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バルミューダ・寺尾社長、次の9年でも売上1,850倍にしたい ~韓国開催の新空気清浄機発表会に登壇

 バルミューダは2月12日、新型空気清浄機「BALMUDA The Pure(バルミューダ ザ・ピュア)」の発表会を、韓国・Seoul Dragon CityのGrand Ballroomにて行なった。

 既報の通り、「BALMUDA The Pure」は、天井まで届く大風量を実現した空気清浄機で、価格は52,000円(税抜)。2月12日より、バルミューダオンラインストア、およびBALMUDA The Kitchen松屋銀座、主要家電量販店、百貨店などで予約受付を開始し、3月14日に発売する。

バルミューダ 代表取締役社長・寺尾 玄氏と「BALMUDA The Pure」(写真右)

韓国での先行発売と発表会開催の経緯

 発表会で同社 代表取締役社長・寺尾 玄氏は、韓国で今回の新製品発表会を開催し、また製品も日本に先行して発売する理由として、韓国では同社の空気清浄機が台数で日本の10倍販売されていることを筆頭に挙げた。またPM2.5が2013年初頭に世界的な話題になり、2013年9月には韓国のメディアで被害が大々的に報道されるようになったために、以降、韓国での空気清浄機市場が拡大していることも背景にあるとした。加えて、バルミューダブランドの認知やプレゼンスの向上を視野に入れ、韓国で新製品発表会と先行発売を開催したという。

同社の空気清浄機は、韓国で日本の10倍も販売されているという
韓国プレス向けに配布されたプレスキット
寺尾氏の著書「行こう、どこにもなかった方法で」の韓国語版も同梱された

 発表会で同氏はまず「かつて日本には数多くの家電メーカーがあったが、この10年で減衰している」と発言。大手家電メーカーが、外国勢の傘下となったりしている現状を指摘した。そして日本でも韓国でも、多くの家庭が必要な家電をすべて持ってしまっているとし、"持っている人に持っている物を売るのは大変"だと語った。

 それでも、これまではテクノロジーやクリエイティブの進化を軸に、買い替えを促すこともできたが、今後はより難しくなると予測。そこで同社は、家電を通して得られるより良い体験を提供することに価値を置いたうえで、製品を販売していきたいとした。

 また韓国で、同社製の空気清浄機の販売が伸びた点については、決して安い製品ではないとしつつも、2012年から6年以上に渡る販売年数の長さを挙げた。さらには、現地の販売会社であるリモテック社によるブランディングの力も大きいとした。そのうえで、韓国の国民がそもそもで、形の美しさに対する興味と購買力がとても高く、志向性が合致したのではないかと分析する。

働いていることがわかる空気清浄機を目指した「BALMUDA The Pure」

 同社の空気清浄機の軌跡としては、2012年に「JetClean(ジェットクリーン)」を、2013年9月には、後継となる「AirEngine(エア エンジン)」を発売。いずれも外観は、タワー型のフォルムを採用した点が特徴だ。

 それまでの国内空気清浄機の外観が、縦長ながらもここまでの高さはなく、また奥行きの狭いフォルムが多く採用されていたところに、同社がタワー型を投入したことで、他社も追従したという実態を明かした。

 これに対し同氏は、「正直に言ってしまえば、マネということになりますが、マネをされることについては2つのことを思っています。1つは、マネされる程のクリエイティビティを実現できた証として、嬉しいということ。さらに他社の利益にも貢献できていますしね。もう1つは、相手がマネをしてきたということは、我々と同じクリエイティビティを実現できないことの証ですから、怖くないとも思っているんです。この意味では、クリエイティビティを持っている相手のほうがよほど怖いと思いますね」とした。

マネされることは嬉しくもあり、怖くない相手でもあると言う

 「僕は、これまで空気清浄機に対して、働いていることがわからない、体感できないという不満があり、長年切り込みたいと思っていました。確かに存在感があっては困る機器ですが、例えばAirEngineは、性能もスタイルも良い機器なのに、働いていることを実感できないんですね。ここをどうにかできないものかと考えたときに、光を使って可視化することを思いつきました。

