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「日常」と「低価格」でスマート家電をもっと身近に。独自路線の+Styleが魅力的な理由

プラススタイルの近藤正充 取締役社長兼CEO

インターネットやスマートフォンの普及に伴い、インターネットに接続する機能を持ったIoT機器やスマート家電の普及も進んでいる。そうした中、IoTに特化したECサイトとして存在感を高めているのが、プラススタイル株式会社が運営する「+Style」だ。

2016年3月の設立以降、スタートアップの製品を中心に世界中のIoT機器やスマート家電を国内で販売。2019年8月には自社でIoT機器を開発するオリジナルブランド「+Style ORIGINAL」を立ち上げ、IoTメーカーとしてのビジネスにも乗り出した。単に“販売するだけ”ではなく、同社のノウハウを活かして自社開発も行ない、しかも低価格を実現しているのが同社の大きな特徴だ。

次々に魅力的なIoT機器を世に送り出す+Styleの経緯や現状、そして今後の展開について、プラススタイル取締役社長兼CEOの近藤正充氏に話をうかがった。

+Styleのスマートホーム製品

シリコンバレーで感じたIoTの可能性。ECに特化する理由とは?

+Styleの創業は、近藤氏がソフトバンクでスマートフォン商品企画の責任者を務めていた頃、シリコンバレーに駐在していた時の体験がきっかけだという。当時のシリコンバレーではハードウェアスタートアップブームが起きており、最先端のIoT機器が次々に登場。近藤氏も自ら購入して体験する中で、IoT機器の可能性や未来に期待していた。

一方、駐在期間を終えて戻った日本では、シリコンバレーほどの盛り上がりを見せていないものの、IoTというキーワードを目の当たりにする機会が増えるなど流行の兆しを感じる状態だったという。元々シリコンバレーでもIoTの可能性を経験しており、「アメリカや海外で流行していたものは日本でも流行する可能性が大きい」と考えた近藤氏は、日本で+Styleの創業を決意した。

サービス開始当初は、世界中のIoT機器を販売する「ショッピング」に加え、消費者から欲しいIoT機器のアイディアを募る「プランニング」、消費者から資金を集めてハードウェアを開発する「クラウドファンディング」という3つのカテゴリーでサービスを展開。しかし、現在の+Styleはショッピングに注力しており、消費者からのアイディアの窓口としてプランニングは設けているものの、クラウドファンディングについてはサービスを終了している。

近藤氏はクラウドファンディングについて「日本に寄付文化がないとか、品質にこだわる人が多く、長期間は待てないという人も多かった」と振り返り、「当時は日本のみなさんが資金を出してくれて一から商品を開発できるのではと期待していたものの、実際には思うように展開できなかった」とコメント。現在のクラウドファンディングも、プロダクトに関してはマーケティングの要素が強く、開発費を集めるというより単なる先行販売に近いとの考えから、+StyleではクラウドファンディングではなくECに特化することで、自身が魅力的に感じた商品を消費者へ直接届ける道を選んだ。

一方で、クラウドファンディングを完全に否定したわけではない。+Styleのユーザー層以外へアプローチするための手段として、2020年末には人感センサーを搭載したスマートLED電球の新モデルのクラウドファンディングをMakuakeで実施。数千円台という手ごろな価格帯ながらも100人以上の支援者を集めて50万円の目標を達成した。同製品はクラウドファンディング後に一般販売を行なう予定だ。

日常生活で使う製品のIoT化でユーザーの裾野を広げる

現在+Styleが取り扱う製品は大きく2つに分類される。1つは、国内外で注目のIoT機器やスマート家電を日本向けに販売するECサイトとしての側面。もう1つが+Styleオリジナルのスマート家電を販売する「+Style ORIGINAL」だ。

+Style ORIGINALの特徴は、日常生活で使う、なじみの深い製品が中心となっている点にある。IoTというと一風変わった機能を持ったガジェットや、多彩な機能を搭載したハイスペックな商品というイメージが強いかもしれないが、+Styleのラインナップは電球や掃除機、加湿器、コーヒーメーカーなど、「普通」のラインナップであることがむしろ個性となっている。

スマホや声で操作できる「スマート加湿器」。インテリアライトとしても使える

近藤氏によれば、これは+Styleのコンセプトであり、海外製品の国内展開だけでなくオリジナル製品を手がけることになった理由の1つでもあるという。+Styleのサービス開始当初、ビジネスは順調に推移していたが、ユーザー層はITリテラシーの高い消費者が多く、ユーザーの裾野が広がらないという課題を抱えていた。

近藤氏は「IoTだからなんでもできるという製品が多く、一般の消費者にとってはとっつきにくい側面があったのでは」と分析。消費者が日々使う製品をIoT化することで身近に使ってもらい、ユーザーの裾野を広げる、いわゆる「キャズムを超えられる」との判断から独自製品の開発に踏み切った。

自社開発でIoT非対応の製品と遜色ない低価格を実現

オリジナル製品を手がけたもう1つの大きな理由が「低価格」だ。+Styleのオリジナル製品は競合の同等製品と比較しても安価なだけでなく、IoTを搭載しない製品と比較しても競争力のある価格が付けられている。

