藤山哲人の実践! 家電ラボ
真夏も石油ファンヒーターをひたすら生産! トップメーカー・ダイニチの新潟工場で見た「消したあと灯油臭くない」秘密
真夏も石油ファンヒーターをひたすら生産! トップメーカー・ダイニチの新潟工場で見た「消したあと灯油臭くない」秘密
2019年8月2日 00:00
新潟県に有名な石油ファンヒーターメーカーがある。家電 Watchにもたびたび登場するが、そのときは「加湿器」の方が多いかも。それがダイニチ工業だ。各種ファンヒーターを作り続けて40年以上。しかも冬の出荷に備えて、真夏にひたすら暖房器具を生産するトップメーカーだ。
ダイニチ工業が本拠地を構えるのは新潟県。新潟には越後製菓やブルボンなどの有名メーカーが工場を連ねるが、ダイニチもまた世界を相手に勝負する。
今回は工場を訪問し、季節を問わず石油ファンヒーターを作っている生産現場を見せてもらった。
いくらエアコン暖房が主流になりつつあるとはいえ、南北に細長い日本の主に北側では石油ファンヒーターが愛され続けている。
特に北海道では、夏は猛暑はおろか暑い日がさほどないので「エアコンがない」という家庭も多い。ストーブや石油ファンヒーターが年中出ているという話も少なくない。
熱風を足元に送って温めるが、最新機種であればエアコン同様に風向を変えるフラップを搭載。温風を床に吹き付けるようにするため、より遠くまで足元が暖かくなる。
さてここで昔の石油ファンヒーターを思い出して欲しい。もしかすると、今使っているファンヒーターが昭和と変わらない家庭も多いはず。その特徴は「スイッチを消したときの石油臭さ」だ。
でも最近の石油ファンヒーターは、まったく石油臭さが残らない製品がある。それが「スイッチをOFFにするとバン! という石油ファンヒーター」。これこそがダイニチの製品だ。
なんかこんな風に紹介すると、PR記事かと思われちゃうかも知れないが、筆者はずっと前から「なんで石油臭くないのか?」が不思議でしょうがなかった。そして今回、ようやく新潟のダイニチ工業に行くことができ、この謎が解明したのである!!!
点火が超早く石油臭くない秘密
結論から言ってしまうと、ダイニチの石油ファンヒーターが電源OFFにしても石油臭くないのは、特殊な気化器を搭載しているから。
一般的な気化器は、灯油を熱で温めてそれを燃焼させる。そのため、スイッチ(ポンプ)をOFFにすると、気化された灯油が燃えずに部屋に流れ出てしまい、灯油臭さが残る。
一方ダイニチの気化器は、非常に小型でバーナー部と気化器が分離しているのがよく分かる。まずポンプで灯油は気化器に送られ、気化器内部のセラミックヒーターで加熱されて気化する。気化された灯油は気化器の上に載っている噴射部から噴射されて、バーナーの下部に送られる設計だ。
一般的な石油ファンヒーターは、「クリックスタート」ボタンがあり、気化器を保温することで点火速度を早くしている。
しかしダイニチは、保温しなくても瞬時に温まるセラミックヒーターを気化器に用いているので、たった35秒で点火できる。他社方式は、これほどまですぐに灯油を気化する機構を持っていないのでさらに時間がかかる。
ノズルの先には気化した灯油を噴出する小さな穴が開いている。そこに写真中央の銀色の針状のバルブを差し込むと、穴がふさがり瞬時に灯油をカットできるわけだ。
この針は電源を入れると電磁石で引っ込められてノズルの穴を開け、電源をオフすると電磁石の電気を切りバネの力でバン! と閉じるしくみになっている。
しかし燃料をカットしても、燃焼バーナーに残っている少量の灯油は、燃料がカットされると徐々に火力が弱くなり、温度が下がる。
温度が下がると生ガスが出る原因になるので、これを完全燃焼させるため、背面から空気を取り入れるファンを高速回転し、空気を多く取り込み完全燃焼させるのだ。
だからダイニチの石油ファンヒーターは、消火時の灯油臭さがない。消火時のダイナミックな手順は、次のようになる。
1.スイッチOFF
2.背面の吸気ファンを高速回転させる(多くの空気を取り込み)
3.灯油を送るポンプOFF
4.気化用のセラミックヒーターがOFF
5.電磁石(ソレノイド)によって開いていたノズルバルプが、バネの力で瞬間的に閉じる(このときバン! という音がする)
6.わずかに残っている気化した灯油でバーナーの火が小さくなるが(赤い炎)、大量の空気で最後までしっかり燃える
7.気化器内の灯油が冷え再びタンクに戻る
こうして生ガスを漏らさず、またバーナーにあるわずかな灯油も完全燃焼させることで、消火時の灯油臭さをなくしている。長年の秘密がやっと解けた!
