e-bike試乗レビュー

コスパ抜群!! スコットのハードテイルe-MTB「SCALE eRIDE」はお買い得かも

スコット「SCALE eRIDE」

e-bikeのメリットを最も味わうことができるのは、なんといっても山を上り下りするe-MTB。悪路での走破性や下りでの快適性を重視するのであれば、前後にサスペンションを装備した“フルサス”タイプがオススメなのは間違いありません。とはいえ、フルサスe-MTBは性能が良いぶんだけ高価で、導入のハードルが高いのも事実。そして、すべての人がフルサスを必要としているかといえば、そうとは言い切れません。誰もが激しい山道をガンガン上ったり下ったりするわけではないですからね。

オンロードメインで使って、たまにオフロードも走りたいとか、初めてMTBに乗るような人にとってはフルサスe-MTBはオーバースペック。山を走っているうちに、楽しくなってどんどん激しいところにチャレンジしたくなるものですが、それを見越して50万円オーバーのフルサスe-MTBを購入できる人は限られるでしょう。舗装路で乗るには、ストロークの大きなサスペンションは動き過ぎてしまうという問題もあります。

前置きが長くなりましたが、そんな「これからe-MTBでオフロードデビューしてみたい」「普段は通勤や買い物にも使いたい」という人にオススメできるのが、フロントのみにサスペンションを装備した“ハードテイル”と呼ばれるタイプのe-MTBです。その中から、今回はスコット「SCALE eRIDE(スケールeライド)」に乗ってみました。

初めてのe-bikeにピッタリなハイコスパモデル

スコットといえば、フルサスの「GENIUS eRIDE」の登坂能力の高さが印象に残っていますが、638,000円と気軽に買える価格ではありません。「SCALE eRIDE」は、その影に隠れて目立たない存在ですが、360,800円とかなり買いやすい価格のハードテイルモデルです。

フレームはアルミ製で、フロントのみにサスペンションを装備。ドライブユニットはボッシュ製「Active Line Plus」を搭載しています。「GENIUS eRIDE」は前後サスペンションを装備し、最上位グレードの「Performance Line CX」を採用していますが、このあたりが価格差の理由のひとつです。

フロントサスペンションは、120mmストロークのSR Suntourの「XCM34」のコイルスプリングモデル。ロックアウト機構を装備しています
ドライブユニットはボッシュ製「Active Line Plus」を搭載。トルクの出方がスムーズで扱いやすく、音が静かなのがメリット
バッテリーはインチューブタイプの「PowerTube 500」で容量は500Wh
ディスプレイはコンパクトな「Purion」を左手側に装備。シンプルな作りですが、操作性の良さには定評があります
ハンドルはSyncros製で、720mmとMTBとして十分な幅を確保。普通自転車の枠におさまらないので、歩道の走行はできません
タイヤは前後とも29インチで幅は2.6インチと結構太め。ただ、ノブの低いタイヤなので舗装路を走る際も抵抗は少なそう

セレクトされているパーツを見ると、このモデルが想定する使用シーンが伝わってきます。フロントに変速機構を持たないのは昨今のMTBで共通のトレンドですが、リアの変速は9段で、最大ギアは36Tとあまり大きくありません。山の中の激坂を上るよりは、フラットな林道だったり舗装路での走りやすさを重視しているのでしょう。手のひらを受け止めるようなエルゴノミック形状のグリップが付いているのも、操作性よりも快適性を優先していることの現れ。でも、普段は街乗りに使って、週末だけオフロードに足を伸ばすような使い方には都合が良さそう。

フロントのギアは1枚のみ。32Tが装備されています。クランクはFSA製で剛性は高そう
リアディレーラーはシマノ製の「デオーレ」グレード。入門クラスのMTBとしては十分なスペック
前後ともシマノ製の油圧式ディスクブレーキ。対抗2ピストンのキャリパーに180mm径ローターの組み合わせ
エルゴノミック形状のグリップは、長時間のライドでも手が痛くなりにくい。ロックオン式で山で乗っても不安はありません
右手側にはサスペンションのロックアウト機構を操作するレバーも。舗装路で動きを制限してロスを防ぎます
タイヤはノブが低めのKenda製「Booster」で、オフロードもオンロードも快適に走れるセレクト

