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家電を安心・安全に使う「ブレーカー」。歴史と製造過程をパナソニック瀬戸工場で見た

古いアパートなどについている旧式のブレーカー。30Aぐらいしか取れなくて、エアコンと何かを使うと落ちて大変

昔の分電盤と言えば、黒く大きいサービスブレーカーに漏電遮断機、そしてビデオカメラのバッテリーサイズで黒い安全ブレーカーがズラリと並ぶものだった。

バブル時代に建てた家だとこんな感じ。ブレーカーがデカく、家電も多く入りコンセントが激増したので、巨大分電盤に!
ブレーカーのサイズを幅半分までコンパクトにした分電盤。回路数が多くても、幅が狭いのでコンパクト

しかし2000年から発売された「コンパクト21」シリーズは、これまでの分電盤のイメージを大きく変えた。基本カラーは白でサービスブレーカーや漏電遮断機はひとまわり小さくなり、有線や無線LAN機能がついたHEMS対応のものが出始めた。

これは東日本大震災以降で急激に普及した太陽光発電や電気自動車の充電器、そしてエコキュートなどをはじめとした省エネ機器の普及によるものが大きい。つまりパナソニックは、事業部間を越えたオールパナソニックで、取り組んでいるわけだ。

家の中のすべての家電がつながっているのが分電盤。パナソニックはコンセントから壁スイッチ、エコキュートに太陽光とさまざまな家電を作っているから、オールパナソニックで未来を作れる

今までの分電盤は、電柱まで来ている電力会社の電力を買って、家の中で消費するものだった。しかし省エネや太陽光発電や電気自動車の電池を一時的に家庭用のコンセントに使うなどにより、分電盤の内側でも発電され、また消費も分電盤内部で行なわれるようになった。さらには、余剰電力を電柱に戻して「電力を売る」ことまでできるようになった。

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こうして家の中で発電と消費ができるようになったため、現在の電気の流れがどのようになっているのか? をリアルタイムで把握できるように、また家の家電のすべてがつながる「ルート(根)」こそ「分電盤」なのだ。

100年間、家庭用電材を作り続けるパナソニック

パナソニックが家庭用の電材を作り始めたのは、今から100年前。松下幸之助が初めて事業化したが、アタッチメントプラグと呼ばれるもの。少し形は違うが、今でも販売されている電材部品だ。

1918年当時のアタッチメントプラグは、電球ソケットに電線をねじ止めして電源をとるもの。当時は壁コンセントなどはなく、一家に1つ電球用のソケットが来ていた
今販売されているアタッチメントプラグは、電球用のソケットから100Vのコンセントが取れる「セパラボディ」に進化している。おそらく皆さんも夏祭りの出店などで見たことがあるだろう

その後もパナソニック(旧松下電工)は、家庭用をはじめとした日本の電気というインフラ整備の旗振りをしてきた。のちに街は電化製品であふれかえってくると、家庭にもたくさんのコンセントや電気機器が導入されるようになり、安全で便利に使えるように、分電盤が導入されるようになる。

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昔は工場にあるようなナイフスイッチと陶器でカバーされたヒューズの分電盤だった!
今は分電盤もコンセントも壁スイッチもみんな樹脂製。しかも難燃性の樹脂で火災予防にも役立っている

今でこそ、分電盤も壁コンセントもプラスチック樹脂でできているが、当時は樹脂も成型技術もなかったため、電気を絶縁して安全にスイッチをON・OFFできるようにするために、陶器が使われた。

そう分電盤を作っているパナソニック スイッチギアシステムズの瀬戸工場こそ陶器の名産地「愛知県は瀬戸市」にある。陶磁器は「瀬戸物」と呼ばれるが、まさにこの地「瀬戸焼」が語源。

パナソニックは電気を絶縁できる瀬戸物の産地を拠点として、家庭用の電材を製造することになる。ここ瀬戸工場では分電盤をメインに、すぐ近くの三重県は津市の工場で壁コンセントなどの電材を作っている。

津は愛知県ではないが、壁コンセントなどの80%、分電盤の50%シェアを占めるパナソニックだけに、電材は自動車やきしめん、手羽先にならぶ名古屋の名産品なのだ。ちなみにシヤチハタとCoCo壱番屋カレーも名古屋だがや!

1950年代に使われた陶磁器製の分電盤などの部品
粘土を型枠に詰め
上部のハンドルを回して圧力をかけて成型。足元のべダルを踏んで方から取り出したようだ

実は分電盤にも家電と同じ寿命がある!交換メドは13~15年

家を建てたらまず交換することのない分電盤。しかし10年ほど前にJEMA(一般社団法人 日本電機工業会)がブレーカーの安全性のテストをしたところ、およそ15年で寿命が来るということが判明。とくに事業用として電気を使っている場合は、要注意と喚起を促している。

JEMAの刊行物で、警鐘されているブレーカーの経年劣化

たとえばホコリが多い場所に設置している場合。ブレーカー内部までホコリが浸透し、ブレーカーのスイッチが動かず遮断できなくなっていた。また虫の多いところも要注意だ。なんと配電盤の中にアリなどの昆虫が入り込んで漏電という事例もある。

工場や吹きさらしの場所にある分電盤は、特に注意が必要なので一度分電盤のフタをあけて確認してはいかがだろうか?

