そこが知りたい家電の新技術
ドイツの刃物メーカーが斬新な機能で日本のキッチン家電市場に参入、創業289年の「ツヴィリング」に迫る
2020年3月26日 06:00
ドイツの老舗キッチンウェアメーカー・ツヴィリング J.A. ヘンケルス ジャパンは、ツヴィリングブランドのキッチン家電を日本市場に投入することを発表した。
ラインナップは、ブレンダーやトースターなどを用意した「ENFINIGY(エンフィニジー)」シリーズ7機種と、充電式のハンディ真空パック機「フレッシュ&セーブ」で、3~5月にかけて順次販売される。
ツヴィリングは、1731年にドイツで生まれた老舗のキッチンウェアメーカー。ピーター・ヘンケルスが、刃物の本場として知られるドイツ・ゾーリンゲンにて創業した。ツヴィリングはドイツ語で、「双子」を意味し、ブランドアイコンにも「双子マーク」が使われている。
日本で事業を開始したのは1973年のこと。「ツヴィリング」と「ヘンケルス」の両ブランドで、包丁やフライパンなどキッチンウェアを販売するほか、フランスの鋳物ホーロー鍋「ストウブ」も同グループでの販売を手がけていることでも有名だ。
なぜ今、日本市場にてキッチン家電を投入するのか、また刃物を得意とするツヴィリングが開発したキッチン家電にはどのような魅力があるのか、ツヴィリングJ.A. ヘンケルス ジャパン 代表取締役 アンドリュー・ハンキンソン氏に話を聞いた。
ドイツ本社の刃物職人が複数年かけて開発したブレード
今回投入するキッチン家電の中でフラグシップに当たるのは、「エンフィニジー」シリーズのブレンダー「パワーブレンダー プロ」。約60℃の温かいスープが作れるホットスープモードなど7種類の自動プログラムがあるほか、ブレンダーには珍しくDCモーターを採用し1,200Wとパワフル駆動ながら静音性も両立している。
その中でも、刃物メーカーとして特にこだわったのがブレードだ。
一般的なブレンダーが複数のブレードを組み合わせているのに対し、「パワーブレンダー プロ」は1枚のブレードのみでストレートな形状をしている。両端は上向きに曲げられており、これは飛行機の翼の形状を模しており、飛行機が効率よく飛ぶのと同じように、ブレンダーでも食材を撹拌しやすくなるという。
さらにエッジには波形を採用しており、どう猛なピラニアの歯のように硬い食材も砕けることから“ピラニアエッジ”と名付けられた。またブレードは、ドイツ・ゾーリンゲンのツヴィリング本社にて技術職人が複数年掛けて開発に成功したもので、特許を申請している。
「パワーブレンダー プロは撹拌力が高いだけでなく、硬い食材にももちろん対応します。ブレードは左右で少し形状が違い、片方は氷やナッツなども砕けるよう厚みを変えています。刃物メーカーとしてお客様の期待も高いため、切れ味と刃の耐久性には自信があります」とハンキンソン氏は語る。
実際に食材と氷を入れたアイスヨーグルトスムージーの調理実演が行なわれたが、氷は問題なく粉砕されていた。DCモーターにより、運転音もそこまで気にならない。会話をしながらでも使用できていた。
なおパワーブレンダー プロでは、粘り気のあるパン生地をこねても止まることなく調理可能だという。
1枚のブレードをストレートに加工するのには、高い技術力が必要なのだという。また底の形状が波型なため食材をよく攪拌し、ジャーの中で高く持ち上げる。これを生かしたのがホットスープモードだ。食材を持ち上げる際の摩擦熱により、ブレンダーにヒーターが入っていないにもかかわらず、60℃前後の温かいスープに仕上げられるのだという。
メンテナンス性についてハンキンソン氏は、「安全性のためにブレードは外せない仕様ですが、ジャーに水を入れて動かすクリーニングモードがあるので清潔に保てます。また、一般的なブレンダーは複数の刃を重ねているので、刃と刃の間が汚れやすく錆びなどの原因になりやすいです。一方本機の場合は、フラットな形状のため汚れを落としやすく、メンテナンスがしやすいのも特徴です」と話した。
カップはガラスのような透明感があるが、軽くて割れないトライタン素材を使っている。重さはガラスの半分で衝撃にも強く、食材が入っているときや手入れをするときも軽く扱える。耐熱性もあるため、熱々のスープを調理しても問題ないという。
食材の計量に温度計測も、斬新なアタッチメントで調理を手助け
ブレンダーとしての機能はもちろん、斬新なアタッチメントで調理を手助けしてくれるのも魅力の1つ。
パワーブレンダー プロには「スケール」が付属しており、食材の計量ができる。容器の重量を差し引いて計量する風袋引き機能も備えているため、スケール単体で使うだけでなく、ジャーに食材を入れた状態で計量することも可能だ。
ジャーに入れた食材を押し込んで偏りをならす「タンパー」には温度計を搭載。タンパーはフタの上から差し込めるため、食材の温度を測りながらスープなどを好みの温度に仕上げられる。
アメリカ、ドイツに続いて日本で販売
パワーブレンダー プロをはじめとしたキッチン家電の開発は、3年前に始まったという。刃物制作で培った技術を生かし、ブレンダーを中心に進められた。
そこから誕生した「エンフィニジー」シリーズは、2019年12月にアメリカのキッチン用品専門店「ウィリアムズ・ソノマ」で発売し、ドイツでは2020年2月にフランクフルトで開催されたテーブルウェア・キッチン用品見本市の「アンビエンテ」で発表。日本が3カ国目の販売国となる。
