e-bike試乗レビュー

予想以上にパワフル!! スコット「GENIUS eRIDE」は上り最強のフルサスe-MTBかも!?

続々と選択肢が増え続けるe-bikeの中でも、もっとも熱いジャンルがマウンテンバイクタイプのe-MTBです。特に近年は前後にサスペンションを装備した“フルサス”と呼ばれるタイプが熱い! 海外ではすでに主流となっているフルサスe-MTBの波が日本にも押し寄せているようです。今回はそんな中からスコットの「GENIUS eRIDE JAPAN SPEC LIMITED(以下、GENIUS eRIDE)」に乗ってみました。

メーカー名スコット
製品名GENIUS eRIDE JAPAN SPEC LIMITED
実売価格580,000円

e-bikeとMTBの相性が良いのは、山道を走るMTBは坂を上ることが(ほぼ)不可欠だからです。アシストの効く24km/h以下で走る場面が多いこともe-bike向きのポイント。30km/h以上で巡航するような走り方をするロードバイクなどに比べると、アシストの恩恵を感じやすいのです。

なかでも、フルサスのe-MTBが注目されるのは、前後のサスペンションが衝撃を吸収してくれるので、走れるシチュエーションが幅広いことに加えて、登坂能力が高いことです。リアのサスペンションは駆動輪を路面に押し付ける働きをしてくれるため、サスペンションがフロント側のみのハードテイルと呼ばれるタイプに比べて、アシストが強くなったと感じられるほど。こうした理由から、フルサスe-MTBは人気が高く、今回紹介する「GENIUS eRIDE」も予約生産台数分はすでに完売という状況だそうです。

アルミフレームに充実の装備

搭載されるドライブユニットはボッシュ製「Performance Line CX」。ボッシュ製ドライブユニットを搭載したフルサスe-MTBといえばトレックの「Rail.9.7」がありますが、カーボン製のフレームとホイールを採用しており価格も790,000円と高価でした。それに対して、「GENIUS eRIDE」はアルミフレームで価格もだいぶ抑えられています。それでいて、車重は23.3kgとフルサスe-MTBとしては軽量といえるスペックです。

コンパクトで軽量、そして最大トルクも75Nmと強力なのでe-MTBには適したボッシュ製「Performance Line CX」を搭載
バッテリーはインチューブタイプのボッシュ製「PowerTube 500」。アシスト走行可能な距離はEcoモードで約100~120km、Turboモードで約40~50kmとのこと
試乗車にはボッシュ製の新しいディスプレイ「Kiox(キオックス)」が装着されていました。本来は「Purion」が標準装備となります
アルミ製のフレームは、トップチューブが下げられたレイアウトでまたぎやすそう。バッテリーが内蔵されて太いダウンチューブに対して、薄くなったトップチューブのデザインもなかなか

前後サスペンションのトラベル量はどちらも150mm。「オールマウンテン」と呼ばれるカテゴリーで一般的なスペックとなっており、上りも下りも楽しめるので山道(トレイル)を走り回るにもちょうどいい感じですね。

また、このサスペンションには「SCOTT TwinLoc Suspension System」が採用されています。これは、ペダルを踏んだ際にサスペンションが必要以上に動いて力が逃げてしまうのを防ぐシステム。登坂時は前後のサスペンションを動かないようにロックアウトする「クライムモード」、ギャップを越えながらペダリングするようなシーンで最適に動くようにする「トレイルモード」、下りなど使うサスペンション性能をフルに引き出す「ディセンドモード」の3段階にサスペンションの動きを制御できます。

フロントフォークは「RockShox 35 Gold RL」。e-MTB用の設計で、高い剛性としなやかな作動を両立しており、走破性は高そう
リアサスペンションは「X-Fusion NUDE」で、ユニットの重い部分を下にして装着されていて低重心化を実現。リンクで動く部分が軽くなるので、細かい動きが良くなる効果もあります
サスペンションの動きを支えるリンク機構は、スコット独自のトラニオンマウント式。路面を捉える追従性が高く、トラクション性能にも優れています
「SCOTT TwinLoc Suspension System」の操作レバーは左手側に装備。前後のサスペンションをどちらも調整することが可能です

ホイール径は近年のMTBでは一般的な前後29インチ。径が大きいのでギャップの乗り越え性能が高く、速度維持もしやすいのが特徴です。逆に漕ぎ出しは少し重くなるのですが、アシストのあるe-bikeならその点は気にならないので、e-MTBとの相性も良好。ブレーキは4ピストンキャリパーに203mmディスクを組み合わせた油圧式で、高い制動力を発揮します。幅広のハンドルやドロッパーポストなど、最近のMTBでは標準的な装備ももちろん完備。

ホイールは29インチのチューブレス対応。タイヤはフロントにはグリップ性能の高いSchwalbe製「MagicMary」で太さは2.6インチです
リアタイヤは、同じSchwalbe製でも耐久性の高い「Hans Dampf」が装着されています。駆動力が高いe-MTBだからこそありがたい装備
ブレーキは、前後とも203mmディスクと4ピストンキャリパーという強力なもの。車重のあるe-MTBで山道を走るなら必須の装備でしょう
ハンドルは荒れた道でも抑えやすい780mm幅。山の中は走りやすいですが、歩道を走ることはできません
走りながらサドルの高さを変えられるドロッパーシートポスト
平坦な道や上り坂ではペダリングしやすい高さに、腰を引いて乗りたい下りでは邪魔にならないように下げることが可能
変速ギアはスラム製「SX Eagle」の12速。フロントに変速は搭載せず、リアのギア板を最大50Tとすることで、軽いギアも選べるようになっています

