藤本健のソーラーリポート

太陽光パネルの下でも農作物は本当に育つ? ソーラーシェアリングの発電所を見てきた

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
「ソーラーシェアリング」の実際の取り組みを見てきた

日本はCO2の排出削減目標として2030年までに2013年度比でマイナス46%、2050年ネットゼロ(排出量から吸収量を差し引いて実質ゼロ)を表明しているが、実現のメドがまったく立っていないように思える。

もちろん省エネは進めていく一方で、一番重要になるのが発電。FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)の推進によって、ここ6~7年で太陽光発電のシェアが大きく伸びた。従来からの大規模水力を超えて、自然エネルギーの中ではトップに躍り出た格好だが、大きな用地が必要な太陽光発電はそろそろ頭打ちともいわれている。

しかし、その限界を取り除き、一挙に太陽光発電の可能性を飛躍させる手立てがある。それが農地を発電に利用する「ソーラーシェアリング」という手法。今のところ行政がそれを積極的に推進しているようには見えないが、民間では導入が少しずつ始まっており、確実な実績を出し始めている。

ソーラーシェアリングを知らない人から見ると「農業をやめろというのか?」「日陰になって作物の生産量が落ちたら意味がない」といった批判の声がありそうだが、農作物の生産に影響を与えることなく、効率よく発電することができるようになっているという。先日、そんなソーラーシェアリングを企業として取り組んでいる事例を見学したのでお伝えしたい。

土地の確保が難しい日本で、太陽光発電の新しい取り組み

砂漠などにメガソーラーやギガソーラーを設置するのならばまったく問題ないが、平地が少ない日本の国土においてこれ以上、大規模な太陽光発電所を増やしていくのは難しくなってきている。最近問題になっている森林を伐採して発電所を作るというのは、CO2削減にも寄与しないし、自然破壊にもなり、土砂災害などの危険性も考えれば、論外だと思う。

そのため、これ以上の太陽光発電用地を確保するのは難しく、そろそろ限界にきているという論調があるが、それを抜本的に覆す手法がソーラーシェアリングだ。ソーラーシェアリングとは農業と太陽光発電の2つを同時に実現させるというもの。耕作放棄地を増やしてそこに発電所をつくるのではなく、農地で作物を育てながら、その同じ土地で太陽光発電を行なう、二階建て構造のようなシステムのことを意味している。

農地の上にソーラーパネルを建てて、農業と発電を両立させる

このソーラーシェアリングについては、本連載で2014年にとり上げたことがあり、個人的には非常に大きな期待を持って見てきた。というのも、その当時の取材での話では、日本の全農地面積460万haのうち、300万haをソーラーシェアリングにすれば、日本国内の年間電力使用量すべてを賄える、という試算があったからだ。

関連記事:今後の日本の農業を変えるかもしれない“ソーラーシェアリング”とは

もちろん、本当に全部を太陽光発電にする必要はないし、実際の運用を考えるとそれは無理。さまざまな電力をバランスよく組み合わせるベストミックスというものが必須ではあるが、日本の全電力を賄えるポテンシャルがあるのなら、2030年の目標もあながち無理ではないかもしれない。

2014年に取材したCHO技術研究所の資料。日本の農地460万haのうち、300万haでソーラーシェアリングすれば、日本国内の年間電力使用量全てを得られるというもの。赤い枠内がその面積となる

でも、そんなことが現実に起こりうるのか? 先日、宇都宮近郊のソーラーシェアリングの現場を見てくるとともに、いろいろと話をうかがってきた。そのキッカケとなったのは、2021年5月のNTTスマイルエナジーによる「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の運転開始について」というニュースリリース。

NTTスマイルエナジーは、太陽光発電の遠隔監視サービス「エコめがね」を運営する会社で、筆者もそのユーザーのひとり。自宅の太陽光発電システムをモニタリングする目的で、サービススタート当初の2011年12月から利用していると同時に、千葉で運営している2カ所の50kWの発電所にもエコめがねを設置しているので、同社の動きはよくチェックしている。そんな中、SNSでこのニュースを知り、これは面白そうと思い連絡をしたところ、ちょうど現地を見に行く機会があるとのことだったので、昨年11月に同行させてもらった。

NTTスマイルエナジーのスマイル運営本部 兼 明日づくり本部 サービス開発グループ リーダーの坂野幸毅氏に話を聞くと「当社では、主軸であるエコめがねの展開のほかに『ご縁ソーラープロジェクト』と題し、太陽光発電そのものの事業も行なってきました。たまたまご縁で繋がった設備認定後に未稼働となった太陽光発電案件を当社自らが発電主体になることで稼働させていくという事業で、これまで野立ての発電所が50くらい、そのほかにも学校や家庭の屋根上のPPA(初期費用不要で導入できる太陽光発電の契約)なども展開してきました」とのこと。

