e-bike試乗レビュー

同じボッシュ製ユニットでも違いを実感!! スコットのGENIUS eRIDEとトレックRail 9.7を試乗

先日、試乗レビューしたスコット「GENIUS eRIDE JAPAN SPEC LIMITED(以下GENIUS eRIDE)」ですが、同じく前後にサスペンションを装備した“フルサス”タイプのe-MTBではどんな特性を持っているのか? 先に発売されたトレック「Rail 9.7」と比較試乗をしてみました。試乗したのは「トレイルアドベンチャー・よこはま」。その際、特別にドライブユニットのソフトウェアを2021年モデル仕様(最大トルクが75Nmから85Nmにアップ)にチューニングしての試乗もできたので、その感想も合わせてお届けします。

同じドライブユニットでも乗り味が違う!?

比較用に持ち込んだ「Rail 9.7」と「GENIUS eRIDE」は同じボッシュ製のドライブユニット「Performance Line CX」を搭載しています。タイヤサイズも同じ29×2.6インチで、サスペンションのトラベル量も「Rail 9.7」が前160mm/後150mm、「GENIUS eRIDE」が前後とも150mmとほぼ同じカテゴリーに属すると考えていいでしょう。スペック上の大きな違いは、「Rail 9.7」がカーボン製のフレームであること。重量は22.77kg(Mサイズ)となっています。対して「GENIUS eRIDE」のフレームはアルミ製で重量は23.3kg。重量差も思ったより大きくありません。

トレック「Rail 9.7」。カーボンフレームを採用しているので価格は790,000円と高価です。「トレイルアドベンチャー・よこはま」では11月までレンタルが可能
スコット「GENIUS eRIDE」は580,000円ですが、今秋発売の「GENIUS eRIDE 2 JAPAN SPEC LIMITED」は638,000円となる予定

細かい部分に目を向けても、2車種のスペックはよく似ています。コンポーネンツはともにSRAM製で「Rail 9.7」がNX Eagleで、「GENIUS eRIDE」はSX Eagle(NXのほうがグレードとしては上)。変速ギアはどちらもフロント1速×リア12速です。ホイールを支える軸(ハブ)の部分はどちらも前110mm/後148mmのBoost規格。ハンドル幅が780mmでドロッパーシートポストを装備している点も共通となっています。近年のMTBでは標準的なスペックといえるでしょう。

ホイール径はどちらも29インチでタイヤの太さも同スペックですが、「Rail 9.7」はホイールも軽量なカーボン製!

スペックだけを見ると、フレームとホイールの素材以外は大きな差がないように見える2車種ですが、実際に跨ってみると乗車姿勢は結構違いを感じます。「Rail 9.7」のほうが前傾気味で、「GENIUS eRIDE」のほうはサドルとハンドルの距離が近く、上体が起きたようなライディングポジション。ハンドルを支えるステムの長さは同じなので、この姿勢の違いはフレーム形状によるものです。

姿勢が楽なほうが良さそうに感じるかもしれません。しかし、前傾姿勢のほうがペダリングの際に脚の後ろ側の大きい筋肉が使いやすかったり、フロントに荷重しやすいこともあるので、このあたりは乗り手のスキルや好みに寄るところ。ざっくりまとめると「GENIUS eRIDE」のほうが初級者でも楽に乗れる設計だといえます。

「Rail 9.7」のほうが前傾気味で“やる気”にさせるライディングポジションです
上の写真と場所は違いますが「GENIUS eRIDE」のほうが上体が起きてリラックス気味に乗れます

実際に同じコースで乗り比べて見ると、上り坂では「GENIUS eRIDE」のほうがパワフルに感じます。ドライブユニットは同じ「Performance Line CX」で最大トルク値も75Nmで同一ですから、これはフレームやリンク周りの設計による違いでしょう。

「Rail 9.7」にはトレックの特許技術である「ABP(アクティブ ブレーキング ピボット)」というリンク機構が採用されていますが、これはブレーキング時にサスペンションの作動性を良くするためのもの。一方で「GENIUS eRIDE」のリンク機構は、トラニオン式のサスペンションを上下逆にマウントし、路面追従性を高めた設計でトラクション(駆動力を路面に伝える)性能に優れています。

そのため、アシストに任せて上って行くような走り方ができました。スコットのエースライダーであるニノ・シューター選手(MTBのクロスカントリーでリオ五輪での金メダルをはじめ、ワールドカップや世界選手権も総なめにしているすごいライダー)が登坂エリアで抜き去るシーンが多いのも、このリンクシステムによるところが大きいのだとか。