もしホコリや虫などの進入があった場合は、各地方の電気保安協会や電力会社、電気店などに相談してみるといいだろう。

安心もさらに充実!200Vコンセントの拡張も簡単なコンパクト21

コンパクト21シリーズは、単にサイズがコンパクトだけではない。電気の使い過ぎや漏電を防ぐのに加え、地震や雷などの災害からも家族を守る機能を持っている。

震度5以上の地震を検知してメインブレーカーを遮断する「感震ブレーカー」。既存のコンパクト21シリーズ分電盤に後付け可能

その1つが地震遮断機。阪神大震災の通電火災は60%、東日本大震災の火災も電気に起因するものが50%という調べがある。

通電火災とは、地震が起きて停電が発生しても、家庭のブレーカーが切れていないため、停電復旧したときに、痛んだ電線や機器に電気が流れ、火事になってしまうというものだ。一番怖いのは、家族がみな避難場所に逃げているときだ。

電気が通ったことも知らずにいると、家を帰ってみたら火事になってしまっていたなんてことになりかねない。

そんなとき活躍するのが、地震遮断機。地震になると自動的にサービスブレーカーを切るので、万が一自分でブレーカーを切り忘れても通電時に火災にならないというものだ。

落雷による急激な高電圧を検知してメインブレーカーを遮断する「避雷器」。既存のコンパクト21シリーズ分電盤に後付け可能

避雷器は、この時期に電気屋さんでテーブルタップ売り場をにぎわす「雷サージテーブルタップ」の分電盤バージョンだ。雷が落ちたことを検知すると、瞬時にメインブレーカーを遮断し落雷から家全体の電気機器を守るというもの。

自宅に雷が落ちる確率なんてたかが知れていると高をくくっていると痛い目に合う。雷サージは、少なくてもご町内のブロック、もしくは町内の家や電柱に雷が落ちると、その一帯がやられるというものだ。さらに停電になると、分電盤に明かりが点灯して場所と、復旧作業を楽にしてくれる機能などもある。

スマートハウスやHEMSに対応させるネットワークユニットなどもある

さらに電動シャッターや照明の類を遠隔で操作したり、時刻に合わせて制御するなども可能になる。

また近年は、200V仕様のエアコンなどが多くなり、電気自動車の充電用に200Vのコンセントを屋外に設置したいという要望も。さらにオール電化などで200Vの需要が高まりを見せている。

ボタンひとつで100Vと200Vの切り替え工事ができるブレーカー。旧ブレーカーのように渡り線をネジ止めしなくていいので、簡単で確実
増設工事も簡単になっている。電気工事士の強い味方!

そんなときにもコンパクト21は、手軽に200Vコンセントを増設したり100Vコンセントを200Vに変換したりできる。従来の黒い分電盤の場合は、ねじ止めされている渡りを100Vから200Vに変更するなどで、工事が面倒だった。

しかしコンパクト21は、切り替えスイッチひとつで工事も簡単。コンパクト21の分電盤に、新しいコンセントを増設するのはもちろん、分電盤がいっぱいでもサブの分電盤に拡張したり、旧来の分電盤から拡張することも可能だ。

100/200Vの切り替えは上部クランプのボタンを押すだけ。これで渡りが中性線(GND)から-100Vに切り替わるので簡単

安心と安全を安く提供できる秘密は完全自動化ライン

ブレーカーは人の命さえ左右しかねない機器。しかし多くの電化製品が家庭に導入され、コンセントや壁スイッチの数は増える一方。また個々の家電の大型化や電気自動車などで、ブレーカーにも大電力が通るようになっている。

そこで瀬戸工場では、安全・安心を「安く」届けるために、完全自動化したライン生産を行っている。なぜならいくら安心・安全でも、ブレーカー1個が数万円もする高価なものだったら、全く売れず。他社製品や海外製品にとって代わられるからだ。

ブレーカーの性能の要となるバイメタル(2枚の金属を張り合わせ、その膨張率の違いで温度によって反り返る)を熱処理して品質を安定・平均化させる工程
ケースの中にバイメタルや色々な端子を入れ、それぞれをカシメ(圧着)していく。大電流が流れるとバイメタルが熱を持ち、曲がることでロックが外れ電流を遮断する
ブレーカー製造過程

世界の事情を見ると、日本ほど高性能なブレーカーを製造する国はなく、アジアの国々では黒い旧式のブレーカーが主流のところもある。別にそれが時代遅れという訳ではない。

なぜなら日本ほど大電力を消費しないので、高速で遮断できない旧式ブレーカーでも問題ないというお国の事情もある。逆に言えば、日本ではスマート21のように高速で電力を遮断できないと、諸外国より大電力を消費しているので、大きな火災事故になりかねないだ。

諸外国ではまだまだ現役・主流の安全(HB)ブレーカー。海外にも分電盤を輸出するパナソニックは、HBブレーカーもまだ製造している。とはいえ諸外国でも日本と同じブレーカーが必要になるのも時間の問題

