家電製品ミニレビュー
プロの経験と技術を注いだ「極上のコーヒー」が味わえる“The Roast”
2017年8月29日 07:00
コーヒーの味わいを決定づけるのは、7割が生豆の品質、2割が焙煎、残りの1割が抽出。つまり、豆の品質と焙煎が9割を占めていると、コーヒーを知り尽くしたプロの焙煎士はおっしゃる。
その9割を一般家庭で揃えるのは至難の技だろう。良質の豆を見極めるにも、様々な種類の豆に適した焙煎を施すにも、一朝一夕ではとても到達できない経験と技術が必要だからだ。
ところが! プロの経験と技術を注いだ『極上のコーヒー』が家庭で味わえる時代が到来した。それが今回紹介する、パナソニックの「スマートコーヒー焙煎機 “The Roast” AE-NR01」だ。
メーカー名 | パナソニック |
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製品名 | スマートコーヒー焙煎機 “The Roast” |
型番 | AE-NR01 |
価格(編集部調べ) | 108,000円 |
一般的な焙煎機とは全く異なるスタイル
The Roast本体は焙煎機だが、適当に生豆を買って、自分で火力を調節しながら焙煎するものではない。その点が他の焙煎機とは大きく異なる。また操作のために、iOS搭載の端末が必要となる。少し長くなるが、最初にその違いとなる特徴を述べておこう。
定期頒布される、厳選されたスペシャリティコーヒーの生豆を使用
The Roastで焙煎するのは、100年の歴史を持つコーヒー商社の石光商事の協力のもと、世界中の生産国・生産地の厳選された良質な「スペシャリティコーヒーの生豆」のみ。生豆は毎月支払いの年間契約が必要。The Roastは定期頒布される生豆の専用焙煎機という位置づけになる。
世界チャンピオンが作成した唯一無二の焙煎プロファイル
頒布される生豆には「焙煎プロファイル」がQRコードとして添付されている。焙煎プロファイルは、焙煎士として2013年に世界チャンピオンに輝いた豆香洞コーヒーオーナー・後藤直紀氏が作成したものだ。それぞれの生豆の特徴や春夏秋冬のテーマに合わせて、The Roastが焙煎する温度・風量・時間をコントロールするプログラムとなる。
高級感のある本体。ペアリングは簡単
本体の素材は、塗装にもこだわりが伺えるメタルとガラスで構成されている。ぱっと見ではそれが焙煎機とは思えないほど、洗練された佇まいを持つ。
大きさは130×238×342mm(幅×奥行き×高さ)で、重さは約4.6㎏。焙煎に必要なガラス容器が2個付属している。初回サービスとして、ブラジルとエチオピアの生豆(各200g)がスターターキットとして本体と一緒に届けられる。焙煎後、約32杯分のコーヒーが淹れられる豆の量だ。
焙煎方法は熱風式が採用されている。生豆は熱風で焙煎されながら、同時に雑味の原因となるチャフ(生豆表面の皮)をサイクロン技術で分離するのも特徴的だ。焙煎中の排気は排気口から上方へ排出される仕組みだ。
焙煎釜を覆うふたはガラス製。本体に組み込まれた磁石で、密閉性と取り外しやすさを両立させており、意匠性も高い。安全に生豆の投入ができる仕組みも施されている。
操作のほとんどはiOS端末を使うので、本体にボタンは1つと表示ランプが2つのみ。本体も付属品もとても質感が良く、丁寧に作ってある印象だ。
焙煎を始める前に、手持ちのiOS端末にThe Roastの専用アプリをインストールし、Bluetoothで本体とペアリングしておく必要がある。
ペアリングは簡単だ。端末のBluetoothをONにしておいてからアプリを起動。次に、アプリの「メニュー」をタップし、メニュー画面の「ペアリング設定」をタップする。画面にはペアリングの手順が表示されるので、指示にしたがって進めていけば、あっという間に終わってしまった。
焙煎度を変えれば、同じ豆で2~3種類のコーヒーが楽しめる
ペアリングが済んだら、生豆の「焙煎プロファイル」を端末に読み込む。この作業は一瞬で終わる。
専用アプリの下にある「QR code」をタップすると、端末のカメラが立ち上がる。画面の枠内に生豆パッケージのQRコードをかざすと、瞬時にアプリに取り込まれてしまった。取り込まれたプロファイルは、アプリの「Roast」をタップすると「豆カード」として一覧表示され、選択できるようになる。
豆カードをタップすると、生豆の種類に合わせた2〜3種類の焙煎方法が表示される。これが焙煎プロファイルの内容だ。ブラジル、エチオピア焙煎度は「Light Roast」、「Medium Roast」、「Medium Dark Roast」の3つが用意され選択できる。豆の種類によっては「Dark Roast」もあるという。
プロファイルの画面には焙煎度の他に、焙煎度生豆の名前、豆カードの番号、焙煎回数、焙煎時間も表示されるので確認しやすい。右下のブックマークのアイコンをタップすると、焙煎度の違いによるコーヒーの特徴を記した画面が表示される。どのように味と香りが焙煎度で変わるのか、読んでいるだけでも興味がそそられる。
スタートキットの2種類の生豆から、焙煎度を変えれば合計6種類のコーヒーが楽しめる、というわけだ。プロの焙煎士が手がけた技が自宅で再現できると思うと、思わずワクワクしてしまった。
準備が整った所でガラス容器を本体に差し込み、いよいよ焙煎してみよう。
焙煎豆の排出される様子が快感!
