ニュース

パナソニック アプライアンス社長・本間氏「知能化家電・サ高電・脱炭素社会」への取り組みを語る ~くらしのアップデート実現へ向けて

 パナソニックが10月30日から開催している講演・展示会イベント「CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018」3日目となる2018年11月1日、パナソニック アプライアンス社の社長を務める本間 哲朗氏(パナソニック専務執行役員 アプライアンス社 社長 兼 コンシューマー事業担当 兼 FF市場対策担当)による講演が行なわれた。

パナソニック専務執行役員 アプライアンス社 社長 兼 コンシューマー事業担当 兼 FF市場対策担当の本間 哲朗氏

 1918年の創業から100周年を迎えたパナソニックだが、さまざまな価値観が顕在化し多様化している中でメガヒットを記録するマスプロダクトは難しいものになっている。そんな中で本間社長は「これまでと変わらぬお役立ち企業として、『くらしのアップデート』を実現するための取り組みについて話したい」と始めた。

 100年間で押しも押されもせぬ大企業となったパナソニックだが、巨大化したゆえに"スピード感"に対する危機感を持っていると本間社長は語る。

 「社会の変化や技術の進歩で成熟化が進んできましたが、新興国は日本と比べものにならない速さで発展が進んでいます。一方日本では、従来のような『ものの進化によるくらしのイノベーション』が起きにくくなっています。プロダクトををより良いものにすることと、お客様の豊かさにギャップが生まれているのではないかと思っています」(本間社長)

 こうしたことから、2018年3月に「Home」の定義を見直すことにしたと本間社長は続ける。

 「大切な人と過ごせる、一人ひとりが活躍できるという大きな意味で『Home』を位置付けました」(本間社長)

 多くの人を一括りにして向き合うのではなく、一人ひとりの"体験"を見つめ、より豊かな暮らしを提供していくというのがテーマだという。

「知能化家電」によってお客様に寄り添い続ける

 本間社長は、人々の暮らしに合わせて常に製品やサービスをアップデートし続けるために必要な、3つの挑戦について説明した。

 1つめは「お客様に寄り添い続ける挑戦」だ。

 「日を追うごと、年を重ねるごとにさまざまな変化があり、それに伴って必要なプロダクトもサービスも変化します。重要なのは暮らしに寄り添い続け、お客様を知ることです。これまでの家電は暮らしに寄り添ってきましたが、これからの家電はお客様のライフスタイルを知る『知能化』が必要になると思っています。知能化とはIoT(もののインターネット)化した家電に、最先端のAI(人工知能)による頭脳を持たせることです。このような家電をスピーディーに送り出すためには、ものづくりの仕組み改革が必要で、これがなければ寄り添い続けることはできません」(本間社長)

 知能化家電の一例として本間社長は、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)と共同で開発し、自らが陣頭指揮を執ってプロジェクトを進めた次世代ロボット掃除機のコンセプトモデルを紹介した。本コンセプトモデルの詳細については、こちらの記事を参照してほしい。

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)と共同開発した次世代ロボット掃除機のコンセプトモデル
千葉工業大学 常任理事 未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長で工学博士の古田 貴之氏

 「すべての部品や構造体をゼロから作ったら、このスピードはもちろん完成しませんが、今ある構造体や機構部品、基板などを活用しながら、さらにものづくりの仕組みを変えることで達成できました」(本間社長)

スタートアップ活用によって「お客様に新たな文化を提案」

 2つめは「お客様に新たな文化を提案し続けること」だと本間社長は続ける。

 このとき重要になるのが「新領域事業の加速」だ。そこで誕生したのが、スタートアップ企業に投資する米サンフランシスコのベンチャーキャピタル・Scrum Venturesとパナソニックが、新規事業の創出促進を目的として2018年3月に共同設立したBeeEdge(ビーエッジ)だ。

 「家電に重要なのは『もの+こと』の両方を備えることですが、BeeEdgeが目指すのは、プロダクトを売って終わりにするのではなく、新しいつながりを提供するために家電があるという考え方です。気付いていないニーズを発見し、提案しながら市場を育てていこうというのが『文化を創る』ということであり、それがパナソニックとしてのビジネスモデルの変革につながります。新領域事業をもっと加速する必要があるということで、BeeEdgeがスタートしました」(本間社長)

 その裏側には、巨大化した現在のパナソニックでは、社員から出てくる新しい事業の有望な“芽”に、対応しきれないというジレンマがあった。

 「市場サイズが見込めないと事業化が難しいのです。有望なビジネスアイデアが出てきても、社内に落として実行するには時間がかかります。企画から事業化までを早めるために、共同出資してBeeEdgeを設立したのが新たなスキームです」(本間社長)

 BeeEdgeの代表取締役社長を務める春田 真氏も続ける。

 「チャレンジしたくても、社内で企画を通そうとするとそれ自体に多くの労力と時間がかかってしまいます。ベンチャーやスタートアップが華々しく活躍している昨今ですが、大企業の社員でも一つの手段としてスタートアップがあるというのを知ってほしいと思っています。パナソニックさんだから優秀な社員もいるし、ダイヤの原石もあります。社員が持つアイデアを具現化できる、支えになれたらうれしいです」(春田社長)

