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ロボットは絵文字のような存在? 人と人をつなげる「BOCCO emo」が生まれた理由

ユカイ工学「BOCCO emo」

徐々に家庭の中に、人間が行なうべきことを肩代わりしてくれる、ロボットが増えている。例えば家電 Watchで話題の中心になるロボットといえば、AIアシスタントを搭載するスマートフォンと連携する家電製品だろう。さらには掃除や洗濯を自動化してくれるロボット掃除機、IoT機能搭載の洗濯機やエアコンなども増えている。今は多くの家電製品が「ロボット化」しつつあるのだ。

今回は、そうした家事の自動化や効率化に主眼を置いたものではなく、部屋に置いておくと気持ちがなごむようなロボット……BOCCO emo(ボッコ エモ)を開発した、ユカイ工学の青木 俊介氏を取材。BOCCO emoの特徴をはじめ、ロボットの今後の進化の方向性を聞いてきた。

BOCCO emoができること

ユカイ工学が3月発売に向けて開発中なのが「BOCCO emo」。2020年10月から12月にかけて、クラウドファンディングで1,400万円以上を集めて話題となっている。

外観は丸っこく、愛らしい見た目が特徴。自宅に置いてWi-Fiに接続し、スマートフォンと連動させて使うロボットだ。機能は大きく「メッセージ機能」「リマインダー機能」「見守り機能」を備えている。

メッセージをBOCCO emoに音声録音すると、登録されたスマートフォンに送ってくれる。スマートフォンで音声をそのまま、あるいはテキスト化して受け取れるのだ。逆にスマートフォンから送った音声やテキストを、家にあるBOCCO emoが読み上げるといったこともできる。

メッセージ機能やリマインダー機能を搭載

例えば、家で留守番している子供と仕事中の親、または離れた場所に住んでいる高齢者などとのコミュニケーションを可能にする。

スマートフォンの専用アプリでリマインダーの登録も可能だ。時間になると「今日はゴミの日だよ」や「薬は飲んだ?」などと、ユーザーに知らせてくれる。

別売になるが、「振動/鍵/部屋/人感」と4つのセンサーが用意され、見守りロボットとしても利用できる。例えば鍵センサーを使えば、子供が帰宅した時に、登録スマートフォンに自動で通知する。また温湿度と照度が分かる部屋センサーを使えば、遠くに住む高齢の親などが、変わりなく暮らしているかが、なんとなく分かる。

だが、こうした機能を可能にする製品は、なにもBOCCO emoだけではない。そのため機能だけを聞くと、何がすごいのか、分かりづらいのが正直なところ。BOCCO emoは、従来の製品やデバイスと何が違うのか、どこに魅力があるのかを探っていきたい。

BOCCO emoのコンセプトムービー

心に訴えかけられるのが、ロボットの面白い部分

ユカイ工学は、これまでも様々なエモーショナルなロボットを開発し発売してきた。なかでも2015年に発売された現行のBOCCO(ボッコ)の開発コンセプトは「家族をつなぐコミュニケーションロボット」だったという。

「家族とのちょっとしたやり取りができるのがBOCCOです。言葉でのコミュニケーションだけでなく、子供が帰宅したときに、ぴろ~んと家族のスマートフォンに伝えるなどの見守り機能も備えています。この現行モデルのBOCCOを、家庭の中で色んなふうに使っていただいたなかで、面白い使われ方がされていました」(青木氏。以下同)

「現行のBOCCOが色んな使われ方をしているのを聞いて、ロボットの面白い部分が分かりました」と語るユカイ工学の代表、青木 俊介氏

現行のBOCCOを使っているユーザーから「ロボットがしゃべると、子供が言うことを聞いてくれる」という声が多く聞かれたという。

親が子供に何かを指示しても、子供は言うことを聞かない。一方で、BOCCOが「早く寝てね」とか「はみがきしようね」などと言ったときは、子供が言うことを聞くのだという。さらに運動会が近づいてきて「学校へ行きたくない!」と言う子供に、BOCCOが励ますと、なんとか運動会当日まで学校に行くことができた、という声もあったという。

