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今や無線・有線LANからPLCも内蔵し、地震や雷からも家を守る「分電盤」の製造現場に潜入!
2019年9月27日 00:00
分電盤やブレーカーというと何を思い浮かべるだろう?
・炊飯器と電子レンジと湯沸かし器を同時に使うと落ちるヤツ
・「誰だ!」と犯人探しすると、暖房機器たくさんつけてドライヤーしている娘
・風呂場の脱衣所や納戸の暗いところにあるから真っ暗の中の復旧が怖い
・ブレーカーを上げるときバン! とショートしそうで怖い
まあ、こんな感じであまりいいイメージがない。少なくとも「分電盤、最高だぜ!」という意見はまずない。あればとっくに「マツコの知らない世界」に呼ばれているはずだ。
そんな、生まれながらにして不遇を運命を背負う分電盤だが、最近は家の中心を担う重要な装置として見直されつつある。昔の分電盤は、いくつも並んだ黒いブレーカーがむき出しの状態だったが、最近は白が主流でカバーもつけられている。
設置場所もこれまで目立たないところに設置されていたものが、玄関近くや廊下に設置され、暗くジメジメとした印象は払拭されている。
こうして黒き「ようかん」ブレーカーが何個も収められたデカい分電版は、白く小さい「萌え」分電盤としてメタモルフォーゼしていたのだ。
そんな日本の分電盤事情を、電気の黎明期から支えてきたのがパナソニックだ。以前「100年前の製品を、いまだに年間10万個も売るパナソニック」で日本のコンセントと壁スイッチを支えてきた同社の歴史を見ていただいたが、我が家の電気の玄関「分電盤」もまたパナソニックが支えてきた。
そのシェアなんと80%(金額ベース)ほどでダントツの1位。もっと細かく「住宅用の分電盤」で見てもおよそ70%で1位だ。シェアの圧倒的な強さは、家族が電気を安心・安全に使えるブレーカーをはじめ様々な安全装置を用意していることや、未来を見据えたスマートホーム(家電や家が電子的にリンクされ自動化された家)にも対応していることからもわかる。
白いスリムタイプのブレーカーになってから、配線時間は大幅に短縮・簡略化されている。なんたって、電気工事するのにドライバーがいらないぐらいなのだ。接着剤不要のガンダムのプラモデルよろしく、必要なブレーカーを配電盤にカチっ! と差し込んで、部屋に行く電線をブレーカーの穴に差し込むだけ。電気工事士の技能試験は何のタメ? というぐらい簡単になっている。
そんな国内向けの分電盤と各種ブレーカー、安全装置、IoT対応モジュールを一手に設計・開発・生産しているのが、愛知県瀬戸市にあるパナソニック スイッチギアシステムズ株式会社だ。パナソニックの前身、松下電器産業の創業間もないころから瀬戸に根を下ろしているという。
大阪発祥のパナソニックがなぜ愛知、しかも岐阜に近い辺境へ?
