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真夏も石油ファンヒーターをひたすら生産! トップメーカー・ダイニチの新潟工場で見た「消したあと灯油臭くない」秘密

真夏も石油ファンヒーターをひたすら生産! トップメーカー・ダイニチの新潟工場で見た「消したあと灯油臭くない」秘密

 新潟県に有名な石油ファンヒーターメーカーがある。家電 Watchにもたびたび登場するが、そのときは「加湿器」の方が多いかも。それがダイニチ工業だ。各種ファンヒーターを作り続けて40年以上。しかも冬の出荷に備えて、真夏にひたすら暖房器具を生産するトップメーカーだ。

1957年(昭和32年)に作られたストーブ。ダイニチ工業の前身となる東陽技研工業株式会社製

 ダイニチ工業が本拠地を構えるのは新潟県。新潟には越後製菓やブルボンなどの有名メーカーが工場を連ねるが、ダイニチもまた世界を相手に勝負する。

 今回は工場を訪問し、季節を問わず石油ファンヒーターを作っている生産現場を見せてもらった。

石油ファンヒーターの生産現場を大公開!

 いくらエアコン暖房が主流になりつつあるとはいえ、南北に細長い日本の主に北側では石油ファンヒーターが愛され続けている。

 特に北海道では、夏は猛暑はおろか暑い日がさほどないので「エアコンがない」という家庭も多い。ストーブや石油ファンヒーターが年中出ているという話も少なくない。

北海道ではストーブや石油ファンヒーターを片付けない家庭が多い
そしてエアコンがない!
大量の灯油を備蓄するホームタンクが標準装備

 熱風を足元に送って温めるが、最新機種であればエアコン同様に風向を変えるフラップを搭載。温風を床に吹き付けるようにするため、より遠くまで足元が暖かくなる。

古い旅館などでごく稀に見かける吹き出し口が上にある石油ファンヒーター
舞い上がりやすい熱風を下から吹き出すようにしたのもダイニチ

 さてここで昔の石油ファンヒーターを思い出して欲しい。もしかすると、今使っているファンヒーターが昭和と変わらない家庭も多いはず。その特徴は「スイッチを消したときの石油臭さ」だ。

 でも最近の石油ファンヒーターは、まったく石油臭さが残らない製品がある。それが「スイッチをOFFにするとバン! という石油ファンヒーター」。これこそがダイニチの製品だ。

 なんかこんな風に紹介すると、PR記事かと思われちゃうかも知れないが、筆者はずっと前から「なんで石油臭くないのか?」が不思議でしょうがなかった。そして今回、ようやく新潟のダイニチ工業に行くことができ、この謎が解明したのである!!!

点火が超早く石油臭くない秘密

 結論から言ってしまうと、ダイニチの石油ファンヒーターが電源OFFにしても石油臭くないのは、特殊な気化器を搭載しているから。

ダイニチの石油ファンヒーターの心臓部「気化器」。ブンセン気化式と呼ばれるタイプ

 一般的な気化器は、灯油を熱で温めてそれを燃焼させる。そのため、スイッチ(ポンプ)をOFFにすると、気化された灯油が燃えずに部屋に流れ出てしまい、灯油臭さが残る。

 一方ダイニチの気化器は、非常に小型でバーナー部と気化器が分離しているのがよく分かる。まずポンプで灯油は気化器に送られ、気化器内部のセラミックヒーターで加熱されて気化する。気化された灯油は気化器の上に載っている噴射部から噴射されて、バーナーの下部に送られる設計だ。

一般的なファンヒーターの場合。灯油をポンプで噴霧して、大きな気化筒で気化する。消火時はポンプを止めても、気化筒内に生ガスが残るので石油臭い
こちらはポット式。ポンプでマットに灯油のしずくをポチョン! と落としていき、それをヒーターで温める。やはり消火時には、マットに灯油が残り、それが生ガスとなって灯油臭い
ダイニチの場合。ポンプから送られた灯油をセラミックヒーターで温めて気化して、ノズルからガスを噴射する。灯油を直接ヒーターで温めるので、あらかじめヒーターを温めていなくても35秒で点火する。ソレノイドはノズルの開閉弁
ポンプで送られた灯油はセラミックヒーターで温められた気化器に入る
セラミックヒーターで加熱され気化した灯油は、上部のノズルに送られ噴射される
噴射された気化灯油は、バーナーの細かい穴から出て燃焼する

