ニュース

パナソニック、HomeX搭載スマートホーム「カサート アーバン」では、洗面所で録画視聴、他社家電も連携

 パナソニックが2018年10月30日に発表した暮らしの統合プラットフォーム「HomeX」を搭載する、パナソニック ホームズのスマートハウス「カサート アーバン」の受注が2018年11月3日に開始された。

 それに先駆け、プレス向けの内覧会を2018年11月2日に開催。HomeXとはどういうものなのか、HomeXによって我々の生活はどのように変わるのか。パナソニックはHomeXをどのように位置付け、どのように発展させようとしているのかを、見ていこう。

暮らしの統合プラットフォーム「HomeX」に対応する注文住宅「カサート アーバン」。写真は、東京都世田谷区の駒沢公園ハウジングギャラリーにあるモデルハウス

 HomeXは、パナソニックが2017年4月1日に発足した「ビジネスイノベーション本部」が推進している、住宅内の設備や家電製品、各種センサー、IoT(モノのインターネット)機器などをワンストップで統合管理できる"統合プラットフォーム"だ。実際にはもう少し広い意味を持つプラットフォームだが、一言で言うと「スマートハウス」を実現するための仕組みと考えていい。

 家と家電をつなぐ、家電同士をつなぐ、家電とスマートフォンなどをつなぐ規格としては、新築住宅を中心に導入が進む「HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)」、AV機器同士をつなぐ「DLNA(Digital Living Network Alliance)」を中心としたホームネットワークなどがある。

 また、Amazon EchoやGoogle HomeなどのスマートスピーカーからAmazon AlexaやGoogleアシスタントなどの音声アシスタントを経由し、「スマート家電」と呼ばれるさまざまなネットワーク対応機器をコントロールするサービスなども登場しており、対応製品もかなり増えている状況だ。

 とはいえ、HEMS、ホームネットワーク、スマート家電などはそれぞれ別個に存在しており、ワンストップでこれらを手軽に管理・活用できるソリューションは存在していない。そこへ、パナソニックがHomeXを引っさげて登場したというわけだ。

家中のさまざまなタッチポイントから、情報や機能にアクセス

 まずは、HomeXによってどのようなライフスタイルを実現できるのか、その使い勝手について見ていこう。

 壁に設置するタッチパネルディスプレイ搭載の「HomeX Display」がHomeXのタッチポイントととなる。これはリビングルームに1台設置するというものではなく、リビングルームやベッドルーム、洗面所、キッチンなど、さまざまな場所に設置し、それぞれの場所から必要な情報やサービスにアクセスするというイメージだ。

Wi-Fiやセンサーを内蔵する、HomeXプラットフォーム対応のタッチパネルディスプレイ「HomeX Display」。パナソニック子会社のShiftallが機器の開発に携わった
HomeX Displayをドレスルームに設置したところ
こちらはベッドルームに設置されたHomeX Displayのイメージ

 HomeX Displayは、住宅内のさまざまな機能に共通のユーザーインターフェースでアクセスできる。住空間に溶け込む、親しみやすくシンプルなデザインを目指しているとのことだ。

 玄関や寝室、キッチンなどさまざまな場所から情報にアクセスできるのも特徴だ。それらの情報はたくさんのメニューから選ぶのではなく、よりすぐった情報を最短で提供できるようにユーザーインターフェースが工夫されているという。

 モデルハウスの玄関を入るとすぐにリビングルームがあり、その左側の壁にHomeX Displayが設置されている。

 例えば「おでかけ」や「おはよう」というシーンのボタンが用意されている。出かける前に「おでかけ」をタッチすると、照明がオフになってシャッターが閉じる。朝起きてから「おはよう」をタッチすると照明がオンになってシャッターが開いて心地良い環境にしてくれるなど、複数の機器が連携する「シーン」を作ることができる。

画面には「おはよう」と「おでかけ」のシーンが表示されている
「おはよう」を押すだけで照明と電動シャッターを同時に制御する
「おはよう」を押すと、天井の照明がオンになり、電動シャッターが開いた

