藤山哲人の実践! 家電ラボ

100年前の製品を、いまだに年間10万個も売るパナソニック

100年前の製品を、いまだに年間10万個も売るパナソニック

 世の中には空気みたいな存在が多々ある。家族や恋人、スマホにインターネット、動いてて当然の交通機関やWi-Fiなどなど。水道、ガス、電気もライフラインと呼ばれるほど、空気みたいな存在だ。

 実は家電(?)の中にも空気みたいなヤツがいる。いつも使っているのに、何も気にならないもの。それは壁のスイッチとコンセントだ。「いつも気にして使ってるから」と反論する方には、ボクから質問! アナタの壁コンセントやスイッチのメーカーは?

 この質問に答えられる方は、ほとんどいないだろう。

毎日何気なく使っているコンセントやスイッチ。そのメーカーをご存知ですか?

 でも、お宅の壁コンセントはきっとパナソニック製。

 なぜならパナソニック製の壁コンセントは、デザイン豊富で施工も簡単、めったに壊れず使いやすくて、価格も安い。つまり、ほかに選択肢がないほどパナソニックの独擅場となっているからだ。

 今回は、毎日屋内配線をしている電気工事士でも「マジかよ!」的な、スイッチとコンセントの生産ラインとその歴史をご紹介しよう!

パナソニック津工場。スイッチとコンセントの生産ライン

100年前の製品が未だに現役!? どころか年間10万個の売れ筋!

 パナソニックは創設100年になる。驚くのは100年前に開発した製品を今でも売っているということだ。しかも当時とほとんど同じものをだ。それが数種類あるってのが驚き、いや脅威すら感じる。

 その製品は「セパラボディ」……正式名称は「セパラブル・プラグボディ」という。

お祭りの屋台で、電球ソケットからコンセントを取れる変換ソケット。発売当初はコンセントそのものがなかったので、直に電線を配線するようになっていた

 馴染みのない製品だが、お祭りの縁日で屋台が電球ソケットからコンセントを取っているのを見たことがないだろうか? パナソニックが1918年(大正7年) に、これの前身にあたる「アタッチメントプラグ」を開発・販売したのが始まりだ。

1918年にパナソニックが産声を上げたのは、「アタッチメントプラグ」から。当時の社名は松下電気器具製作所

 現在販売中のセパラボディとアタッチメントプラグは、電球ソケットにねじ込むところは一緒。だが電線の差し込みが、現在はコンセントのメスに、大正時代はコンセントの規格がなかったので、電線をネジで固定するというものだった。

「電気コタツ」というより「アンカ」に近い。機器から伸びる電線を電球ソケットにつないで電気を取っていた(出典:パナソニックミュージアムの展示品より)

 当時は明治時代のガス灯から、ようやく電球に変わろうとしていた過渡期。電気は電球で明かりを取るためのもので、コンセントというものはなかった。各家庭に届く電気は、電球用の電線が1本通るというものだったのだ。

大正時代の電気はこんな感じで各家庭の居間の電球用に来ていた。ディズニーランドのウェスタンランドでも古さを演出するのに、写真と同じ「ガイシ」というものを使った配線をしてある

 ようやく扇風機などの家電が登場するも、家にあるのは電球のネジ式ソケット1つ。夜に明かりをとろうとすれば扇風機が使えず、涼を取ろうとすれば電球が使えず不便をした。なぜなら当時の電気の契約は、「一戸一灯契約」というもの。1カ月の定額料金で、1世帯で1個の電球を使ってもいいですよ! という料金体系だったのだ。

 そこで登場したのがパナソニックの「2灯用差し込みプラグ(クラスター)」。電球ソケットにねじ込むと、電球ソケットを2つに分けられるのがクラスター。先のアタッチメントを使うと、電球で明かりを取りながら、扇風機が使える夢の生活ができた。一方差し込みプラグは、アタッチメントなしでもソケットの横から電気を取れるようにしたものだ。

同じく1918年に発売された2灯差し込みプラグ。電球ソケットに差し込むと、横から扇風機用の電気を取って、下には電球がつけられる。今でいう2股コンセント
電球ソケットをぶどうの房(クラスター) のように分ける、2灯や3灯のクラスターも

 そんなわけでいずれの製品も大ヒット。しかもパナソニック製は他社に比べ3〜5割も安いのに、製品の性能が良いとあって、会社は急成長するのだった。以降も色々な電球ソケットを開発し、中にはいまでも販売されているものもある。

手元のヒモで電球をON/OFFできる「3号国民ソケット」
現在販売中の「3号国民ソケット」。DIY店でこの名前を言えば、ちゃんと買えるからスゴイ! 1個700円程度
現在発売中の2股クラスター。お値段400円程度
差し込みプラグがコンセントになって3灯になったもの。もちろん絶賛発売中で1個400円ぐらい

 こうしてパナソニックは、家庭用の電気と、黎明期から現在までの100年間を一緒に歩み、電気の普及とともに安くて便利な配線用の部品を作ってきたのだ。もちろんさまざまな家電製品も開発してきたが、まさに裏方の縁の下の力持ち的な存在だったことも忘れてはならないだろう。

あなたのお家の壁コンセントはどのタイプ?

