e-bike試乗レビュー

非日常や美味いコーヒーを味わえる房総へ! 週末フェリーe-bike旅のススメ

初めまして。「タイヤの付いた乗り物=自由に移動できる乗り物」をこよなく愛するライターの佐藤と申します。e-bike? もちろん大好物です。日本でe-bikeが本格的に展開されたのは2018年頃だったでしょうか。私はその当時から一貫して「e-bikeは旅に最適なツール」だと主張してきました。なにせ日本は国土の大半が山ですからね。自転車旅には自転車旅でしか得られない素晴らしい体験がありますが、実践するにはある程度以上の体力がないと不可能。そこで「e-bikeがあるじゃないか」という理屈です。

まあ汗をかきかき自力で山道を超えれば、より景色が美しく、ご飯も美味しくなるのかもしれませんが、それはどちらかといえば、体を動かすことが目的であるスポーツの楽しみ方ですからね。私は「日常空間からの離脱」こそ旅における最大の果実だと思っているので、心拍数はなるべく低く抑えたいというのがホンネです。

それで、首都圏で手っ取り早く非日常感が味わえるエリアといえば何といっても房総半島。私の住む横浜からクルマで1時間ちょっとでアクセスできる自転車天国です。今回は東京湾アクアラインではなく、あえて東京湾フェリーの船旅を選択し、横須賀の久里浜港から富津の金谷港まで気分を盛り上げます。

フェリーで房総半島へ。有名な撮影スポットを目指す

当日は10時に横須賀港の有料駐車場(1日1,000円)に愛車を止め、ラゲッジルームからコラテック(のハードテイルe-MTB「E-POWER X-VERT CX」(以下、X-VERT)を降ろし、フェリーの乗船手続きへ。ちなみにX-VERTは普通のスポーツサイクルと同じく、レバー式のスルーアクスルによって前輪が簡単に外せるため、さほど大きな荷室のクルマでなくても無理なく積載が可能です。

横須賀の久里浜港と富津の金谷港を約40分で結ぶ東京湾フェリー。船内には展望席や売店などもあり、短い航路ながら旅情が大いに高まる。乗船券は往復分を買うと割引される

フェリー料金は普通の自転車もe-bikeも同じ。旅客運賃+自転車運賃で往復2,700円(今回は日帰りでしたが7日間有効)。125㏄未満の原付バイクでも往復3,550円かかることを考えると、結構リーズナブルだと思います。房総半島の金谷港までは40分程度の短いクルージングですが、洋上で甲板に出たときのワクワク感は東京湾アクアラインでは決して得られないものです。

看板に出るとワクワク感が止まらないのはなぜでしょう

さて、房総半島は首都圏近郊では珍しく未舗装林道が多く残る場所として知られています。そうした道を辿り、コーヒー片手にチェアリングを楽しむというのが、今回のe-bike旅の裏テーマです。

旅の相棒はコラテック「E-POWER X VERT CX」。アルミフレームにボッシュ製のハイエンドドライブユニット「Performance Line CX」、140㎜トラベルのサスペンションフォークを組み合わせたモデル。漕ぎ出しから強力なトルクを発揮する「Turboモード」のほか、トラクションを重視した「eMTBモード」も備え、本格的なトレイルライドにも対応できる。500Whのフレーム内装式大容量バッテリーにより、最大145kmの走行が可能。日本人向けのこだわり設計で乗りやすいのも特徴

まずは、足慣らしに金谷港から海岸線に沿って延びる国道127号を富津方面へ。今では撮影スポットとして有名になってしまった「燈籠坂大師の切通しトンネル」を目指します。通常、これだけ太いタイヤ(27.5×2.8)を履いたMTBで舗装路を走るのは気が進まないものですが(転がり抵抗が大きくスピードを出しにくいため)、「Turboモード」にしてペダルを踏んだら、発進時から強力なトルク感で思わずおののきました。スーッと速度が上がり、そのまま20km/h以上でも無理なく巡航できるという異次元感覚。これは心強いです。

富津を通る国道127号線は道幅が狭く交通量も多いため注意が必要。不安ならば国道ではなく、あえて旧道を走るのも一手
生活道路なので速度は控えめに。思いがけない風景やお店と出会う楽しみもある

国道沿いに見える赤いゲートをくぐり、燈籠坂大師堂へと続く参道(坂道)を進むと、エジプトのピラミッド内部を思わせる石造りのトンネルが。富津市のWebサイトによると、元々は手掘りのトンネルだったが昭和初期頃に地元住民の手で切り下げ工事が行なわれ現在の形になったのだとか。高さ約10mの巨大な石壁の間を通ると、その質量に圧倒されます。よくぞ作ったものです。

燈籠坂大師の切通しトンネルの威容。富津市の鋸山はかつて「房州石(ぼうしゅういし)」の産地として知られているが、このトンネルはその石切りの技法を用いて作られたものだとか

e-bikeならではの林道とコーヒーチェアリングを満喫

何度来ても見事な燈籠坂大師の切通しトンネルを楽しんだ後は、そこから消費カロリーと明らかに釣り合わないファッティな昼食を海岸沿いの食堂でいただき、本日のメインイベントである林道へ。