「そうした中、さらに新しいことをしてみようということで、営農と太陽光発電の2つの事業ができるソーラーシェアリングにチャレンジすることになったのです。これによって農業の活性化、地域の防災力の強化、そしてエネルギーと農作物の地産地消に貢献できればという思いがありました」と坂野氏は語る。

NTTスマイルエナジーのスマイル運営本部 兼 明日づくり本部 サービス開発グループ リーダーの坂野幸毅氏

といっても今回、NTTスマイルエナジー自身がシステムをメンテナンスして、農業を行なっているわけではなく、実際に運営をしているのは宇都宮に本社を持つグリーンシステムコーポレーション。同社が太陽光発電システムの設置運営を行なうと同時に、その子会社である農業法人 グリーンウィンドが営農するというスキームで、NTTスマイルエナジーはそのオーナーという立場だ。

グリーンシステムコーポレーション 本店長の角田信広氏は「当社は大正7年創業で、いまの社長が4代目。もともと農家生まれの長男として養豚や野菜作りなどもしていたのですが、農業だけでは食っていけないと、出稼ぎに出て太陽熱温水器の会社などで働きながら学んだ中、20年前に現在の形であるグリーンシステムコーポレーションを立ち上げました」と説明。

「当初は住宅用の太陽光発電システムの設置やリフォーム、オール電化といった展開をしていましたが、その後、野立ての太陽光発電所を手掛けるようになりました。まずは自社で所有するために、設備認定できる土地を集めていき、これまで256の発電所、計53MWを運営しています。ただ、自社で持ちきれない部分については販売をしながら展開していきました」(角田氏)。

グリーンシステムコーポレーション 本店長の角田信広氏

その意味では、太陽光発電所を数多く所有する発電事業者兼デベロッパーであるが、もともとが農家ということもあり、農業にも強い思いを持っていたようだ。

「日本のエネルギーも輸入に頼っているし、農業も輸入に頼っているのが実情です。そして問題なのは、日本が農薬大国であるということ。農薬に対する規制が極めて緩い日本は、それが原因でアトピー性皮膚炎をはじめとする、さまざまな問題を引き起こしていると我々は考えています。だからこそ、もっと安心して食べられるものを作ろうと、無農薬で、無化学肥料、除草剤を使わない農業を展開し、太陽光発電と兼ね合わせたソーラーシェアリングを2年ほど前からスタートさせました。これまで20ほどのソーラーシェアリングを運営しており、大豆、小麦、小豆、米などを生産しています」と角田氏は語る。

「太陽光パネルがあっても農作物に影響ない」は本当?

7年前に千葉でソーラーシェアリングについて取材したときは「パネルがあっても農作物に影響は出ない」という話だったが、その辺は本当に大丈夫なのだろうか?

「ソーラーシェアリングでは耕作地に地上3.3mの支柱を立てて太陽光パネルを設置しています。1:2の比率でソーラーパネルを設置していくため、遮光率は33%。つまり66%で光が当たる形です。これだけの光が当たれば、日本においてはほぼ問題なく農作物を普通に育てることが可能です。どの作物も、ほぼ大丈夫ですが、野菜だと育てるのに手間暇がかかるので、当社では大豆や小麦を中心に育てています。この支柱は、5m間隔でパネルの高さが3mの位置にあるので、トラクターが余裕で稼働できる仕様になっており、作業効率という面でも支障はなく、収穫量はパネルがある場合とない場合で差が出ません。その営農において、農薬を使わない有機農法を用いているのです」(角田氏)。

角田氏は光と作物の生育に関するグラフも見せてくれた。そもそも植物が光合成できる光の強さには限界があり、それを超える光はかえって成長の妨げになる性質があることが分かっている。この性質を「光飽和点」といい、植物の種類によって許容量が変わってくる。そこで、田畑の上に設置したソーラーパネルの角度を、栽培する作物に合わせて調整することで、かえってパネルがない状況よりも生育状況をよくすることも可能だという。

光と作物の生育

では、なぜNTTスマイルエナジーとグリーンシステムコーポレーションがつながったのか?

「グリーンシステムコーポレーションさんは、以前からエコめがねをご利用いただいており、自社でお持ちになられているものも、外部に販売されたものも含め、数多く導入いただいてきた、大きなお客様でもあるのです。当社の社内でソーラーシェアリングについて検討をしていたとき、グリーンさんがソーラーシェアリングに注力されていたことを知っていたので、ご一緒にできないかとお声がけさせていただきました」と話すのはNTTスマイルエナジー 明日づくり本部 サービス開発グループの勝島大輔氏。

