの新型e-MTB「E-POWER X VERT CX-P」のテストライドだとか!?

 さらには関係者のご紹介により、プロライダー兼岡氏にトレイルライドの基本を教えてもらえることになりました♪ そんな様子を写真と説明文で見てみましょう。

都内唯一のMTBパーク「Smile Bike Park」は、東京都稲城市の丘陵を開拓したダートコース。走りやすく整備されたダートロードを安全に楽しむことができます
そんなパークに「Rail 9.7」を持ち込んでの試走。Smile Bike Parkではコース使用料などを払えばe-bikeを含む自転車を自由に持ち込んで走れます
ちなみに、Smile Bike ParkではMTBのレンタルも行なわれています。MTBはキッズ用や大人用のほか、e-MTBもあります
パークを訪れたのは2019年12月24日。クリスマスイブにe-bike試走とは、我ながら……。さておき、この日は前日の雨のため、ウェットコンディションでした。……転倒して「Rail 9.7」壊しちゃったらどうしよう~
こちらが兼岡 邦旭プロ。発売前のコラテック「E-POWER X VERT CX-P」と一緒に登場♪
これがコラテックの「E-POWER X VERT CX-P」。フレームが日本人専用設計のハードテイルe-MTBです。ハードテイルとは、フロントのみサスペンションを装備したMTBのこと。ちなみにプロライダー兼岡氏こだわりの設計で、ヒジョーに乗りやすいです
早速、兼岡プロからMTBライドの指導を受けます。……そういえば筆者は我流でMTBに乗っていて、こういうレクチャーを受けるのは初めてです。中央と右は“アタックポジション”の手本を見せてくれているところ。凸凹があるテクニカルな箇所に差し掛かったらペダルの上で立ち上がり、前後タイヤの中心に重心がくるよう意識しつつ、衝撃をいなせるように膝を軽く曲げ、肘は外に曲げてハンドルにやや覆いかぶさるような姿勢に……むむむ難しい!
ブレーキングの基本の教えてもらいました。制動時には「フロント7:リア3」の割合で、フロントブレーキをメインに使うようなイメージでブレーキをかけるのが良いそうです。リアブレーキは主にスピードコントロール時に使うようなイメージだそう。そんなMTBライドの基本を意識しつつ、コースへ出ていきます。右写真の筆者はまだまだアタックポジションができていませんね~
練習中、兼岡プロに「もう少し腕を開いて姿勢を下げるようにするといいですよ」等々、逐一アドバイスをいただきました。結果、筆者的には徐々にスムースに乗れるようになった感じなのですが……なんか見た目は超初心者ライドですね~。でも、指導を受けると「あっギクシャク感がなくなってきた」などと自ら実感できますので、機会があればぜひMTBライド講習などを受けてみてください
パンプトラック(凸凹とカーブで構成された周回コース)を走る兼岡プロ。ペダルをまったく漕がずに、かなりのスピードで周回コースを回っています! カッコイイ! バイクの挙動に合わせて体を上下させるように力をかけると、それが推進力になって進むそうです。兼岡プロの姿勢を見ていると、かなりダイナミックに全身を使っていることがわかります
パンプトラックにはこんな凸凹が連続していますが、この凸凹を越える時に重心から自転車を前に押し出すような感覚で体を使うと加速していくそうです。重心は意識しないと前にかかりがちなので、足をこんな感じでペダルに乗せるといいそうです

 いや~プロに習うのってイイですね~。「なるほど!!」という気づきがたっぷりです。にしても、パンプトラック走行、思いっきり全身運動なのでメチャメチャ疲れました!

乗ればわかる「Rail 9.7」の凄さ!!

 練習後は自由にSmile Bike Parkを走ることに。Smile Bike Park内には、様々なコースがコンパクト気味にまとまっているので、好みのコースを繰り返し楽しめます。どんな雰囲気か、ちょっと写真と説明文で見てみましょう。

練習後は「Rail 9.7」でSmile Bike Park内を自由に走行。MTBパークなので、上り坂は基本的に激坂ばかりです
ダウンヒルのスラロームコースなんかもあります。結構な急傾斜。なので、一度下ったら上り返すことに
こちらはクロスカントリーコース。わりと緩やかなアップダウンが続き、林の中を駆け抜ける感じ。とはいえ山の中なので、ポツリポツリと激坂も登場します
少し走るとタイヤはこんな状態に。ウェット路面なのですぐ泥だらけです

