e-bike試乗レビュー

軽いっ!! とにかく楽しいっ!!! SPECIALIZEDのフルサスe-MTB「S-WORKS TURBO LEVO SL」

ず~っと気になっていたe-MTBがあります。SPECIALIZED(スペシャライズド)の「TURBO LEVO」シリーズ。フルサスペンションのe-MTBで、現在4車種が発売されています。どれも高価格帯と思えるe-MTBですが、価格が高いから気になっているというわけでもありません。ではなぜ気になっている?

スペシャライズド「S-Works Turbo Levo SL」。カーボンフレームのフルサスe-MTBで、同社の日本向けe-MTBとしては最上位グレードとなります。価格は1,694,000円。なお、世界限定250台の特別モデルとして「S-Works Levo SL Founder's Edition」があり、その価格は1,870,000円

スペシャライズドのe-bikeには共通する特徴があり、それは「軽いこと」です。スペシャライズドのe-bike作りは「軽さ重視」。

例えば以前にレビューしたクロスバイクタイプのスペシャライズド「VADO SL 4.0」は、比較的に価格を抑えたe-bikeですが、重さは約15kg。クロスバイクタイプのe-bikeは18~20kgかそれ以上の重さになりますが、約15kgは明らかに軽い。実際にVADO SL 4.0で走った感じも人力クロスバイクのような軽快さがありました。

スペシャライズド「VADO SL 4.0」。クロスバイクタイプのe-bikeです。重さは約15kgと軽量級

e-MTBシリーズのLevo(リーヴォ)各車種も軽い。シリーズ中で最も重い「TURBO LEVO SL COMP」でも約19㎏。最も軽い「S-WORKS TURBO LEVO SL」は17.3kgです。多くのe-MTBは22~24kgといった重さなので、明らかに軽量です。

そんな軽さは、スペシャライズドのe-MTBには自社開発の小型軽量モーター「SPECIALIZED SL 1.1 モーター」と必要最小限の固定式インチューブバッテリーの搭載によるもの。モーターやバッテリーの重量を極力抑え、フレームの強度や軽さを維持することで、人力自転車のさまざまな良さを残していくというアプローチです。

確かに、前出のスペシャライズド「VADO SL 4.0」で走ってみると、軽く速い走行感は人力クロスバイクによく似ている。で、走り出しや上り坂では十分なアシストが加わるのでツラくない。他社のe-bikeと比べると若干アシスト感が「細い」という感触はあるのですが、でも「これでも十分イイな」という満足感がありました。

VADO SL 4.0のアシスト力は抑えめではあるものの、自転車として速く走れるので、軽快にサイクリングすることができました

では軽いe-MTBはどうなんだろう? フツーの重さのe-MTB(22~24kgくらい)と比べたら、スペシャライズドのe-MTB(17.3~19kg)は、かなり乗り味が違ったりする? そんな興味からスペシャライズド製のe-MTBが気になっていたというわけです。

そこでメーカーからLevoをお借りして試走してみることに……しました、がっ!!! ナンとスペシャライズド「S-WORKS TURBO LEVO SL」を貸してくれましたっ!!! 1,694,000円の最上位グレードe-MTB!!!

いや、あの……そんな高級品じゃなくても……軽いスペシャライズド製e-MTBなら何でも……てか、S-WORKS TURBO LEVO SLって日本市場で最高級のe-MTBですよね。ドキドキ。でもまあせっかくお借りできたので、コレで試走してみることに♪

スペシャライズド「S-WORKS TURBO LEVO SL」は、どんなe-MTB?

S-WORKS TURBO LEVO SLは、フルカーボンフレームでフルサスペンションのe-MTB。e-bikeコンポーネンツは独自開発の「SPECIALIZED SL 1.1 モーター」を中心としたものです。最上位グレードe-MTBということだけあり、高品位なパーツがふんだんに使われています。どんな仕様のe-MTBなのか、写真と説明文で見ていきましょう。

