藤本健のソーラーリポート

水素の活用で再生可能エネルギー100%化は実現する? 初の実験をパナソニック工場で見た

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
パナソニック草津工場での実証実験を見てきた

企業が事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うための国際的な取り組み「RE100」。これを実現する上で、工場で使用する電力を太陽光発電などで賄えるようにするのは大きなカギとなる。

とはいえ、太陽光発電だけだと雨の日や夜間などに使えないし、蓄電池を組み合わせるだけだととてつもない大規模なものになってしまい、採算が合わない。そこで水素を使った燃料電池を組み合わせるという手法が、工場での再生可能エネルギー100%化における一つのキーになりそうだ。

それを実現すべく実証実験を4月15日にパナソニックが滋賀県草津市にある燃料電池草津工場でスタートさせた。実際どんな施設なのか、本当に工場で安定した電力を使うことができるのかなどについて、実証実験スタートのタイミングで施設を見学してきたのでレポートしたい。

水素の活用で再生エネルギー100%化を実現する

日本では2050年のカーボンニュートラルを目指して動き出しており、個人にも企業にも行政にもどうやってCO2排出を減らしていくかが、強く求められている。経済産業省の資料によると2019年の日本でのCO2排出量は11.1億トンとのことで、その1/3がエネルギー転換部門、つまり発電所が排出しているもの。

それに次ぐのが産業部門でありその多くが工場からの排出。つまりいかにして工場で使うエネルギーを再生可能エネルギーのものに置き換えていくかが重要になってくるわけだが、まだその道筋がしっかりできていないのが実情だ。

将来的には再生可能エネルギーで賄うようにすることが義務化されるとか、炭素税の導入など、さまざまな施策が取られていく可能性が高いと思われる。しかし、どうすればこれを実現できるのかの方法がなければ、工場を運営する企業も動きようがないのが実情だろう。

2019年の日本でのCO2排出量

そうした中、「こうすれば再生可能エネルギー100%化が可能になる」という方法論として、水素を活用して工場を動かす手法をパナソニックが提案。その実証実験を自社工場でスタートさせた。パナソニックによると「本格的に水素を活用する工場のRE100化は世界初の試み」とのこと。ここでの実証実験結果を元にして、今後さまざまな工場へこうした設備の導入を図っていくという。

しかし、水素を活用する実証施設とはいったいどんなものなのか? プレス向けの発表会で説明にあたったパナソニック エレクトリックワークス社スマートエネルギーシステム事業部 燃料電池/水素事業統括の加藤正雄氏によると「太陽電池、蓄電池、水素燃料電池で構築したもので、この3電池の連携で燃料電池を作る草津の工場のすべての電力を賄う形にしています」と話す。

パナソニック エレクトリックワークス社スマートエネルギーシステム事業部 燃料電池/水素事業統括の加藤正雄氏

加藤氏は今回の取り組みの背景について「太陽光や風力などの自然エネルギーは天候などに左右されて不安定という問題があります。また遠くの発電所から電気を運ぶと送電ロスによる損失も起こります。一方、世の中での電力使用量は常に変動しており電力は長期間の大量貯蔵が難しいという問題もあります。そこで、双方向に形を変えることができる電気と水素を組み合わせることで、脱炭素社会を実現できないか、という観点から取り組みました」と解説する。

太陽電池、蓄電池、水素燃料電池の連携で燃料電池を作る草津の工場のすべての電力を賄う

3電池連携といわれてもどんなものなのかイメージが沸きにくいかもしれないが、この発電所は、315Wの太陽電池パネル1,820枚が並ぶ計570kWのソーラー発電所の周りに5kWの純水素型燃料電池が99台と、そこに水素を供給する水素タンク、それに1.1MWhの蓄電池が設置されている。

RE100ソリューションの全体像

太陽電池パネルは東西に波打つ形で設置されており、これにより長時間発電を可能にしているそうだ。ちょうど行ったときは雨が降る直前で暗い感じではあったが、それでも3電池連携により374kWを出力しているとモニターに表示されていた。ちなみに、この施設の隣を東海道新幹線が走っているので新幹線に乗っていれば京都~名古屋間で一瞬ではあるが見えるようになっている。

太陽電池パネル
3電池連携による出力状況

その工場は現在24時間稼働しているそうだが、そこでの電力需要と、この3電池による発電所の需給関係を図で表すことができる。これを見ると昼間の時間帯の消費電力が多いが1日中水素燃料電池で電力を供給しつつ、昼間の時間帯は太陽光発電がある程度を賄い、蓄電池がある程度をサポートする、という形になっているようだ。

