e-bike試乗レビュー

総額500万!! 4メーカーのフラッグシップのe-MTBを乗り比べてみた

職業柄いろいろなe-bikeを試乗しますが、その魅力をもっとも体感できるのが前後にサスペンションを装備したフルサスタイプのe-MTBです。実際にメーカー側も一番力を入れているカテゴリでもあり、数多くのe-MTBがラインナップされています。では、それぞれのモデルはどんな特徴があり、どれくらい性能差があるのか? 気になっている人も多いと思いますので、現行モデルの中ではトップクラスに位置づけられる4台を試乗し、その違いについてまとめてみました。

ドライブユニットもフレーム設計も異なる4モデルに試乗

今回、乗り比べたのはシマノ製ドライブユニット搭載モデルがサンタクルズの「Heckler 8(ヘクラー 8)」とメリダ「eONE-SIXTY 10K(イーワンシクスティ 10K)」。ボッシュ製のドライブユニットを搭載しているのがトレック「Rail 9.7(レイル 9.7)」、そしてスペシャライズドの「S-Works Turbo Levo SL(エスワークス ターボ リーヴォ エスエル)」は同社製のドライブユニットを採用しています。すべてフレームはカーボン製。4台分を合計すると、総額約500万円という贅沢な試乗です。

試乗コースは「トレイルアドベンチャー・よこはま」。ロングコースではありませんが、上りも下りもあり、ジャンプやバンクのコーナーもあるので試乗レビューには最適

各社のトップグレードなので当然ですが、どれも上りも下りも高いレベルでこなせるため、大前提としてどのモデルを選んでも不満を感じることはないと断言できます。ただ、同じコースで乗り比べてみると、それぞれの個性が明らかになってきました。

まず、大きな違いがホイール径です。「Heckler 8」は前後とも27.5インチで、「eONE-SIXTY 10K」はフロント29インチでリアが27.5インチ。「Rail 9.7」と「S-Works Turbo Levo SL」は前後とも29インチです。

フレーム形状やリンク機構も各社の個性が出る部分なので、そのあたりの違いにも注目したいと思います。フレームの設計はライディングポジションに大きく影響する部分。フレームの上辺(トップ長と呼ばれます)が長いと、前傾姿勢がキツくなりペダリングの際にお尻の筋肉を使いやすくなります。つまり、長い距離を効率良く走れるので、クロスカントリー系のMTBに多く採用される作りです。逆にトップ長が短いと上体が起きたライディングポジションになり、ホイールベースも短くなるので小回りが効くようになります。これは、下りを重視するオールマウンテンやエンデューロと呼ばれるカテゴリーのMTBに多く採用されています。

サンタクルズ「Heckler 8」はトップ長が短めで上体が起きたライディングポジション。どちらかといえば下り志向の設計だと思われます
メリダ「eONE-SIXTY 10K」は上体が起きてるように見えますが、これは前輪が29インチと大径なことも影響していて、トップ長は長めです
トップ長が長く、もっとも前傾姿勢になったのはトレック「Rail 9.7」。ハンドルを支えるステムも長めで、クロスカントリー的なライディングポジションです
スペシャライズド「S-Works Turbo Levo SL」も「Rail 9.7」ほどではないですが、やや前傾気味。ステムは短いので、トップ長は今回の中では長いほうです

下りで遊べるサンタクルズ「Heckler 8」

今回、試乗した4台の中でもっとも個性を強く感じたのは「Heckler 8」。前後27.5インチのホイールと、コンパクトなフレーム設計のおかげでとても良く曲がります。試乗したトレイルアドベンチャーのコースは、ほとんどのコーナーにバンクが設けられているので、ホイール径の大きなモデルでも曲がりにくく感じることはありませんが、「Heckler 8」はよりコンパクトに曲がれる印象です。ほかの試乗車から乗り換えて同じ感覚でコーナーリングすると、曲がり過ぎてしまうこともあるくらい。

コアなMTBライダーから高い支持を得ているサンタクルズが初めてリリースしたe-MTBが「Heckler 8」。重量は21.52kg、価格は1,089,000円です
比較試乗したほかの29インチモデルに対して、かなりクイックに曲がれる印象。狭い日本のトレイルにもマッチしそう

もう1つ印象に残っているのはジャンプの飛びやすさ。トレイルアドベンチャーにはジャンプもできる大きめの凹凸が設けられたコースもありますが、そこを走った際に一番飛べたのがこのモデルでした。といっても、がんばって飛ぼうとしているわけではなく、サスペンションの反動でフワッと浮き上がるような感覚。ちょっとしたギャップでもジャンプできるので、下りはかなり楽しいです。