鮮度の良い魚はフライにしても美味い。房総半島名物のアジを食べるなら筆者は生より断然フライ派である。こちらは昼食に食べた「ミックスフライ定食」

「金谷元名林道」はクルマが通行できる程度に道幅が広く、フラットな砂利道です。人力自転車ではあまり走りたくないようなアップダウンのあるフラットダートでも、e-bikeならちょっと行ってみようかという気にさせてくれます。

金谷港からほど近い、金谷元名林道を走る。道中に眺望はほとんどないものの、山奥の静けさとタイヤで砂利を踏みしめる感触が心地よい。ブラインドコーナーではハイカーやオートバイなどに注意したい

林道の常で序盤から上り坂が続きますが、石粒を蹴立ててパワフルに突き進むX-VERT。ボッシュ製ドライブユニット「Performance Line CX」のパワフルさとファットタイヤの恩恵によって、舗装路とほとんど変わらないペースで走れるため、相対的にスピード感がものすごく高いです。

また、e-bikeは速度を上げていくと少しずつアシスト力が弱まりますが、その特性を逆手に取ることも可能。つまり、アシスト力が最大限に発揮される低速度域をキープすれば、脚に負担をかけずにどこまでも走り続けられるというわけ。結構使えるテクニックです。

林道の途中でバックパックからキャンプチェアとバーナー、コーヒーセットを取り出してブレイクタイム。最近は大型サドルバッグやハンドルバーバッグなどに荷物を収納する「バイクパッキング」スタイルが隆盛です。でも、個人的には長距離を走らないなら、今回のように少し大きめのバックパックひとつで旅するのも大いにアリだと思っています。e-bikeだとダンシング(いわゆる立ち漕ぎ)をしないので、バックパックが揺れて疲労が蓄積するようなこともないですし、何より中身をすぐに取り出せますから。

この日の荷物一覧。チェアは定番のヘリノックス、バーナーはジェットボイルのミニモを愛用。普通の自転車ツーリングで使うには少々かさ張ると思うが、e-bikeならそこまでシビアになる必要はない。加えて、走るルートや季節に合わせて、携行工具やパンク修理キット、防寒具、救急キットや虫よけ等、万が一のトラブルに対応できる準備も忘れずに

野鳥のさえずりを聞きながら、淹れたてのドリップコーヒーをすする贅沢な時間。久里浜港を出発してからわずか3時間しか経っていないとは思えない圧倒的な非日常感。e-bikeのポテンシャルに感服であります。

普通のコーヒーも、山奥で飲むと格段に美味しく感じられるから不思議。林道によっては火気厳禁の場所もあるので、案内看板等を確認しよう
眺めの良い場所を見つけたら躊躇なく立ち寄れるのが自転車の素晴らしいところ。e-bikeならやめておこうかなと思う場所にも気軽に行ける。駐車場所を確保しないといけない自動車に対して大きなアドバンテージだ

e-bikeは誰でも自由に楽しめる。初心者はガイドツアーもオススメ

初心者でもスポーツバイク経験者であっても、それぞれのレベルに合わせてサイクリングや旅が楽しめるのがe-bike。「自転車旅には自転車旅でしか得られない素晴らしい体験」をもたらしてくれると思いますので、まずはe-bikeのレンタルなどでも自由な体験をしてほしいです。

帰りのフェリーまで少し時間があったので港の周辺を散策していたら、素敵なカフェを発見
「香豆珈琲」は都内でアパレルメーカーに勤務していたご主人が移住してオープンしたお店
美味しいコーヒーと築130年の古民家をリノベーションしたという店内で心地よい時間を過ごせる。奥様が焼くスコーンも絶品なのでぜひ食べてもらいたい
すっかり日が暮れ、帰路の船内で販売されていた焼きそばとおにぎりを食べながら楽しい1日を振り返る
e-bikeガイドツアーもオススメ!!

今回のように、自身でルートを計画するのが不安という人にはガイドツアーという選択肢もあります。経験豊富なガイドさんにe-bikeの基本的な乗り方をレクチャーしてもらったうえで、スキルに応じたルートを案内してもらえるため、初心者でも安心して楽しめます。

たとえば、富士山麓でトレイルライドを体験できる施設「トレイルアドベンチャー・フジ」。緩やかなアップダウンの周回コースが整備され、MTB初心者でも安心。また、レンタルe-bikeで少人数制のガイドツアーも受付中。現地のロケーションを知り尽くしたガイドが、雄大な富士山を間近に望む絶景トレイルを案内してくれます。

これからの季節は美しい富士山が楽しめるガイドツアーなどもオススメ

トレイルアドベンチャー・フジ
住所:山梨県南都留郡鳴沢村字富士山8545-1
URL:https://trailadventure.jp/access/fuji
営業時間:9:00~日没(冬季はAM10:00~)
定休日:不定休

佐藤旅宇

1978年生まれ。オートバイ専門誌と自転車専門誌の編集記者を経てフリーの編集ライターとして独立。現在は乗り物やアウトドア系メディアを中心に活動する。クルマ3台、バイク3台、たくさんの自転車を所有するタイヤジャンキー。数年前まではロードバイクに入れ込んでいたが、近年はシングルギアの「クランカーバイク」で近所の山道を散策するのが趣味。