焙煎にあたり、改めて生豆を見るとブラジルとエチオピアの生豆の表情に違いが確認できた。いずれも粒が揃い生豆にハリがあるのがわかる。焙煎前の生豆は、コーヒーの香りはほとんど感じられない。
まずブラジルを焙煎した。その順番を追っていこう。
1.豆カードを選択~予熱
アプリの「Roast」をタップしてブラジルの豆カードを選択する。自分は深煎りが好みなので3つのプロファイルの中から「Medium Dark Roast」を選択した。「ロースト開始」をタップすと、本体のBluetoothランプが点灯すると同時に、アプリ画面に、豆容器に生豆を入れ、本体のボタンを押すよう促す、お知らせ画面に切り替わった。
お知らせ画面にあるように、豆容器が閉じているのを確認してから生豆を入れる。一度に焙煎できる生豆の量は、50g(約4杯分)と決められている。容器の内側に50gラインがあるので、スケールを持っていなくても問題ない。
豆を入れたら、ボタンを押す。すると焙煎釜の予熱が始まった。アプリ画面は予熱を表す画面に切り替わる。
予熱がスタートして2~3分経つと、本体からピーピーピー音が鳴り予熱は完了する。すると、アプリ画面は豆を投入するお知らせに切り替わる。予熱時間は豆の種類や焙煎度によって異なるそうだ。
2.豆を投入して焙煎スタート
お知らせ画面の指示にしたがって、豆容器を時計回りに回すと、生豆は焙煎釜に落ちていく。全て投入されたのを確認したら、今度は豆容器を止まるまで反時計回りに回すと、焙煎がスタートし、アプリ画面にはカウントダウンの時計に切り替わる。熱風で生豆を回転するのがガラス越しに見える。焙煎中は排気口から熱風が出てくるので注意が必要だ。
焙煎が進むにしたがって、緑色だった生豆は徐々に茶褐色に色づいていく。そうこうしているうちに、ガラス容器には生豆から剥がれ落ちたチャフ(生豆の薄皮)が溜まり始める。焙煎が進む過程で、徐々に変化する香りもこの時楽しめる。
焙煎時間の残り1分ぐらいには焙煎が終わり、冷却運転に自動で切り替わる。本体側面の表示ランプも、赤から青色点灯に変化する。
3.焙煎豆の排出が楽しい!
冷却が完了すると本体からピーピーピー音が鳴る。アプリ画面は、ガラス容器の交換と、本体ボタンを押すよう促す画面に切り替わる。
チャフが溜まったガラス容器を取り出し、もう1つのガラス容器をセットする。ガラス容器をセットし直した時、青色点灯だったランプが点滅に変わる。なお、ガラス容器は2重構造で、ゴムのカバーも付いているので熱くなかった。
いよいよ豆を排出するのだが、これが楽しい!
