藤本健のソーラーリポート

ビジネスとしての太陽光発電システムは今後どういう方向性に進むのか

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 震災直後に大きな注目を集めた太陽光発電。

 それまであまり興味のなかった人たちも、いざという備えのためにと設置が進み、メガソーラーなども大きな話題になった。しかし、3年が過ぎるとやはり熱が冷めてしまい、注目度が下がるだけでなく、報道などでも「グリーンエネルギーは太陽光ばかりに偏っている」といった批判記事が増えているのが気になるところだ。

 固定価格買取制度の認定を受けながら未稼働なところに認定の取り消しがされるといった話も出ているが、こうした課題を解消するビジネスも登場してきた。改めて、一般家庭での太陽光発電ユーザーとしての視点から、最近の状況を整理してみたいと思う。

太陽光発電システムの状況はこの10年でめまぐるしく変化

 筆者が自宅に太陽光発電システムを設置したのは2004年末。それから約10年の間に、状況はめまぐるしいほどに変化していった。設置した翌年には長年あった補助金が廃止されたと思ったら、2009年には復活。

 さらに、それまで買電価格と売電価格が同じだったから、元を取ることなんて不可能だったが、突然、ほぼ倍額の48円/kWhでの固定買取になって、利益を稼ぐための商品のように扱われるようになった。その後、震災があって、世間からの見方が大きく変わった。

 さらには国の制度によって10kW以上のシステムでは固定価格での全量買取、いわゆるFITが始まり、メガソーラーなどビジネスとして取り組む企業が続々と参入するようになっていったのは、ご存じのとおりだ。

 ただ、最近になって、太陽光発電も逆風にさらされるようになってきた。ドイツでのビジネス減退を例に、日本もうまくいかなくなる、という報道が増えてきたり、FITでの買取価格が太陽光ばかり高すぎると批判されたりと、どっちを向いているのかよく分からなくなる。国のエネルギー基本計画では2015年までに再生可能エネルギーの比率を20%にしようと言っているのに、現状は水力を除けばたったの2%。これを上げていくためには、やはり将来計画をしっかりと立てながら、国が推進していく必要があると思うのだが……。

 住宅用の太陽光発電に目を転じても、状況はやや厳しくなってきている。3月末で国の補助金が打ち切られるとともに、余剰電力の売電価格もこれまでの税込み38円から37円に低下。また導入時には消費税の引き上げによるデメリットもある。とはいえ、この1年を見てもシステム導入価格はかなり落ちてきているので、そもそも1kWあたり2万円しかなくなっていた補助金が消えても、それほど影響はなさそうだ。また、その値下げ分は消費税増税分以上を吸収するくらいになっている。新聞報道などでは、10kW以上の産業用の売電価格が税抜き36円から32円へとかなり下がったことを大きく取り上げているが、住宅用では実質的な影響は少ないように思う。

太陽光発電業者には悪徳が多いのか!?

 そんな状況の中、最近、特にやり玉に挙がっているのが、冒頭にも挙げた、設備認定を受けながら未稼働な案件だ。新聞報道を見ると「2012年度の新設計画は再生可能エネルギー全体で2,109万kWあるうち太陽光は2,002万kWと9割近いにも関わらず、2012年度中に稼働したのは計画の1割にも満たない。設備認定だけを受けて、その土地を転売しようとする業者や、わざと工期を遅らせてシステム価格が下がるのを待っている業者も多い」といった内容のことが書かれている。その上で、「2012年度に国から発電計画の認定を受けながら発電を始めていない約670件の認定を取り消す方向で検討に入った」といった報道もされ、悪質業者がすごく多い印象を受けるが、実際どうなっているのだろう。

設備認定件数と稼働件数を比べたグラフ。未稼働件数は確かに多いものの、約4割は稼働している

 4月3日に太陽光発電のモニタリングシステム「エコめがね」を展開するNTTスマイルエナジーが行なった発表会での資料を見ると、2013年12月末時点での10kW以上の設備認定件数は251,404件あり、そのうち稼働済が91,572件、未稼働が159,832件と約6割とのこと。この数字はメガソーラーを含まないということではあるが、新聞での報道の印象とはずいぶんと異なる。まだ少ないとはいえ、4割が稼働しているし、稼働していないところは、どんどん認定取り消しを行なっているのかと思ったら、16万件のうちの約670件だから、ごくわずかのようなのだ。

 でも、なぜ報道とデータの間にこんなに違いがあるのだろうか? それは出力で見ているか件数で見ているかで大きな差が生じているのだ。報道でクローズアップされているのは出力の話で、とくにメガソーラー案件で問題のあるものが多く、そこが取り消しになっているということのようなのだ。しかし、先ほどのグラフのとおり、国内の設備認定件数は25万件以上もある。こんなにあることにも驚いたが、その大半は50kW未満というものなのだ。

