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台湾を足がかりに、パナソニックが住宅事業の海外展開を強化するワケ
2018年12月26日 06:00
パナソニックが住宅設備の海外事業を活発化させている。
パナソニック 執行役員で、エコソリューションズ社 ハウジングシステム事業部の山田 昌司事業部長は、2030年度に1,000億円の海外売上げを目指すと発表した。これは、2018年度の20倍に相当する。大きな伸びが見込めない国内市場から、住宅建設の投資が急増する中国、インド、東南アジアへと市場を大きく広げていく計画だ。
海外展開の足がかりとなるのは、東京から飛行機で3〜4時間の距離にある台湾。台湾といえば、家電や自動車といった工業製品から、音楽やアニメといったカルチャーまで、日本への関心が他の国に比べると高いことでも知られている。台北市内の家電売り場を見ても、パナソニックをはじめ日本製の家電が並び、日本の売り場とほとんど変わらない印象だ。当然、パナソニック自体の知名度は高いが、住宅設備については、まだそれほど認知されてはいない。
パナソニックのハウジング事業が海外でどう展開されるのか、台湾での取り組みを現地で見ることができたのでレポートしていこう。
高級マンションにシステムキッチンを納入
まず訪れたのは、台北市中心部から直線で5〜6km程の距離にあるマンション。台湾の建設会社、合環建設が分譲する「合環御實」だ。29階建てだが、台北ではこの高さの住宅は珍しくなく、近郊はどこも高層マンションがひしめき合っている。
合環御實の売りは、地下1,582mから湧き出る温泉。大浴場にくわえて、各戸バスルームの蛇口をひねると、温泉のお湯で湯船を満たすことができる。台湾の温泉は日本のイメージが強いこともあり、玄関ホールなどは日本の建築家によってデザインされている。
パナソニックは、この物件2棟214戸にシステムキッチン「Lクラス」を納入している。台湾のマンションは、一次内装といい、電源の配線やキッチン、バスルームといった水回りのみが完成した状態で販売される。床や壁紙といった内装(二次内装)は、購入者が後から自由に決められる仕組みだ。これは、何もない状態(スケルトン)で販売される中国のマンションと、内装まで完全に作られる日本のマンションとの間にある販売形態だ。
合環御實で「Lクラス」が採用された理由は、温泉が出たことに合わせて日本式をイメージさせたいというデベロッパーの思惑、さらに最近台湾の人にも求められる高い収納力がある(収納については後でさらに触れる)。日本製のキッチンは、温泉同様、特徴のひとつとしてパンフレットなどで押し出されている。
不動産価格の高騰からキッチンの収納性が求められている
続いて向かったのは、台北市内の「台北設計建材中心」。
ここは、台北設計士組合によって運営されている複合的なショールームで、全6フロアーに建材やインテリアのメーカーが出展している。
2016年にオープンしたパナソニックのショールームは、その1階にある。
システムキッチンや洗面所、リビングをイメージした空間だ。その中でもっとも人気で売れているのは、やはりシステムキッチンだという。
ショールームへの来場者は、エンドユーザーやデザイナー、設計士が中心。先ほど書いたように、新築物件の水回りは、デベロッパーが仕様を決めているが、エンドユーザーがこうしたショールームに訪れるのには、台湾の住宅事情が背景にある。台北市内では近年、土地の価格が日本円で坪300万円ほどに高騰、さらに市内中心部の住宅の老朽化がリフォーム需要を押し上げているのだ。
リフォームをテーマにした日本のテレビ番組、「大改造!! 劇的ビフォーアフター」も台湾で人気だという。
あの番組では建築家などの“匠”が、収納などに様々な工夫を凝らすが、日本製システムキッチンの収納も、台湾の人にとって魅力的に映るようになってきた。住宅価格が上昇傾向にあるため、限られた空間でいかに収納力を高めるかが、求められてきているからだ。
バスルーム工業化への挑戦
日本製というブランド、そして収納性と機能性で認知を広げつつあるパナソニックのシステムキッチン。同社は今後、同じ水回り空間の製品であるシステムバスの普及をも目指していく。まだシステムキッチンほど認知が高くないのは、文化や施工方法の違いによるところが大きい。
たとえば、日本ではお風呂とトイレは別空間だが、台湾ではお風呂と洗面、トイレがひとつの空間になっているのが一般的。さらに施工の方法も異なっている。
