e-bike試乗レビュー

期待を裏切らない走り、アシストの強さと自然さ、扱いやすかったトレックの最新e-MTB

トレック「Rail 9.7 Gen 4」

2023年中頃に国内発売されたトレックのe-MTB「Rail 9.7 Gen 4」。トレック製e-MTBのなかで最もグレードの高いハイエンドe-bikeです。価格は998,690円。

初代Rail 9.7は、2019年発売のMTBタイプe-bikeシリーズ。発売当時にe-bike部メンバーが試乗しましたが、全員が口を揃えて「いーなーRail 9.7~」と感嘆しました。

そして今回レビューする「Rail 9.7 Gen 4」は2023年モデル。Railシリーズの世代としては4世代目となります。

特徴としては、まずドライブユニットを始めとするe-bikeシステムとしてボッシュの「Smart System(スマートシステム)」を採用しています。コンポーネンツとしてはe-MTB向け・スマートシステム対応「Performance Line CX」。パワフルかつ自然なアシストを実現している最新ドライブユニットです。

それからカーボンフレームのフルサスe-MTBであること。重量は24.65kg(Mサイズ)とe-bike的な“重さ”ですが、パワフルなドライブユニットとカーボンフレームの各部軽さと全体的なしなやかさ、さらにサスペンションの調和的な挙動により、「とても軽快に走れる快適性」があります。

ほか、ハイエンドe-MTBとして装備も充実。高品位なサスペンションやブレーキやドライブトレイン系コンポーネンツなどをふんだんに採用しています。

以降、Rail 9.7 Gen 4についてのレビューをお届けしますが、ここでRail 9.7 Gen 4についての筆者的印象を書いてしまうと、最高です! 走行感とスペックから考えると、998,690円という価格は「お買い得」という気さえします。「絶対試乗すべきe-MTBの1台」だと思います。

Rail 9.7 Gen 4は、どんなe-MTB?

トレックのハイエンドe-MTBであるRail 9.7 Gen 4。まずはどんなパーツを採用しているのを見ていきましょう。

Rail 9.7 Gen 4のカラーは「Carbon Red Smoke」のみ。サイズは、S/M/L/XLサイズが用意されています。重さは24.65kg(Mサイズ)。写真はLサイズです
ドライブユニットはボッシュ「Performance Line CX(スマートシステム対応)」。最大トルクは85Nm
バッテリーはボッシュ「Power Tube 750」で、ダウンチューブに内蔵されており、取り出すこともできます。容量は750Wh。ただし車体サイズにより内蔵できるバッテリーは異なる場合があります。Power Tube 750の場合、Performance Line CXによるアシスト走行距離は128~198km。トレイルなどをパワフルにアシストさせるTurboモードやeMTBモードでも120km以上の走行が可能です
ダウンチューブ左側にはバッテリー着脱用の鍵穴があります
車体左側のドライブユニット上部には充電用のソケットがあります。バッテリーを取り外して単体で充電することも可能
コントローラーはボッシュ「LED Remote Controller」。LEDインジケーターのカラーで電池残量やアシストモードを示します。ディスプレイを追加で装着することも可能
このコントローラーは前の世代のどのコントローラーよりも扱いやすいです。ボタン位置や形状やサイズが最適化されていると感じられます
トップチューブ上部前方には車体埋め込み型のコントローラーである「System Controller」を入れるスペースがあります。System Controller単体だけ使ってもe-bikeをコントロールできますが、System Controllerとワイヤレスリモコンの「Mini Remote」を組み合わせて使うと、ハンドル周辺がシンプルにまとまとまった実用的なe-bikeになると思います
ドライブトレインの主なコンポーネンツはシマノ「Shimano SLX」およびシマノ「Shimano XT」。チェーンリングやクランクはE*thirteen E*specが使われています。歯数は、チェーンリングが34T、カセットスプロケットが10-51T。12段変速です
フォーク(フロントサスペンション)は「RockShox Domain RC」160mmトラベルのサスペンションです
ショック(リアサスペンション)は「RockShox Deluxe Select+ RT(230mm×57.5mm)」。最長トラベルは170mm
こちらはトレック独自の「Mino Link」システム。走行環境に合わせて車体のジオメトリーを変えられるしくみで、黒く見えるパーツの位置を工具ひとつで動かすことでセッティングを変えられます。写真左側が車体後方ですが、ボルト穴位置を写真のように車体後方にすると、ハンドルがより倒れてドライブユニット下方が地面に近くなり、下り坂での安定性が高いジオメトリーになります。逆に車体前方にボルト穴位置を移すと、ハンドルが立ってドライブユニット下方と地面との距離が増え、上り坂でペダリングがしやすく、ハンドリングがよりクイックなジオメトリーになります。コースなどに応じ、工具ひとつでジオメトリーを変えられるのは、とくにMTBにおいては画期的であり実用的な機構ですね
ブレーキは前後ともシマノ製の油圧式ディスクブレーキで、4ピストンタイプです
タイヤは前後ともボントレガー「XR5 Team Issue TLR」で、サイズは29x2.5インチ。タイヤが大きめで走破性が高い29er MTBですね。タイヤはチューブレスです
ハンドルはこんな感じ。スッキリしています
右側のシフター(シフトレバー)やブレーキレバーは、シマノのMTB用マウント規格「Ispec(アイスペック)」対応品。シフターとブレーキレバーをひとつのマウントだけで装着できます。これにより、外観がスッキリし、ハンドルバーにより広いスペースが生まれ、さらに軽量化も実現しています
ハンドル右側を前方から見た様子。Ispecってホント、スッキリとレバー類を取り付けられますね
こちらはハンドル左側を前方から見た様子。ボッシュのコントローラー、ボントレガーのレバー(ドロッパーシートポスト用)、シマノのブレーキレバーが装着されていますが、メーカーが異なるので残念ながらIspecで取り付けることはできません。よく見ると3つのマウントがハンドルに取り付けられています
ワイヤー類はフレーム内を通ります。とてもスッキリした外観です
ハンドルの切れ角はここまで。トレックのMTBの多くに「KNOCK BLOCK」という機構が搭載されています。これは転倒時などにフロントフォーク上部がフレームにぶつかるのを防止する機構。とくにカーボンフレームは横からの力に弱く、転倒時にフロントサスペンション上部の金属部がダウンチューブ前方に当たると割れてしまうでしょう。KNOCK BLOCK機構はそれを防ぎます
サドルはボントレガー製
ドロッパーシートポスト搭載。標準スペックではTranzX製が採用されていますが、この車体にはボントレガー製が装着されていました。理由は後述します
全体的にシンプルでスタイリッシュな見栄えです。違うカラーも欲しいところですね

