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浮かぶようなダイソン掃除機Omni-glide。“最高の操作性”はどうやって生まれた?

Dyson Omni-glide。直販価格は付属ツール7個で直販限定の「Dyson Omni-glide Complete+(SV19 OF COM)」が69,300円。ツール6個の「Dyson Omni-glide Complete」が64,900円

「ダイソンで最も操作性に優れたコードレスクリーナー」として4月7日に発売された「Dyson Omni-glide(ダイソン オムニグライド)」。前後だけでなく左右にも動かせる“全方向駆動”という考え方を新たに導入しただけでなく、ハンドルがスリムなスティック型になり、手前に倒して180度のフラットな状態で掃除できるデザインも従来モデルと大きく異なる部分だ。

最大の特徴といえる「Omnidirectional Fluffy (オム二ディレクショナルフラフィ)」クリーナーヘッドは、2つのローラーが回転して“浮かぶような操作感”を実現するというもの。これにより前後左右を自由に動き、場所や家具に合わせて滑らかに操作しやすくなっている。

Omnidirectional Fluffyクリーナーヘッド
曲線もスムーズに掃除しやすい

ダイソン、浮かぶような掃除機「Omni-glide」前後左右に動き、隙間にも(4月7日)

これまで同社の空気清浄ファン「Dyson Pure Cool Link」開発などを手掛け、現在は東京でカントリー クオリティー リードとして日本の品質部門を統率し、日本人のニーズについても多く知っているJames Shale(ジェームズ・シェール)氏に、今回のOmni-glideに搭載された技術や、掃除機への考え方などについて話を聞いた。

東京でカントリー クオリティー リードを務めるジェームズ・シェール氏

「まったく新しい掃除機」を可能にした2つの技術

創業者兼チーフエンジニアのジェームズ・ダイソン氏が「フローリング掃除の常識をくつがえす、 まったく新しい提案」として生まれたOmni-glide。

創業者兼チーフエンジニアのジェームズ・ダイソン氏がエンジニアとアイディア交換時に見せたというスケッチ

当初のアイディアを形にするために試行錯誤を重ねた大きなポイントは2つある。1つはクリーナーヘッド。ローラーの構成を変えることは掃除機のパフォーマンスに関わることであり、これを技術的に担保して作るのが難しかった部分だという。

ヘッド部の開発にあたり、操作時に発生する負荷が基準を満たすかをテスト。左から右へ、ダイヤモンドの形を描くように操作して、負荷をコンピューターに記録。一般的なクリーナーヘッドと比較して検証が行なわれた。

ヘッド部の試作品
操作負荷のテスト機
ロボットアームでの動作デモ

もう1つは“直線的なデザイン”と表現している部分。「一番難しかったのはバッテリー。手持ち部分にバッテリーをのせることが大きなチャレンジでした。しかも持ちやすくなければならない。すべてを考慮して解決することが必要だった」とシェール氏は語る。

本体デザインの試作過程

ダイソンのスティック掃除機でも定番となっている手元のハンドル部分は、スリムなスティック型になり、全体が一直線のストレートな形状になった。これにより、手前に倒すと地面とほぼ平行になり、ソファの下など低い場所も掃除しやすくなっている。

ストレートな形状になったことで、低い場所も掃除しやすくなった

この点についてシェール氏は「180度のフラットに倒せる形にするために、いろいろなことを試してきた。今回、技術的には難しくなかったが、概念としてこういうものを考え出すことが大きなステップアップだった」と振り返る。

試作機の開発過程とスケッチ

パワフルなヘッドでもバッテリー時間は維持。サイクロン技術も進化

新しいヘッド部は、2つの大きなローラーが回る構造になったことから、「掃除のパワーを落とさないためにはバッテリー駆動時間が短くなるのでは?」と気になっていたが、実際は既発売のDyson Micro 1.5kgと同等の最長約20分(強モード時は約5分)を維持している。

この点についてシェール氏は「バッテリーライフは、長くもつよう常に心掛けていること。リチウム電池も最良のものを使い、今回の2つのローラーはギアでつないで駆動していることも、使用可能時間を長くするための細かい配慮」としている。

さらに、サイクロン機構も進化。上位機V11が14個のサイクロンで79,000Gの遠心力というのに対し、今回のOmni-glideは、8個で98,000Gと高い遠心力を生み出している。

サイクロン部の比較。右が8個のOmni-glide、左が14個のV11のもの

シェール氏は「私たちは1978年にサイクロンを使い始めてから技術を積み重ねており、当時は(パーツが)大きくないと入りきれなかったが、空気の流れを効率よくするための開発を進めた。今回のパワーを実現できた最も大きな理由はその形状。空気の流れを従来の曲線的なものから、直線的に伝える形に変えることで、強い力を実現した」と説明する。

このほかの特徴として、毎分最大105,000回転するDyson Hyperdymiumモーターを搭載し、パワフルで変わらない吸引力を持つほか、5段階にわたりゴミを捕集する設計で0.3μmの微細な粒子を99.99%捕らえるという。

気になるバルミューダとの違いは?

7日に掲載した記事でも大きな反響があったが、その中でも比較として挙げられたのは、日本でバルミューダが2020年11月に発売した「The Cleaner」。こちらも2つのローラーが回転して“浮かぶような操作感”を実現するデザインが特徴的だ。

バルミューダのThe Cleaner

バルミューダから“浮かぶ”スティック掃除機。ホウキのように左右も自在(2020年10月15日)

筆者がOmni-glideの製品発表会で体験した限りでは、スーっと動く感覚の軽さを単純に比べるとバルミューダのThe Cleanerに少し分があると感じた。一方で3.1kgあるThe Cleanerの重量を考えると、約1.9kgのダイソンOmni-glideは、階段などを含めた幅広いシーンで使いやすそうだと思える。細かな違いは今後のレビュー記事などでもお伝えしたいところだ。

既報の通りDyson Omni-glideは、韓国では2020年7月から発売され、中国でも展開しているとのことで、グローバルではダイソンが先に製品化した形となる。なお、韓国で発売された製品と、日本での製品について「ダイソンは小さなことでも常に品質向上は考えているため、細かな変更はあったとしても、大きくは変わらない」としている。

シェール氏は、バルミューダThe Cleanerについて「良い製品」とした上で細部には直接言及しなかったものの、日本で両社の製品が話題に上っていることについては、「ダイソンには技術はもちろん、使っていて何かあった時にいち早くサポートするなど、他社にはできない部分がたくさんある」としている。

本体とツールを収納しながら常時充電できる自立式のフロアドックも付属

「エンジニアが技術を試しやすい」開発環境

シェール氏は「日本人とアメリカ人では、好みが異なるどころか真逆の場合もある。今回のOmni-glideは日本の方々に喜ばれるもの」と説明。現在の製品ラインナップと自身の使い方については「家のサイズの広さにはV11が一番合っているし、キッチンではMicro 1.5kgを使っている。Digital Slimは、日本で使っていただくために作られた。今回のOmni-glideはハードフロアに適している。それぞれの環境に合わせて活躍できるモデルを用意できた」と自信を見せる。

ダイソンが新しいアイディアを形にし続けられる背景について、シェール氏がエンジニア目線で挙げたのは“開発者の自由さ”。「開発した技術を商品として出さなければならない、というビジネス的なプレッシャーを研究者や科学者が背負わされているのではなく、いろいろな技術を試していい。その中で将来の問題解決につながるということはあるが、現実の製品にならなくても、試したり、遊ぶように技術を使うことを、エンジニアができる環境」も同社の強みだという。