 配線機器は、時代とともに変化していく。中にはパナソニックが開発したものが、そのままJIS規格に採用されるなどして、広く普及したものもあり、その尽力は計り知れない。

田舎のじいちゃんやばあちゃんの家でたまーにみかける、クリーム色の壁コンセントやスイッチ。一番右側は他メーカーのものだが、パナソニック製の同一デザインがある
このコンセントが残っている家庭も結構あるのでは? 1971年製(出典:パナソニックミュージアムの展示品から)
このスイッチは多くの家庭で使われているタイプ。現行モデル
大型スイッチも最近お宅ではよく見かける
最新のアドバンスシリーズは、ネットリンクやセンサーなどが内蔵されより賢いスイッチになった

 これらのコンセントやスイッチは埋め込み型と呼ばれるもので、壁に穴を開け「埋め込む」タイプ。壁との一体感があるので、一番多く使われるタイプだ。

 もう1つは露出タイプと呼ばれるもので、家を建築したあとでコンセントを増設する場合などに使われるタイプ。コンセントの電源をON・OFFする露出スイッチがついている場合もあるだろう。

戦後まもなくの頃には、後から電気を配線していたので、露出型のコンセントやスイッチがよく見られた
エアコン用のコンセントを増設したりすると、現在も露出型をつけてくれる場合も。昔よりだいぶ薄型になっている

 パナソニックは、津工場でこれらの製品を製造しており、国内シェアの80%を握っている。が、筆者が思うにはDIYショップの配線コーナーに行くと (学生時代に取得した電気工事士の資格があるので、簡単な屋内配線工事なら自分でやっちゃう) 、埋め込みタイプはパナソニック一色で選択の余地はないので、埋め込みに限るとほぼ100%という感じだろう。

 なぜなら安いのに壊れず、安全な部品だから。しかも埋め込めるコンセントやアンテナ線などの機器の種類がハンパないので、とにかく便利なのだ。さらにすごいのは、その互換性。昭和時代のコンセントを現在のものに使っても、壁の穴がそのまま利用でき、施工も数分で終わってしまうほど簡単なのだ。

安さの秘密は自動化された生産ラインと曲げ機と成型機

 単純そうに見える壁コンセントだが、分解すると意外に部品点数があってちょっと驚き。いつも見慣れた差込口の樹脂、それを支える鉄製のフレーム、コンセントの刃を受け止め電気を流す銅、普段はまったく見ることのできないコンセント裏側の樹脂に、配線を差し込む部分に、配線のロック機構などさまざまだ。

三重県にあるパナソニックの津工場。家庭用の配線機器のほとんどを、ここで生産している
2つ口のコンセントを分解したところ。スイッチはもっと複雑で細かい部品がある

 これらの部品はすべて津工場で作られる。完成したコンセントの価格は、1個数百円、ヘタをすると1個が数十円という機器すらあるので、すべて中国製なのかと思いきやMade in Japanなのだ!

製品自体が小さいので、工場の規模はそれほど大きくない
見たところ最終組み立てラインは、1製品でせいぜい体育館の半分ほどという感じだった

 そこまでコストを抑えられるのは、ほぼフルオートの生産ラインだから。大量生産することで、高品質で高い信頼性の製品を安く提供できるようだ。

コンセントやスイッチに使われる金属部品の数々

 まずは金属製の部品から見ていこう。ほとんどの金属部品は「抜き」と「曲げ」の工程から作られる。抜きは金属から部品の形打ち抜くこと。ノコやレーザーでカットしていては時間がかかるので、プレス機を使って同じ形に部品をどんどん打ち抜く。要はダンボールと同じで、展開図を作ってその形どおりに抜くというわけだ。

テープ状の金属を少しずつ「抜き」と「曲げ」を繰り返し、部品の形にしていく
テープ状の金属をプレス機に送り込んでいく
抜きと曲げ加工を終えてバラバラと部品ができる。これをコンテナーに入れて金属部品の製造工程は終了

