e-bike試乗レビュー

自転車通勤に最適なe-bikeかも!? 安定志向で乗りやすいトレック「Allant+ 8」

 e-bikeの一大勢力となっているのが、クロスバイクタイプです。e-bikeをリリースしているメーカーは、各社とも1台はクロスバイクタイプを用意しているような状況で、複数台ラインナップしているメーカーも少なくありません。なので、選ぶのに迷ってしまいそうな贅沢な状態。豊富なラインナップでも、それぞれの特徴はしっかり踏まえて選びたいところです。今回は、クロスバイクタイプを6台もラインナップしているトレックの「Allant+ 8(アラントプラスエイト)」に長期試乗してみました。

メーカー名トレック
製品名Allant+ 8
実売価格430,000円(税抜)

パワフルなドライブユニットと自転車通勤向けの装備

 軽快車タイプの電動アシスト自転車ではなく、スポーティーなe-bikeを欲しい人が想定する使い方の1つが自転車通勤ではないでしょうか? それも、アシストなしの自転車ではちょっと尻込みしてしまいそうな距離だったり、坂道の多い通勤ルートなのではないかと想像します。実は、この「Allant+ 8」はそんな使い方がピッタリくる1台なのです。

 この車体をひと目見て、e-bikeだと気付くのはかなり詳しい人でしょう。普通の人は、フレームとタイヤがちょっと太いかな……と思うくらいのはず。それほど「Allant+ 8」はスマートなデザインに仕上がっています。インチューブ式のバッテリーとコンパクトなドライブユニットを採用することで、電動アシスト自転車にありがちな野暮ったいバッテリーのケースやドライブユニットを、スッキリと収めているのでスマートに見えるのです。

バッテリーをフレームの内部に収めたインチューブ式。ボッシュ(Bosch)の「PowerTube 500」で容量は500Whとたっぷり
バッテリーを取り外して充電もできますが、フレームに装備されたコネクターにそのまま接続しても充電可能です

 ドライブユニットは同じくボッシュ製「Performance Line CX」。ボッシュには街乗り向けの「Active Line Plus」というドライブユニットもありますが、e-MTBなどに搭載される最新型でパワフルなモデルをあえて採用しています。このドライブユニットはコンパクトでありながら、最大トルクが75N・mと強力なのが特徴。クロスバイクではありますが、“本気”の心臓部が与えられていると感じます。

ドライブユニット単体の重量が2.9kgと軽量ながら、最大トルク75N・mを誇る「Performance Line CX」を装備。コンパクトなので、車体のデザインを邪魔せず、スッキリした見た目にも一役買っています

 パワフルなドライブユニットを搭載しているとはいえ、「Allant+ 8」は街乗り向けのクロスバイク。通勤に便利な装備もいろいろと備えています。例えば前後のタイヤにはフェンダーが標準で付いているので、路面に水たまりがあっても服が汚れることがありません。リアキャリアも装備されているので、バッグを背負わずに移動できるのも通勤ユーザーにはうれしいポイントでしょう。

タイヤは27.5×2.4インチというMTB並の太さ。ただし、タイヤはオフロード向けのブロックタイプではなく、スリックタイプです
タイヤだけでなく、リムもかなり太め。35mmと幅のあるリムは、タイヤ内部の空気量が多くなるため乗り心地が快適です
そんなタイヤをしっかり覆う太めのフェンダーを前後に標準装備。雨の中を走っても、泥跳ねで服を汚す心配がありません
ハンドル幅は600mm(サイズL/XLは660mm)とクロスバイクとしてはちょっと広め。太いタイヤをコントロールするためでしょう
グリップは手の平を乗せやすいエルゴノミック形状。コントローラーはコンパクトな「Purion」です
車体を支えるためのサイドスタンドももちろん標準装備。しっかりした作りなので、重量のあるe-bikeも安定して支えられます
フロントにはバッテリーから給電されるライトを装備しているので、帰りが遅くなっても安心
リアフェンダーにはテールライトも搭載。夜道で自動車からの被視認性を向上させるためには有効です

 e-MTB向けのドライブユニットを搭載し、27.5×2.4というMTBのような太さのタイヤを装備しているだけに、ブレーキやコンポーネンツなどもMTB向けのパーツが多く採用されています。特に油圧式のディスクブレーキは、少ない力でも効きが良くてコントロールしやすいので、街乗りでも安心感が高まる装備です。

コンポーネンツはシマノの「デオーレ」グレードで、リアのみの10段変速
フロント側には変速はなく、パンツの裾が汚れにくいチェーンガードを装備
油圧式のディスクブレーキもシマノ製。雨の日でも制動力が落ちないのが魅力

通勤路で乗りやすさを実感

 通勤向けのe-bikeということで、試乗は都内(渋谷)から筆者の自宅まで約24kmのコースを走ってみました。渋谷はその名のとおり、谷になっている地形なので自宅のある西東京方面に帰るには、必ず坂を上る必要があります。また、今回はあえて上り下りの多い井の頭通りを使うルートで帰ってみました(アシストのない自転車では避けているルートです)。

今回走行したルート。距離は約24kmで獲得標高は277m、平均時速は17km/hでした

 まず走り始めて感じたのは、アシストの力強さ。ドライブユニット「Performance Line CX」のパワフルさは、以前に神鍋のコースでe-MTBを乗りまくった際に実感しましたが、やはり強烈な坂道を上るMTB向けに開発されているだけに強力です。走行モードは4段階あるのですが、最強のTurboモードではアシストが強すぎて、街乗りでは持て余してしまうほど。特に信号待ちからのスタートで使うと、強烈なダッシュで一瞬目が付いていかないくらいでした。

