藤山哲人の実践! 家電ラボ
100年前の製品を、いまだに年間10万個も売るパナソニック
100年前の製品を、いまだに年間10万個も売るパナソニック
2018年8月28日 06:30
世の中には空気みたいな存在が多々ある。家族や恋人、スマホにインターネット、動いてて当然の交通機関やWi-Fiなどなど。水道、ガス、電気もライフラインと呼ばれるほど、空気みたいな存在だ。
実は家電(?)の中にも空気みたいなヤツがいる。いつも使っているのに、何も気にならないもの。それは壁のスイッチとコンセントだ。「いつも気にして使ってるから」と反論する方には、ボクから質問! アナタの壁コンセントやスイッチのメーカーは?
この質問に答えられる方は、ほとんどいないだろう。
でも、お宅の壁コンセントはきっとパナソニック製。
なぜならパナソニック製の壁コンセントは、デザイン豊富で施工も簡単、めったに壊れず使いやすくて、価格も安い。つまり、ほかに選択肢がないほどパナソニックの独擅場となっているからだ。
今回は、毎日屋内配線をしている電気工事士でも「マジかよ!」的な、スイッチとコンセントの生産ラインとその歴史をご紹介しよう!
100年前の製品が未だに現役!? どころか年間10万個の売れ筋!
パナソニックは創設100年になる。驚くのは100年前に開発した製品を今でも売っているということだ。しかも当時とほとんど同じものをだ。それが数種類あるってのが驚き、いや脅威すら感じる。
その製品は「セパラボディ」……正式名称は「セパラブル・プラグボディ」という。
馴染みのない製品だが、お祭りの縁日で屋台が電球ソケットからコンセントを取っているのを見たことがないだろうか? パナソニックが1918年(大正7年) に、これの前身にあたる「アタッチメントプラグ」を開発・販売したのが始まりだ。
現在販売中のセパラボディとアタッチメントプラグは、電球ソケットにねじ込むところは一緒。だが電線の差し込みが、現在はコンセントのメスに、大正時代はコンセントの規格がなかったので、電線をネジで固定するというものだった。
当時は明治時代のガス灯から、ようやく電球に変わろうとしていた過渡期。電気は電球で明かりを取るためのもので、コンセントというものはなかった。各家庭に届く電気は、電球用の電線が1本通るというものだったのだ。
ようやく扇風機などの家電が登場するも、家にあるのは電球のネジ式ソケット1つ。夜に明かりをとろうとすれば扇風機が使えず、涼を取ろうとすれば電球が使えず不便をした。なぜなら当時の電気の契約は、「一戸一灯契約」というもの。1カ月の定額料金で、1世帯で1個の電球を使ってもいいですよ! という料金体系だったのだ。
そこで登場したのがパナソニックの「2灯用差し込みプラグ(クラスター)」。電球ソケットにねじ込むと、電球ソケットを2つに分けられるのがクラスター。先のアタッチメントを使うと、電球で明かりを取りながら、扇風機が使える夢の生活ができた。一方差し込みプラグは、アタッチメントなしでもソケットの横から電気を取れるようにしたものだ。
そんなわけでいずれの製品も大ヒット。しかもパナソニック製は他社に比べ3〜5割も安いのに、製品の性能が良いとあって、会社は急成長するのだった。以降も色々な電球ソケットを開発し、中にはいまでも販売されているものもある。
こうしてパナソニックは、家庭用の電気と、黎明期から現在までの100年間を一緒に歩み、電気の普及とともに安くて便利な配線用の部品を作ってきたのだ。もちろんさまざまな家電製品も開発してきたが、まさに裏方の縁の下の力持ち的な存在だったことも忘れてはならないだろう。
あなたのお家の壁コンセントはどのタイプ?