アメリカでの販売は好調で「モダンなデザインと、高付加価値を備えた製品力が高い評価を得ています」(ハンキンソン氏)という。
ちなみにシリーズ名の「エンフィニジー」は、エナジーとインフィニティ(無限)をあわせた、同社による造語だ。シリーズ製品は計7機種。内訳は、ブレンダー4機種、電気ケトル2機種、ポップアップトースター1機種だ。発売日は、テーブルブレンダー/パーソナルブレンダー/ポップアップトースターは本日3月26日、パワーブレンダー プロ/電気ケトル プロ/電気ケトルは5月を予定している。
USB充電式の真空保存機も投入。パワーブレンダーと同時期に発売する理由
また、今回投入する製品には、ハンディ真空パック機「フレッシュ&セーブ」もラインナップ。4月の発売を予定しており、価格は約10,000円。これは専用バッグやコンテナに食材を入れて、真空ポンプで内部を真空状態にして鮮度をキープするというもの。真空状態で酸化を防ぐため同社は「新鮮さを5倍キープする」としている。
本体はUSB充電式で、スリムなハンディタイプな点も特徴。キッチンで場所を取らないほか、コードレスで家中で使えるため、旅行用の荷物をコンパクトにするといった使い方もできる。実際に試したが、握りやすい形状のため、真空作業時がしやすく、簡単だった。
コンテナはサイズ違いで3種類、ガラス製とプラスチック製を用意する。コンテナの蓋はWシーリング構造を採用し、ぴったりと密閉できるようにしている。
専用バッグにもコンテナにも、よくみるとQRコードがついている。これを使って専用アプリに食材を登録すると、登録された食材や保存方法から消費期限の目安が算出され、期限が近づくとスマホに通知が届く。真空にした食材や料理の食べ忘れを防ぎ、フードロスを減らせるとしている。
「お弁当や作り置きのおかずをつくる際に、真空状態で保存すればおいしく保存できます。また、日本はもともと“もったいない”という言葉があるように、フードロスに対する関心が高い。食材を小分けして整理整頓する人も多いですよね。
フレッシュ&セーブは、日本のライフスタイルに多くのベネフィットを提供する製品だと感じています。また、ハンディタイプなので簡単にできる点も特徴。当社のスタッフは、真空の作業は子どもたちが楽しくできるお手伝いだといいます」(ハンキンソン氏)
さらに今回、パワーブレンダーのほかにフレッシュ&セーブを投入するのには理由がある。専用のアタッチメントを使えば、パワーブレンダーを真空状態にできるのだ。
「最初に真空状態にして攪拌することで、食材の酸化や変色を抑えます。空気が入らないため、なめらかに仕上がります」という。アタッチメントは別売(秋に発売予定)で、価格は約1,000円になる見込みとしている。
フレッシュ&セーブで使える別売アタッチメントはほかにも用意しており、ワインの鮮度を保てるワインシーラーやランチボックスなども展開する。
日本でのキッチンアイテム販売を通し、料理家とのネットワークも。日本文化にも理解が深い
キッチン家電メーカーとしては後発だが、日本でのキッチンツール販売は1973年から行なっているツヴィリング。日本市場の経験は長く、料理家などと幅広いネットワークを持っている。こうした専門家とのネットワークを生かしながら、レシピや使い方の提案に力を入れていくという。
「当社が日本で販売している製品に“ストウブ”という鋳物ホーロー鍋があります。これは元々フランスの製品ですが、当社は和食レシピ開発や和食の調理に最適な“ジャポネスク”シリーズを企画開発しました。
また2004年には、岐阜県・関市にナイフ工場を設立し、日本向け市場の約90%をこの工場で生産しています。刃の材質、ハンドルの角度など日本向けにローカライズしています。“エンフィニジー”シリーズについても、今回発売する第1弾はグローバル共通のため海外で生産していますが、現在日本向けのキッチン家電も開発中です」と、ハンキンソン氏は日本市場への意欲をみせる。
さらに、独自のサービスセンターを国内に設けているほか、家電専門の修理サービス会社とも契約をしており、修理などを国内で行なえる体制をとっている。日本で生じた製品の不具合やユーザーからの声は、取りまとめて分析し、月に一度ドイツの本社に報告する仕組み。保証期間はパワーブレンダー プロが5年、パワーブレンダーは3年と長い。
同社はドイツのメーカーだが、海外から製品を持ってくるだけでなく国内に所有するナイフ工場で製造し、サービス体制も国内で整えており、日本市場に腰を据えて取り組んでいることが分かる。
デザインと使い方がリンクする、広がるキッチン家電
販売チャネルは、同社のオンラインショップおよび直営店、百貨店、家電量販店を予定。包丁や鍋類などとあわせたコーナーを設けて、キッチンコーディネートを提案する店舗もあるのだという。
モダンで高級感のあるデザインでキッチンツールをコーディネートすれば、自宅のキッチンを格上げできそうだ。
ハンキンソン氏は、日本は家電メーカーが多く競争が激しい市場としながらも「当社は日本市場では刃物メーカーとして認知度が高く、国内には直営店が38店舗あります。包丁をはじめとするキッチンツールと、今回投入する家電でキッチンのトータルコーディネートも可能です。キッチンをオシャレにして楽しく料理をしたいという人たちに使っていただきたいです」とコメント。
日本市場で長くキッチンツールを販売し、日本の食文化にも造詣が深い同社が自信をもって販売するキッチン家電シリーズ。さらなる展開が楽しみだ。
協力:ツヴィリング J.A. ヘンケルス ジャパン