家電製品レビュー

e-MTB4車種を一気に試乗比較!! 同じボッシュ製ドライブユニットでどれほど違うのか!?【トレック編】

 コラテックの「E-POWER X VERT 650B(イーパワーエクスバート)」(関連記事)と「E-POWER X VERT CX-P」(関連記事)、トレックの「Rail 9.7(レイル)」(関連記事)と「Powerfly 5(パワーフライ)」(関連記事)の4車種を、昨年7月に兵庫県豊岡市にオープンした「UP MTB PARK in KANNABE」のe-bike専用コースに持ち込んで、たっぷりテストしてみました。

 すべてボッシュ製のドライブユニットを搭載するe-MTBですが、車種ごとに違いはあるのでしょうか? 前回はコラテック2車種をご紹介しましたが、今回はトレック2車種のレビュー記事をお届けします。

29インチタイヤで速度が維持しやすいトレック「Powerfly 5」

 コラテックに続き、トレックのe-MTB2車種を乗り比べてみます。まずはハードテイルの「Powerfly 5」から。最大の特徴は、29インチという大きなホイールを採用していること。大きなホイールは慣性が大きく、速度を維持しやすいのがメリットです。搭載するドライブユニットは新型の「Performance Line CX」(関連記事)。バッテリーもインチューブタイプで、一見するとアシストのない普通のMTBかと思ってしまうほど、自然なデザインとなっています。

メーカー名トレック
製品名Powerfly 5
実売価格460,000円(税抜)
ボッシュ製の新型ドライブユニット「Performance Line CX」を搭載し、トルクフルなアシストを実現
バッテリーはインチューブタイプで容量500Whの「Power Tube500」を装備する
コンパクトになったドライブユニットのおかげでリアセンターが短くなり、リアタイヤに駆動力が伝わりやすい。車重は22.2kg
径の大きい29インチホイールを採用し、スピードを維持しやすいのがメリット。サスペンションは120mmトラベルで、ハブはブースト規格のスルーアクスル
コンポーネンツはSRAM(スラム)のMTB用「Eagle」。リアのみの12段変速で、インナーには大きなチェーンリングを採用しているため軽いギアが選択できる
MTBらしく750mmという幅広のハンドルを装備する。ディスプレイは新型の「Purion」

 大径ホイールの効果もあって、見た目もかなり大柄な印象ですが、実際にまたがってみても試乗車がLサイズだったこともあり、やはり大きく感じます。実際のサイズに加えて、トップチューブ(フレームの上辺)が長く、ハンドルがやや遠く感じるジオメトリーの影響もあるでしょう。ただ実際に走ってみると、小回りしにくいこともなく、狭いパンプトラックも苦もなく周ることができました。

大柄な見た目のわりに取り回しはしやすく、タイトなパンプトラックも走りやすかった
そして、ゲレンデのコースではスピードの乗りが良く、ギャップの乗り越え性能も高いのでかなり楽しい

 アルミ製のフレームはガッチリしていて、グリップの良い路面ではアシストを余すことなく路面に伝えられる印象。大径ホイールでスピードの乗りも良いので、かなり速いです。トップチューブが長めのフレームは安定志向が強いので、スピードが出る下り坂などでもピシッと安定するのも心強いところ。

 大きなホイールは木の根などの凹凸を乗り越える力も強いので、多少荒れている路面でも車体がフラれるような挙動はありません。タイヤ幅は2.3とそれほど太いわけではありませんが、29インチなので縦方向の接地面積が広く、トラクションがかかりやすいので滑りやすい上り坂などでも安心感があります。

登坂性能もかなりのもの。写真のように30度以上ある斜面をグイグイ上っていくことができた

 そして、今回試乗した4車種の中では、舗装路での速さはピカイチでした。このあたりは、ロードバイクやクロスバイクと同じホイール径(「700C」という呼ばれ方をするホイールは29インチと同じサイズ)を採用しているメリットでしょう。山道だけでなく普段は通勤や通学に使いたい人にはピッタリのモデルだと思います。

