家電レビュー

ポータブルを超えた大容量の電源で、もし停電しても家の電気をまかなえそう

BLUETTIのポータブル電源「AC500&B300S」

筆者は宮崎県に暮らしているが、2022年9月の台風14号のすごさは、こちらの想定を超えるものだった。台風上陸中は電源が一瞬途切れる瞬電が頻繁に起こり、ルーターが再起動を繰り返すのでネットが使い物にならない。

台風が通過し、夜が明けてから地域一帯が8時間の停電に見舞われた。まだ暴風警報は解除されていなかったが雨は上がっていたので、なんとか窓は少しだけ開けられた。もし暴風雨の中で停電していたら、窓も開けられず、室温は危険な温度まで上昇したかもしれない。家庭内で食事の支度もできないし、飲食店も営業していないので、営業しているスーパーを探してお弁当を買うなどするしかなかった。

デスクトップPCを使っている頃は無停電電源装置(UPS)を導入していた時期もあったが、ここまでの停電が起こるとなると、生活に必要な電力を確保しておく必要があるのではないか。そう思い始めて、いろんなメーカーさんのポータブル電源を試してみたいと思うようになった。

その1つが、BLUETTI(ブルーティ)の「AC500&B300S」である。現在、2月下旬の発送予定で先行予約を受け付けており、公式サイトの価格は658,000円。オーディオ関係でお付き合いいただいている広報代理店さんがたまたまBLUETTIも担当しているという奇妙な縁で、お借りできた次第である。

現在日本で知られているポータブル電源のメーカーといえば、JackeryやEcoFlow、モバイルバッテリーの流れからAnkerなどだろう。一方BLUETTIは、これまでソーラー発電システムを中心に開発してきた経緯から、比較的大型のバッテリーを揃えており、日本でもハイエンドブランドとして徐々に認知度が高まっている。

制御ユニットとバッテリーで構成された本体の重さは、合計68kg!

今回借りたAC500&B300Sは、以前から発売されている制御ユニット「AC500」と、新開発のバッテリー「B300S」を組み合わせた製品である。AC500はバッテリーを搭載しておらず、バッテリーのB300Sを接続して使う必要がある。

上に載っている制御ユニットのAC500のほうがやや大型で、本体サイズは520×325×358mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は30kgある。1人で持つにはしんどいが、2人がかりなら移動できない重さではない。バッテリーのB300Sは、AC500を上に載せる関係で、底面積のサイズは同じだ。高さはAC500より少し低く266mmとなるが、重量38kgと、こちらの方が重い。

重いのには理由がある。内部バッテリーにはリン酸鉄リチウムイオン電池を採用しているためだ。一般的なリチウムイオン電池よりも安全性が高く、充放電サイクルは約3,500回と言われている。昨今他のメーカーでも採用例が出てきているので、バッテリーに詳しい方はよくご存じだろう。その分、重量は一般のリチウムイオン電池よりも重くなるというわけだ。

両方合わせると68kgにもなる。これがひとかたまりなら移動させるのも大変だが、セパレート型なので分けて運べばなんとかなる。そのあたりも考慮しての設計だろう。

上下は専用ケーブルで接続

出力は最大5,000W、瞬間出力10,000Wで、家1軒分の電力もまかなえる

インバーター性能としては、最大5,000Wの出力が可能で、瞬間出力は10,000Wとなっている。5,000Wということは、家庭用電源の100Vで計算すると、50A出せるということになる。筆者宅の契約アンペア数は40Aなので、家1軒分の電力がここからまかなえることになる。もちろん、それが何時間出せるかはバッテリー容量次第になるわけだ。

AC500&B300Sの最小構成は制御ユニット1つとバッテリー1つで、容量は3,072Whとなる。一般家庭の1日平均電力消費量は6,100Whと言われており、普通に生活して12時間分ぐらいの電力が1セットでまかなえることになる。もちろん災害時は節電するから、消費を半分に抑えれば1日使うこともできるだろう。

制御ユニットとバッテリーが別になっているメリットとしては、バッテリーユニットを最大6台まで連結できることにある。もちろん価格はそれなりに積み上がるものの、業務用やイベント用としても使えそうなレベルだ。

ACやアメリカのNEMA規格など、多彩な出力系統

出力は多彩で、AC出力は一般的なAタイプが3つで、それぞれ20A。30A出力は、NEMA規格のL5-30R、TT-30、14-50ポートがそれぞれ1つずつある。NEMA規格はアメリカ電機工業会で標準化されているプラグで、日本でも大電力配線に使われることがあるようだ。

正面左に3系統のAタイプ出力
右側には3種類のNEMA規格出力

一方、DCは24V/10Aシガーソケット出力、12V/30Aの2芯出力のほか、6つのUSB出力ポートを搭載。USB Type-Aポート2つ、Quick Charge対応のUSB Type-Aポート2つ、Power Delivery3.0対応のUSB Type-Cポート2つを備えている。さらに天板には、15Wのワイヤレス充電ポートが2つある。

