e-bike試乗レビュー

約100万円のe-bike購入の決め手となった理由、納車までのショップのリアルな舞台裏

「Rail 9.7 Gen 4」はトレックのe-MTBの最上位車種。ドライブユニットとしてボッシュのスマートシステム対応「Performance Line CX」を搭載するほか、各コンポーネンツもハイエンド系です

トレックの「Rail 9.7 Gen 4」を買いました。カーボンフレームのハイエンドe-MTBで、価格は998,690円。これまでにも車体についてはレビュー記事を書いてきました。

筆者は以前からトレックのRail 9.7が欲しいと思っていました。初代のRail 9.7に試乗したのがきっかけ。上りも下りも楽しい、とても秀逸なe-MTBだったんです。

当時のRail 9.7。カーボンフレームのe-MTBで、価格は869,000円でした
Rail 9.7に乗ってトレイルで遊ぶの図。このe-MTB、楽し~♪
ラッキーなことに、車体撮影のためにしばらくRail 9.7を借りられることに。撮影と称してトレイルで遊んじゃいました! その後、洗車して撮影もしましたが

試乗して、さらに乗って、「物凄くRail 9.7が欲しいッ!!!」となってRail 9.7貯金を始めました。Rail 9.7を買ってMTBパークやトレイルで遊ぶのだっ! と鼻息荒く。

しかし、その直後にコロナ禍に突入。恐ろしいパンデミックで、気分も生活もe-MTBどころではなくなりました。そしていつしかRail 9.7貯金もフェードアウト。

ただ、コロナ禍に突入して気分は消沈したものの、ときどき仕事でRail 9.7の後継モデルに乗ったりすると「やっぱりRail 9.7はイイなぁ~」としみじみ感じました。じゃあ思いきって買っちゃおうか? と思ったりはしましたが、コロナ禍の物流問題などがあり、肝心の車体が在庫切れ。結局「そのうち買おう!」と。

でもそういう先延ばしが続くと「Rail 9.7買いたい欲」が徐々に低下。「ほかにもe-MTBはいろいろあるし」「MTBパークでレンタルe-MTBを借りてもいいし」などと、気持ちはRail 9.7を買わない方向に動いていきます。

……いや、Rail 9.7は欲しかったんだと思いますが、何かRail 9.7を買わなくていい理由を探していたのかもしれません。「Rail 9.7買いたい欲」を無理矢理に低下させていたのかもしれません。ともかくRail 9.7に関して低いテンションでモヤモヤし続けていたと思います。

しかし、この9月にパッと購入。Rail 9.7の第4世代、2023年モデル(つまりRail 9.7 Gen 4)が発売されることを知り、即座にへと連絡。「発売日が決まったら絶対買いますので予約させてくださいっ!」的に頼んでの予約購入です。

それ以前のモヤモヤしてRail 9.7購入を躊躇していた感じから、一変した筆者。ある記事がきっかけで考えと行動が変わりました。以下の記事です。

e-bikeにハマっている「へーきち」さんの記事。へーきちさんは交通事故で膝関節を粉砕し、運動ができない体になったそう。しかしe-bikeにより再度スポーツを楽しめるようになったそうです。

記事を読んで思ったのは、「そうだよね、突然運動とかできなくなる可能性、あるよね」ということ。それから、「e-bikeはやっぱり最高に楽しいよね!」ということです。

e-bikeはサイコーに楽しい。これは間違いない。その一方で筆者は「もしかしたら明日、自分に、e-bikeにもう乗れなくなるナニカが起きるかもしれない!」と強く思ったのでした。

e-bikeに乗れないのは悲しい。きっと落ち込む。でも、そういう日はやがて訪れる。でも、まだ、その日ではない。

ならば! 欲しいと思ったe-bikeは先送りにせず、可能な限り買おう! と。

手始めにキャノンデールのミニベロe-bikeとかグラベルe-bikeとかをガスガス買いました。在庫があったから後先考えずに。

明日突然e-bikeに乗れなくなるかもしれない! というわけでまず買ったのがキャノンデールの「Compact Neo」。ミニベロe-bikeです。軽くて走りがイイ!
明日突然e-bikeに乗れなくなるかもしれないから所有e-bike台数多くてもいいじゃないか! ということにして買ったのが、またもやキャノンデールの「Topstone Neo5」。パワフルなグラベルロードe-bikeです。ホントは「Topstone Neo Carbon Lefty 3」を狙っていたんですが在庫がありませんでした