こうして一般的なブレーカーなら、1.1秒に1個製造できる能力を持つ。しかし安く作るだけでは、安全性に問題が残る。そこで瀬戸工場では、完全自動化の生産ラインに、全量検査の検査ラインも組み込んで、安全を担保しながら安さも実現している。

ツメがたくさんあるアームで、スイッチの動作チェック
個々の特性をチェックしたあと、遮断の肝となるバイメタルの位置調整を行う
瞬時に遮断できるかどうかの全量テスト

こうしてさまざまな全量検査を行ない、調整できるものはラインへフィードバック、調整できないものは不良としてはじく。とはいえ歩留まりは驚異的な99.7%を誇るのだ。つまり1,000個作って、不良は3つだけという計算。しかもその3つは自動でロットアウトとなるため、次の工程に回る部品は100%正常品だ。

新築住宅などに納品する分電盤は、セル生産になる。ディスプレイの下には、小さいタブレットがあり、すべてこの指示に従う

さらに分電盤の面白いところは、出荷されるときは「ブレーカー」という部品単位でなく、1個の分電盤として納めるところ。

そこで、完全自動化で製造したブレーカーは、すべて在庫としてストックされ、そのストックを手作業で分電盤に組み立てて出荷する。つまり分電盤自体は1人の作業員が、分電盤1個をすべて組み立てるセル生産なのだ。

タブレットの指示通りに部品をピックアップして、1つのケースに入れたら自分の作業スペースに戻り組み立てを始める

そこで作業員の習熟度のばらつきを抑え、だれが作業しても間違えなく、確実に、仕様通りの分電盤が生産できるように、コンピュータがアシストを行っている。

住宅1軒1軒のオーダーはすべてデータベース化され、作業員はタブレットにデータを受け取る。これをも元に、必要な部品をピックアップし、部品を所定の位置にセットして検査工程に回す。

かなり大邸宅のようで多数の回線(ブレーカー)を持つ。HEMSユニットも取り付けているので、太陽光発電や電気自動車を持つ家庭だろう

検査工程では、データベースの注文番号をもとに、オーダー通りの分電盤に組み立てられているかを。カメラで自動的に認識して検査を行う。こうして徹底的にヒューマンエラーの排除を行っている。

画像検査システム。組み立てた分電盤をカメラで読み取り、仕様どおりに組み立てられているかを検査する。見落としなどのヒューマンエラーを排除している

このように部品となるブレーカーは完全自動化の生産ラインと自動の全量検査を行ない安全性を担保し、分電盤はコンピュータによるアシストをしたセル生産とコンピュータによる画像検査で安全性を担保している。

驚くべきは分電盤の受注から出荷まで、完全受注生産ながらリードタイムは2日という驚異的な速さで出荷される点だ。受注数が違うといえカスタムできる通販(BTO)パソコンは1カ月以上もかかるというのに、もはや驚きの速さとしか言いようがない。

目に見えないところで家電を支えるのもパナソニック

僕らは最新の有機ELテレビや、美味しいごはんが炊ける炊飯器、便利なスマホばかりや賢い生活家電ばかりに目が行きがち。でもこれらの家電が安心・安全・便利に使えるのは、電柱~分電盤~各部屋のコンセントがあってこそ。

そこにも色々な人たちの努力や知恵が詰まっていて、その1社としてパナソニックスイッチギアシステムズという会社が電気のインフラを支えているなーんてことを覚えてくれると、また工場見学に呼んでもらえるので会社も僕らもWin-Win!だ。

コラム:ブレーカーのスケルトンモデルで中身丸見え!

なぜ簡単なスイッチで電気を遮断できるのかずっと不思議だったあなた! これですっきり解決!

(HB)安全ブレーカー
遮断時。左が左View、右が右View
「切」の文字側の接点が挙がっている。遮断用のばねが伸びている
通電時。左が左View、右が右View
「入」と反対側に接点が微妙に見える。バイメタルがどうやってスイッチをロックしてるか、ちょっと見えない! 残念
バイメタルが温度で温まり曲がることで、ラッチ用の金具を押し、ロックが外れて遮断できる。ん~素晴らしい構造!(出典:パナソニックのホームページ)。バイメタルの力だけでラッチを外せない場合は、バイメタルで電磁石のスイッチを入れ、磁力でラッチを外すタイプもある(工業用)
2P1Eタイプ:100V専用のブレーカー
遮断時:接点と反対側がメインブレーカーにつながる母線上から中性線(GND)、-100V(NC)、+100V
通電時:中央にあるより線部分がバイメタル
2PE1タイプ
2P2Eタイプ:100/200V切り替え可能ブレーカー
遮断時:2つの接点はハウジングで分離されている。接点と反対側が母線側。写真ではGNDと+100Vにつながっているが、ボタンを押すとGNDのコネクタが中央に下りて、-100と+100Vにつながり、200Vコンセントになる
通電磁;100V固定の2P1Eに比べると、電圧切替機構と絶縁性を高めているところで、非常に複雑
2P2Eタイプ