 ただ、29インチのホイールに合わせて設計された車体はそれなりに大きいので、小柄な人だと少しハードルが高いように思うかもしれません。でも「Powerfly 5」には、S~XLまで4つのサイズが設定されているのでご安心を。身長153~162cmに適応するSサイズは27.5インチホイールとなっているので、小柄な人はそちらを選ぶという手もあります。

大きなタイヤの恩恵で舗装路でもスピードを維持しやすい。街乗りもトレイルライドも高いレベルで両立できる

圧倒的な走行性能を誇るトレックのフルサスe-MTB「Rail 9.7」

 最後にご紹介するのは、ボッシュ製ドライブユニット搭載車で唯一のフルサスモデルとなるトレックの「Rail 9.7」。前後にサスペンションを搭載するフルサスモデルは重くなりがちですが、こちらの車重は22kgと、ハードテイルの「Powerfly 5」と変わりません。その理由は、軽量なカーボンフレームを採用しているから。そのぶん、お値段も高価で790,000円(税抜)もしますが、国内発売分はすでに売り切れ状態という人気モデルです。

メーカー名トレック
製品名Rail 9.7
実売価格790,000円(税抜)

 ドライブユニットには新型の「Performance Line CX」を搭載し、バッテリーもインチューブタイプを採用。サスペンションのトラベル量は前160mm、後150mmと本格的なダウンヒルコースも走れてしまうスペックです。なんと、ホイールまで軽量なカーボン製! 現時点で国内発売されているe-MTBの中では最高峰のモデルといえるでしょう。

75N・mという最大トルクを誇るドライブユニット「Performance Line CX」を搭載する
カーボン製のフレームに大容量500Whのバッテリーを収め、中央にはサスペンションも装備
フロントフォークは160mmトラベル。ホイール径は29インチで高い走破性と速度維持性能を誇る
コンポーネンツはSRAM製「NX Eagle」で変速はリアのみの12段。フロントにはチェーン落ちを防止するガイドも装備する
ダウンヒルコースも下れる性能をもつだけに、ブレーキもシマノ製の4ピストンキャリパーで高い制動力を実現
ホイールはカーボン製のBontrager(ボントレガー)「Line Comp 30」。タイヤは29×2.6と太めで、ハブはブースト規格となっている
近年のMTBには不可欠な装備となっているドロッパーシートポストを標準装着。上りでは高めのサドル高で効率的なペダリングが可能
ハンドルに装備されたレバーの操作で、乗ったままサドルをここまで下げられる。下り斜面では、足を付きやすく車体がコントロールしやすい高さに変えられる

 またがる前に車体を押して歩いてみましたが、この時点で性能の高さに気づかされました。押しただけで「軽い」と感じるのです。フルサスでありながら、ハードテイルの「Powerfly 5」より軽く思えるくらい。実際の車重はほぼ同じですが、フレームやホイールが軽いため、重量物はドライブユニットとバッテリー、それにサスペンションくらいになります。それらが車体の中央付近の比較的低い位置に集中し、重心が中央に集まり(マスの集中化といいます)、末端部分が軽量なので取り回しを軽く感じるのです。

軽量なカーボンホイールは、ペダリングの軽さだけでなく取り回しの軽快さにも貢献

 そして、実際にコースを走ってみると、その圧倒的な走行性能をさらに強く体感できました。前後にサスペンションを装備しているため、凸凹の山道を走っていても、まるでフラットな路面かのような走行感。下り斜面で結構大きめの段差が連続しているところを走っても、ライダーが余計なことさえしなければ何事もなかったかのように通過できます。あまりにも安定しているので、どんどん下りのペースが上がっていきますが、一般レベルのライダーのペースでは限界がどのあたりにあるのか感じることすらできません。