とはいえ、「Rail 9.7」の登坂性能が劣るというわけではなく、こちらは前傾姿勢でペダルを踏むライダーの力とアシストを融合させて上って行く感じ
「GENIUS eRIDE」のパワフルな登坂力を実現しているのは、上下逆に取り付けられたサスペンションユニットとリンク機構

一方、「Rail 9.7」のカーボンフレームによる軽さのメリットを強く感じたのが、下りながら曲がって行くようなコーナーや、連続するカーブの切り返し。2台の重量差はわずか0.6kgほどですが、車体の上のほうに位置するフレームが軽いので、倒し込みの操作はかなり軽快。前傾でフロントに荷重しやすいポジションも相まって、スピードを上げながら曲がって行くのが爽快でした。「GENIUS eRIDE」もかなり低重心なのですが、同じコースで比較するとやはりカーボンフレームはメリットが大きいなと感じます。

スピードを付けてバンクに当てて曲がっていくようなコーナーがとにかく楽しい「Rail 9.7」

ハンドル周りを見ても、2車種の設計思想の違いが感じられます。変速レバーが右手側のみなのは共通なのですが、左手側に装備されるのは「Rail 9.7」がドロッパーシートポストの操作レバーであるのに対して、「GENIUS eRIDE」はサスペンションの動きを制限するための「SCOTT TwinLoc Suspension System」用のレバー。どの機能を重視するのか、メーカーの考え方が現れている部分です。

左手側の“特等席”には上りなどでサスペンションの動きを制限してペダリング効率を高めるための「SCOTT TwinLoc Suspension System」用のレバーが
ドロッパーシートポスト用のレバーは右手側にあるので、シフト操作もしなければならず右手は結構忙しい
前後サスペンションの動きを調整するためのケーブルが加わるため、ハンドル周りのケーブルはかなり数が多い
「Rail 9.7」は右手でシフト、左手はドロッパーシートポストと操作系がシンプルでわかりやすい

大まかに評価すると、上りを楽にこなせる「GENIUS eRIDE」、下りを積極的に攻められる「Rail 9.7」と得意とするシーンは少し違いますが、走れる場所には差はありません。「Rail 9.7」もガンガン登坂できますし、「GENIUS eRIDE」も激しい下り坂も攻められます。ただ、乗り比べてみると、予想以上に性格が違うことがわかったので貴重な体験でした。

2021年仕様の85Nmという高トルクも体験

スコットからはすでに2021年モデルの「GENIUS eRIDE 2 JAPAN SPEC LIMITED」が今秋に発売されることがアナウンスされています。このモデルで注目すべき点は、ソフトウェアが最新版にアップデートされた「Performance Line CX」が搭載されること。このアップデートによって最大トルク値が85Nmに向上しているのです。今回は、特別にソフトウェアを最新仕様に書き換えてもらって試乗することもできました。

ただ、試乗前にボッシュの担当者に言われたのは、どんなシーンでもパワーアップが体感できるものではないということです。日本の法規ではアシストは人力の2倍までと定められているので、最大トルクの向上を体感しようと思ったら40Nmくらいの力でペダルを踏む必要があるからです。実際に自分がどれくらいの力でペダリングができているのかはよくわかりませんが、とりあえずコースの上り斜面に漕ぎ出してみました。

違いを感じられるのか? 半信半疑のままコースへ走り出す

「トレイルアドベンチャー・よこはま」はe-bike専用に設計されているわけではありませんが、上りはそこそこ急坂です。そんな場面でも、85Nmにトルクアップした恩恵はすぐに感じることができました。それまでと同じ感覚で、上りに差し掛かった際に強くペダルを踏み込むと、後輪が一瞬空転してしまったほどパワフル!! 平坦な道では違いを感じるのは難しいかもしれませんが、トレイル(山道)を走るのなら、その差は確実に実感できるはずです。

上りが得意が「GENIUS eRIDE」がさらにパワフルに!! これなら上りでさらに楽ができそう

同じドライブユニットを搭載したフルサスe-MTBとの比較で、より登坂性能の高さを実感できた「GENIUS eRIDE」。さらに2021年モデルは最大トルクが85Nmに!! さらに力強いアシストが得られるようになりました。これからオフロードデビューを考えている人はもちろん、昔のMTB経験者でもう一度トレイルを楽しみたいと思っているライダーにとっても魅力的なモデルであることは間違いありません。

増谷茂樹

乗り物ライター 1975年生まれ。自転車・オートバイ・クルマなどタイヤが付いている乗り物なら何でも好きだが、自転車はどちらかというと土の上を走るのが好み。e-bikeという言葉が一般的になる前から電動アシスト自転車を取材してきたほか、電気自動車や電動オートバイについても追いかけている。