 一般的な石油ファンヒーターは、「クリックスタート」ボタンがあり、気化器を保温することで点火速度を早くしている。

 しかしダイニチは、保温しなくても瞬時に温まるセラミックヒーターを気化器に用いているので、たった35秒で点火できる。他社方式は、これほどまですぐに灯油を気化する機構を持っていないのでさらに時間がかかる。

 ノズルの先には気化した灯油を噴出する小さな穴が開いている。そこに写真中央の銀色の針状のバルブを差し込むと、穴がふさがり瞬時に灯油をカットできるわけだ。

 この針は電源を入れると電磁石で引っ込められてノズルの穴を開け、電源をオフすると電磁石の電気を切りバネの力でバン! と閉じるしくみになっている。

針状のバルブがノズルに刺さり気化した灯油を瞬時に遮断する
電磁石とバネで針状のバルブが動く。だから点火と消火の際に、バン! という音が聞こえる

 しかし燃料をカットしても、燃焼バーナーに残っている少量の灯油は、燃料がカットされると徐々に火力が弱くなり、温度が下がる。

 温度が下がると生ガスが出る原因になるので、これを完全燃焼させるため、背面から空気を取り入れるファンを高速回転し、空気を多く取り込み完全燃焼させるのだ。

消火時は生ガスを完全燃焼させるために、より空気を送り込むよう回転数を上げる

 だからダイニチの石油ファンヒーターは、消火時の灯油臭さがない。消火時のダイナミックな手順は、次のようになる。

1.スイッチOFF
2.背面の吸気ファンを高速回転させる(多くの空気を取り込み)
3.灯油を送るポンプOFF
4.気化用のセラミックヒーターがOFF
5.電磁石(ソレノイド)によって開いていたノズルバルプが、バネの力で瞬間的に閉じる(このときバン! という音がする)
6.わずかに残っている気化した灯油でバーナーの火が小さくなるが(赤い炎)、大量の空気で最後までしっかり燃える
7.気化器内の灯油が冷え再びタンクに戻る

気化器に残った灯油は、ノズルのお尻からパイプを経由して灯油の受け皿に戻る

 こうして生ガスを漏らさず、またバーナーにあるわずかな灯油も完全燃焼させることで、消火時の灯油臭さをなくしている。長年の秘密がやっと解けた!

 ご自宅の石油ファンヒーターの電源ボタンを押した瞬間「ドン!」という音がする場合、それはおそらくダイニチ製のファンヒーターだ。

石油ファンヒーターの生産現場! 新潟工場を大公開!

 それではファンヒーターを生産する工場を見てみよう。石油ファンヒーターの構造はそれほど複雑ではなく、心臓部となるのは気化器と燃焼バーナーだ。

 まずは心臓部となる気化器の製造から。

完成品の気化器。ダイニチのストーブの心臓部だ
まずは母材を打ち抜く。気化器は真鍮とおそらく鉄からできるている。ロール状になったこれらの板から部品を打ち抜く
打ち抜いた丸い金属を少しずつ形を変えつつ、完成の形にプレス成型する
プレス機で少しずつ形を変える。この機械は一度に数個の金型で同時にプレスできるので、奥から手前に部品が送られ完成形になる
部品単位での検査が行なわれ完成した部品ができる
この工程でできたのは、写真右の赤枠の部分。似てるでしょ?
こちらは気化器の中に入っているヒーターの部品。セラミックヒーターでこのギザギザを温めて、ココに灯油を通すことで気化させる。放熱器と一緒でギザギザにして表面積を増やし熱伝導をよくしている

 こうして気化器に必要な部品をすべて作り終えると、今度はロボットの出番。まずは主要部品をロウ付けする。気化器なので漏れがあったりすると事故につながるため、機械で確実にロウ付けする。

黄色の金属とシルバーの金属をロウ付けする。まずは機械で2つの部品の位置あわせ
次に高い周波数の強い電流を流すことで、金属が真っ赤になるほど加熱してロウをつける

 次に小型のロボットアームで気化器の細かい部品を取り付けていく。人間がするのは、ロボットに途切れることなく部品をセットするところだけ。

組み立てに必要な部品をセットしておくと、あとは自動的にロボットがピックアップしてくれる
複数のロボットが連携して部品を組み立てる
細長いパイプは燃料ポンプにつながる。気化器からちょっと頭がはみ出している白い部品は、灯油を加熱して気化するセラミックヒーター

 ただロボットは全能ではなく、一部の部品は最後に人が手作業で付けている。

温度センサーの電線は人が最後に取り付けている。「カラクリ」(作業台)も大企業並みにきちんと考えられた作り(部品を取り出しやすいように角度をつけている)でびっくり!