 吸い込みが見える点が特徴の、今回発表した「BALMUDA The Pure」では、最大15分利用できる"ジェットモード"で運転すると下部の光で、実際にホコリが吸い込まれるのを見られるんです。また、普段から光っているので、稼動していることが分かるんですね。"よっ、お疲れ様"といったように、働いているのが見えると嬉しいものです。

 つまり、この光は演出ではありません。家電の機能を見える化することで、作用を実感してもらう、これが我々が提供する体験ということだと思っています」(寺尾氏)。

「BALMUDA The Pure」
下部の光で、実際にホコリが吸い込まれるのが見える

天井にまで届く風を実現したプロセス

 本機では、最大7,000L/分の空気を浄化でき、その風は天井にまで届く。その大風量で室内の風を循環させ、大量の空気を浄化できる。同時に0.3μmのホコリなどを99.97%浄化可能なTrueHEPAフィルターを採用する。さらに、サッカーコート6面分の表面積を持つ活性炭フィルターで、気になるニオイのすばやく脱臭するという。ファンの上に設置された「整流翼」は回転しないものの、ファンからの気流を直線化することで、風量を15%アップさせることができたのだという。

大風量で最大7,000L/分の空気を浄化できる
サッカーコート6面分の表面積を持つ活性炭フィルターと、99.97%浄化可能なTrueHEPAフィルターを搭載

 氏は「BALMUDA The Pure」に搭載した新機能について、以下のように説明した。

 「従来機であるAirEngineと比較すると、構造には大きな変化があります。吸い込み口とフィルター形状の変更、TrueHEPAフィルターの搭載、整流翼の搭載、ファンのシングル化が主なものです。

 AirEngineには、円筒形のフィルターを搭載し、周囲から空気を吸って、上部から吐き出していました。本機では、底部の穴から空気を吸って、上部に吐き出しています。そのため、フィルターは箱型のものへ変更しています。

 従来は、準HEPAフィルターを搭載していましたが、今度はTrueHEPAフィルターを搭載しています。この改良で空気の浄化率はアップしましたが、開発途中には問題もありました。当然のことながら、TrueHEPAフィルターのほうが、準HEPAフィルターよりも目が細かいため、圧損と呼ばれる空気抵抗も高くなってしまいます。

 仮に、同じ空気清浄機でそれぞれのフィルターを使った実験をすると、TrueHEPAフィルターの方が吐き出す空気が少なくなってしまうのです。そこで、様々な実験を繰り返した結果、ファンはダブルではなくシングルで、かつ整流翼を付けることが最も効率よく空気を吸い込んで、たくさんのキレイな空気を吐き出せるという結果に至りました。

 整流翼については、実は、シングルファンの吐き出す空気の効率アップを考えていたときに、1人のエンジニアが整流翼のシミュレーションモデルを作り、3Dプリンタで試作していたのです。さらにこの整流翼は、上から見たときの美しさもアップさせています」。

 整流翼を3Dプリンタで試作したというエンジニア部の猪股氏によれば、整流翼は回転しないため、風を生み出すものではなく、回転するシングルファンが作り出す風の渦を、文字通りまっすぐに方向転換する役割を持つに過ぎないという。しかしながら、この整流翼が風量を15%もアップさせている。

シングルファンと整流翼で生み出される風
3~4mはあるだろう会場の天井にも届くほどの風量があるのが分かる
吹き流しに注目。整流翼アリの左側はまっすぐ上に伸び、整流翼ナシの右側は吹き流し同士が絡み合ってしまっていることが分かる

 また現地メディアから「LGやサムスンなどの他社製品との差別化要素」について尋ねられると、「多くのメーカーは、市場や競合製品を見るところから商品開発を始めますが、我々は市場の製品を見ることはせず、自分たちのできることと、できることを通してお客様に喜んでもらうことしか考えていません。ほぼ必需品とも言える、空気清浄機がどうあるべきかを、我々なりに徹底的に考えて作りました」と回答した。