 次は曲げ工程。人が曲げ加工する場合は、色々持ち替えて曲げればいいが、機械を使う場合は単純化したり、曲げる順番を工夫して、複雑な形に仕上げていく。

抜きから曲げまで寸分たがわぬ部品ができるのは、しっかりメンテナンスされた金型があるこそ。ゴミひとつ、キズひとつない金型でなければならない

 加工の要は金型。1つの金型には、抜きや曲げの工程がいくつか作り込まれており、テープ状になった金属を少しずつ送り込んでは、プレス機で圧をかけ部品を作っていく。

 テープ状の金属にも色々あり、銅や真鍮をはじめ鉄やステンレス系のものまでさまざま扱っているようだった。

おそらく鉄系のリール
こちらは先にも紹介した銅
一般にはあまりなじみがないが、電気系の部品ではよく使われる真鍮

 中でも複雑な曲げ加工は、配線をロックするための金具だ。金属を折り畳むような加工が必要なので、プレス機では作れない。そこで複雑な形状の部品は、特殊な曲げ機をオリジナルで製作。完全機械化することで、生産効率とコストダウンを図っている。

電線の被服を向いて差し込むだけで通電し、電線が脱落しないパナソニック独自のロック機構。ドライバを使わずに結線できるので、施工時間も一瞬で、電気工事士に大好評
中央ピンクの帯が部材。いくつかの曲げツールを使い順番に加工していく
できあがった部品は、自動検査機のフルイにかけられ、正しい形に成型できたものだけがコンテナーに落ちるしくみになっている。ここで100%良品にして、次のラインに不良を送らないのだ

 いっぽう金属部品を収める外側のハウジング(ケース) は、樹脂で製造。加工には2つの方法があり、真空射出成型と圧縮成型を使っているという。大型スイッチのカバーなど熱の影響を受けにくい肉薄な部品は、樹脂を加熱して溶かしそれを型に流し込む(真空) 射出成型を使う。

大型スイッチのボタンカバーなどは射出成型する
熱の影響を受けたり難燃性が求められる部品は圧縮成型する
外から見ても分からないけど(笑い) 射出成型機
射出成型

 金属部品の土台となる緑色の部分やコンセント、従来型の小さいスイッチは圧縮成型する。型にペレットや粉末状の樹脂(ユリアという樹脂でラーメンのれんげやお皿に使うメラミンに近いもの)を入れ、オスとメスの金型で圧をかけることで硬化するというものだ。こられの樹脂は難燃性が高いうえ、肉厚でしっかりしたものが作れるのが特徴。

これも見た目に分からないけれど、圧縮成型機。成型された緑の部品は、アームで自動的にバリ取りに回される
成型機から出た直後は薄いバリ(餃子の羽みたいなヤツ) が出ているのでこれを自動的に削り落とす
コンテナーがいっぱいになると、自動搬送機で倉庫にストックされる。天井にも自動搬送機が設置されている

 これらの部品は自動搬送機などでいったん倉庫に入れられ、先入れ先出しで最終アッセンブリ工程に回る。

 最終アッセンブリもすべて自動化。部品搬送車で運ばれた部品は、ロボットアームでラインにセットされ、工程ごとにあるロボットが部品をセット、最終的に私たちが目にするふたの部分がかぶせられ、金属のプレートでカシメて固定されるのだ。接着剤や半田付けは一切なし。とにかくロボットが簡単に早く作れるように設計されているのも特徴だ。

倉庫から出てきたパーツをロボットアームで最終アッセンブリラインに乗せる
緑の土台に部品が乗せられ最後に白いカバーがされる。カバーは金属のプレートで横がM字に4箇所カシメられて完成
さらに自動の全量検査ラインを通り、合格品は見たことあるいつもの箱にロボットアームが詰めてくれる。小ロットのものは手作業で詰める場合もある
上手に箱を組み立てて、小箱を大きな箱に詰めていく
検査パッキング

 完成した製品は、数をまとめて小箱にパッキングされる。電気工事士の方はよくご存知の、青や緑のあの箱だ。小箱を組み立てるのもロボットで、そこに入れるのもまたロボット。最後は小箱を何十個かをセットにしてダンボールの大箱に入れる。

お国柄でも異なる世界コンセントの事情

 日本の住宅ならまずパナソニック製と思われる壁コンセントやスイッチ。いや、家だけでなく公共機関や会社や学校、そこかしこで使われているパナソニック製の配線器具。

 でも、まったく見たことのないパナソニック製のコンセントを紹介しよう! それが海外向けの製品だ。デザイン的に面白いものもあり、これ使いたいナー! と設計士や電気工事士の方は思うだろう。筆者もだ(笑い) 。が! 「国内では購入できない」ということだったので、ここでは写真のみを掲載しておこう。

トルコは四角いデザイン
中近東はモダンな感じ。トルコと同様に正方形
ASEANになると日本に近い感じ
形は同じだけど、台湾のコンセントは横向きにつける

厳選! 面白コンセント! こんなのつけてみたらどう?