BeeEdge 代表取締役社長の春田真

 別のセッションでは、BeeEdgeが手がけた第1号スタートアップ案件として、ミツバチプロダクツによる業界初のホットチョコレートマシン「HOT CHOCOLATE MACHINE」が紹介された。

業界初のホットチョコレートマシン「HOT CHOCOLATE MACHINE」。店舗などのB2B向け商品として、2019年春に、価格25万円で発売予定

 HOT CHOCOLATE MACHINEはスチーム機構とブレンダー機能を組み合わせ、水とチョコレートでテーラーメイドドリンクを約30秒で完成できる。HOT CHOCOLATE MACHINEを手がけた浦 ひとみ氏は、パナソニックの国内コンシューマーマーケティング本部の商品企画部門で食分野の新規商品を担当し、「ナチュラルホームメイド」プロジェクトの立ち上げや、スマートフォンを使って生のコーヒー豆を焙煎する初のスマホ連携家電「The Roast」、カカオ事業などを担当した。その後パナソニックを休職し、ミツバチプロダクツ代表取締役に就任したという。

 元々パナソニックの新規事業開発の中で生まれたアイデアだったが、利益の出る市場規模やビジネス展開の展望が見えなかったためプロジェクトが頓挫したという。しかし、新規事業創出を目的とするBeeEdgeの誕生により、このプロジェクトも日の目を見たとのだという。

ミツバチプロダクツ代表取締役の浦 ひとみ氏
チョコレート50gと水100ccを、HOT CHOCOLATE MACHINEで撹拌する
出来上がったチョコレートドリンクは、こってり感のないスッキリとした仕上がりだ

サービス付き高付加価値家電、スピード、文化を創ることが重要

 BeeEdgeがアクセラレーターとなってスタートする新規事業のキーワードとして、本間社長と春田社長は「サ高電」、「スピード」、「文化をつくる」という次の3つを掲げた。

 「サ高電」というのは、「サービス付き高付加価値家電」のことだ。

 「パナソニックそのものは、ものづくりのこだわりをやめてはいけないが、新しい価値を付けていくことが重要になっていきます。サービスを主体に考えると、新しいものの提案につながるのではないかと思っています」(本間社長)

 「ものからではなく、サービスから発想する視点が大切だと思います。ものは後でいいんです。『暮らしに何があればワクワクするだろう』とイマジネーションを働かせて提案していくことが重要です」(春田社長)

 2つめの「スピード」について春田社長は「大企業は守るべきものが本当に多く、企画して承認を得るというプロセスに時間がかかりすぎだと思っているます」と語る。

 「作る側のスピード感と市場が求めるスピード感にギャップがあり、現在は、時間や情報の鮮度などの流れが速いためにうかうかするとタイミングをあっという間に逃してしまいます。企画から市場投入までの時間を早めるのが、BeeEdgeの課題です」(春田社長)

 「スピードが大事なのは骨身にしみて分かっているつもりですが、15年、20年使い続けてもらう白物家電ではその感覚が不足しているかもしれません」と本間社長は語る。しかしHOT CHOCOLATE MACHINEの開発にあたっては、「高級オーブンレンジに採用している高圧スチーム技術を応用するなど、優れた成熟した技術やモジュールがあるので、製造期間や開発機関をグッと短縮できました」と語った。それについては春田社長も「それはベンチャーと違って長年研究開発を続けてきた強みだと思います」とした。

 3つめの「文化をつくる」が最大のキモだ。例えば「水を買う習慣はありませんでしたが、今は当たり前になってきました」と春田社長は例を挙げる。「レンタルビデオ店で見たいビデオを借りて、家で好きな映画を見られるようになったという意味では、VHSデッキもまさに文化を創った製品でした」と本間社長も続けた。

 「新しいアイデアを育てていくことが重要で、そこからフォロワーが出てきて根付いていく。そうやって文化になったのかなと思います。チョコレートドリンクの事業も、まさにそこだと思いますので、チャレンジしていきたいですね。売りきりではなくつながり続けることに魅力があり、そのことがお客様の声や要望をダイレクトに知るチャンスになります。ニーズや課題を発見できる可能性もあるでしょう。パナソニックのDNAとして『挑戦』があると思うので、BeeEdgeの取り組みを通じて、改めてチャレンジする風土を呼び起こせればと思います」(春田社長)

脱炭素によって「お客様の暮らしから社会を変える」

 「お客様に寄り添い続ける挑戦」、「お客様に新たな文化を提案し続けること」という挑戦に続く3つめの挑戦として、本間氏は「お客様の暮らしから社会を変えること」を挙げた。

 「今年は異常気象や経験のないレベルでの台風や地震などが世界中を襲いました。豊かな暮らしを目指す上で忘れてはならないのが『持続可能な社会の実現』です。水素技術、自然冷媒の使用を進めるなど、脱炭素で環境負荷を減らす取り組みを行なっていきます。

 特に水素は、発電が可能で、エネルギー密度が高く、保管しても劣化せず、複数の製造方法がることに加え、利用するときに環境を破壊する物質を生み出さない、非常にクリーンなエネルギーです。この部分は引き続き取り組んでいきたいと思います。持続可能な社会の実現を目指し、それによって、お客様の暮らしを変えていくというチャレンジをしていきたいと思います」(本間社長)

脱炭素社会実現のカギが「水素」だという
2030年までを3フェーズに分けて、取り組んでいくという