そこが知りたい家電の新技術

エアコン購入に新たな選択肢を。横幅最小でインテリアに調和する富士通ゼネラル「ノクリア SV」誕生の理由

ノクリア SVシリーズ

エアコンの室内機というと、ほとんどの人が「プラスチック素材の白い箱」を思い浮かべるのではないだろうか。実際、家電量販店のエアコン売り場の壁には、その“白い箱”が所狭しと並んでおり、私たちはたいてい、本体ではなく、そこに貼られた適用畳数や機能、省エネ性などが書かれたラベルを見て選ぶことになる。「デザインが気に入ったから」という理由で選ぶ人は多くはないだろう。

「それは私たちメーカー側の責任でもあるのです」と話すのは、富士通ゼネラルで商品企画を担当する、平 律志氏。私たちがエアコンをデザインで“選ばない”のではなく、メーカーがあまりデザインを訴求してこなかったため、“選べなかった”のだと分析する。

しかし今、ユーザーのモノに対する価値観は大きく変わってきている。ただ機能がよければよいのではなく、そのモノが自身の感性に響き、暮らしを豊かにしてくれるかどうかという「感性価値」が重視されるようになってきているのだ。実際、家電の他分野においては、すでにデザイン性の高い家電が続々と登場している。

そこで富士通ゼネラルはこの春、インテリアに調和するルームエアコンを発売。横幅70cmを切る業界最小サイズで、ファブリック(布地)調デザインをまとった「nocria(ノクリア)」SVシリーズだ。今回、富士通ゼネラル本社を訪問し、SVシリーズが開発された経緯について、開発担当者に話を聞いてきた。

質感にこだわった、コンパクトなデザイン

横幅70cmを切る本体に、デザイン性と機能性を凝縮した新コンセプトエアコン

まずはSVシリーズがどんな製品なのか説明しよう。大きな特長は3つある。1つ目は、横幅最小698mmのコンパクトサイズで、狭いスペースにも設置できる点。その本体内には、コンパクトに高機能を凝縮した「再熱除湿」(室温を下げ過ぎずに除湿する機能)を搭載。さらに、内部を清潔に保つ「熱交換器加熱除菌」や、無線LANアダプター内蔵によるIoT機能も備え、グレードでいうとミドルクラスよりワンランク上となる。

2つ目の特長は、室内機の質感をプラスチックな印象から一転、上質感のあるファブリック(布地)調にデザインした点だ。高度なテクスチャー(加飾技術)によって、ファブリックの特長を活かした質感を実現したという。

3つ目の特長が夏に注目の「さらさら冷房」機能。エアコンは通常、設定温度に達すると冷房運転を一時的に停止するが、湿度が高いと蒸し暑さは解消されず、特に熱帯夜などは寝苦しさを感じてしまう。そこでSVシリーズは、冷房運転で設定温度に近づくと、自動で再熱除湿運転に切り替え、温度はキープしながら湿度だけ下げる「さらさら冷房」を搭載した。

「除湿運転は梅雨だけしか使っていない人も多いようですが、実は真夏に上手に使ってほしい機能。湿度を下げると体感温度も下がりますので快適に過ごせます」(平氏)。ちなみに再熱除湿とは、除湿のためにいったん冷やした空気を温め直すことで、室温が下がりすぎないメリットがある。

以上、SVシリーズはコンパクトかつ高いデザイン性を備えながら、一定の高い機能性も搭載した新モデルといえる。

主な特長と製品ラインナップ

エアコンもインテリアに調和する存在であるべき

なぜ室内機の質感をここまで刷新したのか。製品のデザインを担当した、デザイン部シニアマネージャーの稲垣 恵理氏に話を聞いた。

デザイン部 稲垣 恵理シニアマネージャー

「エアコンは部屋の目立つところに設置されるため、家具と同じようにデザインも重視すべき家電なはず。ですがこれまでは性能や機能の向上が最優先で、デザインは二の次になっていたのが、現状でした」。実際、ユーザーからも「インテリアにこだわっているのにエアコンを設置したら雰囲気が台無しになってしまった」という声や、「リノベーション時にエアコンが目立たないよう隠した」という声を耳にすることもあり、残念に感じていたという。

「確かにエアコンはプラスチック感がむき出しで、インテリアの中では異質だったと思います。でも近年商品に求められるのは機能だけでなく、感性価値だといわれています。エアコンも隠したくなる存在ではなく、インテリアに心地よく調和する存在であるべきだと考えたのです」。ではお客様が求めているデザインとは、どのようなものか、と検討を重ねた結果、優しい印象や落ち着いたナチュラル感が好まれる近年の傾向を踏まえ、インテリアと相性がよいファブリック(布地)調に決定したという。

とはいえ実際に布を貼り付けるわけにもいかず、樹脂素材でファブリックを表現するのは容易ではなかった。「ファブリックの特長は、糸と糸が織りなす凹凸感であり、これはプリントでは表現しきれません。工場にも協力していただき、近くで見ても本物のような質感を感じていただけるよう、立体感や陰影、かすれた雰囲気など細部にまでこだわりました」。この理想的な質感を出すために、実に1年半を要したという。

