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バルミューダはなぜ独自のものづくりができる? “浮かぶ”掃除機の開発者に聞いた

BALMUDA The Cleaner

独自の“ホバーテクノロジー”を搭載し、まるで浮いているかのような操作性を実現した掃除機「BALMUDA The Cleaner」。2020年11月に発売し、バルミューダ公式オンラインストアの価格が59,400円。スティック掃除機のスタンダード帯に比べると高価ながら、売れ行きは好調だという。

2020年に行なわれた製品発表会では、寺尾玄社長が同製品の魅力である「これまでにない掃除体験の価値の提供」について語っていた。

今回は、これまで直接取材する機会が少なかった現場の開発担当者にBALMUDA The Cleanerが生まれた経緯を聞き、同社におけるものづくりのプロセスなどを知ることができたので、本稿にてお伝えしたい。答えてくれたのは、同社クリエイティブ部でデザイナーを務める比嘉一真氏と、マーケティング部プロダクトマーケティングチームの原賀健史氏。

バルミューダのクリエイティブ部でデザイナーを務める比嘉一真氏(左)と、マーケティング部プロダクトマーケティングチームの原賀健史氏(右)

使う人が自分で動かすから難しい? 掃除機のデザイン

バルミューダがこれまで手掛けた家電は、扇風機、サーキュレーター、スチームトースター(オーブントースター)、Bluetoothのワイヤレススピーカーなど据え置き型の家電ばかり。それに対し今回の新製品BALMUDA The Cleanerは、掃除機のためユーザが自分の手に持って使う。そのため、他の製品よりも、デザインの調整に時間を要したとのこと。

カラーはホワイトのほかにブラックも用意

「掃除機のデザインは普通の製品よりも大変でした。考えることが製品の外観デザインだけではないんです」と比嘉氏。これはどういうことなのだろうか?

「掃除機は人が自分で動かす家電なので、確認することがたくさんあるんですよ。僕はサーキュレーターのデザインから関わっていますが、これまでの製品と比較して圧倒的に検討項目が多かったですね。検討項目があれば試作機を作って、実際に動かしてチェックするというキャッチボールの繰り返しです。仕様が変わって、例えば2mmサイズが変われば、それに合わせてデザインを調整するなど、細かい作業が続きました」(比嘉氏)

当たり前だが、スティック掃除機は、人が手に持って動かす家電だ。そのため、ちょっとした違和感が不満につながる。重心のバランス、手首にかかる負荷、風路設計、ゴミを捨てる時の操作性、充電台の着脱のしやすさなど、細かい調整が必要というわけだ。バルミューダ製品の開発期間は平均1年だが、BALMUDA The Cleanerの場合は約2年を費やしたという。

「週1回、クリエイティブ部の部長も兼任している寺尾とのデザインミーティングがあるのですが、掃除機の場合は実際に動く試作機を作らなくては細部まで検討できません。3Dプリンターを使うだけでなく、手元にあるものを使って動く試作機を毎回作りました」(比嘉氏)

比嘉一真氏

「図面を起こすよりも、アイデアをまず実際に形にしてみるのがバルミューダらしいところかもしれません。私は、掃除機の開発期間中に入社しました。他社を経験したから分かるのですが、メンバーのフットワークの軽さ、発想の飛躍のしかた、無邪気さ、自由な雰囲気はバルミューダならではの面白さですね」(原賀氏)

試行錯誤の結果誕生したBALMUDA The Cleanerは、ホウキのように前後左右に動かせる操作性が魅力。2本のブラシで摩擦抵抗を低減し、さらにそれを自在に操るための「360°スワイプ構造」を採用し、滑らかな動きを実現したという点が特徴だ。

通常は1本のブラシを2本備える
自在なヘッドの動きを実現する「360°スワイプ構造」

そもそも、前後左右に動かせる掃除機を作るというアイデアは、どこからうまれたのだろうか。同社のWebサイトで明かされている「開発ストーリー」では、バルミューダ近所の蕎麦屋「三河屋」で寺尾社長とエンジニアが相談したとのこと。

「三河屋では、寺尾の『掃除機が使いにくい』という話からアイデアを出していきました。掃除機の現状や使いにくさ、歴史など整理していくと、元々は家の掃除にホウキを使っていたというところに行き着いたんです。ホウキは前後左右に動かせますよね。でも掃除機はそうじゃない。それで掃除機に対する固定観念が崩れてもっと自由に作っていいんだと思いました」(比嘉氏)

「今までの掃除機をベースにして作ると、BALMUDA The Cleanerのような進化はしないと思います。“掃除機の開発”として進めると、『電池が足りないからバッテリーを多くする』『もっと吸うためにパワーを上げる』という形になるんだと思います。でもバルミューダでは、“掃除機”という前提を一度無視し、実現したいことを形にする無邪気さがあり、BALMUDA The Cleanerが誕生したのだと思います」(原賀氏)

今までの掃除機が不便だったという気づき。そこから誕生したのがBALMUDA The Cleanerなのだという。ホウキから着想を得たという目で見ると、すらりと伸びた柄はホウキのそれに見えてくる。従来の掃除機と違い、両手でも持ちやすい。

掃除機はメカメカしいデザインが多いが、BALMUDA The Cleanerはシンプル。正面から見たときにダストボックスやボタンなども見えないため、家電というより家具のように空間に溶け込む。このシンプルさも、ホウキから着想を得ただろう。

