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パナソニック、最新のディープラーニングとロボット技術を搭載した、新型「ロボット掃除機」を発表

 パナソニックは千葉工業大学と共同で、最先端の人工知能(AI)、自動操縦技術、ロボット技術を搭載し、高度な知能化白物家電へと進化させた、次世代ロボット掃除機のコンセプトモデルを11月1日に発表した。

パナソニックと千葉工業大学が共同開発したロボット掃除機の次世代コンセプトモデル
パナソニックが2017年10月に発売した「RULO MC-RS800」をベースに進化させたモデルだ
充電台にドッキングした本体を、電動で縦置き状態に吊り上げる機能も実現している
稼働開始し、地図作成する次世代ロボット掃除機
充電台へ帰還する、次世代ロボット掃除機

 パナソニックが2018年10月30日から開催している「CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018」の講演会場では、パナソニック専務執行役員でアプライアンス社 社長 兼 コンシューマー事業担当 兼 FF市場対策担当の本間 哲朗氏が登壇し、「見た目は(通常のロボット掃除機と)変わりませんが、最先端のロボティクスとAIが組み込まれています」と自信を見せた。

パナソニック専務執行役員でアプライアンス社 社長 兼 コンシューマー事業担当 兼 FF市場対策担当の本間哲朗氏

 「先端技術を組み込んだ家電をいち早くお届けするためには、開発のスピードアップが課題だったため、自らプロジェクトを推進してきました。ものづくりの仕組みを変えるチャレンジで、弊社の開発プロセス変革を経て生まれた象徴的なモデルです」(本間社長)

 一般的な家電製品は企画から完成まで1年から2年ほどの期間を要するが、このコンセプトモデルは約3カ月で完成したのだという。

 「すべての部品や構造体を0から作ったらこのスピードはもちろん出せませんが、今ある構造体や機構部品、基板などを活用しながら、さらにものづくりの仕組みを変えることで達成できました」(本間社長)

最新鋭の技術を用いて「家電の知能化」を実現

 本間社長は講演の中で、家電製品は今後「知能化が必要」だと語った。

 「世の中やそこで営まれる暮らしは、日を追うごと、年を重ねるごとにさまざまな変化があり、それに伴って必要なものもサービスも変化します。重要なのは暮らしに寄り添い続け、お客様を知ることです。家電は暮らしに寄り添ってきましたが、これからの家電はお客様のライフスタイルを知る『知能化』が必要になります」(本間社長)

ロボティクス技術やAI(人工知能)技術を用いた「知能化」が今後の家電に重要だと本間社長は語った

 パナソニックと共同で開発した千葉工業大学 常任理事 未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長で工学博士の古田 貴之氏は、家電の知能化について次のように話す。

 「知能化するにあたって、知能化白物家電の開発プロセスを革新しようと、本間社長と話し合いました。ロボットの世界ではソフトとハードを同時並行でアジャイル的に開発するのが当たり前です。今回のコンセプトモデルの開発はわずか3カ月ですが、ロボット技術やAI、自動操縦といった技術を超短期間で開発するのはとてもパワフルでした。

 しかし従来の作り方や技術だけで知能化するのではあまりにもつまらなさすぎるというか、むしろ美しくありません。皆さんのお手元に届いてワクワクするような体験と、人に寄り添うような家電、そして超最新鋭のできたばかりの技術を皆さんにお届けしてこその『知能化』ではないかと思います」(古田氏)

千葉工業大学 常任理事 未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長で工学博士の古田 貴之氏
ロボット開発プロセスを応用することで、約3カ月という短期間でのコンセプトモデル開発を実現した

 このコンセプトモデルは、ディープラーニングで進化させた世界初の「AI床センサー」によって床上の物体を認識し、段差に応じて自動的に本体を持ち上げて走行するという機能を搭載する。