直流はシガーソケットと2芯出力
USB系も充実
天板にワイヤレス充電ポートも備えた

AC500の正面には、タッチパネル式のディスプレイがある。ここで入力・出力のワット数、バッテリー残量がわかる。またAC出力周波数の切り替えや、エコモードなどの運転モード切り替えも本体だけでできる。

正面のディスプレイで入出力の状況を把握できる

加えて、BluetoothでAC500とスマホを接続すれば、専用アプリからもステータスが確認できる。また動作モードのさらに細かい設定や、深夜電力だけを使って充電させるといった設定も可能だ。

専用アプリでも入出力状況がわかる

B300S側にも、12V/10Aのシガーソケット出力や、USB Type-AやType-Cのポートがあるので、スマホやワイヤレスイヤホンなどの周辺機器も、相当な数が同時に充電できる。

B300S側にも直流の出力が3つある

大出力で、エアコンや電子レンジも動かせる

本機の魅力は、やはり大出力ということだろう。一般的なポータブル電源でも1,000W出力できるモデルが珍しくなくなったが、定格5,000Wは強い。

試しにエアコンを駆動させてみたが、問題なく利用できた。消費電力は起動時が420Wあるが、温度が落ち着くと300W程度におちる。夏の停電時も部屋で茹で上がるという悲劇は回避できそうだ。

エアコンぐらいは余裕で起動

またこれだけの電力があれば、調理家電も普通に動かせる。筆者宅では冷蔵庫を動かしつつ、電子レンジとトースター、電気ケトルを同時に使うといつもキッチンのブレーカーが落ちる。このときの消費電力を測ってみると、全部で3,670Wにも上った。40A契約で、1カ所でそんだけ使えばそりゃ落ちますよねという話である。

試しにこれらをAC500とB300Sで動かしてみたが、問題なく使用できた。家庭電源よりポータブル電源の方が「強い」という世界がもう来てしまった。

調理家電一式動かしても余裕

ソーラーパネルとも組み合わせられる

実は今回、ソーラーパネルの「BLUETTI PV350」も合わせて使ってみた。最大350W出力可能な、大型パネルである。変換効率23.4%の単結晶シリコン型で、BLUETTIのコンシューマモデルとしては一番大きいタイプだ。公式サイトでの価格は99,800円となっている。

展開するとたたみ1畳分ぐらいのサイズになる。また重量も13.9kgとかなり重いので、開くときは2人がかりのほうが無難だろう。

今回はマンションのベランダに仮設してみたが、それほどきっちり角度などを決めたわけでもないにも関わらず、天気のいい日なら300W以上発電できる。これまでソーラーパネルは、最大出力の70%ぐらい出れば御の字と考えていたのだが、冬場の太陽で85%近く発電できるのは、なかなか優秀だ。

冬場でも300W以上の発電はありがたい

加えて動作モードとしてUPSモードも使える。瞬電で落としたくないサーバーやワークステーションがある場合は、ここから電源を取っておけば安心できる。

筆者が普段仕事で使っている機器をまとめて繋いでみたが、AC・DC合わせて150Wあれば収まることがわかった。パソコンのほか、ディスプレイとして使っている4Kテレビ、オーディオシステムの電力も入れての話である。これぐらいの電力なら、ソーラーパネルからの発電でまかなえることになる。

もちろん300W出せるのは日中の限られた時間だけだが、それでも晴れていれば、日中の仕事用の電力をまかなえるぐらいは発電できそうだ。初期投資は必要だが、仕事に使う電気は全部自家発電というのは、なかなか魅力的である。

耐用年数を考えれば納得のお値段

これまでソーラーパネルやバッテリーを使うメリットにおいて、「エコである」「クリーンエネルギーである」といったマインド的なところが強調されてきた。だが昨今では、ソロキャンプブームや車中泊ブームにより、実用面でポータブル電源が大きく注目されている。

加えて近年の物価上昇や円安により、電気代の値上がりもバカにできなくなってきている。家庭用ソーラーシステムの場合、電源の安定化のためにほとんどが売電するだけだと思われるので、設備投資としては最終的には回収できないのではないかと言われている。

だからこそ、「エコですよ」という大義名分が必要だったが、電気を自分で作って自分で使うというのは、エコ以上に魅力があるソリューションだ。加えてB300Sで採用されたリン酸鉄リチウムイオン電池は、充放電サイクルが3,500回以上とされており、毎日充放電しても10年ぐらいは持つことになる。

自宅の屋根に発電システムを積むのには、パワーコンディショナー含めて一式でだいたい140万円から200万円ぐらいかかるそうだが、結果的に元は取れないというのは、なかなか厳しい話である。だがBLUETTIのような仮設システムなら、導入コストは半分ぐらいだろうか。いざとなれば車載して移動できるというのも強い。

ポータブル電源は、比較的ライトな用途で使うものだと考えていたが、これぐらいのガチなシステムも家庭用として売られるようになってくると、電力に対してもさらに選択肢が拡がるのを感じさせてくれる。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。