そうしていたらRail 9.7 Gen 4が発売されるゾ、と。しかもRail 9.7 Gen 4に搭載されるドライブユニットは、ボッシュの最新世代ユニットことスマートシステム対応「Performance Line CX」だゾ、と。

えーっ! このe-bike買いまくりで大散財で預金残高右肩激下がりのタイミングで? ……とは思いましたが、もう先送りにするのはヤメたので、予約購入! というわけです。

以上、「なんで100万円近いe-MTB買ったのかな?」的な疑問にお答えすべく、筆者的なRail 9.7 Gen 4を書いてみました。でもそういう話はここまで。以降は、e-bike購入時の「案外知られていない裏話」を書いてみたいと思います!

e-bikeがメーカーから販売店に届いたあと、何をするのか?

スポーツ自転車販売店に行くと、店頭に新品自転車が整然と並んでします。お客さんはそこから選んで購入。店員さんからひととおり説明を受け、防犯登録など手続きが済んだら、買った自転車に乗ってそのままサイクリング!

でも、実はそれ以前にスポーツ自転車販売店が「やっていること」が結構あります。そのあたりの「舞台裏」をご紹介いたします。

スポーツ自転車販売店が「やっていること」を、スポーツ自転車販売店「バイクプラス所沢店」で聞きました。いろいろ教えてくれたのはスタッフの宮崎さん(左)と相田さん(右)
この大きなダンボール箱にRail 9.7 Gen 4が入っています。一般的なスポーツ自転車の場合、メーカーから販売店には自転車が「七分組(しちぶぐみ)」の状態で届くそうです。文字どおり7割がた組み立てられた状態です
ダンボール箱の中身。前輪やハンドルが外された状態で梱包されています

ネット通販などでスポーツ自転車を買うと、こういった「箱入りで七分組」の状態で届く場合があります。この巨大なダンボール箱が玄関先に届いたら、ちょっとパニックかもしれません。取り出すのも大変そう。

箱の大きさや取り出しはいいとしても、七分組のスポーツ自転車を完成状態まで組み上げるのはタイヘンじゃないのでしょうか? 宮崎さん曰く「十分な知識があれば組み上げられますが、場所も工具も必要でそれなりの手間もかかります。また知識が不十分の場合、正しく組み上げれれず、最悪の場合は死亡事故などの原因にもなります」とのこと。

なーるほど。スピードが出る乗り物ですもんね。七分組から完成までは、販売店のプロにお任せしたいところです。

取り出した車体はメンテナンススタンドにセット。ハンドルや前輪を取り付けたり、ワイヤーを取り回したり、ドライブトレインの微調整を行なったりします
ズラリと並ぶ工具類。工具は必ずこの定位置に戻されるので、作業中に工具が散らかるようなことはありません
ハンドルがフレームにセットされ、シフターやブレーキレバーが取り付けられました。この後にドロッパーシートポストのワイヤーを取り付けるようです
車体に合わせてワイヤーを取り付けます。場合によっては既に組み込んであるワイヤーなどを取り外し、その長さなども調整するそうです。この車体の場合、リアディレイラーにつながるワイヤーの動きが少し重いそう。なのでいったんドライブユニットを外すなどしてワイヤーを通し直すそうです
だんだん完成形へ近づいている……ように見えます。しかしまだまだ続きが

もう組み上がったのかな? と思って見ていると、まだいろいろと調整していくようです。たとえばシフターの動きやチェーンやカセットスプロケットの音、ホイールの振れ、ブレーキローターの歪みなどなど。これらを最適にしていくことで、より安全で快適な走行ができ、故障やトラブルなども減らせるそうです。

七分組から基本的な箇所を組み立てていきつつ、都度できる調整をする。そうして基本的な組み上げが済んだら、今度は細部を調整。そうして問題のない快適な新車として完成するというわけです。メーカーから車体が届いただけでは、まだ未完成なんですね。

もちろん新車として問題がないかどうか、フレームをはじめとするパーツの傷チェックも万全です。「もし傷があるとどうなるんですか?」と聞いてみたら、メーカーに戻したり「訳あり品」として値引き販売することもあるそうです。……あっそういえば訳あり品のトレック製グラベルロードを20%オフで買ったことあるー!