 このモデルハウスは「エアロハス」という全館空調システムを採用しているが、「今日は家で仕事をしよう」という場合には、「書斎の画面を開いて書斎だけを少し涼しくし、仕事に集中しやすい環境を作る」といったこともできる。

「書斎」から「全館空調」を選ぶと、書斎の空調をコントロールできる

 自宅に帰ってリビングルームのHomeX Displayにアクセスすると、好きな番組の最新回がレコーダーで録画されているという情報もお知らせしてくれる。それをタッチすると、リビングのテレビに録画コンテンツを映し出し、帰宅してすぐに好きなコンテンツを楽しむことができる。

帰宅してディスプレイを見ると、「動画」カードが表示されているのでタッチすると、録画コンテンツが一覧表示される
コンテンツをタッチすると、自動的にテレビがオンになり、コンテンツの再生がスタートする

寝室から洗濯機を回したり、洗面所で準備しながらテレビを視聴

 寝室では、将来的な利用シーンを想定した洗濯機連携のデモが行なわれた。HomeXは天気情報と連携して、洗濯機を回すのにピッタリのタイミングを教えてくれる。例えば夜に帰宅して寝室で着替えをしているときに、「明日は快晴なので、今夜洗濯すると明日はカラッと乾かせます」とったお知らせが届く。タッチすると洗濯機のアプリが起動し、洗濯物の汚れや種類に合わせて「この汚れにはこのコースがオススメ」といった情報を教えてくれる。設定すると洗濯機に情報を送信し、予約を開始する。もちろん、HomeX Displayで洗濯の進行状況なども確認できる。

寝室のディスプレイには「洗濯アドバイス」が表示されている
洗濯物の汚れや種類に合わせてオススメの洗濯コースを提案し、タッチすると洗濯がスタートする
洗濯の進行状況の確認も可能だ

 洗面所では、朝の身支度というシーンにフォーカスしたデモが行なわれた。例えば、歯を磨いたり顔を洗ったりしている最中に、ディスプレイにはニュースや天気などのテレビ放送が表示される。もちろん、録画した番組や動画コンテンツなどの再生も可能だ。

 そのほか、パナソニックがWebサイトで提供している健康情報や美容情報、洗面所に合う様々な情報をここでチェックするといったこともできる。

洗面所でのデモ。画面には「朝のニュースをチェックしませんか?」というメニューが表示されている
朝のニュースを流しているところ。右上には「朝の歯磨きのコツをチェック」というメニューが表示され、タッチすると歯磨きのコツが表示される

キッチンとダイニングでは新しい料理体験を提供

 キッチンとダイニングでは、HomeX Displayを通じた新しい料理体験のデモが行なわれた。

 料理のレシピを毎回考えるのは難しいが、そういったものをHomeX Displayが提案したり、調理家電が搭載している数多くのレシピの使いこなしを提案してくれる。

 例えばディスプレイに「この季節にピッタリのレシピを用意しました」というカードが現れる。タッチすると洋食と和食に加えて、ちょっと変わった料理のオススメも出てくる。

 洋食からオススメの料理をタッチすると、必要な食材や手順、栄養などの情報が表示される。調理をスタートすると、連携するIHクッキングヒーターやオーブンレンジ、炊飯器などに調理メニューを転送し、手順に従って調理を進めていくことができる。

ダイニングキッチンのHomeX Displayには「新しいレシピ」というメニューが表示されている
洋食、和食に加えて、気分を変えたいときのおすすめレシピメニューが出ている
レシピを開くと、レシピの詳細情報や食材、手順などが表示される
調理を開始すると、レシピが家電に転送されるので、画面に従って調理を進めていく
調理が終わると、HomeX Displayに調理完了のお知らせが届く

 今日はこういう料理を作って食べたから、それに応じて明日はこれ、明後日はこんな料理はいかがですかというように、連携したレシピの提案もしてくれる。

 画面に洗濯機のアイコンで「洗濯が完了しました」という通知が現れ、わざわざその場まで見に行かなくても家電の使用状況が把握できるようになる。

洗濯が完了したという通知も表示された

2019年後半から2020年にかけてフルに近いサービスを実現

 今回行なわれたデモのすべては、カサートアーバンの住宅が出来上がり、HomeXプラットフォームが消費者へ届いた瞬間に利用できるというわけではない。

 パナソニック ビジネスイノベーション推進本部 本部長の馬場 渉氏は、「恐らく2019年後半から2020年以降に、これらの機能やサービスを実現できるようになると思います」と話した。

