e-bike試乗レビュー

MTBライドが上達した!? と感じさせてくれるSANTA CRUZのフルサスe-MTB「Heckler 8」

だいぶ増えてきたe-bike車種。さまざまなタイプのモデルが選べるようになり、さらに楽しくなりつつあるe-bike界隈ですが、筆者的に気になっているのがフルサスのe-MTBです。急峻な上り下りが得意で、悪路の走破性も非常に高い。乗っていて非常に楽しいカテゴリーのe-bikeです。

そんなe-MTBの中でも特に興味があるのがSANTA CRUZ(サンタクルズ)「Heckler 8(ヘクラー)」。メーカーから借りることができましたので、さっそく試乗してレビューしてみたいと思います。

撮影協力/トレイルアドベンチャー・よこはま

ちなみにサンタクルズは、アメリカ・カリフォルニア州発祥のMTB専業メーカー。現在はMTB以外の車種も少々ありますが、世界中でMTB老舗ブランドとしてよく知られています。創立者のひとりRob Roskoppはプロスケートボーダー。別の創立者のひとりであるRich Novakの旧サンタクルズスケートボード社からは、独自グラフィックが描かれた「ロスコップモデル」が発売されたりし、現在でもそのグラフィックにはマニアックな人気があるそうです。MTBやスケートボード、なんだか古き良きアメリカ西海岸というイメージですね♪

さておき、そんな“濃いメーカー”が初めて発売したe-MTBがHeckler 8。どんなe-bikeなのか非常に楽しみです。

サンタクルズ「Heckler 8」は、どんなe-MTB?

Heckler 8はフルサスペンションのe-MTB。e-bikeコンポーネンツとしてシマノSTEPS「E8080シリーズ」を採用しています。どんな仕様のe-MTBなのか、写真と説明文で見ていきましょう。

Heckler 8は前後にサスペンションがあるフルサスのe-MTBで、上り下りを含む過酷なダートロードの走破性が高いオールマウンテン系のモデルです。フレームはカーボン製でグレードは最上級(CCグレード)。サイズはS・M・Lがあり、カラーは写真のBLACKOUT CARBONのみ。価格は1,089,000円
ドライブユニットはシマノ「DU-E8080」が採用されています。2021年4月現在の国内向けシマノ製ドライブユニットとしては最大のトルク(70Nm)を発生します
ちなみに電源ボタンはドライブユニットとリアサスペンションの間にあります
バッテリーはダウンチューブ内に内蔵されており、ダウンチューブ下側カバーを開くことで外せます。バッテリーはシマノ「BT-E8035」で、容量は504Wh(36V/14Ah)。一日たっぷり走れる容量です。充電は車体左側ドライブユニット斜め上の充電用コネクターから行なえるほか、取り外したバッテリーに直接充電することもできます。なお、バッテリーを外して(車体重量を軽くして)の走行もできますので、ゴンドラなどがあるゲレンデならダウンヒル用MTBとしても楽しめそうです
ハンドルはe.13「TRS Base」で幅80cm。とてもスッキリしています
ハンドル中央ステム右側にディスプレイのシマノ「SC-E7000」があります。小型でMTBによくマッチします
ハンドル左側、赤矢印の部分にあるのがスイッチユニットのシマノ「SW-E7000-L」。このスイッチでアシストモードを切り変えます。その手前に見えるのはドロッパーシートポスト昇降用のレバー
サドルはWTB「Silverado Race Saddle」ですが、「SANTA CRUZ」ロゴが入っていました
シートポストはドロッパーシートポストでSDG「Tellis」。レバーの引きは軽く、走行中でもスムーズかつクイックにサドル高調節を行なえます
ドライブトレインにはSRAM「NX Eagle」が採用されています。リアのギア(カセットスプロケット)はSRAM「PG1210」で、歯数11-50tの12速です。フロントギア(チェーンリング)はSRAM「X-SYNC 2 Eagle Chainring 104 BCD 34T」で歯数は34t
サスペンションは、フロントがRockShox「Yari RC 160mm 27.5inch」、リアがRockShox「Super Deluxe Select」。リアサスペンションを構成するリンク機構はサンタクルズ独自のVPP(Vertical Pivot Point)機構で、Heckler 8のリアサスペンションのトラベル量は150mmです。Heckler 8の場合、リアサスペンションのアンチスクワット(沈みにくさ)を抑えた調整で、ラフな路面でアシスト力が働いても高いトラクション性があるとのこと
ブレーキは油圧式ディスクブレーキ。SRAM「Guide RE」および「Avid Centerline 200mm」が使われています。タイヤは27.5インチ(650B)で、Maxxis「Minion DHR II/ 27.5x2.6 EXO+ TR」を採用
リアのタイヤやブレーキはフロントと同様。タイヤは最大で2.8インチ幅のタイヤ(27.5Plus)を装着可能とのこと。27.5インチの回しやすさを維持しつつ、29インチ並みのトップスピードを獲得でき、タイヤの太さがあるので安定感などを増すことができそうです

Heckler 8は力強く安定して上れる!!! コブを上へと跳ねようとする?

さて、さっそく難易度低めのMTBコースで試乗してみました。100万円オーバーの高級e-MTBの乗り心地はどうなんでしょう?