予約時に「トレイルとか走りますよね?」と聞かれ「はい走ります!」と返答したらオススメされたのがコレ。クルマのコーティングでお馴染みの「KeePer」。自転車用もあり、泥だらけになったMTBでもササッと洗車するだけでキレイ&ピカピカに戻せるそうです
Rail 9.7 Gen 4購入時の領収書がコレ。車体だけだとギリギリ100万円切りですが、「KeePer」処理追加で100万円オーバーに
Rail 9.7 Gen 4はチューブレスタイヤ。パンクしにくいそうですが、持っていると安心なのがこういった「チューブレスタイヤ用リペアキット」。パンク修理ツールですね。これも追加注文しました。製品は「STAN’S NOTUBES(スタンズノーチューブ)」です。穴が開いた箇所にゴム付き針を刺して抜いて余分なゴムをカットする程度でパンク修理ができます。チューブレスタイヤのモーターサイクル用パンク修理キットの自転車版ですね
こちらは「CushCore(クッシュコア)」というタイヤインサート。タイヤ内部のリム側半分に入るリング状のフォームで、低空気圧時のタイヤのヨレを防ぎ、走行中のクッション性を高め、走行安定性と快適性を高めてくれます。興味津々。これも追加注文しました

結構「あるある」なトラブル、ラッキーも!?

Rail 9.7 Gen 4を箱から出して組み上げていく過程で、よくあったり、またにあったりする、「スポーツ自転車組み上げあるある」を教えてくれました。

ケーブルがきつめとか、ブレーキローターに若干の歪みがあるとかは、ふつうに「あるある」だそうです。メーカーの工場でパーツを組み付けるとき、作業員の力加減次第でそういう「よくある(不具合ほどではない)不調」が現れるそうです。なので「七分組から車体完成までに行なう各所の調整は必須」だそうです。

購入したRail 9.7 Gen 4も、前述のとおりリアディレイラーのケーブルの滑らかさが足りず、重めの操作感だそうです。内部で圧迫されているのが原因と思われるので、ドライブユニットを外してケーブルを引き直すことに。……筆者が操作した感じでは全然そういう感じがしませんでしたが、プロだとそういう微妙な違いがわかるんですね~。

あまりないトラブルとしては、このRail 9.7 Gen 4の場合はドロッパーシートポストのサイズ(太さ)が車体と合致していなかったとのこと。この場合、ドロッパーシートポストをメーカーに返送して正しいサイズを再送してもらうことになるそうです。

相田さん曰く「ドロッパーシートポストのサイズが合ってないのは初めて」だそうです。なお、整備中のRail 9.7 Gen 4にはドロッパーシートポストが装着されていますが、これはショップ保有品です。車体にシートポストを装着しないと、車体をメンテナンススタンドにセットできないので、臨時的にショップ保有品を装着しています
トレックの自転車の場合、公式ウェブサイトのスペック表(パーツ表)に掲載されているものではないパーツが装着されて販売店に届くことがあります。これはパーツ供給などの観点から「パーツ入手が難しい場合は互換パーツを使って車体を構成する」というポリシーに基づくものです。実際にトレック公式ウェブサイトのスペック欄などには「サプライチェーンの問題から、互換性のある部品は予告なく代用されることがあります」と明記されています

なので、注文した自転車に、どんなパーツが装着されているかは(自転車パーツ不足の現在はとくに)運次第というところがあります。Rail 9.7 Gen 4のコンポーネンツは主にシマノ製として掲載されていますが、筆者の前にRail 9.7 Gen 4を買った人はコンポーネンツがSRAM(スラム)製だったそうです。その方曰く「スラムのもいいパーツだけど……なんかシマノ製がよかったなぁ、ちょっとクヤシイ」とのこと。

一方で「予想よりいいパーツ」が装着されていることもあるそうです。最近のトレック製e-MTBに装着されるコンポーネンツはスラム製が多いそうです(というかほとんどスラム製だとか)。しかし筆者のRail 9.7 Gen 4はシマノ製でした。スタッフの方は「へぇーシマノ製が着いてくるって珍しいなあ」と言っていました。