 「ロボット掃除機の『RULO』や洗濯機、エアコンの『エオリア』など、すでにスマートフォンで単体として操作できる『Wi-Fi家電』や『IoT家電』と呼ばれる製品はいろいろあります。今後もかなりの数がアプライアンス社から発売される予定です。

 それら連携すれば、スマホでできるようなことを『HomeX Display』や『HomeXプラットフォーム』とつないで実現することは極めて容易です。しかし、先ほどお見せしたようなものは、マイコンのロジックを変えるなど、機器そのものの作り方を変えなければならないため、2019年後半から2020年以降の実現になると思います」(馬場氏)

パナソニック ビジネスイノベーション推進本部 本部長の馬場渉氏

 そしてこの連携は、パナソニック製品だけでなく、他社製品でも同様だ。

 「他社の家電製品もスマホ制御できるものは多数ありますが、それらを既にHomeXプラットフォームで定義されている200以上のAPI(アプリケーション開発インターフェース)をつなげれば、あっという間に実現可能です。今後は、各製品のユーザーが『HomeXで操作したい』のか、『スマホで別にいい』のかを見極めながら、プロダクトとして提供していこうと思っています」(馬場氏)

 例えば「自宅に帰ってから好きな番組の最新回を見たい」といったシーンの場合はシンプルだ。パナソニックの「お部屋ジャンプリンク」、ソニーの「ソニールームリンク」、シャープの「ホームネットワーク」、東芝の「レグザリンク」などは、すべて共通のホームネットワーク規格「DLNA」をベースにしているため、機能の実装は比較的容易なはずだ。

 調理家電のスマホ連携という意味では、シャープの「ヘルシオ」シリーズが搭載する「COCORO KITCHEN」が一歩リードしているが、現状ではシャープのみに閉じた規格になっている。しかし、今後シャープが他社とのつなぎ込みを可能にするAPIを公開するようになれば、パナソニックのHomeXプラットフォームの上で動き、シャープのオーブンレンジとパナソニックの炊飯器、IHクッキングヒーターと連携した料理体験なども可能になっていくだろう。

HomeXはあくまでもオープンプラットフォーム

 パナソニックの社員でもない限り、パナソニック ホームズで家を建て、すべての家電をパナソニックで揃えるということはないだろう。となると、パナソニックだけに閉じているのではなく、競合する家電メーカーも含めて動作するようにならなければ、一般消費者にとって有用なプラットフォームにはなり得ない。

 パナソニックが開発しパナソニック ホームズが提供する統合プラットフォームのため、HomeXはパナソニックだけに閉じた規格のように思えるかもしれないが、前出の馬場氏によると、あくまでもオープンプラットフォームという位置付けとのことだ。

 「例えばアップルの場合、iPhoneなどのデバイス、iOSなどのOS、iTunesやiCloudなどのサービスがある垂直統合モデルですが、その仕組みを他社に売るような会社ではありません。我々は各事業部がそれぞれ持っているものを組み合わせてHomeXを作っていますが、それを他社に売ろうと思っています。スマートフォンOSのAndroidをライセンス提供するGoogleのようなビジネスモデルです。HomeXという仕組みから見ると、パナソニックの家電事業部にしろ、パナソニック ホームズにしろ、それを採用した1社という位置付けです」(馬場氏)

 冒頭で、スマートハウスを実現するためのプラットフォームと紹介したが、その表現は決して正しくない。パナソニック ホームズのカサートアーバンは、HomeXプラットフォームを完成形に持っていくための"実験場"の1つであり、「スマートハウス」そのものがHomeXの目指すゴールではないからだ。