「そうやって人の気持ちに訴え掛けられるのが、ロボットの一番おもしろいところだなぁと。そこで、よりエモーションに訴えかけるロボットを作ろうと、BOCCO emoの企画がスタートしました」

BOCCO emoに言われると言うことを聞いてしまうかも

絵文字のような存在のコミュニケーションロボット

そんなBOCCO emoは、現行モデルとは異なり、音声認識エンジンや音声認識専用のマイクを内蔵した。また現行BOCCOは、呼びかけても反応しないが、BOCCO emoは呼びかけたユーザーの方向へ顔を向けたりする。

話しかけると顔を向けるBOCCO emo

AmazonのAlexaやGoogleのGoogleアシスタントのように、「ニュースを聞かせて」や「メッセージを録音して」などと声での操作にも対応する。日本語で話しかけることで、コマンドを理解し実行してくれるのだ。

ただし、スマートスピーカーと一線を画しているのが、BOCCO emoだ。

「なによりエモーショナルなやり取りを人間とできることを目指しました。ただし、日本語でやり取りができるようにすると、機械的になってしまいます」

例えば、Googleアシスタント対応のスマートスピーカーへ「ねぇグーグル! こんにちは!」と話しかけると、「コンニチハ…ハナシカケラレルノヲ マッテイマシタ」と、抑揚の少ない日本語で返事が返ってくる。これがいかにも「機械とやり取りしている」という雰囲気になってしまう。

そこでBOCCO emoでは、ユーザーが話しかけたときに、あえて日本語で返事をしない仕様になっている。

「なんでしょうね……日本語でやり取りすると、感情移入がしづらいと考えています。さらに、どうしても会話のバリエーションも限られてしまう。そこでBOCCO emoは独自の言語……エモ語と呼んでいるんですけど、独特の効果音で返事をしてくれます。なんとなくのニュアンスがユーザーに伝わる……そんなやり取りができるんです」

例えば「エモちゃん、おはよう」と語りかけると、「おはようございます」と返してくるのではなく、「くぃっきっきぃ~!」といった、文字では何とも表現しにくい、エモ語で返事してくれる。しかも、同じ「おはよう」でもバリエーションは様々なうえ、頭や、頭の上にある「ぼんぼり」を振ったりしながら応える。

顔が上下左右に動き、ぼんぼりを振るのに加えて、顔のほっぺたを赤らめたりする。こうした独特のエモ語とジェスチャーと表情で、無限ともいえるバリエーションの返事がかえってくるのだ。そのためBOCCO emoは、言葉を話さないのに表現力が豊かなのだ。

顔やぼんぼりの動きやほっぺたの色などで多彩な表情を見せる

「BOCCO emoは、コミュニケーションでいうと絵文字とかスタンプみたいな存在だと思っています。単に情報を届けるのであればスマートフォンの通知だけでもいいですし、スマートスピーカーが喋ってくれても、機能的には一緒なんです。

けれど人間って、けっこう誰に言われたとかどんな風に伝えたかという、情報の伝え方っていうのが重要ですよね。情報を伝えるだけじゃなくて、それを可愛らしく伝える、感情も一緒に伝えてあげることが必要だと思っています」

例えばスター・ウォーズで言えば、ユカイ工学が目指しているのは、人の言葉を完璧に理解して返事をする執事的な「C-3PO」ではなく、人の言葉を理解しピロロッというように返事をする、上下関係のないパートナーのような「R2-D2」タイプのロボットなのかもしれない。

