藤本健のソーラーリポート

雨の7月、猛暑の8月。太陽光で家の電気はどれだけカバーできた? 16年間の発電履歴を振り返る

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
筆者自宅の太陽光発電パネル

今年の7月は本当に雨ばかりで、8月に入った途端に晴れの日ばかりになって猛暑の連続。そんな実感値はあるが、実際データ上ではどうなのか? もちろん気象庁にはいろいろなデータがあると思うが、自宅の太陽光発電の発電実績からもある程度の状況が見えてくる。

太陽光発電をしたいがために2004年末に家を建て、それ以来16年、毎日発電記録を付けてきているので、かなり多くのデータが蓄積されてきた。そうしたデータを元に家庭用太陽光発電とはどんなものなのかを少し振り返ってみようと思う。

太陽光発電の導入は「待った方が得になる」のか

以前にも何度か紹介したことがあったが、筆者は中学3年生の時に初めて太陽電池の存在を知り、無尽蔵に降り注がれる太陽の光で電気を作れるなんて!と感動するとともに「これからのエネルギーはこれだ!」と思って以来の太陽電池マニア。

そのマニア歴も、かれこれ40年にもなるが、その中学3年生からの夢が太陽電池で暮らせる家を作ることだった。大学も電子情報工学科へと進み、太陽電池メーカーへの就職も真剣に考えたが、なぜかまったく関係ないリクルートへ就職。会社員時代も転職情報誌の編集者として、太陽光発電・自然エネルギーの連載を無理やり行なうなどマニアックにこの分野を開拓していたが、技術の進化とともに法律も改正され、夢の太陽光発電での生活も徐々に現実のものへと近づいていった。

そして1993年代には日本国内でも家で発電した電気を電力会社の系統と連系させることが可能になったのだ。その後、補助金制度などもスタートしたので、絶対に自分の家で実現させい、と思ったものの土地を買い、家を建て、太陽光発電システムを設置する……となると、簡単な話ではなかった。が、当時リクルートは38歳で定年退職を迎えられるという制度があったので、38歳になってすぐに退職。そこで得た退職金を元手に、太陽光発電を最優先に考えた家を建てたのが2004年末だったのだ。

16年前の建築途中の自宅

よく「発電効率ってどんどん進化してるんでしょ、だったらなるべく導入を待ったほうが得なのでは?」なんて言われる。確かに、発電効率はよくなっているが、何千倍・何万倍の処理速度へと進化していくコンピュータと違って、その進化のスピードはとっても緩やか。40年前の太陽電池で10%弱といわれていた発電効率が、現在の家庭用ソーラーパネルが15%程度(多結晶シリコンの場合)。単結晶のものなら20%程度のようだが、それにしてもその程度の進化なので、特に待つ必要などはないというのが筆者の考え。

もっとも価格はこの10年、15年で劇的に下がってきており、2014年に設置した当初は3.6kWのシステムが工事費込みで200万円ちょっとだったのが(当時は補助金があったので実際の出費は170万円程度)、いまなら100万円程度で導入可能なので、かなり手ごろになったとは思う。

ただし、さまざまな報道などからもご存知の方が多いと思うが、太陽光発電の売電価格はこの10年間で少しずつ下がってきたため、社会的な状況は少し変わってきている。以前は「屋根に太陽光発電システムを載せれば儲かりますよ」なんて怪しいセールスもいっぱいされていたが、最近はそういう状況にはない。とはいえ、100万円程度で自分で使うエネルギーをある程度賄えるのであれば、非常に大きなことだと思う。

アメリカ・カリフォルニア州では新築の家は太陽光発電システムの設置が義務化されたそうだが、日本もそうしたことを進めていくべきだと個人的には思っている。

では、実際に設置するとどの程度の電気を得ることができるのか? kWhという単位で数字を出されてもなかなかピンとくるものではないとは思うが、この16年間の発電成績を月ごとに集計した結果が以下のものだ。

16年間の発電成績(7月~12月)。単位はkWh

設置業者によるシミュレーションの数字はいろいろなところで見かけるが、15年以上の家庭での実績って、あまり出ていないと思うので、導入を検討している人には一つの参考にはなるかもしれない。ちなみに場所は神奈川県横浜市で、南南東の方向に向けた21.8度の勾配。モノはシャープ製の多結晶シリコンのパネル3.6kW、パワコンもシャープ製の3kWのものとなっている。

最近の太陽光発電のシステムであれば、上記のようなデータをインターネットと連動させて自動で集計できると思うが、2004年末に設置したシステムはかなり原始的なものだった。見えるのは瞬間的な出力と1時間ごとの発電状況、その日の発電量が液晶パネルに表示されて見えるほか、クルマの走行距離計でいうところのトリップメーター(期間発電量)、そしてオドメーター(総積算発電量)の2つがあるだけ。

瞬間的な出力と1時間ごとの発電状況
その日の発電量
期間発電量
総積算発電量

【訂正】初出時、「瞬間的な出力と1時間ごとの発電状況」の写真が誤っておりました。お詫びして訂正します(9月13日修正/編集部)

そのため、毎日の発電量を手でノートにメモして集計し、月間データをPCに記録するということをしているのだ。

発電量を手でノートにメモして集計

このデータからもいろいろなことが見えてくるが、過去16年の7月の発電量をグラフにしてみた結果をまとめた。

過去16年の7月の発電量をグラフにしたもの(単位:kWh)

新聞などの報道で、今年は統計開始以来、過去最も遅い梅雨明けなどと言われていたが、実際酷い状況だったことが一目瞭然。昨年も長梅雨で発電量が少なかった記憶があったが、それをさらに下回る最悪の発電量だったことが分かる。今年の7月、横浜で晴れたのは20日だけだったので、本当に雨ばかりで、野菜も高騰したわけだが、太陽光の発電量としてみても最悪だったわけである。