 「センサー自体は非常にシンプルなレーザーセンサーで、これに最先端のディープラーニングシステムを、まさに3カ月の中で研究開発して投入しました。これによって床の上のあらゆるものを認識するだけでなく、動く人も認識します。これによって『otomo機能』(人を認識してついて回る機能)ができたり、部屋の地図を作成できたり、床面上のものも認識します。そんな賢いロボット掃除機に進化しました」(古田氏)

レーザーセンサーを用いた「AI床センサ」を搭載している

 AI床センサーに用いているレーザーセンサーは単体で使うと距離しか測れないが、ディープラーニングと組み合わせることで、複雑な立体情報に変換して使えるようにしたという。

 「簡単に言うと本当にシンプルなセンサーを使い、頭の良さで解決するというものです。高価なセンサーは故障率が高いですし、扱いも難しいなど諸刃の剣です。理想はシンプルな素材を使って美味しくするということで、料理にも似ています」(古田氏)

 従来モデルのRULOシリーズ(RULO MC-RS-800)では、部屋のマッピングや自己位置推定にカメラセンサーを用いた「ビジュアルSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)」を用いていたが、今回のコンセプトモデルではレーザーセンサーを用いたfuRo独自の高速空間認識技術「ScanSLAM」を活用している。

レーザーセンサーによって空間を認識し、自己位置を推定するfuRo独自の高速空間認識技術「ScanSLAM」を活用している

 「超最新鋭の自動操縦技術を惜しみなくこの小さなボディーへ入れました。今年、ロボット学会の学術講演会で論文賞を取ったばかりのできたてほやほやの技術です。レーザーSLAMというのは、本来はもっと大規模なCPUでないと動かないのですが、我々が開発したScanSLAMは省メモリかつ高速で、大変堅牢性が高いということで論文賞をいただきました。我々のSLAMだからこそ既存のRULOに入ったのです。またRULOのCPUシステムは非常に成熟していて、クオリティーコントロールもしっかりしているので、ガッチリと入りました」(古田氏)

 自動操縦技術と組み合わせることで、タブレット端末で掃除スポットを遠隔で指示したり、人と協調して掃除することも可能になる。また、周囲環境と自分の位置を常に正確に把握できるため、確実に充電台に戻ることができることに加え、ロボット技術によって充電台にドッキングした本体を電動で縦置き状態に吊り上げる機能も実現した。

 古田氏は「僕は家電マニアで、ロボット掃除機マニアで、ロボット掃除機を作るのが夢だったんですよ」と語る。

「ロボット掃除機を作るのが夢だったんですよ」と語る古田氏

 そんなマニアな古田氏が自宅で使っていて必要だと感じた機能の一つが縦置き機能だったという。

 「うちの妻はロボット掃除機が邪魔だと言って立てかけるんですよ。そうすると充電できませんから、電力が足りなくなってしまいます。また実際に使うとラグも苦手で、"ロボット掃除機殺し"です。そういった問題意識から生まれました」(古田氏)

講演会場でデモも行われた。タブレットから掃除をスタートすると、縦置きの状態から自動的に発進する
ScanSLAMによって自動的に地図を生成する
間取りを認識しながら自動的に掃除を進めていく
ホームボタンを押すと、素早く充電台まで戻っていく
子供用のプレイマットや毛足の長いラグを見つけると、車輪を持ち上げて難なく乗り上げた
端に房の付いたラグや、畳も認識して乗り越えていった

2017年12月から次世代ロボティクス家電の共同開発をスタート

 パナソニックと千葉工大は、2017年12月に次世代ロボティクス家電の技術開発を目的として、千葉工大 津田沼キャンパス内に「パナソニック・千葉工業大学産学連携センター」を設立し、共同開発をスタートした。

 千葉工大のfuRoがロボット開発で培ってきたソフトとハードの基幹モジュールや、その統合開発のプロセスと、パナソニックが長年培ってきた信頼性の高い家電製品の企画・開発力を掛け合わせ、ソフトとハードを統合しながら、短期間で試作と改善を繰り返すアジャイル開発に挑んだ最初の結果がこのコンセプトモデルだ。

