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ガス機器や複数家電が連携、シャープAIoTが他社と組んで実現する新たな一歩

ガス機器や家電と連携するシャープ「COCORO HOME」アプリ画面イメージ

シャープの100%子会社であるAIoTクラウドは、同社独自の「AIoTプラットフォーム」と、他社製品および他社サービスを連携した新たな取り組みを開始する。

ひとつめは、大阪ガス、ノーリツ、リンナイのガス給湯器、および大阪ガスの家庭用燃料電池「エネファーム」と、相互のプラットフォーム連携を図り、シャープの「COCORO HOME」アプリを通じて、外出先のスマホから風呂を沸かしたり、帰宅時に複数の家電と給湯器をまとめて操作したりといったことが可能になる。AIoTプラットフォームが、シャープ以外の製品と連携するのはこれが初めてとなる。

もうひとつは、関西電力の見守りサービスに、シャープの冷蔵庫や空気清浄機などの家電データの提供を開始すること。離れて暮らす家族の状況を知らせることなどができる。

いずれも、5月28日から連携し、サービスの提供を開始した。

風呂の湯はりや追い炊きを外出先からもスマホで操作

AIoTクラウド AIoTプラットフォーム事業部の松本融副事業部長は「AIoTプラットフォームは、スマートライフの実現と、お客様価値の拡大を目指した取り組みである。そのためにはシャープのなかだけの機器、サービスの連携に留まらず、各業界の様々な事業者とのパートナーシップが重要になる。今回の取り組みをきっかけに、2020年度中に50社との連携を目指す」と述べている。

今回の大阪ガス、ノーリツ、リンナイとの連携は、無線LANに対応した大阪ガスの83機種、ノーリツの3機種、リンナイの6機種のガス給湯器と、大阪ガスの25機種のエネファームが対象になる。

各社のガス給湯器やエネファームが対象

ノーリツとリンナイは、給湯器市場で高いシェアを持ち、両社をあわせた国内シェアは約8割に達すると見られている。給湯器の無線LAN対応にも早い時期から取り組んでいる。

また、大阪ガスは、2016年からIoTガス機器を発売。インターネットに接続して、運転情報を収集しており、これまでに5万台以上のIoTガス機器の販売実績を持っている。

各社とも、外出先からスマホを使って、風呂の湯はりや追い炊きができるようにしていたほか、自宅の給湯器の使用状況の確認や、離れて暮らす家族の給湯器の使用状況の確認などが行なえたが、今回のプラットフォーム連携により、シャープのCOCORO HOMEアプリから各社のアプリに連携して同様の操作を可能とし、さらに、COCORO HOMEアプリを使って、複数の家電とガス機器の一括操作を実現できるようにした。

シャープの専用アプリ「COCORO HOME」で、大阪ガス、ノーリツ、リンナイのガス給湯器などが操作可能になる

「COCORO HOMEの機器リストに登録すれば、シャープのAIoT家電と、3社のガス機器との統合管理が可能になり、『まとめて操作』によって一括操作が可能になる。たとえば、動かしたい家電や給湯器などを事前に『まとめて操作』に設定。帰宅する前に、1度のボタン操作だけで、家電とガス機器が同時に稼働する。真夏の外出先で暑い思いをしても、自宅に帰る時間にはエアコンが部屋を涼しくして、テレビの電源をオンにし、適温で風呂を沸かしてくれるといった使い方ができるようになる」とする。

なお、給湯器やエネファームの各機器の細かい操作については、COCORO HOMEがリンクしている各社のアプリから行なうことになる。

見守りサービスに家電データを提供して実現できること

一方、関西電力との協業は、シャープのAIoT家電のデータを、関西電力の見守りサービス「はぴeまもるくん」に提供。これにより新たなサービスにつなげるというものだ。関西電力では、「はぴeまもるくん 家電情報を用いた見守りサービス」として提供する。

関西電力では、「はぴeまもるくん」のサービスとして、離れた家族が住む家の電力使用量から、生活リズムを推定して、異常があった場合には通知をしたり、ブレーカーに専用センサーを設置して、電気の不正使用を知らせたりするサービスを提供。さらに、冷蔵庫の扉の開閉履歴をもとに、離れて暮らす家族の生活リズムを確認できるサービスも提供してきた経緯がある。だが、冷蔵庫の開閉履歴をもとにしたサービスを利用するには、明るさで扉の開閉を判断できるセンサーを別途購入し、冷蔵庫に設置する必要があった。