例えばスマートLED電球は製品も増えて全体的に価格帯が下がっているものの、+Styleの調光のみのモデルで2,280円は最安値クラス。ロボット掃除機の「G300」も、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping/自己位置推定と環境地図作成を同時に実行すること)によるルームマッピング、スマートスピーカー対応、水拭き対応といった搭載機能を踏まえて比較するなら、26,800円という価格は最安値と言っていいレベルだ。

ロボット掃除機「G300」

2020年6月に発売したスマート全自動コーヒーメーカーも、スマートフォン連携という機能を備えながら、スマートフォン非対応のモデルで数万円が中心、機能を絞った単機能モデルで数千円台という価格帯の中、11,800円という価格で販売。IoT機能を考慮に入れずとも競争力のある価格を実現できている。

スマート全自動コーヒーメーカー

近藤氏は「これまでのIoT機器は、IoTだから1万円高い、IoTだから多機能だ、というものが多かったが、より多くの人に手に取ってもらうには価格が重要。IoT化されていない製品と比べても価格を抑えるためには自社開発が必要だった」と説明。日常で使う家電を、一般的な価格帯と変わらない価格でIoT化することが、+Style ORIGINALのコンセプトとなっている。

オリジナル製品でユーザー数は5倍に。2021年も新製品の投入

こうした+Style ORIGINALの商品企画はユーザーニーズを分析した上で、「どういった家電がスマート化されるといいのか」という企画を立案。企画に近い製品がすでに市場に存在する場合はカスタマイズして自社ブランドとするが、一からオリジナルで開発することもあるという。コーヒーメーカーはその一例で、コーヒーメーカーを開発している国内大手パートナーの製品に、IoT機能を追加する形で新製品を開発した。

2019年から始まった+Styleのオリジナル製品は、現在18製品までラインナップを拡大。リビングやキッチン、玄関、寝室など、家庭内で日常的に利用する場所で使える製品をコンセプトに企画している。

家の様々な場所に+Style製品

+Style ORIGINALの製品は、近藤氏の読み通りユーザー層の拡大に大きく寄与。冒頭で紹介したスマートLED電球は、低価格帯の商品ながら売上ランキング上位に入るほどの人気を誇り、+Styleの看板商品となった。

また、2020年に発売した「スマート全自動コーヒーメーカー」は、発表会当日にAmazonの全自動コーヒーメーカー全ランキングで1位になり、売上も当初想定と比べて約9倍近い実売を記録。+Styleの年間ランキングでも3位に入るほどの人気を集めた。近藤氏は「当初の想定が低めだった」と断った上で、「自社開発することでコストを抑えられ、他社のコーヒーメーカーと同価格帯でスマホ連携したことが大きい」と理由を分析している。

+Styleの販売数も昨対比で約5倍に伸び、売上比でも独自製品が約半数を占めるなど、独自製品の投入で+Styleの掲げる「ユーザー層の拡大」の成果が着実に表れている。独自製品の開発は今後も強化していく方針で、2021年にも5製品程度の販売を計画。売上における独自製品の比率を高めていくという。

ユーザーの使いやすさにもこだわり。アップデートも定期的に実施

日常的な製品を低価格で提供するというハードウェア的なアプローチに加え、いかに使いやすい製品を作るかというソフトウェア的なアプローチも、+Styleが重視しているポイント。+Style独自製品は、すべて共通の「+Style」アプリで操作できるよう対応。また、ユーザーの声を受けたアップデートも定期的に実施している。

ユーザーの声に応えたアップデートで機能強化

購入後の利用率が高いのも+Styleの特徴だ。+Styleの調査によれば、購入者の99.2%が購入した製品をユーザー登録しており、その後も+Styleの家電使用率は80.6%、30日連続で+Styleのアプリを利用している率は約61.3%と高水準。総務省が発表したスマートスピーカー利用者比率の約7.5%と比べて、+Styleのユーザー調査では約61%がスマートスピーカーを利用しているという。

30日連続でアプリを使った人が、6割超に上る

今後さらなるユーザー拡大のためには、+Styleのこだわりである「つかいやすさ」「低価格」を軸に、認知拡大を目指す。魅力ある製品ラインナップでメディア展開するとともに低価格を武器に認知度を向上。使いやすさについては、ハードウェア、ソフトウェアの面で引き続き向上を図っていく方針だ。

「家の中で利用率が高いものをどんどんスマート化していく」のが+Style ORIGINAL。とはいえ、冷蔵庫やテレビのような大型家電は「我々の規模では難しい。軽家電と呼ばれるようなジャンルを中心に展開していく」(近藤氏)。

自社商品と他社商品との連携も実施。プロジェクター付きシーリングライトの「popIn Aladdin」は、+Styleで商品を取り扱うだけでなく、+Styleのアプリから操作可能とした。これにより、+Style製品を介してスマートスピーカーでの操作や、ドアの開閉センサーに連動してプロジェクターが動作する、といった連携が可能になるという。

このほか、住設メーカーとの連携も進めているという。「IoT機器は本来、家の中にプリインストールされているのが一番いい。2021年はそうした取り組みも進めていく」(近藤氏)。

甲斐祐樹

Impress Watch記者から現在はフリーライターに。Watch時代にネットワーク関連を担当していたこともあり、動画配信サービスやスマートスピーカーなどが興味分野。個人ブログは「カイ士伝