藤山哲人の実践! 家電ラボ
琵琶湖に舞い降りた風の神「エオリア」! 取材不可のエアコン工場が特別公開されたぞ!
琵琶湖に舞い降りた風の神「エオリア」! 取材不可のエアコン工場が特別公開されたぞ!
2018年5月22日 07:00
ここ数年、エアコンメーカー各社が気合いを入れている「お掃除機能」。いまや格安モデルを除けば、お掃除機能の付いてないエアコンはほとんどない。
自動お掃除以外にも、各社が競っているエアコンの機能。震災以降に始まったのは、センサー搭載による省エネエアコン開発の乱。これは今でも細く長く続いていて、快適な空調・快適な気流の基礎技術となっている。
その流れを汲んで、石油ファンヒーター VS エアコン暖房の光熱費合戦も起き、高騰する石油価格とは逆に、省エネ化が進むエアコン暖房で、遂に光熱費が逆転するまでに進化した。
しかしエアコン暖房には、弱点が1つある。それは連続して運転すると、室外機に霜がついてしまうため(たとえ関東や九州であっても霜が付く)、霜取り運転をしなければならず、その間は暖房が効かないどころか、冷気が出てしまうという問題だ。この問題の根本的な解決策はまだ登場していないが、冷気を押さえつつ霜取り運転をする方法を各社編み出している。
ここ1~2年のトピックは、部屋にいる全員が快適になる温度制御だ。部屋全体を均一に冷暖房する機能や、センサーで暑がりさんと寒がりさんを見分け異なる温度の風を届ける機能など、各社さまざまな方法でアプローチをしている。
もう1つトレンドとして見られるのは、エアコン内部の清潔性。熱交換器に汚れがつきにくい機構を施し、キレイな空気で冷暖房することに力を入れている。
こんな具合に、各社がしのぎを削っている世界なので、エアコンの生産ラインは機密事項のベール、いやモリブデン鋼のカーテンに包まれている。筆者も何度となく工場見学を各メーカーに打診したが、みな玉砕(笑)。唯一OKをもらったのは「記事にしない」という条件付だった(なんじゃそりゃー!)。
が! 今回、創立100周年で大胆になっちゃったパナソニックが「エアコンの生産ラインをみせてあげる♪」というラブコールを送ってきた! これはもうね、一生で1回言われるか? ってぐらいの、女の子から「今日の夜、両親が出掛けてるんだけど、ウチに遊び来る?」と同じ意味。ひゃっほぉー! そりゃー、工場見学行きましたさ!
だーかーらー♪エオリア~♪エオリア~♪
まずはパナソニックのエアコン「エオリア」をまず紹介しておこう。
エオリア最大の特徴は、同じ部屋にいる寒がりの奥さんと、暑がりの旦那さんが、どちらも快適に感じるエアコンだってこと。エアコンは、まぁだいたい夫婦や家族間で、温度設定の争いが起こるもの。「誰!? 24℃とかに設定したのは!」とか「おいおい! 28℃じゃ汗が止まらネーヨ!」的な。
でもエオリアなら、部屋にいる人の体感温度を検出。さらに外部から入ってくる日光なども検知して、寒がりの奥さんは冷えすぎないように設定より温かめの風を、暑がりの旦那さんにはより冷たい風を送風する。
コレは世界初の技術で、エアコンの中にある熱交換器(金属板のミルフィーユ)の温度を部分的に変えて、最大10℃(暖房時)の温度差のある風を送れるというもの。つまり1台のエオリアかがら温度の違う冷風や温風が同時に出てくるというわけ。
さらにパナソニックのイオンでおなじみ「ナノイー」を10倍発生できる「ナノイーX」を搭載して、空気の除菌や消臭、花粉やカビを撃退し、きれいな風を送るというのもポイントだ。
3つ目のポイントは、暖房時の霜取り運転でも、冷たい風が出てこないエネチャージシステムの機能強化版を搭載。霜取り運転中でも冷気を押さえ、室温が1℃しか下がらないようになっている。
エアコンの肝になる熱交換器もアルミ板から作ってる!