配線機器は、時代とともに変化していく。中にはパナソニックが開発したものが、そのままJIS規格に採用されるなどして、広く普及したものもあり、その尽力は計り知れない。
これらのコンセントやスイッチは埋め込み型と呼ばれるもので、壁に穴を開け「埋め込む」タイプ。壁との一体感があるので、一番多く使われるタイプだ。
もう1つは露出タイプと呼ばれるもので、家を建築したあとでコンセントを増設する場合などに使われるタイプ。コンセントの電源をON・OFFする露出スイッチがついている場合もあるだろう。
パナソニックは、津工場でこれらの製品を製造しており、国内シェアの80%を握っている。が、筆者が思うにはDIYショップの配線コーナーに行くと (学生時代に取得した電気工事士の資格があるので、簡単な屋内配線工事なら自分でやっちゃう) 、埋め込みタイプはパナソニック一色で選択の余地はないので、埋め込みに限るとほぼ100%という感じだろう。
なぜなら安いのに壊れず、安全な部品だから。しかも埋め込めるコンセントやアンテナ線などの機器の種類がハンパないので、とにかく便利なのだ。さらにすごいのは、その互換性。昭和時代のコンセントを現在のものに使っても、壁の穴がそのまま利用でき、施工も数分で終わってしまうほど簡単なのだ。
安さの秘密は自動化された生産ラインと曲げ機と成型機
単純そうに見える壁コンセントだが、分解すると意外に部品点数があってちょっと驚き。いつも見慣れた差込口の樹脂、それを支える鉄製のフレーム、コンセントの刃を受け止め電気を流す銅、普段はまったく見ることのできないコンセント裏側の樹脂に、配線を差し込む部分に、配線のロック機構などさまざまだ。
これらの部品はすべて津工場で作られる。完成したコンセントの価格は、1個数百円、ヘタをすると1個が数十円という機器すらあるので、すべて中国製なのかと思いきやMade in Japanなのだ!
そこまでコストを抑えられるのは、ほぼフルオートの生産ラインだから。大量生産することで、高品質で高い信頼性の製品を安く提供できるようだ。
まずは金属製の部品から見ていこう。ほとんどの金属部品は「抜き」と「曲げ」の工程から作られる。抜きは金属から部品の形打ち抜くこと。ノコやレーザーでカットしていては時間がかかるので、プレス機を使って同じ形に部品をどんどん打ち抜く。要はダンボールと同じで、展開図を作ってその形どおりに抜くというわけだ。
次は曲げ工程。人が曲げ加工する場合は、色々持ち替えて曲げればいいが、機械を使う場合は単純化したり、曲げる順番を工夫して、複雑な形に仕上げていく。
加工の要は金型。1つの金型には、抜きや曲げの工程がいくつか作り込まれており、テープ状になった金属を少しずつ送り込んでは、プレス機で圧をかけ部品を作っていく。
テープ状の金属にも色々あり、銅や真鍮をはじめ鉄やステンレス系のものまでさまざま扱っているようだった。
中でも複雑な曲げ加工は、配線をロックするための金具だ。金属を折り畳むような加工が必要なので、プレス機では作れない。そこで複雑な形状の部品は、特殊な曲げ機をオリジナルで製作。完全機械化することで、生産効率とコストダウンを図っている。
いっぽう金属部品を収める外側のハウジング(ケース) は、樹脂で製造。加工には2つの方法があり、真空射出成型と圧縮成型を使っているという。大型スイッチのカバーなど熱の影響を受けにくい肉薄な部品は、樹脂を加熱して溶かしそれを型に流し込む(真空) 射出成型を使う。
金属部品の土台となる緑色の部分やコンセント、従来型の小さいスイッチは圧縮成型する。型にペレットや粉末状の樹脂(ユリアという樹脂でラーメンのれんげやお皿に使うメラミンに近いもの)を入れ、オスとメスの金型で圧をかけることで硬化するというものだ。こられの樹脂は難燃性が高いうえ、肉厚でしっかりしたものが作れるのが特徴。
これらの部品は自動搬送機などでいったん倉庫に入れられ、先入れ先出しで最終アッセンブリ工程に回る。
最終アッセンブリもすべて自動化。部品搬送車で運ばれた部品は、ロボットアームでラインにセットされ、工程ごとにあるロボットが部品をセット、最終的に私たちが目にするふたの部分がかぶせられ、金属のプレートでカシメて固定されるのだ。接着剤や半田付けは一切なし。とにかくロボットが簡単に早く作れるように設計されているのも特徴だ。
完成した製品は、数をまとめて小箱にパッキングされる。電気工事士の方はよくご存知の、青や緑のあの箱だ。小箱を組み立てるのもロボットで、そこに入れるのもまたロボット。最後は小箱を何十個かをセットにしてダンボールの大箱に入れる。
お国柄でも異なる世界コンセントの事情
日本の住宅ならまずパナソニック製と思われる壁コンセントやスイッチ。いや、家だけでなく公共機関や会社や学校、そこかしこで使われているパナソニック製の配線器具。
でも、まったく見たことのないパナソニック製のコンセントを紹介しよう! それが海外向けの製品だ。デザイン的に面白いものもあり、これ使いたいナー! と設計士や電気工事士の方は思うだろう。筆者もだ(笑い) 。が! 「国内では購入できない」ということだったので、ここでは写真のみを掲載しておこう。
厳選! 面白コンセント! こんなのつけてみたらどう?