S-WORKS TURBO LEVO SLは前後にサスペンションがあるフルサスe-MTBで、「S-WORKS(エス・ワークス)」はプロ向けハイエンドモデルであることを示しています。サスペンションはFOX Factoryグレード、ドライブトレインはEagle XX1 AXSで、各パーツに最上位グレードのものが採用されています。サイズはS・M・Lが用意され、カラーは写真の「Carbon / Bronze Foil / Gloss Carbon」のみ。価格は1,694,000円
ドライブユニットのSPECIALIZED SL 1.1 モーターはクランク軸の位置にあります。一見では小型ドライブユニットの存在が希薄です。バッテリーはダウンチューブ内に格納されており、メーカーなどでドライブユニットを取り外してからでないと外せない構造。容量は320Whで最長走行距離は130km。ダウンチューブも細めで、バッテリーが入っていることをあまり感じさせません
ダウンチューブは真上から見るとやや太いのですが、他の方向から見るとわりとスリム。全体的に「e-bikeっぽさ」を感じさせない見栄えです
ちなみにこの車体はテスト用車両。なので、S-WORKS TURBO LEVO SL本来のカラーリングにはなっていません。カーボンフレーム剥き出しという感じでもあります
ドライブユニット左側上方に充電用コネクターがあります。このコネクターは「SL Range-Extender Battery」の接続にも使用します。SL Range-Extender Batteryは、ダウンチューブ上部のボトルケージに装着できる予備の外付けバッテリー。インチューブバッテリーの最長走行距離は130kmですが、SL Range-Extender Battery(容量160Wh)を追加するとさらに最長約65km分走行距離を伸ばせます
ハンドル周辺。非常にスッキリしています。ディスプレイはありませんが、e-MTBとしての詳細な機能を利用する場合はスマートフォンとe-MTBを無線接続して「MISSION CONTROL」アプリを使用します
中央に見えるのがアシストモード切り替えボタン。アシストモードは「ECO」「SPORT」「TURBO」の3段階です。SPECIALIZEDの「S」マークボタンを押すと一気にTURBOモードに
トップチューブ前方に、電源スイッチ、バッテリ残量インジケーター、アシストモードを示すランプがあります
ドライブトレインはSRAM「Eagle XX1 AXS」を中心に構成されています。フロントギア(チェーンリング)歯数は30t、リアギア(カセットスプロケット)歯数は10-50tと思われます
フロントは、タイヤが「Butcher GRID TRAIL 29×2.3」、ブレーキが「Magura MT7 203mm rotor」油圧式ディスクブレーキです
リアは、タイヤが「Eliminator Grid Trail 29×2.3」、ブレーキが「Magura MT7 203mm rotor」油圧式ディスクブレーキです
リアサスペンションは「Fox Float DPX2 Factory」でトラベル量(サスペンションによりタイヤが上下に動く範囲)は150mm
フロントサスペンション(フォーク)は「Fox Float 36 Factory」でトラベル量は150mm。前後ともに150mmのトラベル量を持つe-MTBです
サドルは「Bridge Comp」と思われます
シートポストは「RockShox Reverb AXS」。無線コントロールのドロッパーシートポストです
ハンドル左側下部にあるのが、ドロッパーシートポスト昇降時の無線コントロールボタン

それぞれ非常に高品位なパーツが使われています。興味のある方は、パーツ名で検索してみるといいかも。「えっこのパーツはこんな価格なのか」とちょっと驚かされると思います。

例えばドロッパーシートポストの「ROCKSHOX Reverb AXS (ロックショックス リバーブ アクセス)」。無線で操作できて反応も良く、最高に使いやすいドロッパーシートポストですが、価格は10万円以上します。他のパーツも高価。そんなパーツの集合体でありつつe-MTBなので、価格が1,694,000円になってしまうんですね。

なお、ハイエンドモデルのS-WORKS TURBO LEVO SL以外には、「TURBO LEVO SL EWXPERT CARBON」「TURBO LEVO SL COMP CARBON」「TURBO LEVO SL COMP」がシリーズにラインナップされています。

スペシャライズド「TURBO LEVO SL EXPERT CARBON」。こちらもカーボンフレームのフルサスe-MTBで、価格は990,000円
スペシャライズド「TURBO LEVO SL COMP CARBON」。こちらもカーボンフレームのフルサスe-MTBで、写真のカラー「Tarmac Black / Gunmetal」のほかに「Cast Berry / Black」や「Green Tint / Black」もあります。価格は858,000円
スペシャライズド「TURBO LEVO SL COMP」。こちらはアルミフレームのフルサスe-MTBです。写真のカラー「Dusty Turquoise / Black」のほかに「Rocket Red / Black」もあります。価格は649,000円

ちなみに、上位3グレードのカーボン製フレームは共通で、装備されているパーツが異なります。「TURBO LEVO SL COMP」についてはフレームがアルミ製となっています。

軽い~、かっる~い♪ どう走っても楽しい~♪

S-WORKS TURBO LEVO SLに初めて触れた印象は「軽い!!!」ということです。実はS-WORKS TURBO LEVO SLでの試走当日、他のメーカーのe-MTBも3台持ち込みました。トランポしてMTBコースに運び込みましたが、クルマから降ろす時のS-WORKS TURBO LEVO SLが軽いこと軽いこと。まあ、他メーカーのe-MTBと比べて、という印象ですが。

難易度低めのMTBコースに複数台のe-MTBを持ち込んで試走しました 撮影協力/トレイルアドベンチャー・よこはま
他のe-MTBの重さは21.52~23.2kg。押し歩きやクルマへの積み下ろしなど、けっこう重く感じられます。一方のS-WORKS TURBO LEVO SLは17.3kg。積み下ろしも押し歩きも軽い♪ 5kg前後の差は大きいですね~

さっそく試走です。まずは上りとなるわけですが、S-WORKS TURBO LEVO SLのアシスト力は他メーカーのe-MTBと比べるとパワフルとは言えません。トルクが細い感じがします。

シマノやボッシュやヤマハなどのドライブユニットを搭載したe-MTBの場合、走り出しも登坂のグイグイと力強く、変速せずともアシスト力任せで登坂できてしまう感じ。e-bikeらしいパワーの出方で、e-bikeの醍醐味とも言えましょう。