今回の協業ではシャープのAIoT対応冷蔵庫と、AIoT対応空気清浄機を、ネットワークに接続するだけで、サービスの利用が可能で、冷蔵庫の開閉や、空気清浄機のセンサー反応をもとに見守りを行なえる。

例えば「離れて暮らす高齢の親が、朝に牛乳を飲もうと冷蔵庫のドアを開けるとセンサーが反応したり、朝起きた時などに寝室の空気清浄機のセンサーが反応したりすることで、日常と変わりがない生活をしていることを、子世帯が知る」といった活用ができる。

冷蔵庫や空気清浄機のセンサーを介して見守りができる

監視カメラには抵抗があるという場合にも、プライバシーに配慮しながら、見守りが可能だ。

センサーの反応は、LINEやメールでは3時間ごとに、ウェブ画面では1時間ごとに確認でき、センサーに12時間反応がなかった場合には、LINEやメール、ウェブ画面で知らせる。

サービス申し込み手続きは、「COCORO HOME」のサービスリストからリンクしている関西電力の見守りサービス「はぴeまもるくん」から行なえる。2020年12月までは無料で利用できる。

他社製を含む複数機器を、アプリを通じて一括操作

今回の新たな連携は、今後のAIoTプラットフォームおよびCOCORO HOMEの事業拡大に向けた大きな一歩となる。

シャープとAIoTクラウドは、2019年5月に、AIoTプラットフォームを基盤にして、オープンに機器やサービスをつなぐことができる統合スマートライフアプリ「COCORO HOME」の提供を開始。シャープの家電製品だけでなく、他社の製品やサービスとの連携を視野に入れてきた。

これまでは、シャープのAIoT家電との連携が中心であり、離れた場所にある洗濯機で洗濯が終わると、キッチンにある冷蔵庫がそれを教えてくれるといった使い方などが可能になっていた。現時点で、11カテゴリー416機種が、AIoTプラットフォームに接続可能であり、2020年度末には、500機種以上に接続する予定だ。

「2019年10月に、経済産業省による『生活空間におけるサイバー/フィジカル融合促進事業費補助金』に基づいて実施されたLIFE UPプロモーションに参加し、液晶テレビなどのキャンペーン対象機種では、ネットへの平均接続率は2020年3月時点で約70%に達し、2019年9月に比べて、30%も上昇した。液晶テレビAQUOSやヘルシオ ホットクックでは、7割以上のネット接続率となっており、ヘルシオや冷蔵庫でも5割程度のネット接続率となっている。エアコンや空気清浄機もネット接続台数が増加している」という。

また、2019年10月からは、LIFE UPプロモーションと連動する形で、KDDIやセコムとの連携を開始。両社が提供するサービスの契約者の家に設置されているシャープのAIoT家電のデータを使って、留守宅の子どもや離れて暮らす家族の状況を見守るサービスを開始していた。

「AIoTプラットフォームはオープン戦略を推進しており、各種機器メーカーとの連携によって、アプリを通じて、複数機器を一括で操作することが可能になる。また、サービス事業者とは、各種サービスとの連携、マーケットプレイスの提供などが可能になる。さらに、AIoTプラットフォームに収集したデータを蓄積/分析することで、様々なサービスを開始したり、利用者の生活の質を高めたりできる」とする。

シームレスなプラットフォーム連携と、セキュリティの確保

今回の他社連携においては、いくつかのポイントがある。

1つは、AIoTプラットフォームの特徴であるコネクテッド・プラットフォームズ(相互接続)の技術を活用することで、他社連携を実現しているという点だ。

多くのサービスの場合、巨大な単一プラットフォーム上に、サービスや機器を接続する方式を採用するが、AIoTプラットフォームでは、事業者ごとに保有し、運用しているプラットフォームを相互に接続する考え方を採用している。

これは、経済産業省が打ち出すスマートライフ政策が目指す方向性と合致した取り組みであり、Web APIを用いることで、独自に構築されたクラウド同士でも容易にやり取りを行なうことを目指している。各社の機器とプラットフォーム、サービスが相互に連携して、生活課題を解決することになる。

AIoTクラウド AIoTプラットフォーム事業部の松本融副事業部長は、「機器とサービスと生活者をつなぐことが大切である。これが、将来のスマートライフ市場の基盤となる。つながる機器やつながるサービスが、自発的に増殖し相互連携することで、お客様の課題解決につながるスマートライフサービスを提供する仕組みを広げたい」と語る。