エアコンの性能を左右する部品のひとつが、熱交換器と呼ばれるもの。室内機のフタを開けると見える、薄い金属板(アルミ)が何枚も重なったいちばん大きな部品だ。室外機の羽の裏側にも同様の熱交換器が付いている。
その名の通り、夏は室内機の熱交換器が冷たくなり、暑い室温の熱を奪い取る。奪い取った熱は、壁を通る管を通って室外機の熱交換器へ渡される。室外機は、熱交換器で奪い取った熱を空気中に放出し、ファンでそれを吹き飛ばす。だから夏に室外機の前を通ると熱風が出ているというわけ。
逆に冬の暖房時は、室外機の裏から吸った寒い空気から、さらに熱を奪ってファンで拭き出す。人間にしてみれば、寒い空気であっても、科学の目で見るといちばん冷たいのは-273℃(絶対零度)。つまり気温0℃であってもエアコンが科学の目で見ると273℃の温度のエネルギーを持っているというわけだ。だからエアコン暖房をすると、暖かい地方であっても室外機の熱交換器にびっしり霜が付く(とくに雨や雪の日)。そして外気から奪うばい取った熱は、室外機に送られ、熱交換器で熱を放出して部屋を温かくする。
熱交換器で熱を奪ったり、放出できるのは、コンプレッサーという圧縮機と両方の熱交換器をつなぐ管に入った冷媒と呼ばれるガスがあるからだ。自転車にタイヤに空気を入れると、空気入れ(ポンプ)が触れないほど熱くなるのと同じ原理で、コンプレッサがガスを圧縮することで熱を放出する。逆に熱を奪い取る場合は、スプレー缶を長時間噴射しているとカンがキンキンに冷える現象。コンプレッサで圧縮したガスを、シューッ! と管内でスプレーすると、熱を奪うというわけだ。
熱交換器には、薄い金属板を巡るようにパイプが配管されている。ここには、高圧のガスやスプレーした低圧のガスが流れるので、継ぎ目にすき間や穴が絶対にあってはダメ。
そこでパナソニックの滋賀工場では、この配管をつなぐ作業は、有資格者のみが行なうようになっている。通常は銅でできた管を半田付けの要領で「ロウ付け」するのだが、管全体を温める技術と、全体が均等に温まったかを見極める時間や匂いや色の変化、そしてロウを付けるタイミングと量と時間を、見極める職人ワザが必要なのだ。
生産効率は下がっても、完璧な製品をお客さんにお届けするというパナソニックの品質管理魂をここに感じた。またラインの説明をしてくださった担当さんの一言。
「1,000個に1個の不良でも、1人のお客様にとっては、1個の不良がすべてなんです」
検査で不良をはじく、自動生産ラインでも不良を出さないようにできる。しかしそうしない理由は、パナソニックがお客さんの顔を想像しながらモノづくりしている姿そのものに変わりない。
また最新モデルでは、銅管にかわりアルミ管を使っているという。詳しい人が聞けば「マジ! あほかいな!」と驚くほどの革新だ。なにせアルミのロウ付けは、銅に比べてとんでもなく難しく、さらに目利き、腕利きの職人技が必要なのだ。そもそもアルミのロウ付けができるようになったのは、歴史的に見ると極最近のこと。
でもパナソニックは、アルミのロウ付けもできる職人を育てて、よりよい製品を作ろうとしている。新製品も育てながら、同時に人も育てているのがパナソニックなのだ。
なんだかパナソニックの広告みたいな言い方になっちゃってるが本当のこと。企業と人との関係が薄れていく時代にあって、これは見習いたいところ。
熱交換器にホコリを寄せ付けない詰らせない基礎研究と技術
さて熱交換器の重要性が分かったところで、次に見学したのが熱交換器のホコリ付着テスト実験室だ。熱を奪ったり放出する熱交換器だが、ホコリや汚れが付着してしまうと効率が悪くなる。
例えるなら、真夏にホコリでできたコートを羽織っているようなもの。ホコリの中に熱が溜まってしまい、放熱・吸収ができなくなるのだ。さらにメーカー各社が注力している「キレイな空気」を作り出すためにも、ホコリは大敵だ。
そこで工場内には、エアコンに付着するホコリを専門に研究する施設もある。ミッションは、ホコリそのものの研究と、短時間で製品寿命の10年分に相当するホコリを付着させる実験機器の開発および運用だ。
担当の久保氏によれば、全国107箇所から使用済みのフィルターを取り寄せ、そこに付着するホコリを解析。エアコンに付着するホコリの標準モデルというか、標準レシピを開発したという。その配合についてはトップシークレットだが原料は、油・微細な粉塵・短いホコリ・長いホコリだという。
かたやエアコンにホコリを付着させる装置は、まるで筆者が作る実験機器のようで、キッチン家電数点とファンを組み合わせたジャンクっぽさ(笑)。とはいえ、機器を順番に動かすシーケンサーのみ、パソコンではなく工場向けのバカ高いやつだったりして、お金のかけ方がどこか違う!? という印象だった。たぶん生産ラインの余ったヤツを拝借してきたと思われる(笑)。ジャンク、いや機器自体も超機密事項(他社に見られたら恥ずかしい?)となっているため、写真は非公開だ。
