家電製品レビュー

バルミューダの浮かぶ掃除機The Cleaner、新ノズルセット登場で実用性はアップした!?

とにかくオシャレなバルミューダのクリーナー。デザインのよさについては多くの人が異論はないだろう。家庭内のどこにあってもナチュラルに佇む

ヘッドが360度回り、ホバークラフトのような宙に浮いた走行性を再現するという斬新な発想で、バルミューダ初の掃除機として2020年秋に発売された「BALMUDA The Cleaner」(59,400円)。

その後、日本でも同様のコンセプトを持つダイソンの掃除機が発売されたことでも注目されている。実際の評価は賛否両論に分かれている製品だが、個人的には発表会で体験した際の第一印象は「確かにユニークだけど、重い……」「小回りが利かない」とどちらかといえば正直ネガティブなものだった。

しかし、実際に試用機が届いて自宅で試してみると、操作性に関してはむしろ“慣れ”の問題だと実感。当初は既存のスティッククリーナーの使い方やスタイルが既に身体に染みついているせいか、それと同じ感覚で使い始めると、初めのうちは使いづらいと感じていた。しかし、グリップを両手で握り、ホウキで床を掃くようなスタイルで操作してみると、力を入れなくても床の上を滑るようにヘッドを動かすことができ、むしろ快適で楽しさすら覚えるようになった。在宅で仕事中も気分転換を兼ねて、つい手にして掃除をしたくなったりもする。

初めのうちは、ハンドル部分を他の一般的なスティッククリーナーのようにこのように握っていたが、手首に負担がかかって使いづらいと思っていた
よくよく考えたら、柄の部分は棒状。他のクリーナーに比べると、握り方の自由度が高く、ユーザーの好みのスタイルで扱える。例えば、ホウキを持つように両手で扱うこともできる

さらに使い続けるうちに、利点として気が付いたのは吸引力のロスが少ない点。というのも、本製品は、モーターや集じん部が下側にある、いわゆる“下重心”と呼ばれるタイプのスティッククリーナー。これは見方を変えると、ゴミを吸い込む吸引口と集じん部までの距離が短いということである。

コードレスクリーナーのため、掃除機の吸引力を表す業界標準の指標である、吸い込み仕事率は明示されていないものの、吸引力の高さを売り文句に謳っている他メーカーのスティッククリーナーが上手に吸い込めなかったシュレッダーの屑ゴミを悠々と吸い込んだ。

また、間に延長パイプを介さないため、管の途中で詰まったりというようなトラブルは皆無だ。意外に見落とされがちだが、さまざまな掃除機を試していると、吸引力が高くても、ゴミの種類や大きさによっては延長パイプのジョイント部分に詰まってしまったりということもあり、理屈どおりにその威力が発揮できていないと感じることがあったりもする。

ヘッドから本体までが近いのが特徴。しかもほぼダイレクトで吸引力のロスが少ない
持ち手部分はゴミが通るパイプ状ではない。しかし、スイッチを手元で操作できるようにするために通電させているのだ

広い場所を効率的に掃除。実は狭い隙間にも届く

一方、もう1つの難点とされていたのは、2本の回転ブラシを採用していることもあってヘッドのサイズが大きいため、部屋の隅や壁際にアプローチしづらいという声もあること。しかし、個人的にはそれほど気にならない。というのも、確かにゴミの上を1回滑らせただけでは、ゴミが吸い切れていないということはあるが、2往復させればだいたいが除去できている。

ヘッドが大きいことは一方では難点ではあるが、その反面として一度に掃除できる範囲は広く、広い空間であれば短時間で済むということである。

ヘッド部はフロアワイパーのような縦横比で独特な形状
ヘッドの裏面。前後2本の回転ブラシを備え、逆回転してゴミを中央に集めて吸い込む仕組み

しかも、360度自由な角度に動くヘッドの構造のため、前後の往復に留まらず、様々な向きから自在にアタックできる。小回りが利きにくいところは確かにあるものの、ヘッドの向きは縦にもできて、吸い込むことができる。