 心臓部の気化器だけでなく筐体や各種の部品も同様にして、打ち抜き・成型機でプレスで形を作っていく。ストーブはほとんど金属でてきているので、一般的な工場にあるプラスチックの成型器がまったくない! まるで自動車工場。

たとえばコレは、石油タンクになる鉄板(笑い)
このプレス機の右から左に流れると、3つの金型で成型される
完成品はこんな形になる
こちらは灯油の残量が分かる窓が付いているふた
ふたは缶ジュースの上ブタのように。端をくるくる丸めてカシメて密封構造になる
取っ手もつけられていつもの見慣れた形に

 灯油タンク以外にも、作らねばならない部品がたくさんある。

たくさん並んだプレス機で、色々な部品を作っていく
灯油タンクの口金
背面の送風ファン
そしてデザインの要となる筐体の外側
焼付け塗装された筐体が続々と流れる

 これだけ色々な金属の部品があるため、工場のアチコチに金型が保管されており、金型製作用の工作機械や作業場なども備えている。

工場のアチコチに金型がきれいに保管されている
フォークリフトが金型を運び、欠品のオーダーが急に入っても10分で金型を交換、4時間で製造できる体制になっている。コレは驚異的
もし金型に問題があっても、自社で作っているので対応も早い。もちろんメンテナンスも素早くできるので、ラインが止まる時間を短縮できる

 最後は部品を組み立てて、本体完成。そしてパッキング。組み立て工程のスタートは、気化器のバルブを引っ張る電磁石の取り付けからだった。

最終アセンブリは、気化器のバルブを開閉する電磁石の取り付けから。このあと気化器を取り付ける
灯油タンクは燃料漏れなどあってはならない。そのため機械で全量検査する
すでに気化器とファンがつけられた状態。ここでバーナーをつける
網状の部分がバーナー。下から気化した灯油が送り込まれ燃焼する。上部の棒1本は点火用のスパーク、もう1本は立ち消え防止センサー
電子回路部品。コストダウンのために海外製の部品を使っているのかと思いきや、パナソニックをはじめ国産の大手企業の部品を使っていた
外装も組み立てていくとだんだん見慣れた形に
続々と作られるストーブ。このあと実際に灯油を少し入れて、実際に燃焼検査を行い、灯油を抜いてパッキングする。こちらも全量検査だ
海外向けも生産しており、一部の製品には灯油ポンプを標準添付している。なぜなら、向こうでは売ってないのだ!

 こうしてできたファンヒータをはじめとしたストーブは、日本国内はもとより、フランスをはじめとしたEU諸国や中国や韓国、そして南米のチリ(標高が高く寒い)にも輸出しているのだ!

残った灯油は基本ガソリンスタンドに処分してもらおう!

 取材した際にダイニチ工業さんから、石油ファンヒーターユーザーの皆さんにぜひコレを伝えて欲しいといわれた2点を紹介しておきたい。

・古くなった灯油を使わない
・古い灯油は基本ガソリンスタンドで回収

 おそらくこの冬に使った灯油が、本体の灯油タンクや灯油缶に残っている人がいるだろう。でも湿気や熱さで灯油はどんどん劣化していくのをご存知だろうか?

 ファンヒーターメーカー各社もアナウンスしているが、こうした灯油はストーブを壊してしまう原因になるので、絶対に使わないこと。

 まずはこの冬の残りの灯油が残っている場合は、その臭いと色を確かめて欲しい。

色が付いていないのが正常灯油。すっぱい臭いがする、黄色いのは変質灯油(写真出典:一般社団法人 日本ガス石油機器工業会)
水が混入した不純灯油

 これらの灯油はもう痛んでしまった「不良灯油」なので、後述するとおり、ガソリンスタンドなどに引き取ってもらうこと。もしまだすっぱくなく透明な灯油だったら、天気のよい日にストーブを外に持って行って、灯油を使い切ってしまおう。

 すでに不良灯油になってしまった場合や、残っている灯油を使い切れない場合は、灯油を購入したガソリンスタンドに連絡して、まず「引き取り」できるかどうかを確認。スタンドや地域でまちまちだが、引き取ってもらえる場合は無償~一缶数百円程度で引き取ってくれるということだ。

 もしガソリンスタンドでの引き取りができない場合は、お住まいの消防署に処分方法を問い合わせよう。

 連日うだるような暑さが続くが、冬になったら恋しくなる石油ファンヒーター。真冬はフル稼働! というご家庭は早めのチェックがオススメだ。

筆者の住む横浜市ではこんなアナウンスをしている

藤山 哲人