藤山哲人の実践! 家電ラボ

富士通ゼネラルの破天荒が止まらない! 55℃の加熱除菌でエアコン熱交換器のカビはどうなる!?

富士通ゼネラルの破天荒が止まらない! 55℃の加熱除菌でエアコン熱交換器のカビはどうなる!?

 富士通ゼネラルのエアコンR&D部門は、溝ノ口駅の近くにある。東急田園都市線やJR南武線を使っている方なら、線路脇に見える事業所を目にしたことがある人も多いだろう。そして筆者の自宅は、この事業所から車で10分のトコ。だから何か新しいものを開発すると、「面白いものあるけど見に来る~?」ってな間柄なのだ(笑)。

 今回は、2018年モデルnocria(ノクリア)に新搭載された「熱交換器加熱除菌」機能を見に行ってきた!

富士通ゼネラルのエアコンのフラッグシップモデル「nocria」Xシリーズ。左右に付いているファン「デュアルブラスター」が独特
溝ノ口駅が最寄りの事業所にお邪魔したら、大好物! 「カットモデル」があった(笑)
まぁ、ネタバレになっちゃうけど、こーゆーコト!

熱交換器を55℃以上に加熱!? カビ・菌を撃退してキレイな空気を送風

 昨今のエアコンのトレンドに、「暑がりと寒がりの共存 VS ムラなく均一に部屋を快適にする」というものがある。富士通ゼネラルは、「複雑な間取りでも温度ムラがなく、誰もが快適と感じる自然な空間」を追求するという均一温度派。

 特にノクリアの上位モデルは、エアコンの左右にファンを設けた「デュアルブラスター」で、冷房時も暖房時も部屋全体を気流でしっかり撹拌し、快適にするのが特徴だ。

 しかしこの対決は、カンタンに決着が付くわけじゃなく、今年も凌を削る戦いの渦中にある。メーカーはこの2派に真っ二つに分かれている。

サイドファンで、世界初のサーキュレーション機能を備えた「デュアルブラスター」。毎年細かいチューニングが行なわれ、複雑な間取りでも均一に冷房し、冬は温風を床に押し下げ床暖房のように温かい
富士通ゼネラルは、「ひとつの部屋に温度差があることは不自然。それは温度ムラ」という考え方で、「複雑な間取りでも温度ムラなく誰もが快適と感じる自然な空間」という均一温度派

 さらに新しいトレンドとして「キレイな空気」がある。各メーカーは、ホコリやカビ菌などをエアコン内部に溜めないよう、通風経路に特殊コーティングを施したり、抗菌部材を使ったりしている。メーカーによっては、空気清浄機機能を持たせたり、はたまた熱交換器と呼ばれる一番汚れる部分をいったん冷凍し、解凍した水で洗い流したりと、面白いアイデアが勢ぞろいだ。

 その中でもノクリアの「熱交換器加熱除菌」は異色を放っている。テレビCMでは、山﨑 賢人さんが白衣を着ているアレ。エアコン内部でも、なんと一番カビや菌が繁殖しやすい、金属の板が何枚も重なった熱交換器と呼ばれる部分を、55℃以上に加熱して、除菌するという奇想天外なアプローチをしてきた。

室内機に内蔵されている熱交換器には、露が付き、大量の空気が薄い板の間を通り抜けるため、カビの温床になりやすい。これを加熱除菌するというのだ

 冒頭で「面白いものあるよ~」とお呼ばれされたのはコレだった。確かに面白い。筆者の知る限り加熱除菌するエアコンなんて聞いたことがない。富士通ゼネラルはデュアルブラスターしかり、他社のエアコンとは違いすぎるほど尖った性能を見せている。脳ある鷹はツメ見せまくりなのである!

 この熱交換器を熱して除菌するというアプローチ、仕組みとしては思いつきそうなモノ(富士通ゼネラルさん、ごめん!)。でも機能を実装するのは、すごく難しかったと考えられる。

 特に熱を発生させるコンプレッサの制御と熱交換器の温度管理。熱交換器を単純に高温にするだけならカンタン。しかし樹脂や内部回路など機器の信頼性を無視できないため、規定温度を超えないように、かつ最大限温度を高くしつつ安定させないと、エアコンを壊しかねないという諸刃の剣なのだ。

 でも今回、技術的なブレイクスルーをいくつも乗り越え、安全マージンを取りつつギリギリを攻めて、初めて除菌機能を実装できたという。開発の中心となった富士通ゼネラルの奥野氏によれば、「特許もたくさんあるので、他のメーカーさんが真似できるようなモノじゃないですよ(笑)」と冗談交じりに話してくれた。

富士通ゼネラル 新機能開発担当・奥野 大樹氏

 今のところカタログでは「業界初!」(国内家庭用エアコンとしては初)としている。控えめな売り文句だが、もしかしたら「業界初!」が、今後は「日本初!」(業務用にもなかった)、それがさらに「世界初!」(世の中に熱交換器を過熱してカビを取るなんて、やってみたヤツは世界にいなかった)になるかもしれないってこと。

2018年6月現在のカタログとWebでは、慎ましやかに「業界初!」となっている。「日本初!」や「世界初!」になるのも時間の問題か!?