インテリアに心地よく調和するデザイン

また表面のデザインだけでなく、フォルムの美しさも追求した。前述のようにSVシリーズは、横幅最小のコンパクトサイズが特長である一方、一定の機能も備えているため、ある程度の容積は確保しなければならない。その結果、奥行きを削ることはできなかったという。「薄型にできれば、よりスタイリッシュなデザインになったと思いますが、そのぶん機能を落とさざるを得ません。でも私たちは性能と機能を犠牲にしたくなかったので、薄型にするという選択肢はありませんでした」。

そこで課題となったのが、奥行きをどのようにデザインするか、ということだ。「居住空間の中でいかに奥行き感を軽減できるか、正面だけでなく下や横から見たときも美しく見せられるか、検討を重ねました」(稲垣氏)。そこで生まれたのが、角を取ったラウンドフォルムと、なめらかでつながりのあるシームレスな(継ぎ目がない)デザイン。これにより奥行きによる圧迫感を抑えつつ、すっきり見えるデザインを実現したという。

設置性だけではない、コンパクトサイズがうけるワケ

コンパクトであるがゆえに苦労も多かったようだが、横幅70cmを切るコンパクトなサイズは、富士通ゼネラルのウリでもある。エアコンの室内機は横幅780~800mmが一般的だが、住宅によってはスペースが確保できず、設置できないケースもある。

そこで同社は2008年に当時の業界最小モデルとなる横幅728mmの「ノクリア」Sシリーズを開発。その後さらにコンパクト化を進め、他メーカーの追随を許さないまま、2020年に横幅698mmを実現しているのだ。つまりこれがもっとも設置性が高い壁掛けエアコンで、これが希望の位置に設置できなければ、ほかに設置できるエアコンはない、ということになる。

しかし同社がコンパクトにこだわる理由は、設置性だけではない。「エアコンの存在感は大きいので、特に寝室や子供部屋に設置する場合、できるだけ圧迫感を減らしたいと考えている人は多い」のだという。実際のところ、近年の住宅は建築時にエアコンの設定も想定されているため、通常サイズのエアコンが設置できないケースは減ってきているとのことだが、「それでもあえてコンパクトサイズを選ばれるお客様が多いところに、潜在ニーズがあると感じています」(平氏)。

空調機事業統括本部・空調機商品企画部 主席部長の平 律志氏

今回発売したSVシリーズは、再熱除湿をはじめ、エアコン内部を清潔に保てる「熱交換器加熱除菌」や、一定の高い機能も搭載したうえ、デザインにもこだわっているため、並々ならぬ苦労があったようだ。

「前述のようにSVシリーズはラウンドフォルムにしているため、一部容積が削られてしまっています。しかし一定の性能を確保するためにも、省略できる機能もない。そのぶん設計も苦労して、デザイン部門や商品開発部門とは何度となく“ここを真四角にしてもらえないか”“いや、そこは譲れない”といったやり取りを繰り返してきました(笑)」(平氏)。

実は、この“何度となくやり取りできた”ことも、コンパクト化とデザイン性を両立できた一因だった、と稲垣氏は振り返る。「私たちデザイン部門と商品開発部門が、一体になって前向きに取り組んだことが大きかったと思います」。密に連携し、お互いの意図も“あうん”の呼吸で理解できるようになっていたことも、SVシリーズの実現につながっているようだ。

ちなみにSVシリーズはユーザー側だけでなく、取り付け業者にとってもうれしいポイントがある。それは施工のしやすさ。実は従来モデルは、配管接続部のカバーが一部しか外せないため、特に左出し配管接続の作業がやりにくい、という問題があった。

そこで本モデルは下面全体が外れる構造にし、作業効率を改善。左出し配管時の作業時間が20%削減されたという。「特に繁忙期は、1日に何件も回ることになるため、現場からも作業時間が短縮されたことに高い評価をいただいています」(平氏)。作業時間が短くなることは、購入した人にもうれしいポイントの1つといえるだろう。

エアコン選びに、新たな選択肢としてのデザイン

こうして誕生した「ノクリア」SVシリーズ。4月に発売を開始し、すでに今までとは違う手ごたえを感じ始めているという。「店頭に並べたとき、1つだけ明らかに雰囲気が違うので、お客様の目にも留まりやすくなっているのでしょう。デザインが気に入った、と指名買いされる方が増えているのは、今までにない傾向です」(平氏)。なお同シリーズは、ドイツの国際的なデザイン賞である「レッドドットデザイン賞2020」を受賞するなど、世界的にも高く評価されている。

「レッドドットデザイン賞2020」を受賞

今後は、デザイン部門が商品企画から製品デザイン、販促、プロモーションをトータルコーディネートし、「商品が提供する価値や体験をより明確にお客様にお伝えできるよう、発信力を工夫し高めていきたい」と稲垣氏。さらに新たなデザインの模索にも意欲を見せる。

「空調機のデザインは性能に直結する部分が大きいです。そこでデザイン“だけ”にこだわるというよりは、性能と機能をしっかり確保したうえで、デザインの選択肢を広げていけるよう、取り組んでいきたいですね」(稲垣氏)。

協力:富士通ゼネラル