すらりと伸びた柄はホウキの柄のよう。個人的には柄に施された刻印にぐっとくる
ボタンは1つでシンプル
両手でホウキのように持って使える

実際に動かしたことがある人は分かるかもしれないが、BALMUDA The Cleanerは軽くてなんだか楽しい気分になる。前後左右、自由に動くため、壁際は、横になぞるように動かせるのも面白い。

「横に動かす時にスムーズになるよう、試作機でミニ四駆のローラーを四隅に外向きに取り付けてみました。想像以上にうまくいったのでそのまま採用しました」と比嘉氏。

ヘッドの四隅にローラーを備え、横の動きをサポートする

片手でもすいすい動かせるということで、使った人からは「掃除が楽しくなった」「今までにない掃除機」というコメントが多く寄せられているという。

その中でも原賀氏には印象的なものがあるそうだ。

「車椅子を使っているお客様から『座ったまま使える掃除機は初めて』と感想をいただいたことがあります。軽い操作性と前後左右に動く自由度の高さで、今までになかったものを形にできたと思える出来事です」(原賀氏)

原賀健史氏

各アタッチメントにも“ひとつの製品”として深いこだわり

操作性が魅力のBALMUDA The Cleanerだが、使ってみると疑問に思うところが3点あった。

まず本体の重さだ。軽量タイプが主流になりつつあるスティック掃除機市場において、本体重量約3.1kgというのは重い。実際、階段の掃除など持ち上げて操作する時は、ずっしりと重さを手に感じる。

次に、ハンディ掃除機として使う場合には、別途ハンドルをセットしなくてはいけない点。パイプ部分をそのまま着脱できればもっとスムーズにできるのに、なぜあえてハンドルを別にしたのだろう。

最後にアタッチメントだ。バルミューダでは、ファブリックノズル、延長ホース、マイクロノズル、フラットノズル、ブラシノズル、専用バッグがセットになった専用ノズルセットを9,800円で販売する。複数のアタッチメントを付属するメーカーが多い中、別売にしたのはなぜだろうか。

あまり答えやすい質問ではないかもしれないと思いつつ、どういうこだわりや意図が込められて今回の製品になったのかを深く知るため、比嘉氏と原賀氏に聞いてみた。

まず本体の重さについて。

「ホバー感(浮いているような感覚)を担保するために、ヘッドにある程度の大きさのモーターを詰む必要がありました。より安全にお使いいただくため、重量が重くなったというところは正直あります。ただ、ホバー感や操作性は納得できる形を実現できたので、そこを優先し、まずはお客様にお届けしようとなりました」(原賀氏)

なるほど。確かに広いフローリングの部屋を掃除したときの浮遊感は格別。今回はそこを優先したというわけだ。購入時には、持ち上げる時の重さと、浮遊感を比較して、どちらを優先したいかを検討すると良さそうだ。

では、ハンディクリーナーのハンドルの取り付けについてはどうなのだろう。比嘉氏は、当初はハンディ一体型のデザインを検討したと話す。

ハンディ掃除機として使用する際は、別途ハンドルとノズルをセットしてから使う

「360度動かして掃除をしていくと、ハンドルが横に飛び出して家具に当たり掃除の邪魔になるなど、細かい掃除がやりにくいという問題がありました。いろいろ検討した結果、ハンドルを別パーツにすることにしました」(比嘉氏)

原賀氏も次のように続ける。

「床掃除のしやすさを考えれば低重心がマスト。その上でデザインや床掃除の体験を優先していくと、今の形になりました」。

BALMUDA The Cleanerは、長い柄が特徴。両手持ちもできるため、ホウキ感覚で動かせる。さらに、重心が低いため壁にちょっと立てかけておけるのもうれしい。こうしたデザインを活かすために、ハンディ使用時はハンドルを別に取り付ける選択をしたという。

またアタッチメントについては「オプション品といえども、一つ一つデザインや使いやすさにこだわって仕上げました」と比嘉氏。オマケではなく、製品としてしっかりしたものを出したいという思いから別売にしたのだという。

一つ一つ吟味して作ったというアタッチメント。収納するバッグも高級感がある
歯医者さんが使うノズルをヒントに開発したという隙間に特化した「マイクロノズル」は特にユニーク

これからはデュアルブラシ市場が盛り上がる?

BALMUDA The Cleanerが発売された2020年から2021年にかけて数多くのスティック掃除機が発売された中、奇しくもバルミューダ以外に、ブラシを2本搭載して浮かぶような操作感を目指した「デュアルブラシ」タイプの掃除機がダイソンからも登場。掃除機における一つの注目トピックともいえる。

こうした現状について比嘉氏と原賀氏も「我々の掃除機は、自由自在さを追求して開発された掃除機ですが、そういった製品が増え新たな市場として盛り上がることを期待している」と好意的にコメントしている。

日本電機工業会が6月21日に発表した、民生用電気機器の5月国内出荷実績によると、掃除機の出荷台数は8カ月連続プラス。在宅ワークなどで家にいる時間が増えたことから、室内の清潔意識は高まっている。

BALMUDA The Cleanerで新しい掃除体験を世の中に提案したバルミューダ。新しい発想がどのように受け入れられ、さらに今後どんな掃除機や、それ以外の家電を世に出していくのかにも期待できそうだ。

伊森 ちづる