ちなみに毎年の発電量すべてを折れ線グラフにして見てみても、毎年発電量が少ない11月をも下回る状況だったのが分かる。

毎年の発電量を折れ線グラフにしたもの(単位:kWh)

ちなみになぜ11月が少ないのかというと、冬至に近い時期であり、かつ12月ほど晴れないので11月の発電量が少ないのだ。逆に夏至のある6月が本来は一番発電量が多いはずだが、日本はその時期から梅雨に入るため、その手前の5月が一番発電量が多くなる。

上記の全体グラフからも見えては来るが、毎日晴れた今年の8月はどうだったのか、こちらも8月だけを抜き出してグラフにしてみたのがこちら。

よく晴れた8月のデータをグラフ化(単位:kWh)

これを見ると、今年が特別発電量が多かったというわけでもなさそう。一昨年とほぼ同じだし、2010年などは今年を遥かに上回る発電をしていたのだ。

太陽光で家の電力はどれだけ賄えるのか

発電量の変化はなんとなくわかったが、実際にこの発電でどれだけ家庭の電力が賄えるのかのほうが気になるという人も多いだろう。これに関しては発電量だけでなく使用量を見ないと分からないし、家庭によってかなり電気の使い方は違うのでなんともいえないところだが、筆者の家の場合を紹介してみよう。

まずは、例年発電量が多く、使用量が少ない5月について。電力量で見た場合と、電気代収支で見た場合のそれぞれをまとめた。

発電量が多く、使用量が少ない5月の電力量
5月の電気代収支

これはNTTスマイルエナジーがサービスしている「エコめがね」というシステムを使っての分析。エコめがねは簡易的なHEMSシステムであり、発電量、使用量を1時間ごとに計測できるというもの。前述の通り、日々の発電量を手で記録している一方2011年12月から、エコめがねに加入しているため大まかな数値はこれでつかむことができる。実際にはパワコンでの計測結果とのズレはあるので、手で記録している数字のほうがより正確ではあるのだが、使用状況が分かるのは大きなメリットでもある。

まず電力量を見ると、消費電力量が349.4kWhで発電電力量が288.9kWhなので、すべては賄いきれていないが8割以上の電力は自力で賄っていると考えられる。もっとも蓄電池を持っているわけではないから、昼に余った電力は東京電力に送り、発電しない夜間や雨の日は東京電力から買うという形。

昨年11月までは、FIT制度(固定価格買取制度)によって売る電力は48円/kWhという高い値段で買い取ってもらえていたが、FIT終了により現在は8.5円/kWhと下がってしまった。そのため、売るより使った方が得という状況になっているので、どう生活すべきかは頭の使いよう。

その状況下において電気代としてみたのが、もう一つのグラフであり、結果としては差し引き5,524円の支出だったというわけだ。

それに対し、猛暑の今年8月の状況もまとめた。家族5人いて、コロナ禍でみんながほぼ自宅で生活していることもあり、木造の家で3台のエアコンがほぼ24時間つけっぱなしなため、結構な消費量にはなっている。が、それでも13,500円の支出で抑えられているのは悪くないのではとも思うところだが、どうだろうか?

猛暑だった今年8月の状況

もっともFIT適用時代は年間トータルでいえば電気代0円前後に抑えられていたので、そこと比較すれば大幅な出費にはなったわけだが、気温が高くとくに電気を使う日中の電気を賄えているメリットは大きいはずだ。

パネルはどれくらいで劣化する? 発電効率の推移を調べた

ところでもう一つよく聞かれる質問が「太陽光パネルの寿命ってどのくらいなの? 」という話。実はこれが結構難しい話で、シリコン自体は劣化するものではないので、ある意味半永久的に使えるものともいえる。ただ、内部的には半田付けなどがされており経年劣化で接合部分が腐食するといった可能性もあるし、保護しているガラス板が割れる可能性もある。そのため、各太陽光パネルメーカーは経年劣化によって発電効率が落ちていくと言っており、各社見解は異なるが5年で3%程度、10年で6%程度、20年で12%程度劣化するとされている。が、実際のところどうなのか。年間の発電量を元にグラフにした。

年間の発電量をグラフ化したもの(単位:kWh)

毎年、同じ日射量というわけではなく天候が異なるので簡単に比較することはできないが、これを見る限りではあまり劣化しているようには感じられない。確かに2017年以降、2018年、2019年と下がっているし、2020年も7月の状況などを考えると下がる可能性はありそうだが、発電効率というよりも天候による要因の方が大きいようにも思えるが、どうだろうか?

ただし、太陽光パネルとともに利用するもう一つの要であるパワコンは内部にコンデンサなどの電気部品が使用されているために劣化していき、寿命は10年程度だと言われている。とはいえ、16年経過しても今のところ順調なようで今も使えているのはありがたいところ。正確にいうと、初期不良や保証期間内である2009年にパワコンの故障があり、2回の製品交換をしているので、実際には11年しかたっていないので、そろそろ……という可能性はありそうだが、もうしばらくは頑張ってもらいたいと思っているところだ。

以上、過去16年の発電状況のデータを元に、太陽光発電と暮らすとはどんなものなのかを紹介してみた。簡単に元が取れるとか儲かるというものでは決してないけれど、生活、ライフスタイルを大きく変えるシステムだと思うし、いざというときに頼りになるという安心感もある。パワコンはいずれ交換する必要はあるだろうが、今後もずっと太陽光発電とともに暮らしていきたいと考えている。

藤本 健