一方、S-WORKS TURBO LEVO SLはどうかといえば、そこまではパワーが出ない感じ。ですが登坂が苦しいのかと問われれば、全然そうではない。

単純なことで、必要に応じてギアチェンジを行なえば急坂でも上れる。アシスト力も加わりますので「人力MTBだと無理」という急坂でも余裕をもって上れる。ギアを意識して使えば十分パワフルなアシスト力が得られるという感じです。

S-WORKS TURBO LEVO SLはリア10-50t/フロント30tの歯数があり、MTBとして幅のあるギア比を使える本格派といえます。当然のことではありますが、このギアを適切に使いつつ、さらにアシスト力が加われば、他一連のe-MTBと同様に「驚くほど余裕を持って坂を駆け上がれる」という感覚になります

それからS-WORKS TURBO LEVO SLはペダリングに対するアシストの反応が非常に良いと感じられます。レスポンスが高いドライブユニットなのだと思いますが、ドライブユニットのラチェットのノッチの刻みが非常に細かいことも、その反応の良さを後押ししていると思います。

普通の自転車と違ってe-bikeはドライブユニットとクランク軸の間にラチェット機構があります。ただ、わりと多くのe-bikeはそのラチェットのノッチ間隔が狭くなく、ペダリングを開始してからクランク軸に力が加わるまでにわずかにタイムラグが生じます。

しかしS-WORKS TURBO LEVO SLの場合は、そのタイムラグがほとんど感じられない。ペダルを踏んだ瞬間にクランクに力がかかるという感触。大きめの石や木の根を見て「今すぐ一瞬だけアシスト力が欲しい」と思って反射的にペダルを踏んでも、それに遅れず瞬時にアシスト力が出てくれる感じなんです。これが小気味良いし気持ちいい。「すご~い、こんなところまでハイエンド!!!」と驚きました。

ペダルを踏んだ瞬間に踏力がドライブユニットに伝わり、すぐさまアシスト力が加わる。この反応の良さはS-WORKS TURBO LEVO SLならではかもしれません

ギアチェンジさえ適切に行なえば、クイックで十分パワフルなアシスト力が得られるS-WORKS TURBO Levo SL。そして車体の軽さは楽しさに直結します。

重めのe-MTBは安定感や乗り心地に優れていると感じられますが、S-WORKS TURBO LEVO SLは操ることがとても楽しい。車体の各所が優れているのだとは思いますが、他のe-MTBよりも5kg近く軽いので、よりコントロールしやすい。カーブを軽やかに曲がれるし、起伏もいなしやすい感じ。人力MTB寄りの楽しさが多々あり、乗るほどに「S-WORKS TURBO LEVO SLって優れた人力MTBに必要最小限のe-bike要素を詰め込んだって感じだなあ」と思います。

この先のコースをどう走って楽しもうか……と積極的に考えたくなるS-WORKS TURBO LEVO SL
走りそのものをジックリ堪能できているような気分になります

なるほど~S-WORKS TURBO LEVO SL、これは楽しい。自転車として楽しい。上っても下っても、どう走っても楽しいゾ♪

e-MTBの多くは重めですがパワフル。気を抜いて激坂に挑んでもクリアできちゃう力強さがあったりします。ただ、気を抜いていると、変速を怠ったり、e-MTB任せで漫然と走っちゃうこともアリガチ。

S-WORKS TURBO LEVO SLでも気を抜けばそういう感じの緩い走行になったりはします。ですが、それ以上に「もっと自転車をうまく扱おう!!!」といった「やる気」が自然と出てくるから不思議。

たぶん変速などを臨機応変に行なわないと、アシスト力が足りなくなったりして、走行がぎこちなくなるから、自然と常にある程度の緊張感をもってライドするようになるんでしょうね。どちらかといえば、人力MTBに近い「走らされ方」をするS-WORKS TURBO LEVO SLだと思いました。

そして10年以上前に乗っていた人力フルサスMTBを思い出しました。↓こんなの。スペシャライズド「2010 Stumpjumper FSR Comp」です。

スペシャライズド「Stumpjumper FSR Comp」の2010年モデルです。筆者にとって初のフルサスMTBでした
近場にトレイルを見つけては走りました。山道は必ず上りがあるので体力を消耗しますが、さまざまな路面をクリアすること自体が楽しい
あ~またフルサスMTBでトレイルに……とは思いますが、実際行くとしたら筆者はe-MTBを選んじゃうと思います。もう上りの苦行は無理~

筆者の思い出はさておき、S-WORKS TURBO LEVO SLは予想外の面白さです。当初は「S-Worksだしプロ向けで、筆者には猫に小判だろうなあ」とか思っていました。実際乗ってみて文句の付け所とかナイわけですが、それ以上にライドの楽しさに驚きました。初心者こそS-WORKS TURBO LEVO SLを……ってソレは価格的に無理がありますが、乗ればその良さがすぐわかると思いますので、機会があればぜひご試乗なさってください!!!

スタパ齋藤