NTTスマイルエナジー 明日づくり本部 サービス開発グループの勝島大輔氏

前述したご縁プロジェクトの延長線上として、ソーラーシェアリングの可能性の調査も兼ねて、実績のあるグリーンシステムコーポレーションと提携した格好だ。そのため、農業を含め、システムのメンテナンスもすべてグリーンシステムコーポレーションが行ない、NTTスマイルエナジー側はエコめがねで発電状況をリモートでチェックするだけで、収益のみが入ってくるという形。実際、NTTスマイルエナジーは本社が大阪にあり、前述の坂野氏も勝島氏も大阪勤務。ちょうどコロナ禍ということもあり、頻繁に宇都宮までくることもできず、今回がまだ2度目とのこと。

発電所を見てきた。強風にも耐える仕組みに

今回、両社によって作られたソーラーシェアリングの発電所は計8設備。具体的には栃木県宇都宮市に1つ、隣の芳賀郡に6つ、真岡市に1つとなっており、いずれも49.5kWの低圧契約のものだ。そのうちの2つを見学させてもらったが、1カ所はちょうど小豆の収穫を終えた後で、何も植わっていない状態になっていた。

ソーラーシェアリングの発電所。収穫を終えたところだった

もう1つは大豆が実ったところで、これから収穫という段階。無農薬の有機栽培による大豆だが、しっかりした実がついていることも確認できた。角田氏によれば、すでに作物の売り先も決まっていて市場に出ることはないのだとか。無農薬の作物の需要は年々高まっていて、もっともっとソーラーシェアリングを増やして耕作面積を増やさないと、生産が需要にまったく追い付かないとのこと。

ソーラーパネルの下でも、大豆がしっかり実っていた

構造はどちらも同じで、畑に支柱が立ち並び、3.3mの高さに、密集するのではなく一定間隔をあけた感じでソーラーパネルが並んでいる。2014年に初めてソーラーシェアリングの取材をした際は、やや特殊な細い形状のパネルを使っていたが、今回見たのは、きわめて標準的なパネル。8カ所の発電所すべてに同じSUNPOWERの415Wのパネルを使っており、パワコンはオムロンの最新式のもの。そういう意味では、架台の構造以外は一般的な野立ての発電所と変わらない。

ソーラーパネル部分
オムロン製のパワコン

ちょうど収穫のためのトラクターが稼働していたが、この写真を見ても、支障なくトラクター作業ができる形になっているのが分かるだろう。

ソーラーパネルのある場所でもトラクターは動かせていた

この高さで、台風などの際に倒れる心配はないのかも聞いたところ、もちろんしっかりした構造計算の上、杭も深く打っているので問題ないとのこと。またパネルが何段もつながっている一般の野立ての太陽光発電所と比較し、ソーラーシェアリングだとパネル1枚1枚が離れていて、風が通ってしまうから、強風でも負荷が小さく安全なようだ。

台風などにも対策済み

もちろん、各発電所には遠隔モニタリングのためのエコめがねのシステムが設置されており、後日、見学に行った日の発電状況をエコめがねのグラフで見せてもらった。過積載となっているだけに、日照量の少ない11月だというのに、1カ所の発電所で345.4kWhと一般家庭の約29軒分の電気を賄っていた計算になる。

遠隔でモニタリングするためエコめがねを活用
見学時の発電状況

また通常はFITによる売電を行なっているが、災害時に利用できる非常電源を設置しており、近隣に開放するようにしているとのこと。近隣自治会にもその利用法を周知して、地域貢献にもつなげているそうだ。

ちなみに、各発電所のパネル横に、パンの広告が掲載されていたので、広告事業も展開しているのかと角田氏に聞いてみた。

ソーラーパネルにパンの広告?

すると「当社の無農薬・無除草剤・無化学肥料の畑で栽培した小麦を使用した食パン専門店『風弥』を運営しており、その看板なのです。もちろん保存料、化学調味料不使用の無添加で、お作りしています。ECショップ『風弥マルシェ』でも販売しているので、よかったらどうぞ」とのこと。お土産までもらい、帰宅後に美味しくいただいた。

育てた小麦でパンの専門店を運営しているとのこと

2030年の目標達成に向けた有力な手段になる?

ちょっと遠足のような気分の取材ではあったが、このソーラーシェアリングの稼働状況を見る限りデメリットは見当たらず、国を挙げて推進すべき取り組みではないかと確信した。

左からNTTスマイルエナジー 明日づくり本部 サービス開発グループの勝島大輔氏、グリーンシステムコーポレーション 本店長の角田信広氏、NTTスマイルエナジー スマイル運営本部 兼 明日づくり本部 サービス開発グループ リーダーの坂野幸毅氏

各地に野立てのソーラー発電所は数多く見かけるようになったが、ソーラーシェアリングを見かけることはほとんどなく、まだまだレアな存在なのは間違いない。行政、農協、農業委員会など関係するところがしっかり連携をとれないと普及しにくいのは確かであり、2030年の目標を考えると、もはや躊躇しているような段階ではなく、急いで進めていくべきだと思う。

藤本 健