 こんな感じの、泥と落ち葉と坂だらけの各種MTBコース。そして当日はコースがウェット気味なので、ツルツルヌルヌルと滑りがちでした。そんな中での「Rail 9.7」試乗。以降、いろいろ実感したことがありますので、それぞれ区切って挙げていきます。

滑るダートの上り坂でもトラクションが超イイ

 まず痛感したのは、「Rail 9.7」のトラクションの良さ。後輪に十分な駆動力があり、ダート路面をガッツリ掴んで力強く前進してくれることがよくわかりました。

 筆者はハードテイルのe-MTBであるミヤタ「RIDGE-RUNNER(リッジランナー)」に乗っていますが、このe-MTB、上り坂にて「トラクションがイマイチかな?」という瞬間があります。状況にもよりますが、ダートロード上り坂などで後輪が空転することが少々。これは筆者の姿勢やペダリングにも問題があると思いますが、ダートロード上り坂などではスリップしないように少々注意して漕ぐ必要があります。

 「Rail 9.7」の場合、そういう点をかなり“バイク任せ”にできる気がします。というのは、リアサスペンションの働きがまずひとつ。サスが緻密で適切な動きをしているのだと思いますが、常にリアホイールが接地している感覚。ハードテイルMTBと違ってリアホイールが上下に暴れにくいので、タイヤと路面のグリップがより高くなっているわけですね。

ドライブユニット「Performance Line CX」のeMTBモードが超イイ

 ドライブユニットであるPerformance Line CXも秀逸です。このドライブユニットのアシストモードは、電池節約のEcoモード、節電とパワーのバランスがあるTourモード、MTB走行向けのeMTBモード、アシスト力最大のTurboモードの4つ。今回のライドではeMTBモードを中心に使いました。

 eMTBモードの特徴は、ペダルを踏む強さによってアシスト力が二次曲線的に変化すること。eMTBモードでのアシスト力は、最小がTourモードと同等、最強がTurboモードと同等。つまりはTourモードからTurboモードまでの範囲で、アシスト力が二次曲線的に変化するという動作です。ペダルを軽く踏めば弱めの力でアシストし、少し強く踏めば少し強くアシストし、強く踏めば最大の力でアシスト。

 MTBパークでのダート走行で、アシストが欲しくなるのは上り坂です。そしてそういう上り坂はだいたい激坂。時速10km以下で走ることが多いシチュエーションです。この速度域では、メーカーを問わずアシスト力が法定の最大値である人力の2倍。足で1の力を加えれば、2のアシスト力が加わる。ドライブユニットの力を最大限に発揮できる速度域です。

 で、ダートの急な上りをeMTBモードでアシストさせると、ダート激坂登坂のハードルがかなり下がる。傾斜や路面状態に合わせて“踏む力で微妙なアシスト力コントロールができる”からです。「このままアシスト力がかかり続けると滑る!」と思った瞬間、ちょっとだけペダルを踏む力を弱めると、スリップせず上り続けられる。逆に「この先の一瞬の激傾斜は力いっぱい踏み込んでクリアだ!」と思って踏めばアシスト力全開で上り切れます。

 つまりeMTBモードだと、人力自転車のペダリングと同様の感覚で“傾斜や路面状態と相談しながらのペダリング”が可能。しかも速度域的に、人力1+アシスト2の合計3人力の力でのペダリング。ダート走行には非常に実用的で効果的だと感じました。

 やや余談ですが、例えばクロスバイクやミニベロのe-bikeに搭載されているボッシュ製ドライブユニットのActive Line Plusの場合、激坂では最大アシスト力が働くTurboモードを使いたくなります。が、路面状況によっては後輪が空回りすることも。例えば林の中のヒルクライムの峠近くとかだと、路面が濡れていたり小砂利があったり。Turboモードで走るとアシスト力が強すぎてスリップしちゃうんですね。そんな場合はひとつ下のSportsモードに落とす……けどまだスリップするから、さらに下のTourモードに落とす、といったアシストモードの切り替えをします。それを考えると「あーActive Line PlusにもeMTBモードみたいな出力が二次曲線的に変わるモードがあればいいのにな~」と思ったりします。

トレックのフルサスやっぱすげぇ!