ゲレンデを真っ直ぐに下り、ハイスピードでギャップを乗り越えてもフラれることのない安定感はフルサスならでは

 さらに、今回テストした4車種の中で、上り斜面でももっともアシストがパワフルに感じます。搭載しているドライブユニットは同じですが、出力が上がっているのでは!? と感じるほど。同行していたボッシュの担当者に確認したところ、出力自体はまったく同じとのことでした。異なる点は、リアにサスペンションが付いているために、タイヤが路面に押し付けられていること。滑りやすいオフロードでは、どうしてもタイヤがスリップしてペダルを踏んだ力やアシスト力のロスが生じますが、フルサスの「Rail 9.7」はそうしたロスが圧倒的に少ないのです。

ゲレンデを直登するような走り方をしても、余裕で上って行けてしまうパワフルさ。e-bikeのパワーをフルに活かすならフルサスが最適

 あまりにも登坂能力が高いので、今回はコースが貸し切りだったこともあり、この高い登坂能力を試してみようと、特別に許可をもらってダウンヒルコースを逆に上ってみました。「いくら何でも足を付かずに上り切るのは難しいだろう」と考えていたのですが、アシストを最強の「TURBO」モードで試してみたところ、ペダルをクルクル回し続けているだけで上り切れてしまいました。途中、荒れた路面やぬかるみもかなり多かったのですが、サスペンションが絶妙に衝撃を吸収しながらタイヤを路面に押し付けてくれるので、大きくスリップすることもありませんでした。フルサス、すげえ!!

本来はダウンヒル用のコースを特別に逆走。斜度も急で路面も荒れているのに、あっさり上れてしまった

 また、タイトな林間コースを走っても、取り回しが軽いので圧倒的にペースが速いことも特徴。元々重量があるe-bikeをカーボンフレームにしても効果はあるのか? という疑問もあったのですが、車体の上のほうが軽くなるので、スペックの数値以上に軽く感じます。そして、上りも下りも走れないところはないのでは? と感じるほどの走破性。今回のコースをアテンドしてくれたプロMTBライダーで、コース設計者でもある阿藤 寛さんは「e-bikeの本当の魅力が味わえるのはフルサスMTB」だと強調していましたが、その意味がわかった気がしました。

時間を忘れて走りまくってしまったので、車体は泥だらけ。でも、e-MTBはこういう姿が似合う

 今回はe-MTB4車種を乗り比べ、新旧ドライブユニットやタイヤ径による走りの違い、フルサスとハードテイルの差など、さまざまな要素を比較体験することができました。価格が2倍近く違う車体もありましたが、実際に乗ってみると、軽さや走破性など明確な性能差があることがわかり、値段の差にも納得がいきます。

 圧倒的に性能が高いのはフルサスe-MTBの「Rail 9.7」でしたが、誰もがこの性能を必要とするかといえば、そうでもないはずです。e-MTBの魅力を堪能しながら、自分に合ったモデルを探すには、いろいろな車種に乗ってみるのが一番。そう簡単ではありませんが、「UP MTB PARK in KANNABE」で最新フルサスの「Rail 9.7」をレンタルして、まずは最高峰レベルのe-MTBを体験されてはいかがでしょうか。e-MTBの性能を試すにはコースも最適で、初心者から上級者まで楽しめるバリエーションが用意されているので、気になる人は一度訪れてみることをオススメします。

ゲレンデを直登しようとして派手に転倒するe-bike部員。でも、下が芝生なので転んでも怪我しにくいのもこのコースのいいところ

増谷茂樹

乗り物ライター 1975年生まれ。自転車・オートバイ・クルマなどタイヤが付いている乗り物なら何でも好きだが、自転車はどちらかというと土の上を走るのが好み。e-bikeという言葉が一般的になる前から電動アシスト自転車を取材してきたほか、電気自動車や電動オートバイについても追いかけている。