ボタンを押すと焙煎釜にあった焙煎豆が、風で一気にガラス容器に降り注ぐように排出されるのが面白い。排出が終わるとピーピーピー音が鳴って自動で運転は停止する。アプリ画面は切り替わり、焙煎完了を知らせてくれる。
同じようにエチオピアもMedium Dark Roast焙煎したが、仕上がった豆は、どちらもムラ・焦げのない均等な仕上がり。見事なMedium Dark Roastだった。チャフもキレイに取り除かれていた。
エチオピアの焙煎中、ワットチェッカーで消費電力の変化を確認したが数値の変化が見られた。焙煎スタート時は1,000W強~120Wを推移していたが、残り時間9分になると1,000W強~280W、8分前で1,000W強~500W、6分前で1,000W強~620W、5分前で1,000W強~780W、2分前になると1,000W強~840Wと細かく変化していった。焙煎時間が終わりに近づくにつれ、低い方の消費電力の数値が上がっていった。
あくまでも想像に過ぎないが、生豆が熱されて水分が抜けていくにしたがって、徐々に火力を上げてローストしていくように見えた。50gの生豆が焙煎豆になって計量してみると、重さが減って42gになっていた。
焙煎中は熱風とともに焙煎の匂いも排出されるので、換気扇の近くで使用するのがいいだろう。
4.後片付けは簡単
焙煎が終わって、高温ランプが消灯したら電源コンセントを抜いておく。
焙煎後の手入れは簡単だった。豆容器、ガラス容器、ガラスふたは水洗いができる。焙煎釜や風路はよく絞った布巾で拭き、乾かしておく。また、吸気口にホコリが目立つ時には、掃除機などで吸い取っておく。
思わずため息、「ああ、美味しい」
焙煎豆が完全に冷めたところで、手持ちのミルで挽き、約90℃のお湯を用意してハンドドリップでコーヒーを抽出した。
焙煎したてのコーヒー豆は、挽いている時から香りが際立つ。ブラジルはナッツのような香り、エチオピアは甘い果実のような香りが立ち上る。焙煎豆の香りと挽いた時に発生する香りの違いも、この時楽しめる。
抽出の最初、少量のお湯を入れて20秒ほど蒸らすが、見事なほどに粉全体がふっくらと膨らむ。これこそ豆が新鮮な証だ。蒸らしが済んだら優しくお湯を注いで抽出する。抽出中の香りも素晴らしい。
温めておいたコーヒーカップに抽出したコーヒーを注ぎ、香りをまず楽しみ、一口、そしてもう一口……。幸せなため息とともに、思わず口をついで出る「ああ、美味しい……」。焙煎したて・挽きたての豆で淹れるコーヒーのなんと美味しいことか!
ブラジルはキリッとした苦味でコクがある。喉を通るとその苦味はスッと消えてしまうが、香ばしい香りが鼻から抜ける。肉厚でいながら、とても爽やかな印象だ。エチオピアは、まず果実のような甘い香りが鮮烈。清々しい酸味がほんのりと感じられ、心地良い重みのあるコク、僅かな甘さふわりと拡がる。どちらもストーレートで是非味わいたい、本当に美味しいコーヒーだった。
焙煎豆は、約2日~2週間が新鮮で美味しく飲める期間で、以降はどうしても劣化してしまうものだ。自宅で焙煎できれば、いつでも新鮮で味わい深いコーヒーが楽しめる。
焙煎して3日経過したエチオピアは、さらに甘い香りが増して、味わいもより深い印象に変化した。自家焙煎だからこそ、時間経過による変化も楽しめる。焙煎度を変えれば、その楽しみはさらに拡がるだろう。
なお、専用アプリのメニュー内には、焙煎した豆の履歴が一覧で表示される「焙煎ノート」と、気に入った焙煎プロファイルが表示できる「お気に入りプロファイル」がある。いつ焙煎して、どんな印象で、その焙煎が気に入ったかが管理できるのも楽しい。
年間を通して、毎日本物のコーヒーを
本当に美味しいコーヒーが楽しめるThe Roastだが、気軽に購入できる価格とは言い難い。しかも、購入時に合わせ、生豆の12カ月間・定期頒布契約もしなければならない。
生豆の価格は、2種コース(200gx2パック)は税別で3,800円(約32杯分/月)、3種コース(200gx3パック)は5,500円(約48杯分/月)。コーヒー1杯に換算して120円強とはいえ、こちらも結構な価格になる。
とはいうものの、世界中の産地を知り尽くしたバイヤーが仕入れた「確実に美味しい」生豆が定期的に届き、プロの焙煎士が作成したプロファイルを元に、失敗のない自家焙煎ができるのはこれまでにない新しさがある。
新鮮極まりない、香り高い、極上のコーヒーが毎日楽しめるというのは、コーヒー好きには大いに魅力的だ。毎日のコーヒータイムがよりいっそう豊かに、ふくよかな時間になるのではないだろうか。