またシフターやブレーキレバーはシマノのMTB用マウント規格「Ispec(アイスペック)」対応品が使われていました。これも珍しかったらしく、相田さんは「ブレーキとシフター、シマノでありかつ、しかもアイスペック!」と少し驚いていました。

右側のシフター(シフトレバー)やブレーキレバーは、シマノのMTB用マウント規格「Ispec(アイスペック)」対応品です。シフターとブレーキレバーをひとつのマウントだけで装着可能。外観がスッキリし、ハンドルバーにより広いスペースが生まれ、さらに軽量化にもつながっています。筆者的には「ラッキー!」なパーツです

もうひとつ。サイズが合わないので返品・交換となったRail 9.7 Gen 4のドロッパーシートポスト。公式のスペックではTranzXブランドのドロッパーシートポストとなっていましたが、交換品として送られてきたのはボントレガーブランド品でした。

筆者のRail 9.7 Gen 4にはボントレガーのドロッパーシートポストが装着されています。サドルもボントレガー製

サグ出しして納車、もちろん直後、サイクリング!

購入したRail 9.7 Gen 4の七分組状態から完成直前(微調整前)までを見せていただき、興味深い話も多々聞くことができました。そしてその後の微調整や新規パーツを組み込んだ後、納車となりました。

新品Rail 9.7 Gen 4、だいたい完成!
車体の最終チェックを行なう宮崎さん。トルクレンチで主要なボルトの締め具合をチェックしていきます
空気圧なども最終チェック
その後にパソコンを起動して……パソコン?
ボッシュのe-bikeシステムはそこそこソフトウェアアップデートがあります。この車体のソフトウェアアップデートがあるかチェックすると、ありました。最新ソフトウェア搭載のRail 9.7 Gen 4となりました。また、このタイミングでドライブユニットで使うアシストモードを設定してもらいました(いつでも販売店にて変更可能)
ほぼほぼ完成の新品Rail 9.7 Gen 4

組み立てや最終チェックなどは終わりましたが、Rail 9.7 Gen 4などのe-MTBや人力MTBは、納車前にすることがもうひとつあります。それは「サグ出し」です。

サグ出しは、ライダーが自転車に乗ったとき、どの程度サスペンションが縮むかを調べ、サスペンションの反発度合いを調節する「サスペンション伸縮の最適化」です。サスペンションの反発の強弱は、振動の吸収やタイヤの滑りにくさなど重要な要素で、前後とも最適に調節されていればトレイルなどを快適かつ安全に走行可能。逆にサグ出ししていない車体は不安定で走りにくく、危険でもあります。サグ出しは納車前の最終調整作業です。

サグ出しは、ライダーがバイクに乗り、そのときのサスペンションの沈み具合を調べつつ行なう「サスペンション反発力調整」です。写真の状態でライダーが体を上下に動かしたりしつつ作業を進めて行きます
サスペンションがどの程度沈んだかをチェック。MTBのサスペンションにはOリングが巻いてありますが、あのリングがどこまで動いたかでサスペンションの沈み具合がわかります
サスペンションにある赤いのがOリングです。リアサスペンションが少々沈み過ぎ。なのでエアを注入してサスペンションの反発力を高めます。ライダーは筆者ですが、体重約100kgなので、かなりのエア注入が必要。エアを注入する相田さんは「結構高圧になるので力が要ります(汗)」とここと。すすすスイマセン、ダイエットします!
納車直前。最終説明を受け、調整も全部済んだことを確認し、納車です
納車~♪ ……あれ? 服装がサイクリング?
そうなんです、走る気満々です! このままトランポして走ります
バイクプラス所沢の近くには狭山湖があり、こんな感じのトレイルが多々
やっば! 楽しい!
上りも下りもすごーく乗りやすいRail 9.7 Gen 4!
滑りやすく路面凸凹も多いダートですが、静かに快適に走れます
ほんと買ってよかった! サイコー!

という感じで、Rail 9.7 Gen 4購入理由~納車~シェイクダウンの様子をお届けしました。e-bike購入のご参考になれば幸いです。

スタパ齋藤