その意味で蓄電池は3電池のなかでの補助的な役割のようだが、太陽光発電を無駄にすることなく効率よく貯めて使うことで、システム全体の機動性を向上させているようだ。

工場の電力需要と、3電池による発電所の需給関係

こうすることで、電力会社からの系統電力を使うことなくすべての電力が賄えるとのことで、本当にトラブルなく運営できるのか、今回実証実験をしているわけだ。もちろん、系統と遮断をするオフグリッドになっているわけではないけれど、できる限り系統から電気を買わないように効率よく制御するのが、パナソニックが開発したEMS(エネルギーマネジメントシステム)。

工場での電力需要データや気象予報データ、運転中の機器モニタリング情報を元に、電力需要に追随し、太陽電池の発電量の計測から発電パターンを計画するというものだ。また純水素型燃料電池の発電量を計画的に運転調整したり、電力の余剰や不足に対し、蓄電池を活用するなど、最適かつ安定した電力供給を実現しているのだ。

工場の電力需要に対し、太陽電池の発電量の計測から発電パターンを計画

取材当日は、EMSのコントロールルームで発電状況のモニターを見せてくれたが、合計すると数字が合わず、記者側からも指摘が上がっていた。これは蓄電池が動作しているところを見せたかったためにあえて放電させていたとのことで、本来は需給バランスが整いつつ系統からの売買電がないように自動調整できるようになっている、とのことだった。

EMSのコントロールルーム
発電状況

純水素型燃料電池を使うメリットとは?

ところで、その99台設置されている純水素型燃料電池とはどんなものなのか? 実物を見てみると背丈ほどの高さの箱がズラリと並んでいる。

純水素型燃料電池

実はこれ、家庭用のエネファームとかなり近いものであり、エネファームは都市ガスから水素を分離して取り出し、それを元に発電しているが、これはあらかじめ水素を入れるため分離部分がないものだ。そのためよりシンプルな構造となっている。家庭用エネファームはここから熱も同時に取り出すコジェネ型になっているが、ここに並んでいるものにコジェネ機能は持たせていない。熱の利用手段がないため、そこが無駄になっているとのことだが、コジェネ型にすれば水素から95%のエネルギーが利用できる、より高効率のシステムになるとのことだ。

純水素型燃料電池とエネファームの比較

実際にはエネファームの改良版ともいえるものが88台並んでいるほか、電源周りを改良した次世代ユニットが10台、それにコジェネ機能を持たせたタイプでお湯を出せるものが1台の計99台となっていた。

次世代ユニット
コジェネ機能搭載のタイプ

また、大きな燃料電池ではなく5kWのものを99台使うという手法も大きな意味を持っているという。

前出の加藤氏によれば「これまで20万台出荷してきた実績もあり、低コストに効率よく生産できる一方、工場への電力供給を止めることなく、メンテができるのが大きなメリットです。メンテに必要な燃料電池のみストップさせて、ほかは稼働させることができるわけです。また実際の運用においてはすべてを同時に稼働させ続けるのではなく、製品寿命を延ばす意味からも、ローテーションしながら適度に休ませる運用にしています」と話す。

その燃料電池に送る水素を貯蔵しているのが、発電所の角に設置されている大きなタンクだ。

水素を貯蔵しているタンク

岩谷産業の協力により設置した78,000Lのタンクに液体水素が入っており、これを自然気化させて、燃料電池へと送っている。そのため、そばに寄ってみると管に霜が発生しており冷気による湯気が出ているのが分かる。

配管に霜が付いている
液体水素を気化させて燃料電池に送る

コストと環境配慮をどう両立させるか

「工場を動かしていくのに必要な発電をしていくと、1週間~10日ほどで水素を補充する必要があります。水素自体はまだまだ高価ですし、運ぶのにも大きなコストがかかるため、このくらいのサイズが最適であるという試算から、大きさを決めています」と加藤氏は説明する。

一方、施設内には1.1MWhの蓄電池も設置されていたが、やはりこれはある意味バッファ的なものであり、太陽光発電が一時的に余ったとか、工場の需要が急に下がったときなどに充電し、何かで急に足りなくなった際に放電するといった使われ方のようだった。

1.1MWhの蓄電池

ここで気になるのは、この水素は自然エネルギーによって作り出されたものなのか、という点。これについても確認してみたところ

「現時点においては、これはグリーン由来の水素ではなく、グレーです。ここではRE100を実現できるようにするための実証実験という位置づけなので、将来的に地産地消を目指そうとなると、水電解を検討しなくてはならないと考えています」との回答だった。

現時点では、天然ガスなどの化石燃料から水素を取り出す方が、電気を使って水を分解するのよりも圧倒的に安いのが実情で、水電解はコスト的に見合わないというのが一般的な見解である。

それをどうやって安く実現していくのかが、これからの最大の課題なのかもしれない。とはいえ、水素さえ入手できれば系統からの電力を使わずに全て自前で電気を作って供給できるという意味は大きそうだ。

水素をどのように作るかは大きな課題ではあるが、今後RE100を実現できる工場をどのように実現していくのか、ぜひ注目していきたいところだ。

藤本 健