 また本機がIoT機能を搭載していない点については、2013年以降に製品へIoT機能を搭載したものの、思った程の効果が得られないためだとした。Wi-Fi機能を搭載して原価がアップすれば、当然製品価格もアップする。しかし、IoT化でできることは、スマートフォンでのリモコン操作と動作の視覚化程度になっており、使った人の満足度はそう高くはないと回答。実際にスマートフォンを取り出し、ロックを解除し、アプリを起動して、操作を選ぶというステップをユーザーに強いることの不便さを語った。

次の9年でも売上を1,850倍に

 現在、同社の製品カテゴリーは、扇風機や空気清浄機、加湿器などのエアソリューション、電子レンジやオーブントースターなどのキッチンカテゴリ、LEDライトの照明分野の3つがある。今後の同社の製品投入の予定について尋ねられると、どの分野でも順当なモデルチェンジをし、照明分野では今年か来年に新製品を投入予定があるとした。さらに、新カテゴリーの製品投入もあり得ると付け加えた。

 同社は2003年、寺尾氏が1人で自宅の自室で起業した。製品を近くの工場で作ってもらい、会社ホームページをを自作していたという。今やほぼ100倍となる97人の大所帯となり、売上も、2009年は4,500万円、「The GreenFan(ザ・グリーンファン)」を発売した2010年は2.5億円、「BALMUDA The Toaster(バルミューダ ザ・トースター)」を発売した2015年は29億円と増加。2009年から2018年の9年間で、売上は1,850倍になっている。

今やバルミューダは97人の大所帯
売上は、2009年から2018年の9年間で1,850倍になっている

 これまでの軌跡について、「どの年も思い出深く、波乱に満ち溢れ、苦しくも楽しく歩んできた」と感慨深く語りながらも、同氏が母親から「1度できたことはもう1回できる」と言われて育ったことを挙げ、次の9年でも売上を1,850倍にできるのではないかと朗らかに語った。またこれを達成できた場合は、日本有数の企業になるともした。

 実際、現在は会社の成長を実感できているとし、マーケティングや企画を担うチームが良い企画を持って来ており、品質力、クリエイティブ面、生産面などで、大手に負ける気がしないという。その一方で、会社としての小回りが効かなくなった実感もあるとした。

 1人だった当初は、当日の予定すらも自由にできたが、会社が大きくなるにつれ今週の予定を変更できなくなり、寺尾氏が個人で意思決定できる予定が先々に延びていき、現在では、2年後3年後の事柄にしか関与できなくなったという。しかし、その未来を変えることこそが"経営"であるとし、スタッフに"今"を見てもらい、経営者として先々を見据える役割になったとした。

 「元来、人間が持っている、まだ知らない物や行ったことのない場所に対する探究心というのは偉大なものです。この探究心が、科学技術などの形で人類に様々な体験を提供してきています。

 この探究心を礎に夢を見ることが、人類の最も重要な仕事の1つだと私は考えています。そしてさらに大切なのは、その夢を叶えることではなく、何度も夢を見ること、見続けること、クリエイティブの炎を消さないことです。

 次に皆さんにお会いできるのは夏、その次は秋でしょうか。またお会いできることを楽しみにしています」として、氏は会場を後にした。

本体上面
本体の操作はシンプル。右の飛行機マークのボタンがジェットモード
カバーを外すと整流翼が見える
整流翼の下にはシングルファンを備える
ファンの下には網状のカバーがあり、その下はフィルター
外したカバー(写真左下)、整流翼(写真右下)、ファン(写真上)
本体背面のカバーを外す
フィルターボックスが見える
フィルターボックスを引き出す
フィルターボックスは、ボックス状のTrueHEPAフィルター(写真右)の上に、活性炭フィルター(写真左)が乗っている
フィルターボックスを取り出した本体