松下電器の創業は大阪(1918年)。しかし瀬戸は愛知のなかでも岐阜に近い(笑)。なぜこんな不便な場所(失礼!)に工場を建てたか(1935年)不思議に思うだろう。しかし答えを聞いて納得。
ブレーカーなど大電流を流す電気部品は、絶縁が重要。電気の通る部分と人が操作する部分は、しっかり絶縁しないと感電してしまうからだ。今でこそ、コンセントもスイッチもブレーカーも樹脂でできている。しかし1935年(昭和10年)当時は、おじいちゃんやおっさんには懐かしいセルロイド樹脂ぐらいしかない。でもコイツは燃えやすいので、電気製品には不向きなのだ。
結局、安全でまともに絶縁できるのは陶器しかなかった。つまりブレーカー(ヒューズ)は作れても、それを収める絶縁ケースを作れる陶器を用意しなければならなかったので、当時から陶器産業の盛んな愛知県瀬戸市にブレーカーが根付いたのだ。
陶器の絶縁性は高く、高圧送電線の電線と鉄塔の間にも白いガイシという陶器が使われている。小さくて見えネーよ! という方は、通勤途中で電車の架線(電気を取る線)を見てみると、必ず白い陶器が使われている。非電化区間にお住いの方は、以下省略。
地震による通電火災から家族を守る「感震ブレーカー」
最新の分電盤のトレンドと言えば「地震感知式遮断機」、通称「感震ブレーカー」だ。1995年に発生した阪神・淡路大震災では、発生した火災の6割が電気による「通電火災」だったという。
つまり地震で家や家具が倒壊し、それに踏まれたり引っ張られた電線は痛んでしまう。地震発生直後は停電しているので電線が傷んでいても問題ないが、復旧した瞬間、傷んだ電線同士がショートしたり、発熱するなどして発火するというものだ。これを境に停電が発生した災害時には「避難所に逃げるなどで家を空ける場合は、必ずブレーカーを切ってください」と放送するようになった。
災害時はやることがたくさんある。注意すること山積だ。報道で繰り返し言われなければ、ブレーカーを落として外出なんてできるもんじゃない。そこで地震が起きた時点で、自動的にブレーカーを落としてしまうのが「感電ブレーカー」だ。
感震ブレーカーは、震度5以上の地震を感知すると、自動的にブレーカーを落とすというものだ。揺れを検知してもすぐに落とさず、パソコンのデータを退避する猶予時間を持たせているものもある。
まだまだ普及率は低く1%に満たないという状況。これを鑑みて、政府は2025年を目標に25%の設置率を目指し、地方自治体によっては補助金なども用意している。
なお感震ブレーカーは、従来の大きな黒いブレーカータイプの分電盤にも後付けできるので、少しでも興味を持ったら近所の電気屋さんに相談するといだろう。感震ブレーカーは、家族みんなと家を火災から守ってくれる。
落雷から家族と家電を守るには?
地震とくれば次は「雷」。梅雨や秋など台風シーズンは、パソコンユーザーを震え上がらせる。なぜなら落雷でデータが消失したらヤバいから。
その予防として、雷サージ(吸収)対応テーブルタップなるものが売られている。サージ吸収とは、急激に高電圧がかかった場合に瞬時にタップのスイッチをOFFにして、パソコンなどの機器を守るという機能だ。タップによっては、1回落雷を受けてしまうと使えなくなる使い捨てタイプが主流だが、ブレーカーのように復旧スイッチで元に戻し何度も使えるタイプもある。
ただ厄介なのは、落雷が家を直撃した場合。この場合は、たとえスイッチを切ろうとも雷は空間を通じて電気を流してしまうので、パソコンはお陀仏。とはいえ直撃する可能性は、かなり低いといっていい。少なくとも家に雷が落ちたという人に会ったことがない。
むしろ厄介なのは、向こう三軒両隣など含めたご近所に落ちた場合。各お宅を結ぶ電柱や電線に雷が落ちた場合だ。雷はその区画一帯の家に流れ込んでいくので、直撃はしなくても雷被害にあう。
しかも電線を伝って、何軒も同時に被害を受けるので、被害に会う確率も高くなるのだ。なお雷サージの詳細については、「雷ガードタップって何? しっかり解説しちゃうぞ!」を参照して欲しい。
こんな時にサージ吸収タップは有効だが、最近の家電はコンピュータが組み込まれているので、データ破壊はパソコンだけではない。HDDレコーダがいい例だろう。なにより高価な80インチの有機ELテレビがぶっ壊れたらかなりショックだ。
これらの家電ごときにサージ吸収テーブルタップを使うのもありだが、あまりにも非効率で不経済。そんなときは、電気の玄関である分電盤に「避雷器」をつければいい。
テーブルタップ同様、雷の直撃に対しては無効だが、それ以外なら家の機器をまとめて雷から守ってくれる。しかも使い捨てではなく、スイッチで復旧できるタイプなのでランニングコストもかからない。避雷器は、人だけでなく機器も守ってくれる。
停電から家族を守る・暗闇で家族を照らす