トレック公式のウェブサイトで、トレック製各バイクのスペックを見ることができます。そこには車体を構成する各種コンポーネンツも明記されています。しかし、実際に車体を購入した場合、トレック公式ウェブサイトに書かれているのとは異なるコンポーネンツが装着された状態で届くことがあります。

これはパーツ供給などの観点から「パーツ入手が難しい場合は互換パーツを使って車体を構成する」というポリシーに基づくものです。実際にトレック公式ウェブサイトのスペック欄などには「サプライチェーンの問題から、互換性のある部品は予告なく代用されることがあります」と明記されています。

現在もまだ自転車部品の流通がスムーズではありません。なので実際に、同じRail 9.7 Gen 4を買っても「1台のコンポーネンツはSRAM(スラム)製で、もう1台のコンポーネンツはシマノ製だった」ということがあるそうです(販売店談)。ただ、パーツのグレードが大きく異なるということはないようです。

上りも下りもパワフルで軽快

少しトレイルを走ってみました。あまり急峻な場所は走れませんでしたが、それでもRail 9.7 Gen 4の「格上の実力」のようなものがしっかり感じられました。

Rail 9.7 Gen 4でトレイルを走ってみました。走ったトレイルはアップダウンが多いシングルトラックですが、あまり急峻な場所ではありません
こんな感じの、さほど急な坂はない狭めのトレイルです。とはいえ、人力MTBで走ったら30分もせずゼエゼエハアハアという汗だく状態になりそうなコースではあります。写真は丘のような地形を上ってきているところですが、Rail 9.7 Gen 4だと常時着座して進めます
丘を上りきったら今度は下り。フルサスが衝撃を吸収しつつ安定的にトラクションがかかります。この下りはやや急でブレーキングも必要ですが、サスペンションのおかげでブレーキング中の車体も安定しています
トレイルの別の場所。途中、段差やデコボコがあるルートでしたが、こういう場所ではフルサスMTBが快適。突き上げ感はほとんど感じません。またカーボンフレームのしなやかさにより、走行中の微振動も大きく和らぎます

トレイルをRail 9.7 Gen 4で走り始めて、すぐ思いました。カーボンフレームのフルサスe-MTBで未舗装路を走るのって楽しい! と。

アルミフレームのフルサスe-MTBにはよく乗る筆者ですが、フレーム材質で全然乗り味が違います。走っているルートは未舗装で少々野蛮な感じの路面ですが、そういう道でも、なんというか「乗り味が上品」な感じがします。また着座し続けていても「お尻に伝わる振動がより少ないのがカーボンフレーム」という印象があります。

それと、ドライブユニットのボッシュ「Performance Line CX(スマートシステム対応)」。これが非常にイイです。

前世代のPerformance Line CXは、新世代スマートシステム対応Performance Line CXと比べると、けっこうワイルド。Turboモードなどトルクフルなモードにして踏み込むと、ドン! と急激に前へ出る感じ。

写真のトレイルの地面は粘土質で、しかも前日は雨。こういう路面状況で前世代Performance Line CXで走ったら、アシストのトルクによる後輪スリップが何度も起きていたと思います。