 パナソニックのコンセントは、差し込みやスイッチだけでなく、センサーや面白機能を持つものがある。ここでは厳選した面白コンセントをご紹介しよう、

<<< USBコンセント

 喫茶店やビジネスホテルでよく見かけるようになったのが、壁コンセントや机のコンセントの脇に、USBの差し込みがあるタイプ。

 コンセント2個分サイズのUSBコンセントは、2A出力まで対応している。1個分サイズは、1.5Aまで。

 寝室のコンセントをこれに変えれば、USB ACアダプタ不要ですっきり。

寝室やキッチンのコンセントにすると便利

 また壁埋め込み式ではなく、露出タイプも。

露出型のUSBコンセント。フタを起すとそのままスマートフォン立てになる

<<< スワイプで明るさを調光

 押すごとに照明をON/OFFできる壁スイッチ。しかし照明をONにして、スイッチ部分を上下にスワイプ(指でなぞる)すると、明るさの調整ができるというもの。

 ダイヤル式はダサい! という場合は、リビングなどで使ってみては?

スワイプで調光できるLED照明対応のスイッチ

<<< 階段灯が自動でON/OFF

 上下階で階段灯をON/OFFできるスイッチ。それをセンサーで自動化したのがこれ。上階の階段に近づくと階段灯がON、下に降りると自動でOFFになるスイッチ。消し忘れがなくて便利。

階段につけるなら3線式。玄関などにつけるなら2線式も

<<< トイレまでの通路に自動点灯の常夜灯

 廊下の常夜灯は、夜間常につけていて電気代がもったいないという人には、人が近づいたときだけ点灯する常夜灯。寝室からトイレまでの廊下につけると便利。

上部にセンサーと常夜灯を備えており、人が近づくと常夜灯が光る。一番下はコンセントなので、廊下を掃除するときのコンセントとして

<<< 壁スイッチのパッドが取れてリモコンに!

 寝室にぜひつけたいのが、コレ。普段は普通の大型スイッチとして。寝る前には、壁スイッチのパッドを取り外すと、リモコンになるというもの。ベッドで本を読んでから寝るという人は、めちゃくちゃ重宝するはず。

普段は普通のスイッチとして。スイッチのカバーを取ると、それがそのままリモコンになる

<<< マグネット式コンセント

 廊下や通路など、人通りが多くコンセントから電気を取ると、コードに足を引っ掛けそうという場合にオススメ。コンセントがポットのコードのように磁石式になっているので、もしコードに足を引っ掛けても、スグに外れて安全。

上部がマグネット式になっていて、引っ張ればスグに外れる

<<< スイッチ裏の隠しコンセント

 通常は大型の壁スイッチ。しかしスイッチのパネルを開くとコンセントが使えるというもの。洗面所や台所など、ちょい使いの家電がある場所に。

見た目はスイッチ! フタを開けると、隠しコンセントになってる忍者スイッチ

創業者松下幸之助の血が色濃く残るパナソニックの工場

 100年前に始まったパナソニックの歴史。それは安くて安心して使える家庭内配線器具から始まった。ともすれば設計~製造をオール中国で価格を抑えがちな配線機器。しかし高度な自動化により、設計から製造まですべて国内、津に集約することで、中国製に負けない価格でかつ、性能や耐久性も犠牲にしないのがパナソニックの屋内配線機器だ。

高度な自動化により製造コストを抑えている
性能や耐久性はもちろん、価格でも中国製に負けない

 また家族みんなの使い勝手はもちろん、電気工事の施工のしやすさまで追求している点も、国内のほとんどの壁スイッチやコンセントがパナソニック製ということにつながっているだろう。

 電気工事士のみなさんも、今後はあの青や緑の箱を開けるたびに、機器を見る目が変わっていくはずだ。

スイッチの重さや押し込む深さなど、すべてデータ化して誰もが使いやすいスイッチを、バラツキなく製造している

 毎日何回、何十回も使う壁スイッチやコンセントだからこそ、使いやすいものを選びたい。以下のページをご覧になって、へー! こんなものがあるんだ! と、文房具を見る感覚で楽しんでもらいたい。
▼パナソニック 電設資材のカタログページ

 とはいえコンセントやスイッチの交換をするには、ハウスメーカーやビルダー、パナソニックのお店に相談するといいだろう。

※工事には電気工事士の資格が必要です。

藤山 哲人