しかし装置を使って付着させたエアコンを見ると、「おおおお!!! これこれ! まさにこのホコリとこの付きっぷり!」って大声を出しちゃうほどリアルなホコリが付着していた。しかも1セット1時間で、70セット繰り返すと10年ぶんのホコリがつけられるというモノだ。まあ「10年掃除し忘れてた!」なんて人は早々いるもんじゃないが、製品としては極限の性能まで試しておくのがエンジニア魂ってモン。
今回の新型エオリアは、この試験装置の実験結果も反映されている。これまでのエアコンは、薄いアルミ1枚1枚の表裏に親油・親水性のコーティングするのが常だった。カタログにもカビない、油汚れが落ちるなど謳われている。しかし新型エオリアは、それに加えて空気を吸い込むアルミ板の切断面にも特殊コーティングを施している。
室内機のカバーを開けてみれば分かるとおり、フィルターでも取りきれなかったほこりは、アルミの薄い板1枚1枚の切断面に絡みつくのだ。切断面は、プレス機で断裁するので見た目はきれいに切断できているようでも、顕微鏡で見れば金属がささくれ立っている。だからそこにホコリが絡まって、油が付いてさらにホコリを呼びと、どんどん汚れてしまうのだ。
生産ラインでは、熱交換器の製造のほぼ最終工程に置いて、ロボットを使い断面にスプレーをしていた。しかもかなり厚塗り。これはあくまでも筆者の予想だが、横に置いてあった名前の書いてない(笑)塗料の缶、そして電気のスパークなども発生しない生産ラインになっているところからみて、揮発性のフッ素コーティング材を厚塗りしていると思われる。
熱交換器の清掃では、熱交換器の温度を変化させて成果を上げているメーカーもあるが、それなりに電気も食うはずだ。しかしパナソニックのデモでは、コーティングにより電気を使わずにキレイになっていたのは言うまでもないだろう。電気なしの自然の力だけなのだ。そして熱交換器清掃機能を謳っていない会社の製品は、推して知るべしというところだ。
極寒の地でも寒くない霜取り運転を約束するエネチャージ
これから夏だというのに、聞きたくない話をしよう(笑)。それはエアコン選びは、暖房能力で機種選びをするということだ(暖房は、灯油やガスのみという極寒冷地を除く)。なぜなら、夏は暑くても外気は35℃程度、それを25℃(かなり低め)まで冷やすとなれば、温度差は-10℃。長年の歴史を持つ国産メーカーのエアコンなら、たいていのエアコンならこの程度の冷房能力がある。
しかし冬場を考えると、寒い日は0℃を下回ることがある。これを室内25℃まで上げるとすると、その差25℃以上。暖房は、冷房に比べると圧倒的にパワーが必要になる。「家のエアコンは、冷房はよく効くのに、暖房は効きが悪い」なんて方も多いはず。それはエアコンの調子が悪いのではなく、エアコンが古いか、格安モデルでパワー不足が原因。
これからエアコンを買い換えようという方は、部屋の畳数の次に、価格と暖房能力の「kW」数を見て欲しい。寒冷地にお住まいの場合は「暖房低温能力」(気温2℃時)、都心や比較的温かい太平洋沿岸の西日本の場合は「暖房能力」(気温7℃時)を見るといい。同じ価格であれば、能力の高いが冬暖かく暮らせる。もし買い替えなら、今のエアコンの型番をインターネットで調べて、寒いなと感じる場合は数値の高いエアコンに乗り換えればいい。
さらに暖房運転で困るのが、暖房運転時に室外機に付く霜。そのままにしておくと、氷になってしまい暖房が効かなくなるどころか、室外機が壊れてしまうこともある。そこで日本全国で霜取り運転が必須となるが、霜取り運転=冷房運転という点が寒さの原因だ。室外機を温めようとすると、室内機はどうしても冷えてしまい、たとえ送風を止めていても、吹き出し口から冷気がこぼれ落ちてくる(可視化するとまさにそんな感じ)。
パナソニックの場合は、こぼれ落ちる冷気を抑えるべく、通常は室外機が廃熱として捨てているコンプレッサの熱を、蓄熱材に貯め霜取り運転中の熱源として使っている。そのため霜取り運転中の4~5分間、暖房運転が止まってもエネチャージシステムからの熱源を使って室温の低下を-1℃までに食い止めている。
なかでも寒冷地向けのモデルは、さらに強化されたエネチャージシステムを搭載。蓄熱材に加え電熱線のヒーターも備え、凍てつく寒さでも室温低下を最小限に食い止めるようにしている。
草津工場では、エネチャージシステムがより効率よく、室温の低下を最小限に食い止め、極寒の中でも機能するかを専用の研究室で実験していた。もちろんここで実験・データ収集・製品へのフィードバック技術が開発され、今では東北や北海道などの極寒の環境でも、霜取り運転中でも室温がほぼ下がらないエアコンが開発されているのだ。
と同時に対極的な、猛暑の中での冷房実験も行なわれていた。日本でマークされている、過去最高気温でも涼しさを確保できるかをこの実験で担保しているというわけだ。
また別の部屋では、実験室の中に家を立て、部屋のアチコチに温度センサーを取り付け、エアコンが日差しや気温をどのように認識し、最適な運転を行なうかの実験もしていた。ケンタッキーやスーパーのフライ売り場にある、熱線ランプを使い、気温だけでなく、日光からの熱も再現しているのだ。
キレイな風の源、お掃除ロボットをも調教!?