日本のバスルームは、工場で生産されたユニットを現場で組み立てる「乾式工法」が普及しているが、台湾では、コンクリートや漆喰にタイルを貼って空間を作る「湿式工法」が用いられている。
システムバスを入れるにはマンションなどのデベロッパーと設備メーカーが密に協力する必要があり、それが普及の壁となっていた。しかし、台湾のように1人当たりのGDPが上昇した地域では、建設現場での人件費が高騰し、人手不足が深刻化している。タイルを貼る湿式の職人も減少し、仕上がりのばらつきも問題になっているという。乾式工法(システムバス)であれば、人手は湿式よりも少なくて済み、工期は1/3程度にまで短縮できる。さらに、品質も安定する。
台北で開催された事業説明会では、山田氏が、次のように語った。
「台湾では、様々なノウハウを得ることができた。中国やASEAN諸国においても、台湾と同じように人手不足や施工品質が問題になりつつある。中国のマンションはスケルトンでの受け渡しで、購入者が内装を業者に発注するが、これも品質のばらつきがある。
そのため、国の施策として内製が義務付けられる方向にあり、我々にビジネスチャンスがあると考えている。各国のデベロッパーと協力し、短納期で高品質に提供できる乾式工法のシステムバスやシャワールームを提供していく」
さらに、世界的に進むのが人口の高齢化だ。台湾における高齢者の割合は、日本よりも少ないが(日本26%、台湾13%)、2050年には日本を抜いて世界一高齢化が進むとみられている。
また、中国の高齢者人口は、すでに1.4億人と日本の人口よりも多い(2030年には2.5億人、2050年には3.6億人になると予測される)。
世界に先駆けて高齢化社会を迎えた日本の企業には、介護アイテム、エイジフリーで作られている商材やノウハウが充実している。パナソニックも、現地の介護士や代理店と協力し、市場に参入を図ろうとしている。
台湾から普及を目指す「HD-PLC(高速電力線通信技術)」
スイッチやコンセントといった配線器具のシェア8割を持つパナソニック。それらの機器を生産しているのが、台湾松下電材(股)有限公司だ。創業は31年前の1987年で、商品の企画・開発から製造までを現地(台湾桃園市)で行っている。
ここで新たに生産を開始したのが、「HD-PLC」の通信基板だ。HD-PLCとは、パナソニックが開発した電力線を通信回線として使用する技術。従来のPLCを高速化し最大速度240Mbps、最新のQuatro Coreでは最高速度1Gbpsを実現、国際規格を取得している。
記憶にある方も多いだろうが、PLC、いわゆる電力線LANは、かつて一般家庭への普及を目指したものの、他の電気製品などを使用した際のノイズによる速度低下などが嫌われ失敗に終わった。
家庭内のWi-Fiやモバイルデータ通信が普及した現在、HD-PLCは、産業用として新たな用途に活路を見出そうとしている。そのひとつが、2018年12月から台湾電力が導入するスマートメーターだ。台湾電力は2017年にパナソニックのHD-PLCを用いた実証実験をスタートさせ、100%のデータ収集率を達成したため、主要都市26万世帯への導入を決定した。
なぜ台湾電力がスマートメーターにHD-PLCを採用するのか。日本のスマートメーターには、PHSなどの回線が使用されることが一般的だが、台湾の集合住宅の場合、各戸の電力メーターや電力施設が地下にあることが多く、無線通信が通じにくい。そのため、電力線をそのまま通信回線として使用できるHD-PLCが採用されたわけだ。
このようにHD-PLCは、通信回線を新たに引く必要がないため、コストが抑えられることも大きなメリットとなる。監視カメラをアナログカメラからIPカメラへ切り替える際も、既存のケーブルをそのまま使用できる。歴史的な価値のある古い旅館などでは、建物を傷つけることなくWi-Fiなどを各部屋に敷設することが可能だ。
HD-PLCでは、さらにマルチホップという機器を中継機として使用する技術により、最大2〜3kmの長距離通信も可能で、無線LANではカバーできない、広大な敷地、大規模な施設での導入が期待されている。たとえば工場では、生産ライン間の通信、産業ロボットの制御などに活用できる。また、屋外の街灯に使用すれば、調光制御や故障検知が可能になり、監視カメラやWi-Fiホットスポットを備えた「スマート街灯」となる。
様々な可能性を秘めたHD-PLCも住宅関連の事業とともに、台湾を皮切りに世界へと羽ばたこうとしている。