今回の連携も、AIoTプラットフォームと、大阪ガス、ノーリツ、リンナイが持つプラットフォームの相互連携によって、サービスを提供する仕組みとなっている。

各社のプラットフォーム間で連携

2つめが、各社ごとに用意されたIDを接合できる点だ。

各社が持つIDを相互に接合することで、他社の機器やサービスをつなげて、ストレスなく利用できるようになる。

ここでは、シャープおよびAIoTクラウドが開発した連携UIを活用。ユーザーは、ガイダンスに従って操作すれば、各社のIDをわかりやすく連携させることができる。さらに、事業者にとっては、その操作のなかで、機器データの利用許諾の説明と承認を得ることができるというメリットもある。

この仕組みは、業界団体である一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の「クラウド連携によるスマートライフサービス提供に関する標準モデル」として推奨されており、今後広く活用されることになる。

「サービスがシームレスにつながることに加えて、お客様の許諾を得て、機器データをサービス事業者に提供することができるようになる」とする。

そして、最大のポイントともいえるのが、プラットフォーム連携においては、データセキュリティを確保しながら、データの必要な部分だけをやり取りできるAPIを用意している点だ。これにより、個人情報に関わる部分を取り除いた生活データを相互に提供し、各種サービスに利用するといった使い方も可能になる。

シャープおよびAIoTクラウドでは、収集したデータをサービスに利用できるようにすることを「高次化」と表現しており、これまでの家電の利用データだけでなく、ガス機器の運転データも収集し、他のサービス事業者が活用できるようになる。

今回の連携によって、シャープのエアコン制御情報、空気清浄機をもとにした部屋のきれい度合、ヘルシオなどの調理家電による調理履歴情報に加えて、大阪ガスやノーリツ、リンナイのガス機器から得られる湯はり情報、入浴検知情報、ふろ温度情報などが組み合わせて利用できるようになる。

「例えば、ガス機器とエアコンを連携させ、入浴後の室温を自動的に調整するサービスなどが実現できる。熱い風呂が好きな人が、入浴後、エアコンが効きすぎた部屋に入ると身体への負担が大きい。ユーザーの好みや生活スタイルを学習して、エアコンの温度を調整するといったサービスが可能になる。社会課題の解決や安心、快適な暮らしにつながる新たなサービスの創出にながる」とする。

データを活用して、利用者の環境や状況を把握したサービスが可能になるというわけだ。

つまり、今回の他社連携は、単にスマホから機器操作を行ない、見守りをするといった用途に留まらず、機器連携によって得られるデータをもとにした新たなサービスを創出するための地盤づくりといった狙いの方が大きいといえる。

これは、他社連携がさらに広がることで、大きく進化することになる。

自宅時間の見直しに合わせ、スマートライフ化の加速へ

今回の発表は、機器メーカーや電力会社、ガス会社とのパートナーシップだったが、今後は、流通事業者やネットサービス事業者、生活サービス事業者、通信キャリアや広告代理店、住宅設備メーカーなどとの連携も図っていく考えだ。同社では、2020年度中に50社との連携を目指しており、幅広い業種の企業を交えた連携基盤を早期に作り上げる考えだ。

「様々な企業との連携によって、データをさらに高次化でき、サービス事業者がこれを利用できる環境が整う。快適な暮らしのサービスや快適な眠りのサービス、食事の改善サービスなどにもつなげることができるだろう。生活データをもとに、生活者の課題を理解した上で、サービス事業が得意なサービスをパッケージにして、サービスを提供できるようになる」とする。そして「いよいよ仕組みはできた。今後はどのようなサービスの創出につなげるかが課題になる」とも語る。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、外出自粛や在宅勤務が広がり、生活様式は、今後大きく変わると予測されている。

「これまでに比べて、家にいる時間が長くなる。自炊をする機会が増えたり、宅配サービスを利用するケースが増えたりといったことに加え、健康に対する関心も高まっている。シャープの家電やテレビ、PCなどを通じて、各種サービスを利用したり、快適な住環境を実現するための制御を行なったり、健康に生活したりするためのアドバイスを得るといったこともできるだろう。新たな生活様式にあわせたスマートライフを提供したい」と語る。

AIoTクラウドでは、目指すスマートライフの姿として、「モノとサービスとヒトをつなげ、社会課題や生活課題を解決し、安心・快適・充実をもたらす」ことを掲げている。

今回のAIoTプラットフォームの他社連携は、スマホを通じた機器の連携操作という観点で捉えるのではなく、プラットフォームを利用したデータの高次化や、スマートライフを実現する新たなサービスを、業界横断型で創出する狙いがあるという観点から捉えれば、重要な一歩であることがわかるだろう。