リアのタイヤやブレーキはフロントと同様。タイヤは最大で2.8インチ幅のタイヤ(27.5Plus)を装着可能とのこと。27.5インチの回しやすさを維持しつつ、29インチ並みのトップスピードを獲得でき、タイヤの太さがあるので安定感などを増すことができそうです

試走開始。そしてまず感じたのは、上りの安定感。やや急な傾斜でもグイグイと力強く、安定して上ってくれます。

e-MTBの多くにはこういった上りの力強さがありますが、Heckler 8には独特の安定感があるように感じられました。カーブでのフラつきにくさと、凸凹路面での安定したアシスト力がある感じ。

MTBコース内は上って下りての繰り返しですが、上りでも結構カーブがきつく、バランスを崩しやすい筆者。しかしHeckler 8は重心が低く安定しているのか、あまりバランスを崩すことなく上っていけました
シマノSTEPS「E8080シリーズ」のアシスト力はパワフル。難易度低めのこのコースだと、アシスト力が足りないという瞬間はまったくありませんでした

Heckler 8で走っていると、タイヤが地面へしっかり食いついている感触があります。連続した起伏がある箇所でちょっと無理なペダルの踏み方をしても、不思議とタイヤが滑らない。e-MTBによってはアシスト力が強すぎてタイヤがスリップすることがありますが、Heckler 8の場合はそれが起きにくいという印象です。これがサンタクルズ独自のVPPサスペンションの効果なのかもしれません。

実はこの日、Heckler 8以外にも3台のe-MTBをコースに持ち込んで乗り比べたりもしました。乗り比べてみると、Heckler 8の個性がさらによくわかってきました。

Heckler 8以外に3台、合計4台のe-MTBをコースに持ち込んで乗り比べてみました。他の3台のe-MTBも、それぞれハイエンドな車体です

4台のe-MTBを取っ替え引っ替え乗ってみると、Heckler 8独特の挙動が感じられました。具体的には、連続した起伏がある箇所での挙動。テクニックがある乗り手なら、連続してジャンプしたりできるコース部分です。筆者の場合はジャンプとか全然できませんので、こういう連続起伏ではスタンディングで膝や肘をバネのようにしてやり過ごして走ります。

で、Heckler 8独特の挙動というのは、起伏を乗り越える瞬間に「車体が上に行こうとするような感じ」がすること。「コブの終わりで上に跳ねようとしている?」みたいな。なんかこう、起伏を下ってすぐ上って乗り越えようとする瞬間、車体にかかっている力や速度が失われず、その力や速度が上へ集中して車体が少し浮こうとするような、そんな感じです。

この日持ち込んだ4台のe-MTBのうち、Heckler 8が飛び抜けて軽量というわけでもないのですが、不思議です。あとで当日同行したジャンプができるe-bike部メンバーに聞いたところ、「Heckler 8がいちばんジャンプしやすかった」とのことでした。

そうなのか、何はともあれHeckler 8はジャンプしやすいらしい。じゃあ筆者もジャンプに挑戦……と思いましたが、イイ歳したオジサンがやったことのないジャンプなんかしたら怪我すると思いましたので我慢。でもHeckler 8で練習すれば短い時間でジャンプできるようになるかも!? と思ったりしました。

Heckler 8だと、下りをとことん楽しめる♪

Heckler 8で試走していて強く感じたのは、下りの楽しさ。Heckler 8は全体的に「取り回ししやすいe-MTB」という印象があります。小回りが効くとか、カーブでの安定性が高いとか、そんな印象をたびたび受けました。

そんなHeckler 8で走っていて楽しかったのが、下りです。MTBコースなので下りながらの連続するカーブがあったり、急コーナーがあったり。乗るe-MTBによっては、それらのコース要素は筆者にとって「ちょっと怖い」という感じになります。ですが、Heckler 8だと「お~っ、楽しい♪」という感じになるんです。これもHeckler 8の不思議です。

下りで特に感じるのは安定感とグリップの良さ。きっとサスペンションがいい仕事をしてくれているんだと思いますが、MTBライドは相当な初心者の部類になる筆者でも、「いつもより少し上手にライドできている」という感じがします。そして、いつもは出なかった(出せなかった)スピードが出ている。

と言っても、全然速くはないんですけどネ。しかしまあHeckler 8、乗り手のテクニックのなさをカバーしてくれているんだと思います。いつもより下りが楽しい。

楽しさの要因を考えてみると、やはり車体をよりコントロールしやすいからだと思います。カーブも起伏も「結構うまくやり過ごせた♪」と感じられる操作性の良さ。危なげなく下れる感覚なので、下りを走っていてその楽しさが増幅されるのでした。

Heckler 8で走り回って試走終了。ハッと気づいたのが、「そうだこの車体、1,089,000円するんだった!!!」ということ。半分は「調子づいていつもよりスピード出して走っちゃったけど、コケて壊さなくてよかった~」です。そしてもう半分は「そっか~だてに高いだけじゃなくて、ハイスペックe-MTBってライダーの技術を底上げしてくれる感じなんだなぁ」ということ。

そんな個性が感じられたHeckler 8。まあ乗る人によって合う合わないはあると思いますが、Heckler 8、非常に良いe-MTBだと思いますので、興味と機会がある方は、ぜひご試乗なさってください!!! たぶん、いろいろ発見しつつ楽しめると思います♪

スタパ齋藤