 「今の家電業界や住宅メーカーなどがHomeXを導入すれば、モダンなスーパーハイテク化された『くらしのアップデート』の基盤を手に入れることができます。これは自動車メーカーでも同じです。いろいろな自動車メーカーが最先端の自動運転の仕組みを作ろうとするときには、『MobileEye』や『NVIDIA』など、これまで自動車業界に存在しなかったようなハード・ソフトウエア関連のIT企業が提供する仕組みを利用します。同じようなことが必ず住空間でも起きてくるでしょう。

 住宅から住宅設備、電設資材、家電までのすべての事業を持っている世界唯一の会社であるパナソニックが、垂直統合で実践してクオリティーを高めていき、そこで高まったコアプラットフォームを世界中に提供してスケールアップさせていくというのが基本の考え方です」(馬場氏)

馬場氏と、HomeX Displayの開発に携わったShiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨氏

 質疑応答の中で「他社との連携するコンソーシアムなどの構想はないのか」という質問が出たが、馬場氏は「まず必要なのは、これまでに体験したことのない住空間の中で、インターネットによる価値をきちっと我々の中で作ることだと思います」と答えた。コンソーシアムなどで足並みをそろえて動くのは、標準化やさまざまな意見を取り入れるためには有効だが、「スピードは必ず落ちます」と馬場氏は語る。

 パナソニックがHomeXプラットフォームで目指す姿は、「誰でもHomeXさえ導入すれば、スマートホームを実現できる」というオープンなプラットフォームであり、パナソニックに閉じた世界ではないことは明白だ。なぜなら、メーカーとしてパナソニック製品だけを売ることより、こうしたプラットフォームを世界に先駆けて開発し、それを全世界に提供することの方がはるかにビジネスとして有用だからだ。

 そのために重要な第一歩は、HomeXプラットフォームを導入する数を増やすのではなく、作り込んでいくことだと馬場氏は語る。

 「未来の暮らしを実現できるテクノロジーを持つ会社は極めて少ないですし、パナソニックのように住宅から住宅設備、電設資材、部材、家電まで持っている会社はほかにないため、大きな責任があります。今までのモデルは住宅も家電も買って終了だったかもしれませんが、HomeXは買っていただいてからがスタートです。それなりの数が売れるパナソニック ホームズの『カサートアーバン』の顧客を極めてハッピーにすることが重要で、それができないうちから横に展開するようなスケールは追いません」(馬場氏)

 馬場氏によると、住宅にある壁スイッチは国内でほとんどがパナソニック製品になっており、全世界でその利用者は約10億人にも上るという。

 「短期的なゴールはまだ考えていませんが、まずは10億人のお客様が買ったときに満足するのではなく、その後の利用体験で満足するというように、全社を挙げて頑張っていきたいと思います。こういうプラットフォームは世界で1~2社くらいがサービスを提供できる感じになるでしょう。

 そうなったときには、少なくとも30億人くらいの規模になるはずです。自社の垂直統合された製品のみでは30億人をカバーできませんので、まずは『ステップ1』として垂直統合モデルで『これが未来だ』というのを作ります。そこから『ステップ2』として、他社に対する『B2B2C』モデルで展開したいと考えています」(馬場氏)

 HomeX注文住宅のカサートアーバンとともに出てきたため、一部の住宅購入者向けかと思われる人もいたかもしれない。しかしHomeXが向いているのは「住宅」ではなく人々の「暮らし」であることは明白だろう。住宅メーカーや競合する家電メーカー、IT機器メーカーなどさまざまな企業がHomeXプラットフォームに乗り入れることで、メーカーを越えた横の連携が可能になる。それをベースにした上で、例えば自社の家電製品同士の連携によるベネフィットを提案するといったこともできる。

 馬場氏は、HomeXプラットフォーム構想を掲げて以来、国内外の数多くの企業から引き合いが来ていると話す。プラットフォームとしてデファクトスタンダードになるためには、いかに数多くの企業と連携できるかが重要になる。一つの鍵はやはり競合する家電メーカーとの連携だろう。

 また、今回はパナソニック ホームズの注文住宅としての提供するスタイルだが、今後は既存住宅にどのような形で提供していくのか、その提案スタイルにも注目していきたい。