 今回の試走はウェットコンディションのSmile Bike Parkだったわけですが、走り始める時に「今回は1回か2回やらかすんだろうな~怪我しないように気をつけよう」と思った筆者です。トレッキングシューズで踏んでもツルッと滑るようなダートがコースなので、まあ自転車で走ったらコケるだろうな、と。

 しかし「Rail 9.7」で走ってコケそうになることはありませんでした。一度、コースの横方向が斜面になっている逆バーム(?)で前輪が滑って足を着きましたが、それ以外ではまったくコケそうになる感じナシ。

 これ、たぶん、「Rail 9.7」の前後サスペンションの秀逸さなんでしょうね。走っている途中から「これでもコケない?」「こうしても滑らない?」と車体の扱いをエスカレートさせても大丈夫でした。そうなのか~優れたパーツで作られたフルサスMTBって、その時点でいろいろ有利なんだ~、と感じた次第です。

トレックのABPはイイな

 トレック独自のブレーキングシステムであるABPも効いていた、と思います。多くのMTBの場合、走行中にリアブレーキがかかるとリアサスペンションの可動範囲が著しく狭くなったり動かなくなったりするそうですが、ABPの場合それがない!

 今回のコースは初めてで、また、けっこう急な下り坂も多々あり、そんな状況で筆者はリアブレーキでスピードをかなり落としました。地元のダートロードで同じようなことをすると、たいていリアタイヤが上下に暴れて、同時に中途半端にロックして「ズッズズッ」と路面を削る感じでしたが、「Rail 9.7」では「いつもやらかす下りでの後輪ズッズズッ」の記憶がありません。ABPイイなぁ、と思いました。

やっぱりフルサスe-MTBはペダリングが簡単

 これは「Rail 9.7」に限ったことではありませんが、やっぱりe-MTBはフルサスがいいな~と再認識しました。MTBは山を走るから衝撃吸収性が高いほうがいいというのもありますが、e-MTBだとフルサスMTBの難しさが緩和されるようにも思います。

 人力のフルサスMTB自体、ペダリングが難しいと思うんですよね。路面に合わせて意識してうまくペダルを踏まないと、途端に足の力が前後サスペンションの上下の動きとして吸収されてしまう感じ。平地でも起こることなので、ペダリングがうまくないと「も~全然前に進んでくれないなぁ人力フルサスMTBは~」と思ってしまいます。

 なので「MTBはハードテイルがいい」「タイヤが太いならフルリジッド(前後ともサスペンションなし)がいい」と考えていました。でもe-MTBだと違う印象が。何台かフルサスe-MTBに乗ったら「e-MTBは絶対フルサスがいい」と思うようになりました。

 その理由は、「筆者のペダリングのムラをドライブユニットが吸収してくれた」という実感があるからです。フルサスe-MTBに乗るといつもそう。フツーにペダリングしていれば、ペダルを踏む力の強弱的なムラを、ドライブユニットが吸収して均等にならしてくれているという強い実感があります。「e-MTBなら足の力がサスペンションの上下運動へと無駄に変換される初心者あるある的残念感がない」という感覚。もちろん「Rail 9.7」にもそういう実感があります……今まで感じた中で最高レベルの実感が。

 なお、「Rail 9.7」は乗り心地も最高。サスペンションがしっかりと衝撃を吸収してくれるのに加え、タイヤがより大径で凹凸を越えやすく、さらにはカーボンフレームが細かな振動を打ち消してくれます。「ていうか完全にオフロードなのに何なのこの乗り心地~♪」と痛感し、この時点で「e-MTB買うならフルサスだし、どうせ買うならRail 9.7だから、Rail 9.7貯金しなきゃ!!」とか思った筆者なのでした。

 といった感じで、ものすご~く良かったトレックの「Rail 9.7」。ほかにも小さな美点がたくさんありました。細部までかなりイイ。

 やっぱり本気の完成車メーカーが気合入れて作ったe-bikeって、軽く試乗した程度で“クラッとして購入算段モードに入っちゃう”もんなんですね。でも税込みだと869,000円だぞオイ。これ買おうと考えてる俺って危なくね? 拙宅の財政的に。

 とマジで思う程度ヤバい「Rail 9.7」。春からは兵庫県神鍋にある「UP MTB PARK IN KANNABE」でレンタルが始まるそうですが、トレック専門店BIKE PLUSにも試乗車が入ってきているそうです。超絶欲しくなってヤバいので試乗しないほうがいいと思いますが、非常に刺激的なe-MTBなので刺激を求めるならぜひご試乗を!!

スタパ齋藤