ただ熱するだけじゃなく「湿熱効果」で撃退!

 “熱交換器を加熱してカビを取る”なんて聞くと、科学番組が大好物な人は、きっとツッコミたくてムズムズ!

 「たんぱく質が変質するのはおよそ70℃以上。菌によっては100℃でも死滅しないのに、エアコンの熱交換器をそこまで加熱できるの?」

 はい、その通り! 熱交換器はおよそ55℃以上で加熱する。これには筆者も困惑した。じゃあ、なぜカビや菌を撃退できるかをエンジニアに問い詰めると、「湿熱効果(除菌)」という自然の摂理を利用しているからだという。

90℃のサウナでやけどはしないけど、50℃の湯船に入ったらやけどする

 たとえば室温が100℃近くあるサウナ。でも湿度が20%程度と低いので、誰もやけどしない。でも50℃の湯船に浸かれるだろうか? ドヤ顔して熱い風呂に入ってる爺ちゃんでも45℃くらいだ。それより5℃高い50℃のお風呂なら、肌は真っ赤になり、数分でやけどするだろう。

たいていのカビは50~60℃で5分もすると死滅する。ただし菌によっては熱に強いものもあり、100%というわけではない(出典:「カビ対策マニュアル 基礎編」文部科学省)

 実は「湿熱滅菌」は国際規格のISO(17665-1)でも定義されている。超々カンタンに言うと、「加熱したH2Oのエネルギーで滅菌する」となっている。もっと身近なところだと、NHKの「ためしてガッテン!」で紹介しているカビの撃退方法そのものだったりする。

2年前の今頃に放送された「ためしてガッテン!」のカビ対策。すごく参考になるので、Webも一読して欲しい

 その方法とは、まず給湯器の温度を50℃以上にセット。たいていの給湯器は60℃まで設定できると思うので、MAXにするといい。あとはシャワーでカビの生えている部分をめがけてシャワーをかける。

 本当は50℃でカビを死滅できるのだが、浴室の隅っこなどは、シャワーのお湯が届くうちに冷めてしまうので60℃にする。これポイント! 2~3日で結果が見られるので、ぜひみなさんも試してみて欲しい。

熱いシャワーをかけると床に熱いお湯が流れ出してくるので、長靴を履いたり椅子の上に乗ったり、注意してシャワーするなど、やけどに注意!

 数日これを繰り返すと、ひと目見ただけで壁や床の黒かびが減っているのが分かるほど効果的。なかなか落ちないゴムパッキン(シリコンコーキング)の部分の黒ずみも、色が黒からグレーになってビックリするはず。

なるほど! その手があったか! ノクリア湿熱効果

 さてノクリアは、お風呂のカビの撃退方法と同じ湿熱効果を使ったとは言うものの、エアコンには水道管も給湯器もつながっていない。では、どうやってお湯を沸かせばいいのか? という疑問に答えるのが、次の5ステップの説明だ。

「熱交換器加熱除菌」を説明している、富士通ゼネラルのカタログ。エアコンの仕組みが分かっている方は、これを見ただけで、ハハァ~ン! となるはず

 冷房や除湿運転をすると、室外機のホースから大量の水が出てくる。これは冷風を出すために(室内機の)熱交換器を冷やすと、室内の湿気が結露して熱交換器の薄い板1枚1枚に水滴が付くため。冷えた飲み物のコップに水滴が付くのと同じ原理だ。

 結露は熱交換器全体で起きるので、水滴が溜まってくると熱交換器についているほこりやカビ菌を水で流しながら、熱交換器の下部に溜まってくる。これが図の「洗浄」ステップだ。

 この熱交換器の下部に溜まった水は、大量なら室外機から排出されるが、表面張力で各板の間にわずかに水が残る。飲み物に入っているストローを引き上げると、わずかにストローの下に飲み物が詰っている状態と同じだ。

ただの筒なのに、ストローを水につけて引き上げると内部に水が残る。これは表面張力という物理の現象。先の図で言うと「洗浄後」のステップ

 マクドナルドやスターバックスのストローは、太さ5mmほどでも、かなり飲み物が詰まっている。ソレよりもっと狭いエアコンの熱交換器の板のすき間には、それ以上の水が溜まっており、その中には洗い流したカビ菌なども含まれている。

エアコンの熱交換器もストロー同様に、冷房した後は金属のすき間に水がたっぷり残っている

 さて、ここでリビングのエアコンを切って寝るとしよう。「加熱除菌」モードを開始すると、まず送風運転を約50分行なう。その後熱交換器の加熱が始まり、55℃以上を10分間キープ。

 放置しておくと熱交換器がどんどん熱くなってしまうので、微妙な温度制御を行ない、また必要に応じてファンをゆるく回す。この状態は、まさに先に説明した熱いシャワーを10分カビにかけているのと同じ状態。冒頭の図で言うと「加熱」のステップとなる。

