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パナソニック、2018年度決算説明会 〜他社との協業を通じ事業の競争力強化を図っていく
2019年5月10日 12:04
パナソニックは2019年5月9日、2018年度(2019年3月期)決算説明会を実施した。2018年度(2019年3月期)の連結売上高は8兆27億円で、ほぼ前年並みとなった。車載インダストリアルや家電事業での収益悪化や事業構造改革費用の計上などのマイナス要因があったものの、年金制度の一部見直しや資産売却などの一時利益などによって、営業利益は全体では310億円の増益となる4,115億円となった。
パナソニック 取締役 常務 執行役員 CFOの梅田 博和氏は2018年度のセグメント別実績について「すべての事業セグメントにおいて営業利益が減益となりました」と語った。
「アプライアンスはAVCを中心に販売が苦戦したのに加えて、中国でのデバイス事業が落ち込み減収減益となりました。エコソリューションズは海外で配線器具等が堅調に推移し、パナソニックホームズの伸長や新規連結により全体で増収となったものの、ソーラーの固定資産減損計上などによって全体では減益となりました。コネクティッドソリューションズはプロセスオートメーションなどが好調に推移し増収となりましたが、営業利益は前年一時益計上の反動により減益。オートモーティブ&インダストリアルシステムズは中国市況の悪化によるインダストリアルの減販影響もあったものの、オートモーティブエナジーが伸長したことで全体的には増収。営業利益はオートモーティブ開発資産の減損やインダストリアルの販売減などにより減益となりました」(梅田氏)。
2019年度は新中期戦略の初年度として事業ポートフォリオ改革を実行していくが、中国市況とマクロ環境の不透明さなどによって減益となる見込みだ。連結業績見通しは売上高が前年から約27億円減収の7兆9,000億円で、営業利益は1,115億円減益の3,000億円。純利益は前年から841億円減益の2,000億円。ROEは10.1%となる見通しとなっている。
2019年度は、アプライアンス社はエアコンや白物家電を中心に中国やアジアでの事業を強化。ライフソリューションズ社は海外で配線器具、照明機器などの電材事業で市場成長を見込んでおり、国内では非住宅におけるソリューション事業を強めていく。コネクティッドソリューションズ社は既存事業の収益力を高めることにより、さらなる高収益事業体化を目指すという。
オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社は、利益成長を最優先事項に車載機器事業の経営改革を断行するとともに、競争優位がある領域での案件に集中していく。角形車載電池では姫路と大連工場で生産拡大のための投資を行ない、円筒形車載電池では北米工場の生産性向上、稼働向上による収益改善を目指す。
インダストリアルソリューションズ社は車載産業の中で成長分野に集中投資し、事業構造の転換を加速するとともに、オペレーションの効率化などに取り組む。システム事業では営業開発体制の強化と商品拡充により顧客に最適なソリューションを提供。デバイス事業ではデバイスの商品力を強化することで中長期的な市場シェア拡大を目指していくという。
続いてパナソニック 代表取締役社長CEOの津賀 一宏氏が登壇し、2018年度までの3カ年を総括した。
「高成長事業では売り上げが成長に達しましたが、オートモーティブで開発費が大幅に増加し、円筒形車載電池は生産の拡大に伴うさまざまなリスクに対し対応力が十分ではなく、利益が伸び悩みました。
安定成長事業では、家電で日本や中国以外での収益性が低迷。住宅事業も新築の戸建て請負が想定よりも低く、販売攻勢が悪化しました。収益改善事業においては、構造改革に対するスピード感が不十分でした。2019年度も減益見通しですが、新中期戦略では低収益から脱却し、利益を成長軌道に戻すことが重要と考えています」(津賀社長) 。
2019年度から3年間の新中期戦略について津賀社長は、「ポートフォリオマネジメント」、「経営体質の徹底強化」、「事業の選択と集中」の3つのポイントを掲げた。
ポートフォリオマネジメントを見直して利益成長と集積性改善を実現
従来の中期戦略では各事業を「高成長事業」、「安定成長事業」、「収益改善事業」と区分し、原則自社リソース中心の成長戦略を進めてきた。しかし高成長事業においては売り上げが伸長する一方で収益が伴わないという課題が顕在化した。一部の安定成長事業では競争力が低下し、持続的な利益創出に限界が生じたという。
「こうした状況を踏まえて新中期戦略では成長を牽引する事業を再設定するとともに、自社リソースにこだわらず、他社との協業を通じ事業の競争力強化を図っていく」(津賀社長)。
新中期戦略では、新たに「基幹事業」、「再挑戦事業」、「共創事業」という区分でポートフォリオマネジメントを行う。基幹事業ではソリューションビジネスを拡大することで利益成長を牽引し、低収益を続けている車載事業については再挑戦事業と位置付け、顧客や製品などで競争優位にある領域に集中して収益性の改善に注力する。ブランド力などの強みを生かせる家電と住宅については共創事業とし、地域や他社との連携を通じて競争力を強化し、収益性の向上を図っていく。
