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パナソニック津賀社長「くらしアップデート業」と自社を定義、創業100周年イベント基調講演
2018年10月31日 13:53
パナソニックは、創業100周年を記念し、2018年10月30日、グローバルリーダーが世界の構造変化を語る「特別講演」、各界の有識者がクロストークを繰り広げる「リーダーズセッション」、同社幹部が各事業ビジョンや想いを語る「ビジネスセッション」などのプログラムを設けた講演・展示会イベント「CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018」を開催した。
冒頭の基調講演ではパナソニック 代表取締役社長 津賀一宏氏が登壇し、『次の100年の「くらし」をつくる ~パナソニックは家電の会社から、何の会社になるのか~』をテーマに講演を行なった。
パナソニックは「くらしアップデート業」を営む
津賀社長は冒頭で、社長に就任してから「パナソニックという会社は何者なのか」について自問自答する日々が続いたと語った。さまざまな事業を展開する中で、パナソニックのアイデンティティが見えなくなっていたという。創業からさまざまな家電製品を作り、全国のナショナル店舗を通じてたくさんの家庭に届けてきたが、「『ものづくりをしたい』というより、『人々の暮らしを良くしたい』という思いが先にあり、その思いを実現させるためにものづくりが必要だった」と振り返る。
移動手段としての自動車がエンジンからハイブリッド車、EV(電気自動車)などへと変革を遂げていることから自動車産業にも進出した。パーソナルなニーズに対応するために工場も進化していくことが求められるようになり、パナソニックの工場でシステム改善を繰り返したノウハウを基に、他社の工場や小売現場などに向けてソリューションを提供する事業も始めた。
「家電も自動車も他社様の工場にしても、やっていることは一見バラバラのようでいて、そこに込めた思いは全く同じであったことに私は気づいた。そして、ここにこそパナソニックが存在する意義がある。一人ひとりの暮らしを少しでもより良くし、より暮らしやすい社会を作り上げていくことがパナソニックの存在意義だ。これは創業当時も今も、これから先の未来も決して変わることはない」(津賀社長)
続いて津賀社長は、パナソニックについて「くらしアップデート業」を営む会社だと定義した。
「くらし」というのは一人の人が過ごすあらゆる時間を指しており、その時間をアップデート、つまりその時々に応じて最適化することが「くらしアップデート」だという。
また、「アップグレード」ではないと津賀社長は強調した。高度経済成長時代に、多くのメーカーは生活者を「マス」と捉えてより機能性を高め、より上級な機能を提供する「アップグレード」を競いあってきた。
しかし「今は一人ひとりの価値観が解放されており、その人が心地よいと感じる瞬間と丁寧に向き合う時代になっている。一人の人間の中でも日によって、時間によって求めるものが異なるため、『アップデート』……つまり更新し続けることが重要になる」と津賀社長は語った。
中国企業と連携し、「建設現場のくらし」をアップデート
現在パナソニックが取り組む事例として、中国最大の建築設計ソフトウエア企業であるGlodonと、蓄電池を使ったエネルギーマネジメントを中核事業とするリンクデータの2社をパートナーとして、建設現場で作業員が生活する仮設住宅の例を挙げた。
「Glodonが持つプレハブハウスシステム、リンクデータの創蓄エネルギー、パナソニックの超薄型高断熱パネルをはじめとする建材などを組み合わせることで、ハードな環境下にある建築現場でも快適に過ごせるプレハブハウスを提供しようと考えている。建築現場のプレハブは使い捨てだったが、別の現場でも繰り返し利用できるモデルにすることで、これまでとあまり変わらない費用で、より快適に、品質の高いものを提供できるようにしたい。ハードだけではなく、そこで働く方の食事のサービス展開も視野に入れて、暮らしの空間をアップデートしていきたい」(津賀社長)