実際に使っていると、想像していたよりも狭い隙間にも対してもカバーができる。広範囲を大まかに素早く掃除した後に、隙間などの細かい部分を丁寧に集中して掃除するという手順で行なえば、トータルでは掃除時間を短縮でき、個人的にはあまり苦にはならない。

ヘッドのジョイント部分は360度自在に動く
横向きでヘッドを上下に動かすことができる
360度可動するので、ヘッドは縦方向にも
斜め方向にもヘッドを動かすことができる自由度の高さで、思った以上に狭い場所にもアプローチできる

このあたりの感覚はまさに“自在ホウキ”と呼ばれる、学生時代に教室の掃除で慣れ親しんだフロア掃除用の細長いホウキの使用感覚と類似する。他にも、以前、パナソニックから発売されていた「iT イット」というスティッククリーナーも近い感覚だ。そう考えると、下から順に、ヘッド、本体、柄という順番のこの独特な構造は、将来的には、複数のタイプの交換用のヘッドの登場で、拡張性が生まれることを想定したものかもしれず、今後の展開が楽しみだ。

待望のアタッチメント追加発売で用途が拡大

一方、ハンディクリーナーとしての使い勝手に関しては、物足りなさはぬぐい切れなかった。ハンディとして使用するには、延長パイプを取り外して、ヘッドをハンディ用のアタッチメントに付け替えるという一般的な2Wayクリーナーと同様の手順が必要だが、本製品のユニークな点は持ち手となるハンドルを取り付けて使用すること。ハンドルはスライドさせてワンアクションで着脱できる。

他のクリーナーにはない独特な仕様で、手間といえば手間ではあるが、この構造ゆえにスティッククリーナーとしての美しい佇まいを実現しているというのも事実なので、個人的には許容できる。ただし、ヘッドやパイプ自体の取り外しや取り付けがスムーズとはいいがたく、できればスタンドに立てたままの状態でもやりやすくなる工夫や仕掛けがあってほしい。

ハンディとして使用するには、ヘッドとパイプを取り外す
本体にハンディ用のハンドルを装着
先端に付属のノズルを装着することでハンディクリーナーに

ちなみに、本製品でハンディ用のアタッチメントとして標準で付属しているのは「すき間用ノズル」の1点のみだ。最近のスティッククリーナーは付け替え用のパーツが多数用されているものが多いので、正直、これだけでは物足りない。しかし、バルミューダでは、拡張用のノズルセットを追加で別売する意向を、製品発表時にアナウンスしていた。

「なぜ後から発売なの?」「最初から同梱されないの?」と思ったものの、確かに家庭によってはあまり使われずにかえって邪魔になってしまうツールもある。そういう意味では、オプションで購入できるほうがありがたい家庭もあるだろう。

そんなわけで、登場を待っていた「専用ノズルセット」がついに3月26日から発売された。そこで、早速メーカーにお借りして試してみることにした。

オプションで追加発売された「専用ノズルセット」。付属のバッグに一式に収まっている

まずはセット内容から。箱を開封すると、メッシュ状のバッグの中に5種類のアタッチメントが収められている。スティッククリーナーの付属品は小さくて細々したものが多く、紛失してしまいがちなので、一括して収納できる専用の袋が付いているのはありがたい。セットの価格は9,800円。

セット内容。5点のアタッチメントがセットになっている
収納バッグには、標準で付属しているハンドルやノズル、クリーニングブラシもまとめて収めておける

最近は、スタンドの足元にまとめてセットしておける製品も多く、それはそれで便利ではあるものの、個人的にはリビングなどの日常空間の目につくところにそれらを設置するのは、一気に生活感が出てしまうことから、あまり好まない。

ましてやデザインやインテリアとしての佇まいもウリにしているバルミューダのクリーナーだ。そのようなスタイルは本末転倒になってしまうので、あり得ない選択だろう。しかし、それでも一括して保管ができるように収納バッグを用意してくれるのは気が利いている。市販品でなく、専用に設計されたものなので、シンデレラフィットするのがうれしい。

本体に標準で付属しているハンディ用のハンドルとすき間用ノズルは、これまで収納場所に少し困っていたが、これらもバッグに収めておくことができてありがたい。

新ノズルはどんなところで役に立つ?

