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パナソニック、イノベーションを量産化する技術の開発に着手

 パナソニックは、IoTやAI、ビッグデータを活用した事業創出を図る上でのベースとなるプラットフォームの役割や、同社の考え方などを説明する「パナソニックにおける イノベーション量産化技術開発の取り組み」と題したセミナーをプレス向けに開催した。

 セミナーでは、4月の組織改革で、同社のビジネスイノベーション本部 副本部長 馬場渉氏が登壇。はじめに、同社が組織改革を通して目指しているのは「一つ一つの製品やビジネスモデルのイノベーション、新規事業の開発起ち上げだけではない」とした。

ビジネスイノベーション本部 副本部長 馬場渉氏

 目指しているのは、「25万人の従業員と30を超える事業部を有し、まもなく創業100年を迎えるパナソニックが、イノベーションを1つや2つではなく、量産化できる技術を生み出したい。そうした技術を具現化することで、過去に技術開発などで産業貢献してきたのと同等に、日本経済全般や製造業の技術部門の新しい姿を提示したい」と続けた。

パナソニックが製造業で培った生産技術を、イノベーション領域に適用する

 馬場氏は4月に行なわれた「イノベーション推進に向けたパナソニックグループの研究開発戦略」と題したプレス向けの発表会でも語ったように、シリコンバレーでイノベーションを起こしているのは、AmazonやGoogle、Appleなどのソフトウェア産業だけではないと語る。

 シリコンバレーの強みは、思考技術あるいはイノベーションを創出するプロセス技術、あるいはイノベーションを生み出す場所の提供の環境の技術であり、表現の技術だとする。

 「そうした技術とは、だれか属人的な何かや一過性の何かではなく、システマチックにイノベーションを生み出し続ける、量産の技術であると私は捉えています」

 馬場氏は、はじめにパナソニックの歴史を振り返り、同社の強みを解析。同社が製造業で飛躍できた理由を、一つ一つの製品の設計や販売の良し悪しだけではなくて、設計されたものを量産化する技術、つまりは生産技術を徹底して研究してきたからだと指摘する。

パナソニックの“モノづくりを量産化する技術”の開発の沿革

 「当社の松下幸之助が生産技術を研究し、企業として初めて生産技術の研究所を作りました。生産技術本部が設立されたのは1977年であり、今に至っています。

 ここで確立された生産技術が、世界に数百あるパナソニックの工場に共通する、ある種の量産化フレームワークを提供しています。1977年にモノづくりの枠組みを支える仕組み、生産技術というものが、パナソニックという組織の中で芽生え、それが現在においても国内中小企業、あるいはアジアの製造業へと伝播されモノづくりの産業を支えてきたと言えます。

 同じことをイノベーションでやっていきたいのです。

 1977年当時は、生産技術という手法を確立させて、あらゆるモノづくりに転用可能なものに関心がある企業があったかと考えると、それほどなかったんじゃないかと思います」

 イノベーションについても状況は同じだと仮定。イノベイティブな製品やビジネスモデルについては、興味関心が高いが、イノベーションの量産化技術についての関心は薄いとする。同社では、そのイノベーションの量産化を、日本の企業風土や日本人に適合したメソッドとして開発し、展開していきたいと語った。

生産技術を開発した、その同じことをコトづくりでも行なう

従来の「タテパナ(事業部制)」に「ヨコパナ」のマインドを加えていく

 馬場氏は、同社の従来の事業部制や製品事業部制を根幹としたモノづくりを「タテパナ」とした。同社は、それぞれの製品を独立した会社と見立てて、これを製造や販売戦略にも適用してきた。

 「タテパナというのは、それぞれの製品、それぞれの価格、それぞれの競合相手、縦の顧客設定、縦の利用体験、これらが成長を支えてきました。でも、これをこのまま継続して、世界一の企業になれるのかと言えば難しいでしょう。」

 大きく価値観が変わってきている現在では、社会の期待というのは、従来の手法「タテパナ」を強化することではなく、見方を変えること、違う視点を加えてくれという要請があると馬場氏は言う。