しかし新世代スマートシステム対応Performance Line CXを搭載したRail 9.7 Gen 4では、前世代にありがちだった「トルクが出過ぎて後輪が滑る」ということがほとんどありません。アシスト力は十二分にあるんですが、その力の出方が唐突ではない。ペダルを踏むといきなりはトルクが出ず、ジワッと滑らかに、でも俊敏にアシストが始まる感じ。非常に自然なアシスト感があるので、e-bikeとしてとても扱いやすいと感じました。

ただ、「前世代のじゃじゃ馬的なアシスト感が好き」という人も少なくありません。前世代と新世代ではアシストのフィールがかなり違いますので、自分の好みがどちらなのか知るためにも、前世代・新世代の乗り比べをするのがオススメです。

なお、新世代スマートシステム対応Performance Line CXのモーター音はかなり静か。林に囲まれたトレイルを静かに走れて気分がいいです。

Rail 9.7 Gen 4はスペックからすれば「競技志向が高いe-MTB」だと思います。では競技志向でないライダーが乗るのはナシか?

筆者は全然アリ! だと思います。

いろいろ理由はありますが、大きいのは「高性能e-bikeはライダーの能力をかなり拡張してくれる」と実感するからです。今回の走行もそうで、実は以前にリアリジッド(フロントサスペンションのみ)のe-MTBでこの道を走ったことがあるんですが、そのときは路面状況がずっと良かったものの、今回のライドよりも苦労して走ったという記憶があります。

それがRail 9.7 Gen 4だと「えっこのルート、こんなラクだったっけ?」と思える。まあ、以前ここで乗ったe-MTBとRail 9.7 Gen 4は、スペック的にも構造的にも価格的にも別モノですが。でも、e-bikeによりライダーの体感がここまで違うのかと思うと、e-bikeの性能はそのままライダーの能力UP感を高めてくれることは確かだと思います。

フルサスのカーボンフレームe-MTBだと、未舗装路を安定的かつラクに走れる。ドライブユニットのアシスト力も至って自然なフィーリング。でもアシスト力は非常にパワフル。腕に自信がないライダーが慣れないトレイルに来ても、楽しみながらラクに走破できてしまう! Rail 9.7 Gen 4、サイコーです!

舗装路でも速くてスムーズ

トレイルを出て舗装路も少し走ってみました。本格派e-MTBのRail 9.7 Gen 4で舗装路を走っても退屈なのかもしれないけれど……一応は舗装路も走っておこうかな、と。

こんな舗装路をしばらく走ってみました

わりと平坦な舗装路を走ってみました。走行前の予想では「ブロックタイヤだしスピード出なさそう」「アシストあんまり使わないから疲れそう」というもの。「フルサスe-MTBはアップダウンがある未舗装路を走ってこそ楽しい」とも考えていました。

しかし予想はけっこう覆された。Rail 9.7 Gen 4は、舗装路を走ると、なんかこうクロスバイクみたいな軽快さでスイスイ走れてしまうのでした。しかも、かなり快適に。

筆者は以前にロードバイクに乗っていました。人力の。最初はアルミフレームのロードでしたが、ライドにハマってカーボンフレームのロードバイクに乗り換えました。そしていろいろ感動。

カーボンフレームのロードバイクだと、それまで「荒れ気味」と感じていた路面が、「えっこの路面、舗装し直した?」と勘違いするほど乗り心地がいいんです。アルミフレームだと「荒れ気味の路面を、体に微振動を受けながら走っている」と感じていたものが、カーボンロードだと「滑らかな道にタイヤが吸い付くようにスムーズに走れる」という感じに変わりました。ほかにも「カーボンロードだとペダルを踏んだだけしっかり加速する」という感覚もありました。

Rail 9.7 Gen 4には、それによく似た舗装路の走行感があります。やや荒れ気味の舗装路でもスムーズかつ快適に走れる。ペダルを踏んだ分しっかり加速するし進む(まあそれはアシストの力でもありますが)。「そうなんだーRail 9.7 Gen 4ならトレイルまでの舗装路も気持ちよく走れるじゃん!」と明るい気分になりました。

いやー買ってよかったですRail 9.7 Gen 4! なかば「買うならコレしかない」的に試乗せず決め打ちで買……え? 借りモンだろソレ、って!?

実はこの車体、筆者の愛車なのでした。せっかく買ったし、車体がキレイなうちに写真撮ってレビューしよう、みたいな。

このRail 9.7 Gen 4は筆者の愛車なのでした

といった感じのトレックRail 9.7 Gen 4。期待を裏切らない走りの良さ、アシストの強さと自然さ、そして扱いやすさがありました。非常によくできた車体ですので、機会があればぜひ試乗なさってください!

なお、筆者がRail 9.7 Gen 4を買った経緯は、また別の記事で。販売店さん側の「普通はあまり知られない裏話」なども盛り込んでお伝えしますので、ぜひご期待ください!

スタパ齋藤