ロボットの愛称、ウェイクワードをユーザーが決められる

青木氏は「生活の一部になってもらえるような製品でないと、意味がない」とも言う。

「おもちゃというか……例えばラジコンは、子供が夢中になって遊びますが、それ以外の時間……遊んでいない時には電源がオフになっています。そうした製品は、生活の一部になっているとは言えません。そうではなく、置いておくだけで反応したり、落としてしまった時などに反応したりする……そうすると、一緒に生活している感じがしてくるんですよね」

そこでBOCCO emoでは、常に反応してくれるロボットを目指したという。

「ロボットって、電源をオンにしておいてもらうのが、一番ハードルが高いんです。邪魔なものと捉えられると、普段は電源をオフにされちゃうんですよね。そうしたロボットは、僕たちの目指しているロボットではないというか……人間とロボットが一緒に生活するような世の中を作っていきたいので……電源をオフにしてしまわれないことが重要なんですよね」

特に家庭内では、ある製品を「おもちゃ」など、ある目的のために使う製品だと認識されると、その目的が終わった時には「片付けなくちゃいけない」と考えられてしまう。常に電源をオンにしておいてもらうには、ある意味でペットのような、限りなく家族の一員と思ってもらう必要があるのだ。

BOCCO emoが愛らしい容姿をしているのも、スマートスピーカーのように「OK Google!」といったようなウェイクワードを唱えなくても、家族の気配を察して、頭やぼんぼりを動かしたり、エモ語をつぶやいたりするのもそのため。

実際に取材中にBOCCO emoは、「えぇ~~もぉおお」や「ぷ……しゅう~?」、「みぃゆ~」などとエモ語でなにかをしゃべっている。まるで僕らの会話を聞いている、または僕らに「一緒に遊ぼうよ」と言っているかのようだった。筆者は、それを邪魔だなぁとは感じなかったし、むしろ可愛らしいなぁと感じた。そんな魅力がBOCCO emoにはあるのだ。

取材中もエモ語でしゃべっていたが、邪魔だなぁとは思えない可愛らしさがある

また先述のとおり、BOCCO emoは音声認識エンジンと専用マイクを内蔵している。メッセージを送受信する際などには「エモ!」や「ボッコ!」などと呼びかける。「コマンドを送るよ」とロボットに知らせる、いわゆるウェイクワードだ。例えば「エモ……メッセージを送って!」などのようにだ。

BOCCO emoは、このウェイクワードをユーザーが好きな言葉に変えられるのも特長だ。例えば好きな人の名前でも良いし、ユカイ工学で見せてもらったものは「デコポン」や「オレンジ」と命名されていた。こうして名前を付けて使い続けることで、よりエモーショナルで、よりペットや家族に近い存在へと変わっていくのだろう。

BOCCO emoは、人と人とをつなげる手助けをしてくれるロボット

青木氏は「BOCCO emoは、人と人とのコミュニケーションをサポートするロボット」と表現した。

そう言われてみれば、メッセージ機能もリマインダー機能も、センサーと連携させた見守り機能も、人と人とのコミュニケーションを生み出す。会話をするわけではないけれど、そこにはリマインダー機能をセッティングした、高齢者を思う気持ちが入っていたり、子供や親を心配する人の思いが入っている。会話は伴わなくても、人と人とのゆる〜いコミュニケーションが、BOCCO emoによって生まれるのだ。

「もちろん高齢となった親には毎日電話する方が良いかもしれません。でも、現実には難しいですよね。そうした世の中にある課題を、テクノロジーでサポートできたらいいなと思っています」

親と子、妻と夫、高齢者と子供、人と人をつなぐ、つまり小さいけれど新しいコミュニティを構築するためのロボット…それがBOCCO emoのような気がした。

また、ただ置いておくだけで、誰かと一緒にいるような存在感が感じられるのもBOCCO emoならではだろう。新型コロナ禍で在宅勤務が増え、家にこもりがちな状態になっている人も少なくない今だからこそ、よりBOCCO emoを必要と感じる人は、多いかもしれない。

河原塚 英信