普段当たり前のように使っている照明機器。でも停電になると、夜は真っ暗闇で食事ができなくなり、当たり前のように行っていた夜のトイレが困難になる。停電でテレビが見られなくなったり、家電が使えなくなったりするのも厳しいが、一番厳しいのが明かりだ。
特に自然災害による突然の停電。記憶に新しいのは、千葉県の大規模停電だろう。復旧に10日以上も要している。昼間の停電ならいざ知らず、夜の停電は人の命にかかわりかねない。
割れたガラス破片や倒壊した家具、棚から落ちたもので足元は散乱し、歩くのが困難になる。下手をすれば、転んで頭を打ってしまったり、ケガをすることもあるだろう。
そんなときに便利なのが、停電すると自動的に足元灯がつくライトだ。要は単3電池1本で光るLED懐中電灯なのだが、コンセントに差し込んで固定することができ、停電を検知して自動的に懐中電灯のスイッチをONにするものだ。
「なーんだそれだけかよ」と思われるかもしれないが、停電で真っ暗闇の中で階段を昇り降りするのに、どれだけ苦労するかを考えたら、なかなかのアイディアだろう。「階段なんて薄っすら見えるし」という人もいるかもしれない。それは街灯や近所から漏れてくる光があるからだ。
キャンプをやる人はおわかりだろうが、月がなければ夜は本当に真っ暗な世界なのだ。階段や避難経路になる玄関までの廊下には必須、リビングにも1つ設置するといいだろう。
もし太陽光発電を導入している住宅なら、昼間太陽光で発電した電気をバッテリーに蓄電しておけば、停電時などのいざという時にバッテリーから電気を供給できる。
停電になると瞬時にバッテリー運用に切り替わるので、数時間~数日分(バッテリー容量や使用量による)の電力を確保できる。また電気が復旧すると自動的に電柱からの電源に切り替える。
もちろんこのシステムの基盤を支えるのは分電盤。停電でも家族を明るく安全・安心に見守ってくれる。
IoT住宅の根幹を支える技術もすでに製品化済み
最近よく耳にする「スマートホーム」。セキュリティの自動化や、シャッターの開閉、照明のON/OFFなどを、音声で命令したりスマホを使って操作できる住宅だ。もちろん分電盤もスマートホームに対応する装置を内蔵し、家を収集管理できるようになっている。
共働き世帯なら、学校から帰ってお留守番している子供の様子を出先から見られるだけでなく、きちんと施錠できているか? 不審な訪問者が訪ねてきていないか? というセキュリティー面でも効果的だ。
なお分電盤から遠いWi-Fi機器は通信できなくなる可能性もあるので、パナソニックでは分電盤のユニットに有線LANコネクタも備えている。
フルオートメーションによる高信頼性と手軽な価格を両立
さて、ここからは瀬戸工場の中をご紹介しよう。パナソニックの分電盤やブレーカーはすべて瀬戸工場で生産されている。ともすれば人件費の安い中国で生産するところだが、材料から部品への加工から、部品の組み立てまですべてフルオートメーション化することで、安価なブレーカーを提供できるようになっている。
その生産数、1.1秒に1個。手作業による精度のバラツキを完全排除し、各工程ごとの検査で以降の工程の品質を担保し、最終的な製品では全量検査を行ない、高い品質と精度を保持している。
また1つの製品は同じフロアで製造検査することで、万が一異常があった場合でもすぐに対応できる。ラインをすぐに止め、不良品が混入しないようになっているということだ。
フルオートメーションで製造されたブレーカーは、最後に個別の住宅用にユニット化する作業がある。家で契約する何十アンペアというメインブレーカーと、各部屋ごとのブレーカーをセットにする作業だ。
各住宅用に向けての製造となるため、ここは1人が1つの製品を担当するセル生産方式となっている。そのため注文通りに正しく製造し、かつ作業員による品質のバラツキを抑えるために、タブレットパソコンを使った独自のシステムが構築されていた。
まずはタブレットに製造すべき製品の情報が転送される。タブレットを持って部品のピックアップ棚に向かうと、必要な部品がタブレットで指示されるので、指示通り部品をピックアップする。
最後は組み立てブースに向かい、組み立ての手順やチェックリストをタップして、作業漏れがないようにしている。
なお個々の部品の組み立て方については、タブレットとは別のコンピュータに表示される。これにより作業者の習熟度が均一化され、品質を担保できるというワケだ。
こうして作られた分電盤は、国内のハウスメーカー各社に納品され、個々の住宅に取り付けられ、家族の安心・安全を担保している。なお見学させていただいたのは、国内向けの製品。しかしパナソニックは世界各国にブレーカーを提供している。
しかし各国のごとの事情などがあるため、地産地消が原則。つまり各国の工場で作られているという。そんな努力もあって、日本以外の国でもシェアを拡大している。パナソニックは、各国でそれぞれのナショナルになっているのだ!