乗りやすいポジションと登坂力が魅力

フルサスe-MTBというと、玄人向けなイメージがあるかもしれませんが、この「GENIUS eRIDE」はMTBに慣れていない人でもかなり乗りやすそうです。まず、ライディングポジションは前傾姿勢がキツすぎず、上体が起きているのでリラックスして乗れます。まずは街中で乗ってみたのですが、ハンドル幅が広いこと以外、特に気になるところはありません。オフロード向けのタイヤは太くてブロックが高いので、抵抗が大きそうですがアシストがあるので想像以上にラクに進みます。29インチのホイールは速度が維持しやすいので、街乗りでも十分e-bikeらしい快適さが味わえました。

特に、このモデルは前後のサスペンションをロックアウトできるので、舗装路でも力が逃げにくい。クロスバイク並というと言い過ぎですが、それに近いくらいの速度で巡航できます。現行のフルサスe-MTBの中では、もっとも街乗りで使いやすいモデルだと感じました。

車重はありますが、サスペンションが余計に動いてしまうことがないので、フルサスe-MTBとしてはかなり快適に街乗りができます

続いて、オフロードでの走行性能を体感するため、コースに持ち込んでみました。訪れたのは、都内からもアクセスのいい「フォレストアドベンチャー・よこはま」です。ここは上りも下りもあるコースなので、e-MTBの走行テストには最適。レベル別に3種類のルートを選べるので、コース初心者に人にもオススメできます。

実際にオフロードコースを走っても乗りやすいという印象は変わりません。アップライトな乗車姿勢は前方が見渡しやすいので、変化の激しいMTBコースも走りやすい。街中では幅広に感じたハンドルも、オフロードでは車体を抑えやすくちょうど良く感じます。

MTBコースに持ち込むと、水を得た魚のように楽しく走れます。ライディングポジションもアップライトなのでリラックスしてライディングを満喫できました

そして、オフロードを走って感心したのがアシストのパワフルさ。もともとボッシュ「Performance Line CX」は強力なアシストには定評のあるドライブユニットですが、特に「GENIUS eRIDE」ではパワフルに感じます。リラックスした姿勢でペダルを回していれば、急な坂道もスイスイ上って行けるだけでなく、ここぞという場面でペダルを強く踏み込むと、車体をグッと押し出すようなパワーが感じられます。

フルサスe-MTBは、リアサスペンションが後輪を地面に押し付けてくれるので、アシストが強くなったように感じられるのですが、その中でもこのモデルはパワフル。これまで乗ったe-MTBの中でももっともアシストが強いという印象でした。

同じドライブユニットを搭載したモデルよりもパワフルに感じられたのは、リンク機構の違いによるところが大きいと思われます。フルサスモデルのリンク機構は、車体メーカー各社がそれぞれ独自のシステムを採用していて、メーカーごとの特色が出ている部分。スコット独自のトラニオンマウント式は、駆動力を路面に伝えるトラクション性能に優れていると定評があるので、駆動力の高いe-MTBでは、その部分がより如実に感じられたのでしょう。

ギャップを越える部分でペダルを踏むと、フロントが浮き上がるほどの強力なトラクションが感じられました

下り斜面でのコントロールのしやすさも、かなりのレベルでした。車重は23.3kgありますが、重心が低いところに集まっている設計なので、オフロード走行でもとても安定しています。ブレーキも強力でコントロール性も高いので、コースの曲がりくねった下りも安心して駆け抜けることができました。ホイール径は29インチと大きめですが、タイトなコーナーでも曲がりにくさを感じることはありません。初めてオフロードを走るような人には、この安心感はありがたいことでしょう。

下りながら曲がって行くコーナー(しかも路面は結構滑りやすい)も安心して曲がって行くことができます

強力な登坂力に、乗りやすいライディングポジション、そして、安心して下りを攻められる設計と、e-MTBに求められる性能はすべて備えたスコットの「GENIUS eRIDE」。初心者にも乗りやすい車体なので、これからオフロードを走ってみたいという人には最適な1台と言えそうです。しかも、フルサスe-MTBの中では、街乗りにも向いているサスペンション機構を備えているので、普段使いも問題なくこなしてくれそうです。初代モデルはすでに完売していますが、さらに進化した2021年モデル「GENIUS eRIDE2 JAPAN SPEC LIMITED」が今秋発売予定。価格は少し上がって638,000円となる予定ですが、e-bikeでオフロードを走ってみたいと考えている人には見逃せないモデルです。

増谷茂樹

乗り物ライター 1975年生まれ。自転車・オートバイ・クルマなどタイヤが付いている乗り物なら何でも好きだが、自転車はどちらかというと土の上を走るのが好み。e-bikeという言葉が一般的になる前から電動アシスト自転車を取材してきたほか、電気自動車や電動オートバイについても追いかけている。