中東エリアではスピーディーな住居の提供を実現
2つめの事例は、高度経済成長に伴って住居が不足するドバイなどの中東エリアでのコンテナハウスの事例だ。
「パナソニックの薄型高断熱パネルや薄型高断熱ガラスは、中東をはじめとする地域に引き合いが多い。そこで住宅不足を解決するために、人が快適に暮らせるコンテナハウスを考案した。コンテナを活用することで大がかりな製造設備が不要で、モジュール化されているため発注から最短2カ月で建設でき、増築や移設も容易になる。中東エリアで実証実験し、中東以外の地域も含めて事業化していく予定だ。将来的には災害時の復興住宅として活用したり、季節に合わせて移動できる別荘にしたり、色々展開できる可能性がある」(津賀社長)
コンテナの中に置く家具を選んだり、BGMサービスを付加するなど、よりパーソナライズした空間にしていける可能性を持つと社長は示唆。
中国でスマートレストランにも着手
中国ではさらに、火鍋の専門店として363店舗を展開する海底楼とのジョイントベンチャーによるスマートレストラン事業もスタートしたという。
「海底楼は食の安全性の問題をクリアしたい、これまでにない新しい顧客体験を生み出したいと考えており、ロボット化を促進したスマートレストラン構想を一緒に手がけ始めた。ロボット化によって調理時間を半分にできるだけでなく、『食の安全性の確保』という価値が生まれる。工業用のロボットアームをベースに、60種類のメニューを作れる『おかずロボット』を開発した。食材にはRFID(ICタグ)を付けることでトレーサビリティ(追跡可能性)を実現し、安全で安定した提供を可能にした」(津賀社長)
安全性を実現する一方で、顧客側には「いつでもどこでも自分だけの好みの味を楽しめる」というサービスを提供するという。
「タブレットで利用履歴を見ながら、自分好みの味にカスタマイズできる。いつでもどの店でも同じ味を再現できるだけでなく、ARなどの技術を活用して新たな顧客体験を提供したり、店舗内で集めたデータを活用して個人の好みにするなど、よりパーソナライズさせた食事を提供できるようにもしたい。今後は蓄積したノウハウを基に、他の飲食店にスマートレストラン化のソリューションを提供することも視野に入れている」(津賀社長)
「とにかく始めてみること」が重要
津賀社長は、伝えたい大きなポイントとして「とにかく始めてみる」ことを挙げた。
「生活者をマスと捉えてアップグレードを基本としていた時代は、完璧とも言えるレベルまで企業側で仕上げてから世の中に提供していた。しかし環境やその人、そのときによって求められるものをアップデートしていくべき時代では、安全面などさえクリアすれば、使ってくれる人の手に渡ってから、その人向けに成長する余白を持たせた『あえての未完成品』を世の中に出していくべきだと考えている」(津賀社長)
海底楼では、会員になることで好みの味をデータとして残せるため、顧客は少しずつベストな味にカスタマイズしていくことができる。企業側が一つの完成品を押しつけるのではなく、顧客の好きな味を顧客が完成させられるということだ。
「これが一人ひとりと向き合った、その時々にフィットするサービスを提供するポイントだ」と津賀社長は語った。
住む人に寄り添って暮らしをアップデートする「HomeX」
最後に津賀社長は、「家」という空間をベースにした新たな情報基盤「HomeX」を紹介した。
「『HomeX』とは、住む人に寄り添って暮らしに24時間365日常時接続し、その方が今何を求めているかを理解するための情報基盤だ。HomeXは季節や天候、気分によって変わる、その人が求めるものに柔軟にフィットさせ続け、また、新たな提案をし続けるための情報を導いていく」(津賀社長)
HomeXはさまざまなアップデートのベースになる情報基盤だという。
「人が何を求めているかという情報を基に、その時の気分に合わせた音楽を流したり、体がポカポカになる鍋のレシピを紹介したり、そのときにピッタリのサービスが提供されることで、初めて生活者にとっての価値が生まれる。変化し続ける情報と、その情報に基づいて機器やサービスが生き物のように変化し続けることが、これからの時代には求められるようになる」(津賀社長)