パナソニックのコンセントは、差し込みやスイッチだけでなく、センサーや面白機能を持つものがある。ここでは厳選した面白コンセントをご紹介しよう、
<<< USBコンセント
喫茶店やビジネスホテルでよく見かけるようになったのが、壁コンセントや机のコンセントの脇に、USBの差し込みがあるタイプ。
コンセント2個分サイズのUSBコンセントは、2A出力まで対応している。1個分サイズは、1.5Aまで。
寝室のコンセントをこれに変えれば、USB ACアダプタ不要ですっきり。
また壁埋め込み式ではなく、露出タイプも。
<<< スワイプで明るさを調光
押すごとに照明をON/OFFできる壁スイッチ。しかし照明をONにして、スイッチ部分を上下にスワイプ(指でなぞる)すると、明るさの調整ができるというもの。
ダイヤル式はダサい! という場合は、リビングなどで使ってみては?
<<< 階段灯が自動でON/OFF
上下階で階段灯をON/OFFできるスイッチ。それをセンサーで自動化したのがこれ。上階の階段に近づくと階段灯がON、下に降りると自動でOFFになるスイッチ。消し忘れがなくて便利。
<<< トイレまでの通路に自動点灯の常夜灯
廊下の常夜灯は、夜間常につけていて電気代がもったいないという人には、人が近づいたときだけ点灯する常夜灯。寝室からトイレまでの廊下につけると便利。
<<< 壁スイッチのパッドが取れてリモコンに!
寝室にぜひつけたいのが、コレ。普段は普通の大型スイッチとして。寝る前には、壁スイッチのパッドを取り外すと、リモコンになるというもの。ベッドで本を読んでから寝るという人は、めちゃくちゃ重宝するはず。
<<< マグネット式コンセント
廊下や通路など、人通りが多くコンセントから電気を取ると、コードに足を引っ掛けそうという場合にオススメ。コンセントがポットのコードのように磁石式になっているので、もしコードに足を引っ掛けても、スグに外れて安全。
<<< スイッチ裏の隠しコンセント
通常は大型の壁スイッチ。しかしスイッチのパネルを開くとコンセントが使えるというもの。洗面所や台所など、ちょい使いの家電がある場所に。
創業者松下幸之助の血が色濃く残るパナソニックの工場
100年前に始まったパナソニックの歴史。それは安くて安心して使える家庭内配線器具から始まった。ともすれば設計~製造をオール中国で価格を抑えがちな配線機器。しかし高度な自動化により、設計から製造まですべて国内、津に集約することで、中国製に負けない価格でかつ、性能や耐久性も犠牲にしないのがパナソニックの屋内配線機器だ。
また家族みんなの使い勝手はもちろん、電気工事の施工のしやすさまで追求している点も、国内のほとんどの壁スイッチやコンセントがパナソニック製ということにつながっているだろう。
電気工事士のみなさんも、今後はあの青や緑の箱を開けるたびに、機器を見る目が変わっていくはずだ。
毎日何回、何十回も使う壁スイッチやコンセントだからこそ、使いやすいものを選びたい。以下のページをご覧になって、へー! こんなものがあるんだ! と、文房具を見る感覚で楽しんでもらいたい。
▼パナソニック 電設資材のカタログページ
とはいえコンセントやスイッチの交換をするには、ハウスメーカーやビルダー、パナソニックのお店に相談するといいだろう。
※工事には電気工事士の資格が必要です。