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e-MTB4車種を一気に試乗比較!! 同じボッシュ製ドライブユニットでどれほど違うのか!?【コラテック編】

 昨今、急速にラインナップが増えているe-bikeの中でも、特に急増しているのがマウンテンバイク(MTB)タイプのe-MTBです。各メーカーともe-MTBタイプを用意しているのはもちろん、同ブランドで複数モデルを展開しているケースも少なくありません。価格帯もさまざまで、200,000円台から800,000円超えのモデルまであるので、何がそんなに違うのか疑問に思っている人も少なくないはず。

 そこで、コラテックの「E-POWER X VERT 650B(イーパワーエクスバート)」(関連記事)と「E-POWER X VERT CX-P」(関連記事)、トレックの「Rail 9.7(レイル)」(関連記事)と「Powerfly 5(パワーフライ)」(関連記事)の4車種を、昨年7月に兵庫県豊岡市にオープンした「UP MTB PARK in KANNABE」のe-bike専用コースに持ち込んでたっぷりテストしてみました。

 すべてボッシュ製のドライブユニットを搭載するe-MTBですが、車種ごとに違いはあるのでしょうか? ここでは、まずコラテック2車種の試乗レビューをお届けします。

左上から時計回りに「E-POWER X VERT CX-P」「Powerfly 5」「E-POWER X VERT 650B」「Rail 9.7」

e-bikeの本命がMTBタイプである理由とは!?

 各メーカーがe-MTBに力を入れているのには理由があります。1つは坂道を上る機会の多いMTBは、アシストの恩恵を享受しやすいこと。また、e-bikeは国内法規で10km/hまではペダルを踏む力の2倍までアシストが可能ですが、10km/hを超えると徐々にアシストが弱まり、24km/hでゼロになるように設計されています。

 実際の山道では、街中では想像できないような急な上り坂も多いので、10km/h以下で走ることが多く、e-bikeのメリットをフルに活かせるのです。そのため、海外ではe-bikeのカテゴリではe-MTBが人気で、一大市場を形成しているほどです。

激しい上り坂を低い速度で登坂するシーンでは、e-bikeのありがたみを痛感する

 さらにMTBは、元々の車体重量がロードバイクなどに比べると重く、前後にサスペンションを装備した“フルサス”と呼ばれるタイプでは15kg程度のモデルも少なくありません。フルサスタイプのe-MTBとなると重量は22kg程度。トップグレードになると6~7kg台の軽さになるロードバイクに比べると、ドライブユニットやバッテリー搭載による重量増が同じ7kg程度だとしても、デメリットがあまり気にならないというのもMTBとe-bikeの相性が良いことの理由です。

ドライブユニットとバッテリーを搭載してもデザイン的に違和感も少なく、重量増のデメリットが相対的に小さいこともe-MTBが人気の理由

 そんなe-MTBの魅力を体感すべく、車両を持ち込んだ「UP MTB PARK in KANNABE」は、関西では数少ないスキー場に作られたMTBコース。リフトにMTBを乗せて山の上に運ぶことが可能ですが、e-bike専用コースも設定されていて、アシストを活かして頂上まで自力で上ることができます。e-MTBの魅力を体感するには、最適なコースといえるでしょう。

スキー場の斜面を利用して初級者から上級者まで楽しめるコースがあり、e-bike専用コースは適度にチャレンジングな上りも設けられている

日本専用設計で乗りやすいコラテック「E-POWER X VERT 650B」

 最初に試乗したのがコラテック「E-POWER X VERT 650B」。ボッシュが日本市場に進出した2017年からラインナップされているe-MTBです。街乗り向きのスリックタイヤが標準で装着されますが、今回はMTB専用コースを走るため、オフロード向きのブロックタイヤを履いています。

メーカー名コラテック
製品名E-POWER X VERT 650B
実売価格348,000円(税抜)