個人的には外観のデザインが結構好みでした。直線基調のアルミフレームは、快適性を重視したジオメトリーで欧州での人気も高いもの。グレーにイエローを組み合わせたシンプルなカラーは、山にも街中にも似合う絶妙な配色です。

またがっていると差し色の蛍光イエローが目に映えますが、周囲から見るとあまり目立たないカラーリング
ケーブルなどはフレームの中を通すデザイン。トップチューブが低めでハンドル位置が高く、またぎやすい設計

オフロードライドの楽しさを十分に味わえる走行性能

フォレストアドベンチャー・フジの周辺にある山道で試乗を行ないました。ガイドツアーも開催されるコースだけあって見晴らしは最高。天気も良かったので、常に富士山を見ながら走ることができました。

富士山を背景に出発。スタートは舗装路です

舗装路では想像以上の軽快な走り心地でした。ノブが低いタイヤを履いているのに加えて、ホイール径が29インチと大きめ(ロードバイクなどの700Cと同じ大きさ)なので、速度の維持がしやすく、アシストも強力なのでクロスバイクのような感覚で走れます。フルサスe-MTBだと、なかなかここまで軽快な感じにはなりません。

そして、オフロードに入っても軽快な乗り心地は同様。この日走ったルートは、ジープロードとかダブルトラックと呼ばれるような、林業従事者のクルマも入ってくるような道なのでハードテイルでもまったく問題なく走れました。ドライブユニットがe-MTB向けの「Performance Line CX」ではなく、「Active Line Plus」だったので上り坂などはどうかな? と思っていたのですが、まったく問題なく上ることができました。むしろ踏み出しのトルクの出方がスムーズなので、オフロード初心者にはこっちのほうが乗りやすいかもと思えるほどです。

この日は路面が乾いていたこともあり、ノブの低いタイヤでもまったく問題ありませんでした
傾斜がだんだんキツくなりますが、パワー不足を感じることもなくスルスルと上れます
最後はかなり荒れた路面となり、傾斜もかなりキツくなりましたが上り切ることができました
上り切ったところはかなりの絶景。こうした景色に出会えるのもe-MTBライドの魅力です

帰り道は上ってきたルートを下ります。スピードも乗ってかなり爽快に下って行けるルート。この下りの爽快さは、MTBライド最大の魅力だという人も多いほど気持ちいいもの。楽しすぎて、ほとんどノンストップで麓まで走り切ってしまいました。

ただ、荒れた路面に大きめの石がゴロゴロしているような箇所を下った際には、フロントサスペンションの動きがもう少しスムーズなら……と感じることもありました。ハイスピードな下りでは、やはりコイルスプリングのサスペンションより、エア圧でショックを吸収するモデルのほうがスムーズに動いてくれます。そのあたりは購入してから走る場所に合わせてグレードアップというかカスタマイズすると良さそうです。

乗り慣れてくるとフロントサスペンションは上位グレードのものに交換したくなるかもしれません

実際に舗装路と山道をしっかり走ってみて感じたのは、「SCALE eRIDE」のカバーする範囲の広さ。舗装路はクロスバイクに近い感覚で走れますし、オフロードも想像以上に高いレベルで走破できました。冒頭で述べたように、普段は通勤や街乗りに使い、たまにオフロードも走りたい人には最良の選択肢のひとつになるでしょう。

また、初めてe-bikeに乗るという人も、クロスバイクやミニベロではなくこういうハードテイルのe-MTBを選んでおくと、楽しめるシーンが大きく広がります。近年、クルマの世界ではオフロードもしっかり走れるSUVが人気ですが、そんなイメージでこのモデルを選ぶのもありだと思います。

増谷茂樹

乗り物ライター 1975年生まれ。自転車・オートバイ・クルマなどタイヤが付いている乗り物なら何でも好きだが、自転車はどちらかというと土の上を走るのが好み。e-bikeという言葉が一般的になる前から電動アシスト自転車を取材してきたほか、電気自動車や電動オートバイについても追いかけている。