 本体デザインは世界的なプロダクトデザイナーの山中 俊治氏とパナソニックのデザイナーである岡部 健作氏が共同で行うなど、「デザインとエンジニアリング双方でのオープンイノベーションもこのプロジェクトの大きな特徴です」と本間社長は語った。

 コンセプトモデルの開発に際して陣頭指揮を執った本間社長は、その苦労について次のように語る。

 「私たちアプライアンス社は、15年、20年使えることを期待されている製品の設計開発をしており、技術者はそこにプライドを持っています。今回の取り組みは極端なアジャイルで、今までとは全く異なる開発アプローチでしたから、今の製品を開発している人にお願いしてもなかなかうまく進まないだろうなと思っていました。

 私は経営者なので、相談されても開発の順番まで調整することはできませんが、リソースを割り当てること、阻害要因があればそれを解放することはできます。そこで私自身が、古田さんのお困りごとを毎回聞いてポイントを整理し、阻害要因を解放していくなどして、お互いギリギリのところで密接に連携して進めたプロジェクトでした」(本間社長)

 コンセプトモデルは、2017年10月に発売した「RULO MC-RS800」をベースに開発が進められた。

 「今回のモデルは『進化』がテーマだったため、ゼロから作るのではダメでした。RS800の機械部品などをなるべく使いつつ、新しい技術やセンサー、ソフトウェアを入れ、どうまとめるかという点が重要です。ベースモデルに新技術をノリで貼り付けたようなものではなく、しっかりと進化させなければなりません。できたばかりの最新鋭の技術を入れることと、15年、20年使い続けられるようなパナソニックのクオリティーを保つというのは相反するため、そこの狭間で苦労しました」(古田氏)

 本間社長は講演で、2021年までにエアコンや洗濯機、冷蔵庫など、すべてのカテゴリーに「知能化」した家電を投入していくと表明した。今回のモデルは本間社長自らが陣頭指揮を執ってスピーディーな開発を実現したが、もちろん今後の知能化家電の開発すべてに指揮を執るわけではないという。

 「今までと違う開発手法だったため、私が阻害要因を解放していかないと違う方向へ行ってたと思います。ついていける社員が少なかったし、私が指揮しなければ、社員自身も"一生懸命やっても失敗するのではないか"と思ってしまったのではないかと思います。

 今回のプロトタイプを完成させたことで、弊社でアジャイル開発を行なうにあたっての阻害要因が分かり、fuRoのアプローチも分かってきたので、今後はそのチームに任せていこうと思っています」(本間社長)

 阻害要因とは多種多様なものだったと本間社長は語る。

 「社内のルールに則って開発ステップを進めるために必要な書類が準備できないなど、細かいことがありました。社内における開発ステップのルールが阻害要因になるケースが多かったと思います。また、今回は非常に高度な技術が入っており、いち早くそういったことを理解できる部門に頼んで社員を投入するというのも今回は実施しました」(本間社長)

 本間社長直轄でプロジェクトを進めたことによって、これから知能化家電をスピーディーに開発する上でのテンプレートができたと古田氏は語る。

 「社長直轄でなければ、僕が途中でギブアップしていたかもしれません(笑)。他社とのプロジェクトとは、そのくらいスピード感が違いました。床センサーなどはまさにその場で作り上げて、論文も出ていないほど新しい技術です。今回、社長直轄で開発していただいたことで、どうしたらスピーディーにできるかというテンプレートができたように思います。これからそのやり方を、ほかのところに適用していくということです。パナソニックさんが本当に進化していく過程を目の前で見ることができたのは、大変興味深く、貴重な経験になりました」(古田氏)

 古田氏は最後にこう語った。

 「ロボット技術を使って、日本や世界を変えることがやっとできるようになります。素晴らしいパートナーと一緒に、実際にものを作って変えるところまで到達できて実に感無量です。ダーウィンは『強いものが生き残るのではない、環境の変化に対応できたものが強い』と言いましたが、まさにその適応能力、強さを目の当たりにした気がします。我々が今後発表していく、知能化家電を楽しみにしていてください」(古田氏)