エアコンメーカー各社は、自社の製品に必ずと言っていいほど愛称を設けている。「霧ヶ峰~♪」しかり「しろくまくん」なり「大清快」だ。これに反してまったくこだわりがないのがパナソニック(笑)。
昔からエアコンのブランド名をチョイチョイ変えたり、ブランド名がなかったりと異色を放っていたが、昨年からなんと大昔に使っていた「エオリア」のブランドを復活。今40~50代の方は、エアコンのブランド名とともに、徳永英明さんの歌う「だーかーらー、エオリア♪」の曲も思いだされることだろう。
パナソニックにしちゃ珍しいブランド名が付いていることから見ても、このエアコンに対する思い入れが分かる。そもそもエオリアは、ギリシャ神話に登場する風の神様(アイオロス)の名前。「人が触れる空気の清潔さや快適な温度にもっとこだわりたい」というパナソニックの願いがこめられた愛称なのだ。
そのため「キレイな空気」にもこだわっている。ナノイーXのイオンに加え、先に紹介した熱交換器のホコリ問題、そして今や当たり前ともなっているフィルター自動お掃除機能だ。パナソニックのエオリアは、一歩進んでエアコンのフィルターに加え、空気清浄機相当のフィルターも装備。内蔵センサーで空気の汚れを感じて、必要に応じて空気清浄機用フィルターを通した空気を部屋に送る。
そこでこれらのフィルター機構が経年劣化で故障しないことを担保する実験も行なっている。
こうして当たり前ののように、家族みんながきれいな空気を拭き出すエアコンで快適に暮らせるよう、見えないところで企業努力の積み重ねがあるのだ。
琵琶湖の風に乗せ技術と信頼をそよぐパナソニックのエアコン
琵琶湖のほとりに舞い降りた風の神様「エオリア」。とはいえ、その名を冠するエアコンは、非常に努力家で多くのエンジニアの基礎研究やデータ取り、創意工夫や技術の積み重ねで、ひとつの製品に仕上がっている。そして製品を作るラインもまた、ノルマの1,000台のウチのひとつではなく、お客様一人ひとりの1台として丁寧に作られているのが印象的だった。
「健全な魂は健全な肉体に宿る」というが、これはモノづくりにも同じことが言えると考えさせられる工場見学だった。「製品に対する真摯な思いが、いい製品に宿っている」と言えるだろう。
みなさんのエアコンが、今年も故障なく運転できますよーに!
なので、滋賀の工場見学の帰りに、みなさんに代わって、日本のエアコンの神様に参拝してきた。それがここ奈良県の氷室神社だ。その名の通り、大昔平城京に納める氷の貯蔵庫(氷室)を持ち、氷の神様をお祭りしている。ご利益は、製氷販売、冷凍冷蔵業、そしてヒートポンプ(エアコンなど)や蓄熱技術の守護神として、極狭い業界の超有名神社となっているのだ。
さらにお隣の春日大社には、日本の風の神様をお祭りしている「風宮神社」もあって、エアコンメーカーの崇敬を集めている。境内にエアコンメーカーの名が連なっているのに気付く人もいるはず。
2礼2拍。「みなさんのエアコンが、今年も故障なく運転できますよーに!」1礼!