ご自宅の石油ファンヒーターの電源ボタンを押した瞬間「ドン!」という音がする場合、それはおそらくダイニチ製のファンヒーターだ。
石油ファンヒーターの生産現場! 新潟工場を大公開!
それではファンヒーターを生産する工場を見てみよう。石油ファンヒーターの構造はそれほど複雑ではなく、心臓部となるのは気化器と燃焼バーナーだ。
まずは心臓部となる気化器の製造から。
こうして気化器に必要な部品をすべて作り終えると、今度はロボットの出番。まずは主要部品をロウ付けする。気化器なので漏れがあったりすると事故につながるため、機械で確実にロウ付けする。
次に小型のロボットアームで気化器の細かい部品を取り付けていく。人間がするのは、ロボットに途切れることなく部品をセットするところだけ。
ただロボットは全能ではなく、一部の部品は最後に人が手作業で付けている。
心臓部の気化器だけでなく筐体や各種の部品も同様にして、打ち抜き・成型機でプレスで形を作っていく。ストーブはほとんど金属でてきているので、一般的な工場にあるプラスチックの成型器がまったくない! まるで自動車工場。
灯油タンク以外にも、作らねばならない部品がたくさんある。
これだけ色々な金属の部品があるため、工場のアチコチに金型が保管されており、金型製作用の工作機械や作業場なども備えている。
最後は部品を組み立てて、本体完成。そしてパッキング。組み立て工程のスタートは、気化器のバルブを引っ張る電磁石の取り付けからだった。
こうしてできたファンヒータをはじめとしたストーブは、日本国内はもとより、フランスをはじめとしたEU諸国や中国や韓国、そして南米のチリ(標高が高く寒い)にも輸出しているのだ!
残った灯油は基本ガソリンスタンドに処分してもらおう!
取材した際にダイニチ工業さんから、石油ファンヒーターユーザーの皆さんにぜひコレを伝えて欲しいといわれた2点を紹介しておきたい。
・古くなった灯油を使わない
・古い灯油は基本ガソリンスタンドで回収
おそらくこの冬に使った灯油が、本体の灯油タンクや灯油缶に残っている人がいるだろう。でも湿気や熱さで灯油はどんどん劣化していくのをご存知だろうか?
ファンヒーターメーカー各社もアナウンスしているが、こうした灯油はストーブを壊してしまう原因になるので、絶対に使わないこと。
まずはこの冬の残りの灯油が残っている場合は、その臭いと色を確かめて欲しい。
これらの灯油はもう痛んでしまった「不良灯油」なので、後述するとおり、ガソリンスタンドなどに引き取ってもらうこと。もしまだすっぱくなく透明な灯油だったら、天気のよい日にストーブを外に持って行って、灯油を使い切ってしまおう。
すでに不良灯油になってしまった場合や、残っている灯油を使い切れない場合は、灯油を購入したガソリンスタンドに連絡して、まず「引き取り」できるかどうかを確認。スタンドや地域でまちまちだが、引き取ってもらえる場合は無償~一缶数百円程度で引き取ってくれるということだ。
もしガソリンスタンドでの引き取りができない場合は、お住まいの消防署に処分方法を問い合わせよう。
連日うだるような暑さが続くが、冬になったら恋しくなる石油ファンヒーター。真冬はフル稼働! というご家庭は早めのチェックがオススメだ。