50kW未満と50kW以上ではシステムが全く異なる

国内最大の太陽光発電に関する展示会、「PV EXPO 2014(太陽電池展)」。会場は多くの人で賑わっていた

 太陽光発電の場合、50kW未満と50kW以上では、ずいぶんシステムが変わってくる。50kW未満の場合、低圧連系といって、電力会社との連系は、家庭用のものとほぼ同等で非常に簡単。太陽電池パネルで発電した電気をパワコンを使って200Vの交流に変換し、それを電力会社が用意してくれる電線へと繋ぎ込めばいいのだ。それに対し、50kW以上になると、変電システムや送電線を設置者側が用意する必要があり、ハードルが高くなる。そのため、多くの企業や個人が投資用などとして50kW未満のシステムの申請を行ない、その数が25万件にもなっているのだ。

 この認定さえ取ってしまえば、すぐに発電を開始しなくても大丈夫、というのが1つのトリック。たとえば2012年度に認定をとると、今年発電を開始しても、来年発電を開始しても、20年間ずっと税抜き40円/kWh(消費税8%の今なら税込43.2円/kWh)で売電できる仕組みになっているのだ。そのために、転売目的で認定を取得しているケースもあるようなのだが、事情はちょっと違うようだ。

 まずは、この爆発的に増えた設置ニーズに対し、設置業者の数が圧倒的に少ないために、工事ができていないというケースが多い。地域によっては数カ月、半年先が当たり前。これでは、なかなか稼働は進まないし、この点については当面解消するメドが立っていない。

 また融資不調というケースも多くなっている。やはり50kWのシステムを稼働させるには、太陽電池のパネルにパワコン、架台の入手し、工事していく必要があるが、その設置費用は2,000万円程度かかるため、資金の調達ができないと、進められないのだ。また、地主が設備認定まではとったけれど、事業主体が決まっていなくて進んでいないケースも少なくない。

 そして中には設置場所として適さない不良案件というのもあるのだ。日照がよくなかったり、建物や森などの影になってしまって、発電が非効率になるところ。また、地盤が悪くてうまく設置できない……などなど。そうした結果、現状では約6割が未稼働となっている。

NTTスマイルエナジーの新たな取り組み「ご縁ソーラープロジェクト」とは

 そうした未稼働の案件を活性化させて、有効活用しようと名乗りを上げたのが、前述のNTTスマイルエナジーだ。同社は2014年度、総額10億円を投じて、これら未稼働の案件に太陽光発電システムの設置を行ない、自らが発電事業者として売電ビジネスに乗り出す。

 同社がこれまで展開してきたクラウド型のモニタリングシステム、「エコめがね」を通じて、全国の太陽光発電システム販売事業者600社とのつながりがあるので、これらの会社を介して未稼働案件を探したり、公募も行なっていくというのだ。

これまでに構築した600社とのつながりを活かして、未稼働案件を探すほか、公募にも対応する
NTTスマイルエナジー 代表取締役社長の谷口裕昭氏

 代表取締役社長の谷口裕昭氏は「10億円で50kW未満のシステムを各地に約70件設置し、約3.5MWを稼働させていきたい。太陽光発電システム販売会社とのご縁や所有者とのご縁を元に未稼働案件を探し、実際に稼働させることを促進したく、これを『ご縁ソーラープロジェクト』と呼んでいる」と話す。16万件もある未稼働案件のうちの70件となると、ごくわずかではあるが、社会問題の解決になるのであれば、面白い動きだと思う。

 ちなみに、NTTスマイルエナジーはNTT西日本とオムロンの合弁会社。NTTグループにはメガソーラーを手掛けるNTTファシリティーズや特定規模電気事業者のエネットがあるが、それらとの違いについて谷口氏は「エネットなどが本家本丸だとは思うが、当社はもともと家庭向けのシステムや、50kW未満の小規模システムに対するサービスを行なってきた。そのため、今回の発電事業においても同じ小規模なドメインでのビジネス展開を進める」と語っていた。

ご縁ソーラープロジェクトで得た知見、つながり、情報を基に、電力小売自由化後を見据えた新たなサービス創出を目指す

 前述のとおり、家庭用として使われる10kW未満の余剰買取の売電単価が1円しか下がらなかったが、全量買取の単価は税抜きで36円から32円と大幅に下がったことを考えると、全体的に太陽光の推進は減速するのは事実だろう。とはいえ、40円や36円で認定を受けた設備がまだ16万件もあるのだから、同様のビジネスを行う企業は今後も出てきそうだ。もちろん、企業だけでなく、個人への分譲といったビジネスも出てきているので、システム価格が下がってきた今、改めて太陽光発電に注目してみる価値があるのではないかと思っている。

藤本 健