ビルにある「EPS」と書かれたドアの奥にあるものとは!?
パナソニックが製造する分電盤は、一般家庭向けのものだけでなく、大規模なオフィスビルや、中小のビル向けもある。よくビルのトイレ近くや非常階段近くに行くと、「EPS」と書かれたドアがあるのを見たことがあるだろう。
「Eliectric Pipe Shaft」の略で、上下階にメインの電力線などを通し、分電盤が収められているスペースだ。EPSは各階にありそれぞれの階の分電盤が収められているというワケ。
商業施設だと店舗の入れ替えやリニューアルなどが行なわれると、それに合わせて分電盤の工事をして必要な電力を各店舗に供給するようになっている。またビルを総合管理するために、電力線をLANのケーブルとして使うPLCなども利用されていた。詳細については「コンセントに挿すだけでネットにつながる! 家電のIoT化で蘇るPLC不死鳥伝説!」を参照して欲しい。
なかでも面白いのは、オフィス向けの分電盤とそのオプション機器。定時退社日を設定しておくと、指定日時に強制的に照明の電気が消える。照明の壁スイッチを操作しても照明はつかないので、抜け駆けして残業することもできないという、人によっては恐ろしいシステムだ。
さらに誰もいない部屋の電気がついている場合は、自動的に消灯せず、電気がついている旨をアナウンスして、省エネ意識を高めるということもできる。もちろん人がいなければ自動的に電源を消すことも可能だ。
また消費電力のデータを記録したり、電力をリアルタイムでネットに送信できるので、配線計画を立てたり、部署ごとの電気代を細かく算出したりといったことも可能になる。
ビル用の分電盤も一般家庭用の分電盤と同様に、ドライバを使わなくても配線工事ができるので、電気工事のランニングも安くすむのでいいことだらけという。
ショールームには、いろいろな展示がされていたが、400Aのブレーカーなど、見たことないものもたくさんあった。また、電力メーターがダサイという人向けに電力メーターカバーなども用意されている。
新築住宅で風呂やトイレの色を決めるのと同じように、分電盤の機能も注文したい
これまで家庭で使われる分電盤の選定は設計士任せだった。しかしこれからは、トイレやお風呂のように、メーカーや色、カランの形などを選ぶのと同様、施工主が積極的に分電盤に組み込みたい機能をオーダーしていきたい。地震大国の日本だけに、感震ブレーカーはマストアイテム。高価な家電も多くなっているので、避雷器もほしいところだ。
もちろんスマート住宅にしたい場合は、その要となるのが分電盤。さらに電気自動車を所有していたり、将来電気自動車を購入するという場合は、電気自動車を従来の半分の時間で充電できる高速チャージャー対応のオプションも用意されている。
パナソニック スイッチギアシステムズのモットーは、「未来のあたりまえを、いま創る」。100年前ほどから電材を作っている老舗だが、未来の住宅やビルのビジョンをハッキリ見据えた最先端の会社だ。