アタッチメントは、延長ホースと、吸引用のノズルが用途に合わせた4種類用意されている。延長ホースは、全長97センチの長さのホースで、しなりのある素材で高さのある場所や手が届きにくい場所の掃除をサポートする割と一般的なものだが、長さも太さもちょうどよく、女性が片手で使用するにも扱いやすい。

延長ホース。本体の先端に直接取り付けて使用する。長さは97cm
ホースの先に付いているノズルはつなぎ目部分で部分的に回転させられるユニークな構造。使用場所に合わせてノズル部分だけ角度を変えられるのが便利だ

「ファブリックノズル」は、いわゆる布団用ノズルだが、ユニークなのはヘッドの付け根の部分が160度可動するように設計されている点。

ファブリックノズル。いわゆる布団用ノズルで、見た目は何の変哲もない

他であまり見たことがない珍しい構造に、初めは何のためだろう? と思ったが、使ってみると即理解できた。首の部分がクルクルとスムーズに動くので、フワフワとして不安定な布の上にも柔軟にフィットして吸い込みやすい。ふとんを叩く機能などはないため、試してみる前は簡易的なものかなと少々舐めていたが、ダストカップの中には綿ゴミやハウスダストのようなものがたっぷりと溜まっていて驚いた。

ノズルの裏側。ふとん叩き機能やUVランプなどはなく、あるのは吸い込み口のみ
延長ホース同様に、ノズルの首元が160°までの範囲で動く構造がユニーク。盛り上がっていたり窪んでいたり、ファブリックの状態に合わせてハンドルの向きを変えられ、手にかかる負担が少ないので疲れにくい

様々な隙間や汚れに対応する工夫に納得

その他の3つのパーツは、延長ホースと組み合わせて使用する。このうち「マイクロノズル」は、先が細い隙間に特化したノズル。車内の複雑な段差や狭い隙間などの掃除を想定したもので、棒のように細長く先端が少し曲がった細い吸い込み口が特徴だ。

初めて見た時は高圧洗浄機の噴射ノズルを思い出したが、歯科医で使用するバキュームノズルを参考にしたものだそうだ。先が長くて細いところを吸うことができ、洗濯機の下や隙間といったところの掃除にも使いやすい。

マイクロノズル。確かに歯科医のバキュームノズルのよう
細長い棒状で、狭い隙間の奥まで届きやすいのがメリット。先端はゴム状なので家具や床を傷つけにくいのもうれしい

「フラットノズル」は、ヘラのような形状をした幅広い吸込み口が特徴。机の上やテレビ台など広い面積の汚れをすばやく吸い取るのに適したノズルだ。

フラットノズル。三角形に先が広がっていく形状で、吸い込み口のみが広くて扱いやすい

あまり類を見ないこの形状のノズルは、水滴を吸い込むバキュームクリーナーのノズルを彷彿とさせ、確かに平らな面を広範囲に掃除する際にとても効率がいい。バーコードリーダーを見て着想を得たとのことで、持ちやすさと面への当てやすさが快適だ。先端がゴム状のため、家具の表面を傷つけずに使うことができる。

吸込み口。ゴムがあり、家具などが触れる部分を傷つけにくい
吸い込み口がフラットなため、平らな面を水平に滑らすように動かして掃除する

「ブラシノズル」は、隙間用ノズルのような形状だが、先端にブラシを備えている。窓のサッシなどの泥汚れや、狭い場所に入りこんだゴミをブラシでかき出しながら掃除するのに適したノズルだが、ブラシがスライド式で出し入れでき、長さも3段階で調節できる点が、良く考えられている。

ブラシノズル。ブラシ部分を最大限に出した状態

初めのうちは長さを調整できることに気付いておらず、全部露出した状態で使用していて、「使う場所を選ぶよな~」と思っていたが、実は隙間の高さに合わせて調節できることがわかって「なるほど!」と感激した。

裏側にロックがあり、ブラシの長さは3段階で調整可能。全部引っ込めることもできる
サッシの隙間のお掃除もブラシをちょうどいい長さに変えられ、快適。気になりつつも今まであまり掃除しておらず、ゴミがかなり溜まっていたが、ブラシでゴミを掻き集めながら簡単に掃除できた