 車体構成はフロントのみにサスペンションを装備した“ハードテイル”と呼ばれるタイプ。前後ホイールは昨今のMTBでは標準的になっている27.5インチ径です。ボッシュ製のドライブユニット「Active Line Plus」を搭載しており、重量は20.2kg。

ボッシュ製ドライブユニットの「Active Line Plus」は、今となってはやや大柄に感じるが十分にパワフル
バッテリーは容量300Wh(36V)の「Power Pack300」。外付けタイプなので存在感がある
ディスプレイは大きく視認性に優れる「Intuvia」をハンドル中央にマウント
アルミ製フレームには個性的なグラフィックが施される
変速段数はリア11速で前は1速。コンポーネンツはシマノ製「DEORE(デオーレ)XT」
フロントサスペンションはMANITOU(マニトゥー)製「MACHETE COMP」で、ストロークは100mm
TEKTRO(テクトロ)製の油圧式ディスクブレーキ「HD-M285」を前後に装備。ハブは前後とも9mmのクイックリリース式
前後27.5インチのホイールに標準ではスリックタイヤを履くが、今回の試乗車にはブロックタイヤが装着されていた

 同じブランドから新型モデルが登場しているだけに、見た目にはちょっと古さを感じてしまいますが、またがると絶妙の安心感があります。今回試乗したモデルの中では、一番タイヤ径が小さいことに加えて、日本人向けにフレームが設計されていることが大きな理由です。「E-POWER X VERT 650B」はドイツ本国でも販売されているモデルですが、そのまま国内に持ち込むのではなく、日本人の体型に合わせてフレームのジオメトリーを見直している点にコラテックのこだわりを感じます。

乗りやすさを大きく左右するフレーム設計を、日本人向けに見直している

 実際にコースを走ってみると、取り回しの良さが光ります。車体が自分の体の下に収まっている感覚があるので、狭い林間コースなどでも取り回しやすい。それをもっとも感じたのが、「パンプトラック」と呼ばれる凹凸とカーブが連続する周回コースを走った時でした。この種のコースはペダルを踏まずに、ギャップを越える際に自転車を前に送り出すようにして加速させます。そのため、アシストを切った状態でチャレンジしましたが、ペダルを踏まずに一周クリアできたのは「E-POWER X VERT 650B」だけ。MTBとしての設計の良さを感じました。日本の山によくある、タイトなトレイル(山道)に合っているように感じました。

アシストを切ってペダリングせずにパンプトラックを回ると、MTBとしての基本性能の高さを体感できた
「UP MTB PARK in KANNABE」には上り下りのコースだけでなく、こうしたパンプトラックもあるので1日中楽しめる

 MTBに初めて乗るという人にも扱いやすいので、最初の1台としてオススメできるe-MTBです。はじめは標準のスリックタイヤで街乗りに使い、慣れてきたらタイヤを替えて山道に行くような使い方が合っているのではないでしょうか。

太いタイヤで乗り心地がいいコラテック「E-POWER X VERT CX-P」

 続いて試乗したのは、同じコラテックの最新モデル「E-POWER X VERT CX-P」です。こちらもハードテイルのe-MTBですが、ボッシュ製の新型ドライブユニット「Performance Line CX」(関連記事)と、インチューブタイプのバッテリーを採用している点が大きな違いです。バッテリーがフレーム内に収められたことで、見た目の印象もかなり変わっています。「E-POWER X VERT 650B」と比較すると、わずか2年の間にe-bikeが大きく進化していることが感じられますね。

メーカー名コラテック
製品名E-POWER X VERT CX-P
実売価格未定(2020年春発売予定)

 ボッシュ製のドライブユニット「Performance Line CX」(関連記事)は、従来のタイプに比べて25%の軽量化、48%の小型化を達成。小さくなったことで、車体への収まりも良くなっています。そして、定格出力こそ法定の250Wと変わらないものの、最大トルクは「Active Line Plus」の50N・mから75N・mまで高められています。