社会課題解決型ビジネスを基幹事業に据える
基幹事業の位置付けについて津賀社長は以下のように語った。
「都市化や労働人口の減少といったメガトレンドを背景に、さまざまな社会課題が生まれています。基幹事業はこうした社会課題の解決に直接または間接的に貢献できる分野で、当社の競争優位性が生かせる領域です」
オフィスや施設などの生活空間に対して快適性を提供する空間ソリューション、労働現場の生産性向上などに寄与する現場プロセス、インダストリアルソリューションにおいては魅力的なデバイスを提供し、社会課題の解決に寄与するテクノロジーの進化を支えていくという。
空間ソリューションでは建設業界で主流となっている「BIM(Building Information Management)」への対応を強化するとともに、電設資材や照明などパナソニックが強みとする商品を組み合わせ、「設計から保守運用までカバーするソリューションビジネスを拡大していきます」(津賀社長)。
現場プロセスではパナソニックの製造ノウハウやロボティクス技術の強みに加え、ソフトウェア分野における他社協業を通じて統合ソリューションを展開していく。インダストリアルソリューションでは情報通信インフラ拡大などのメガトレンドを踏まえ、「競争力のあるデバイスでトップシェア商品を拡大するとともに、システム・モジュール商品を拡充し、最適ソリューションを提供していきます」(津賀社長)。
車載事業などは「再挑戦事業」と位置付けて収益改善に取り組む
オートモーティブ、車載電池事業は「再挑戦事業」と位置付けて収益改善に取り組んでいく。
「収益が低下しているオートモーティブ。円筒形車載電池事業においては、私自身が先頭に立って抜本的事業の立て直しと利益改善に取り組みます。
オートモーティブではまず開発費コントロールを徹底するために地域や商品ごとに開発リソースを最適化します。円筒形車載電池は生産性の改善を徹底し、常に行なった投資の回収を進めていきます。角形車載電池は新たなビジネスモデルの挑戦としてトヨタ自動車さんとの合弁会社を設立し、両社の強みを融合し、競争力のある電池を安定的に供給していきます」(津賀社長)。
ブランド力のある家電、住宅事業は「共創事業」に位置付け
パナソニックが大きなブランド力を持つ家電事業や住宅事業においては、「地域およびライブパートナーとの共創で事業の競争力を磨き上げ、事業の収益性の向上を目指します」(津賀社長)という。
「家電事業は(2019年4月に新設した)『中国・北東アジア社』の新たな設立により、これまで以上に日本と中国の強みを掛け合わせ、コスト面などの競争力を強化していきます。将来的には広域アジアの事業にも日中で磨いたノウハウを生かしていきます」(津賀社長)
また住宅事業では、ライブパートナーとの共創の取り組みの1つとしてトヨタ自動車と共同出資で街づくりを担う合弁会社の設立を発表した。
「新会社の設立を通じた協業により、トヨタ自動車さんが進める『モビリティサービス』、当社が進める『くらしアップデート』への取り組みを融合させ、街全体での暮らしの新たな価値の創出を目指していきます」(津賀社長) 。
津賀社長は最後に、同社が掲げる「くらしアップデート」の取り組みにおけるB2B事業強化の重要性について語った。
「『くらしアップデート』とはB2Cだけでなく暮らしを支えるB2B事業を通じてお役立ちを図るものです。『アップデート』とは個人であったり法人であったりと、お客様それぞれにとって“モスト・スータブル”、つまり最適なものやサービスを提供し続けることです。特にこれから3年間はB2B領域を通じた基幹事業においてソリューション型ビジネスを進化させることに注力します。こうした取り組みを積み重ねることで、パナソニックは将来的にはB2Cも含めてくらしアップデートが実現できる会社へ変革していきたいと考えています」(津賀社長) 。
2018年10月に“くらしの統合プラットフォーム”として発表した「HomeX」は、この「くらしアップデート」の基盤となる。一つひとつの家電製品が単体で存在するだけでは、家電同士がインテリジェントに連携して人々の生活を豊かにすることはできない。そのため、スマートスピーカーなどの音声アシスタント、クラウドサービス、サーバーソリューション、住宅設備などさまざまな機器やサービスが連携していく必要がある。
「B2Cで『くらしアップデート』といっても、B2B要素がなければ実現できません。(他社との)パートナーシップは結局B2Bで、家の中で使うB2Cに近づいていくことになります」(津賀社長)。
家電製品などを購入してから人々の生活スタイルの変化に応じてアップデートをし続けるためには、これまでのいわゆる「買い切り型ビジネス」から「リカーリング(継続課金型)ビジネス」へのビジネスモデルの転換が必要になる。
津賀社長は質疑応答の中で、最初に購入する料金は安いものの、継続的に課金していくビジネスモデルへと転換していくことについて語った。
「フル機能じゃなくていいから自動化してほしいとか、(今後)最適なものが提供できるのではないかと思います。そのための準備として、まずソフトウェアでリカーリングを進めていき、“急がば回れ”で拡大していくという考えです。HomeXなどソフトウェアのプラットフォームはしっかりと準備する必要があるので、B2CもB2Bも共用化を図れるようにしていきたいと考えています」(津賀社長)。