掃除に新しい体験。フローリング中心の家庭に

ハンディとしての使用感で全体的に感じるのは、やはり本体が若干重いということ。延長ホースによってそれが軽減されるが、両手が塞がってしまうので、できれば肩にかけられる方式だとうれしい。

発表会で本製品がお披露目された際には、横にエレキギターが立てかけてあったのが印象的だったが、ギターストラップのようなものが取り付けられると便利かつバルミューダっぽくてかっこいい。子どもの時に、教室でホウキをギターやマイクスタンドに見立ててロックスターを気取っていたような遊び心にも通じるものがある。

片手はハンドルを握る必要があり、延長ホースを取り付けた掃除の場合、両手が塞がってしまうため、物を動かしたりしながらの掃除ができないのが難点。ストラップ等で肩にかけられると、片手がフリーになってもっと快適になるはず!

バルミューダといえば、デザイン性に加えて、新しい“体験”を創出し、ユーザーに提供するメーカーである。総評すると、本製品も掃除という家事体験を愉快で楽しいものに変え、新しい価値を与えてくれる代物だ。

ただし、掃除機である以上は、実用性が求められるのは絶対。スティッククリーナーとして試した限りでは、フローリング中心のフラットなマンション住まいの我が家では吸引力も操作性も十分に合格点。

大きめのヘッドは確かに小回りが利きにくい面もあるが、いまや掃除機は一家に一台ではなくて用途に合わせて選ぶ時代。我が家に関しては、平日の日常的なお掃除は主にロボット掃除機にお任せで、床の上は比較的に片付いており、ロボット掃除機が入り込んで掃除できるように家具をレイアウトしているため、それほど大きな問題には感じない。

それ以上に、大きめのヘッドでも前後左右斜めに自由自在に動かすことができるユニークな操作性によって、ザックリと全体的に掃除するにはむしろ手っ取り早い。掃除機自体の重量は約3.1kgと決して軽くはなく、持ち上げる際には少し重たく感じるものの、操作中は2本の回転ブラシで生み出すホバーの特性により、床面との摩擦がなく浮遊感あるスムーズな動きで、過度な重量感はない。ただし、絨毯や畳といった摩擦の大きな床の上では有効に働かないこともあるため、フロア中心の生活の家庭におススメしたい。

集じん方式はサイクロン式を採用した一般的なものだ。遠心分離で空気とゴミを分離して、排気中にもゴミを漏らしにくいように設計されている。ダストボックスの容量は0.13Lと小さめだが、着脱がはめ込むだけの設計で中のゴミがこぼれにくい。

ダストボックス部分

ヘッドの軸が360度回転するので、掃除中に本体をくるっと反転させてダストボックスの中身を確認することもできる。それでいて、充電スタンドでの待機時には中身が見えない構造になっている点も抜かりない。

ジョイント部分が360度可動する仕様のため、掃除中に本体をクルっと裏返して中身を確認できるのもメリット
はめ込むだけの構造のダストボックスは着脱が容易だ。しかも構造上、着脱時に中身がこぼれにくい

運転モードは「強」と「標準」の2通りと、シンプルでわかりやすい。運転時間は「標準」モードが30分、「強」モードが10分と標準的な仕様で、バッテリーの寿命は約500回の充電回数だが、簡単に交換ができる設計で、長く使い続けられる。

交換可能なバッテリーを採用しているのもうれしいポイント。バッテリーの寿命が来ても長く使える
ヘッドブラシをお手入れする際には、工具がなくても着脱できる機構を採用しているのもポイントだ

バルミューダの他の製品同様に、さりげなく自然な佇まいと洗練さを両立させた秀逸なデザインと、世の中にはない発想やギミックが仕込まれたスティッククリーナーで、バルミューダファンであれば、“コレクション”としてもやはり欲しくなってしまう一台だ。

実用面において、もちろん不完全な部分や多少粗削りな部分もあるが、それは「あちらを立てればこちらが立たない」という、どの掃除機にも避けられないトレードオフの関係のジレンマ。業界の風雲児であるバルミューダが仕掛ける掃除機として、今後の展開にも期待しながら、使い続けたいと思える製品だ。

神野 恵美