「加熱除菌」を選択。メインメニューの「お手入れ」項目からすぐアクセスできるようになっている
加熱除菌モード開始。熱交換器の温度は36.7℃になり、ここからさらに上がりだす
59℃まで上がった。55℃以上を10分間キープしていた
加熱除菌したあとは送風運転を行ない、エアコンの内部を乾燥させる。温度は21.2℃まで下がった。吹き出し口はルーバーが少し熱を持っている

 こうしてカビや菌を除菌したあとは、再び送風運転を約30分行なって、内部を乾燥させる。こうすることで、エアコン内部に発生する黒カビ類を99%死滅させ、細菌類にも同様の効果を発揮するという。

 なお加熱除菌モードを使うと、通常の暖房運転とは異なるが室温が上昇するので、就寝中や外出中の使用を推奨している。運転ステップは、送風(50分)→加熱(10分)→送風(30分)で、90分~100分ほどかかるため、その間はエアコンがある部屋にいない方が良い。

細菌は耐熱性のものも多いので、共に99%以上除去できている

洗浄機能で他社の一歩先を行く富士通ゼネラル

 一般的なエアコンも「キレイな空気」というトレンドに応えるべく、内部乾燥機能を装備しているものがある。冷房運転のあとに、数十分ほど送風運転を行ない、熱交換器や送風経路を乾燥させカビを抑制するという機能だ。

 経験からもご存知の通り、カビは一度付着すると、乾燥させても再び水分を得ると復活してしまう。つまりエアコン内部を乾燥させてもカビの除菌効果はなく、再び冷房運転をすると、水分を得て復活したカビを部屋の中に放出し、循環させていると言ってもいいだろう。

熱交換器の加熱除菌機能搭載モデル以外のほとんどのエアコンは、熱交換器の中に潜んでいるカビを撃退できない。なぜなら、乾燥させても凍結させてもカビは休眠するだけで、水分を得ると復活してしまうからだ

 もう少し進んだエアコンになると、イオン系の力でカビを撃退するタイプがある。なかには空気清浄機のようなフィルターを設け、撃退したカビ菌を空気から濾し取るものも。イオン系の除菌作用は、空気中を漂う菌に対しては非常に有効だ。しかし熱交換器の水の中に潜んだカビ菌に対しては無力。なぜなら菌に反応する前に、イオンが水に反応してしまうからだ(理論上)。したがってエアコンを切ると、熱交換器のカビ菌は水を得て、新鮮取れたての状態に……。

 熱交換器の加熱除菌機能を備えるnocria X/Z/Dシリーズは、「プラズマ空清」というイオン系と同等以上の空気清浄機能を備えた上で、熱交換器に付着したカビ菌などを死滅させる。そのため、今のところ「空気が一番きれいなエアコン」と言えるだろう。

プラズマ空清機能は、他社のイオン系と同等以上の機能。空気中の菌などをやっつける

 熱交換器の加熱除菌は、エアコンを使うたびにやる必要はなく、週に1回行なう程度でOKとのこと。しかも除菌運転にかかる電気代は約5円ほどと激安。ひと夏頻繁に除菌しても、電気代として気にならない程度の価格で済むのもうれしい。

 ただ唯一の弱点は、暖房運転になってしまうので、人が部屋に居るときに除菌運転すると部屋の温度が上がってしまうこと。寝る前や出かける前に、手動で運転させるのがポイントだ。

熱交換器の加熱除菌は週に1回程度でOK

3モデルに加熱除菌を搭載した富士通ゼネラルの本気

 加熱除菌のような目新しい機能は、ハイエンドモデルに搭載されるのが業界のセオリー。しかしここでも富士通ゼネラルは破天荒っぷりを発揮する。なんとハイエンド機のXシリーズのほか、高機能モデルZシリーズ、そしてミドルクラスのDシリーズにも搭載しているのだ。

2018年モデルのラインナップは、フィルター自動お掃除、熱交換器加熱除菌、空気清浄と、清潔機能が大幅に強化された

 それが意味するところは、それだけ同社が本気で取り組んでいるということ。もはや同社にとって「キレイな空気」のエアコンは、当たり前という考えなのだろう。

世界初のフィルター自動お掃除機能を搭載したのもノクリアXシリーズ。ご存知の通り各メーカーは、こぞって富士通ゼネラルに追従した。フィルターが垂れているのは、「お掃除しました」ということをアピールするためのデザイン

 ノクリアXシリーズは、世界で初めてサーキュレーション機能を持ったデュアルブラスターを搭載。実はフィルター自動お掃除機能を世界で初めて搭載したのも富士通ゼネラルなのだ。

 エアコン作りに関しては、他社とは違い、かなり尖ったアイデアと技術で形にする富士通ゼネラル。溝ノ口は、川崎のシリコンバレー(with 赤提灯)かもしれない(笑)。

協力:富士通ゼネラル

藤山 哲人