 速すぎるのでTurboモードは封印。平地では基本的にTourモード、坂を上るときだけ1つ上のSportモードを使ったくらいでしたがアシスト力にはまったく不満はありませんでした。

写真ではわかりづらいですが、アシストがないとちょっと嫌になるくらいの上り坂。でも、アシストはSportモードで十分でした

 アシストは強力なのですが、コラテックの「E-POWER SHAPE PT500」(関連記事)や、ジャイアントの「ESCAPE RX-E+」(関連記事)などの“快速系”クロスバイクと比べると、「Allant+ 8」は明確にキャラクターが異なります。

 「E-POWER SHAPE PT500」や「ESCAPE RX-E+」は細身のタイヤと軽量な車体で、アシストが切れる24km/hを超えてもスピードを乗せて行くことができますが、「Allant+ 8」はタイヤが太く車体重量も25.85kgあるので、アシストが効いている速度域での加速を楽しむ感じ。それ以上のスピードを出そうとすると、かなり足に来ます。しかし、24km/hまでの快適性は「Allant+ 8」のほうが上です。その要因は、やはり太いタイヤ。エアボリュームが大きいので路面の凹凸をタイヤが吸収してくれるためです。

このタイヤの太さが、絶妙の快適さと安心感を生んでいる要因

 また、下り坂での安定感の高さにも驚かされました。タイヤがしっかり路面をグリップしてくれるのと、車体の設計が安定指向なのか、下り坂でも安心して走ることができます。「E-POWER SHAPE PT500」や「ESCAPE RX-E+」でも、同じコースを走ったのですが、長い下り坂のカーブがある区間タイムだけは「Allant+ 8」が一番でした。タイヤが細い快速系のe-bikeも楽しいですが、毎日の通勤で快適性と安心感を重視する人にはピッタリでしょう。

途中で暗くなってきましたがテールランプが付いているので、車道を走っていても安心です
自宅に着いた頃にはすっかり日も暮れてましたが、ライトは予想以上に明るい。充電や電池の心配をしなくていいのもありがたいですね

バッグを装着して近所のツーリングにも連れ出してみる

 その後も「Allant+ 8」をいろいろなシーンで乗り回してみました。その中で感じたのが、“この乗りやすさが気軽に乗り出せる”ことにつながっていること。自宅には何台か自転車がありますし、同じ期間に快速系のe-bikeも借りていたのですが、何か出かける用事がある際にもっとも出番が多かったのが「Allant+ 8」でした。

 スタンドが付いているので、どこに乗って行っても停める場所を考える必要がありませんし、フェンダーも装備しているので、雨上がりでも気軽に乗り出せます。やや高価ですが、日常生活の中で付き合いやすいモデルでした。

水たまりが残る雨上がりでも、泥跳ねを気にせず乗れるのは通勤マシンとして重要なポイント
太いタイヤをしっかりカバーする純正のフェンダー

 リアキャリアが付いていることも、日々の使いやすさに一役買っています。一般的な荷物をくくりつけるタイプではなく、引っかけるタイプのキャリアですが、こういうタイプに向けの自転車用バッグは結構リリースされています。手元にも1つあったので、それを装着して出かけてみました。

自宅にあった自転車用のバッグを付けてみました。トートタイプのバッグですが、結構似合っています。通勤で使うなら、ビジネスバッグっぽいデザインのモデルもリリースされています
キャリアにフックを通して引っかけて、ベルクロで固定するだけ。手軽ですがグラついたりすることはありません
取り外しも簡単なので、寄り道した際にもバッグの心配をしたり、取り外すのに手間取ることもありませんでした

 MTBのようにタイヤが太いので、ちょっとした未舗装路も走れてしまいます。近所の河原を走ってみましたが、まったく問題ありませんでした。大きめの石がゴロゴロしているようなところも、自転車から降りることなく通過できます。こういうオフロードも含めて、気軽に散歩するようなライドは楽しい!!

近所の小川沿いを散歩感覚で走ってみました
このくらいのオフロードなら、なんの問題もなく走れてしまいます
こんな石がゴロゴロしているところでも、乗り越えて行けました

 “飛ばしたくなる”快速系のe-bikeは楽しいですが、アシストが切れる速度域でもついついペダルを踏んでしまうので、実は結構疲れやすかったりもします。その点、「Allant+ 8」は車重もあるので24km/h以上の速度で走るのは得意ではありません。でも、そこまでのアシストは強力で、景色を見ながら楽に乗るにはちょうどいい。スピードを追い求めるのではなく、少し落ち着いて自転車と付き合いたい人には良い相棒になるはずです。フレームなど各部の仕上がりを見ても高品位で、そんな大人のライダーを満足させてくれるでしょう。

ハイドロフォームで造形されたアルミフレームは溶接跡も美しく、手をかけて仕上げられているのが感じられます

増谷茂樹

乗り物ライター 1975年生まれ。自転車・オートバイ・クルマなどタイヤが付いている乗り物なら何でも好きだが、自転車はどちらかというと土の上を走るのが好み。e-bikeという言葉が一般的になる前から電動アシスト自転車を取材してきたほか、電気自動車や電動オートバイについても追いかけている。