 こうした見方を変えることを馬場氏は「ヨコパナ」と定義。同社が数年前からアナウンスしている「クロスバリューイノベーション」のことだという。

タテパナでは、それぞれの製品や価格、競合などが異なる手法で決まってきた
事業部を横断した横串、ヨコパナを加えていく

 「もしかすると従来どおりの強いタテパナが存在して、そこにさらに新しい価値観や、見方を変えるヨコパナを加えることが第一歩かもしれません。

 そうした動きをすることで、おそらくタテパナも変わる必要があることに気がつくでしょう。そうすれば、ヨコパナの価値を前提としたタテパナの製品づくりやビジネスモデルの構築というのが相まっていくと思います」

 ヨコパナを加味していくだけで終わらせず、最終的には強いタテパナを変えていく。

 「一消費者として“洗濯”という行為、キッチンでの“調理”という体験をどう変えてくれるのか? そうしたことが、次の100年のパナソニックへの期待なんじゃないかなと考えます」

ヨコパナに必要なプラットフォームを徹底する

 ヨコパナ、クロスバリューイノベーションを量産化するには、3つの要素が必要だとする。それは、テクノロジー(狭義の技術)とカルチャー(企業風土や人事制度など)、そしてデザインだ。中でも今回は「テクノロジー」について語られた。

クロスバリューイノベーションを量産化に必要な3要素

 ヨコパナを推進する、ベースとなるテクノロジーが「Panasonic Cloud Platform」や「Panasonic Digital Platform」だとする。

 前者については、2013年から開発が始まり、既にテレビやエアコン、車載機器などの製品に採用されていたもの。同社の16事業部、21のサービスで使われ、既に180万台の製品が接続されている。

 一例として挙げられたのが、TV向けの「VIERA TV Anywhere/MediaCenter」、「Panasonic Smart App エアコン・リモート制御」、「T-CONNECT パナソニック・エアコン操作アプリ」、「スマートHEMSアプリ」、「みまもりエアコン ソリューション」、「P2 Cast 放送局向け映像編集ワークフローサービス」、欧州向けに提供されている「AQUAREA Smart Cloud」などだ。

「Panasonic Cloud Platform」が採用された製品やサービスの実績
2013年から開発が始まり、既にテレビやエアコン、車載機器などの製品で採用
21のサービスで使われ、既に180万台の製品が接続されている

 この「Panasonic Cloud Platform」の上に後者の「Panasonic Digital Platform」を全社が共通のプラットフォームとして採用して、製品開発を進める。

ヨコパナの手法で開発がスタートした「HomeX」プロジェクト

 馬場氏はさらに、ヨコパナ=クロスバリューイノベーションの手法で、新たなサービス「HomeX」を開発し始めたと発表。「HomeX」の開発手法が、同社の今後のモノづくりやコトづくりの指標になるという。

クロスバリューイノベーションにおける製品やサービスの開発ステップ
始動した「HomeX」プロジェクト

 具体的な内容は、語られなかったが、「未来の住空間環境を、当社が持つ生活家電やAV家電、住宅設備、住宅を組み合わせて変えるサービス」だとした。

 HomeXは、住空間の中での光や映像や音や熱などを、もう一度振り返りながら開発にあたる。

 「これだけ住空間や住設と住宅を取り扱っている企業は、世界に存在しません。HomeXは、そんな当社が、もう一回、横串で挿したヨコパナ前提のユーザー体験とソフトウェアプラットフォームを設計し、ハードウェアも再設計して、新しい住空間の体験を提供していこうというものです」

 プロジェクトは、同社アプライアンス社やエコソリューションズ社と協業しながらシリコンバレーで進めている、未来の住空間プロジェクトなのだという。

 開発はシリコンバレーのスタイルで行なっているため、馬場氏いわく「一生ベータ版かもしれないけれど、すぐに形に見えるものとして提供するつもり。お客様が利用できるのは、何年も先なのかというと、そんなことはない」と断言する。

 最後に馬場氏は、同社におけるイノベーション量産化技術の開発について、次のように語って締めくくった。

 「過去にパナソニックがモノづくりで産業界をリードしてきたように、コトづくりのフレームワークを提供することで、当社の成長はもちろん、お客様の感動体験を増やしていきたい。そのフレームワークを、さらに他の産業にも展開していきたい」