ボッシュ製のドライブユニット「Performance Line CX」はコンパクト。接触時のダメージや汚れの侵入を低減するカバーが装着される
バッテリーはフレーム内に搭載され、前側のカバーを開けて脱着する。搭載したままでも充電が可能で、容量は500Wh
バッテリーをフレーム内に収めたことで、ボトルケージを取り付けることも可能に。長時間乗る際にはありがたい装備
ドライブユニットがコンパクトになったことで、チェーンステイ長(クランク軸からリアホイール軸間距離。リアセンターとも呼ばれる)が短くなり、リアタイヤが重心位置に近づいている
ハンドル幅は広く、オフロードでも抑えが効く形状。ディスプレイはボタンと一体となった新型の「Purion」を装備する
変速はリアのみに搭載し、段数は10段。コンポーネンツはシマノ製「DEORE」となっている

 試乗して真っ先に感じたのは、やはりライディングポジションの良さ。車体だけ見ると大きく感じるのですが、またがってみると車体のコントロールがとてもしやすいのです。「E-POWER X VERT CX-P」も、日本人向けにジオメトリーを専用設計しているのですが、それが効いている印象です。

日本専用のジオメトリーを採用しているのでハンドルが近く、操作しやすいライディングポジション

 また、オフロードの上り坂では、前出の「E-POWER X VERT 650B」に比べてパワフルになっている印象です。これは、ドライブユニットが発生できる最大トルク値がアップしているので、坂道でペダルを強く踏み込んだ際のトルクに違いがあるためと思われます。

 例えばアシスト比1:2でセッティングされるモーターで、25N・mの力でペダルを踏んだとすると、最大トルクが50N・mの「Active Line Plus」では50N・mが発生し、これ以上強いアシストトルクを発生できません。しかし、最大トルクが75N・mの「Performance Line CX」ではあと25N・m分、アシストトルクを発生できます。同じ場所で乗り比べてみると、新型の「E-POWER X VERT CX-P」のほうが、ややパワフルなことがわかります。

定格出力は変わらないが、最大トルクがアップしたことで、ペダルを強く踏み込んだ際に車体を押し出す力が強くなっているように感じる

 個人的に気に入ったのは、27.5×2.8インチの太いタイヤ。このサイズは「27.5+」と呼ばれることもありますが、オフロードでのグリップ性能が高いので、e-bikeとの相性が優れているように感じます。滑りやすい路面で、あまり気を使わなくてもグリップ性能を失わない点がメリットです。アシストがパワフルに感じられたのも、もしかすると太いタイヤで路面にロスなく力を伝えている効果もあるのかもしれません。

27.5×2.8インチのタイヤはかなり太い。グリップ性能がアップするだけでなく、乗り心地も向上。ハブは剛性の高いブースト規格のスルーアクスル
タイヤが太いだけでなく、ホイールのリムも太くなっているので、タイヤ内のエアボリュームが増え、グリップと快適性をさらに高める

 段差などを乗り越える際のショックもタイヤが吸収してくれるので、乗り心地も良くなっています。詳細は次回の記事で触れますが、アシストの威力をフルに引き出すにはフルサスがもっとも適していると考えられるものの、いきなり高価なフルサスを購入するのはハードルが高いのも事実。そんな人には、ハードテイルでも太いタイヤを装着した「E-POWER X VERT CX-P」のような車種がオススメです。荒れた上り坂などでも、太いタイヤが路面を掴んでくれるので、アシストのパワーをしっかり伝えることができるからです。本格的な山道を走ってみたいけど、予算は抑えたいというユーザー向けのモデルです。

 ということで、次回はトレックの「Rail 9.7(レイル)」と「Powerfly 5(パワーフライ)」2車種の試乗レビューをお届けします。

増谷茂樹

乗り物ライター 1975年生まれ。自転車・オートバイ・クルマなどタイヤが付いている乗り物なら何でも好きだが、自転車はどちらかというと土の上を走るのが好み。e-bikeという言葉が一般的になる前から電動アシスト自転車を取材してきたほか、電気自動車や電動オートバイについても追いかけている。