がんばって飛ぼうとしなくても、フワッと飛べてしまう感覚が楽しい!!
ちょっとしたギャップでも浮き上がるように飛べるので、楽しくて何度も周回してしまいました

この楽しいハンドリングとジャンプのしやすさにはコンパクトなフレーム、リアサスペンションのリンク構造が効いているのだと思われます。サスペンションが沈み込んだ後、縦方向に反発するフィーリングがフワッと浮き上がるようなジャンプを可能にするのでしょう。コンパクトにクルクル曲がれるので、下りは楽しいの一言。一方で、上りはアシストのおかげで楽ではあるのですが、グイグイ加速していくような感覚ではなく、楽に上って下りを楽しむような特性。上りは楽をしつつ、下りで遊びたい! というライダーには最適なモデルでしょう。

リアのサスペンションユニットを低い位置に寝かせた状態でマウントするリンク機構。飛べるフィーリングの理由はここにありそう
もちろんフレームはカーボン製。コンパクトでまたぎやすい設計です。バッテリーはインチューブタイプで、知らない人はe-bikeだと気付かないかも
電源ボタンはサスペンションの下というユニークな部分に装備。オーナーでないとなかなか気付かなさそう
ドライブユニットはシマノSTEPS「E8080シリーズ」。サスペンションはRockShoxの「Super Deluxe Select」が装着されています
フロントフォークはRockShoxの「Yari RC 160mm 27.5"」。タイヤは前後とも27.5x2.6と太めで接地感も高い
リアディレーラーはSRAM製「NX Eagle」の12速。ギアは11-50Tで激しい上りにも対応します

漕ぎが軽くてよく進むメリダ「eONE-SIXTY 10K」

「Heckler 8」と同じシマノSTEPS「E8080シリーズ」のドライブユニットを装備しながら、まったく違った印象だったのが「eONE-SIXTY 10K」。“下りを楽しむ”特性だった「Heckler 8」に対して、こちらは上りや平坦路での漕ぎが軽く、スイスイと進みます。バッテリー容量が630Whと大きく、重量は23.2kgと重いにも関わらずです。

その要因の1つだと思われるのがフロント29インチ、リア27.5インチというホイール径。“マレット”という呼び方もされる前後異径のホイールサイズとすることで、29インチの走破性と直進安定性、27.5インチの敏捷性と加速の良さを両立しているのです。

メリダのe-MTBのフラッグシップに位置づけられる「eONE-SIXTY 10K」。価格は1,265,000円
平坦な道や上り坂でよく進む感覚が気持ちいい。実際の車重よりも軽く感じるはず

これまでもシマノSTEPS「E8080シリーズ」のドライブユニットを搭載するe-MTBはいろいろと乗ってきましたが、これほど軽々と進む感覚のモデルは初めて。ドライブユニットに合わせた特性をかなり煮詰めている印象です。ホイールがDT Swissの軽量なカーボン製になっていたり、コンポーネンツがシマノのMTB用として最上級のXTRが採用されている点も、この軽快な乗り味に効いているのかもしれません。

もう1つ感じたのは、ギャップを越えた際に縦に飛ぶ特性だった「Heckler 8」に対して、「eONE-SIXTY 10K」は“いなす”ように越えていくこと。同じスピードでギャップに突入しても浮き上がることなく、タイヤは地面を捉えたまま通過できます。このへんは、リンク機構の設計の違いを感じる部分です。オフロードを走ることに慣れていない人も、安心して山道を楽しめそうです。

ギャップを越えてもタイヤが正確に路面を捉え続けてくれるので、スリップすることなくペダリングを続けられます
直進安定性は高いのですが、そのわりにカーブもコンパクトに曲がれて、山道を楽しむには最適なハンドリング

質感の高いフレーム塗装や、フラッグシップモデルにふさわしい豪華な装備も「eONE-SIXTY 10K」の魅力。FOX製の「FLOAT」サスペンションを前後に装備しているのも、しなやかな乗り味に効いていると思われます。妥協のない装備は所有欲も満たしてくれますし、初心者からベテランライダーまで、上りから下りまで幅広いシーンとユーザー層を満足させてくれるクオリティです。

フレームは光の当たり方で表情を変える高品質な塗装。630Whの大容量バッテリーはインチューブタイプで見た目もスマート
ドライブユニットはシマノSTEPS「E8080シリーズ」ですが、非常にパワフルに感じました
シマノの最上級グレードである「XTR」の油圧式ディスクブレーキ。タッチが素晴らしくコントロール性に優れています
コンポーネンツは「XTR」で統一。リアディレーラーは「Deore XTR Shadow+」です。ギアは10-51の12速で幅広い路面状況に対応
フロントフォークはFOX製の「38K FLOAT F-S E-BIKE Air 160 STR」。剛性が高く、作動性も素晴らしい上級グレードです
リアサスペンションもFOX製で「FOX Factory Float X2」。しなやかな乗り味を実現する高級サスペンション
ドロッパーシートポストはROCKSHOX製「REVERB AXS」。ワイヤレスでコントロールでき、電動なので微調整もしやすい
DT Swissのカーボンホイールも軽量なだけでなく、しなやかな乗り心地にも効く装備

パワフルなアシストで上りも下りも楽しめるトレック「Rail 9.7」

アシストがもっともパワフルに感じたのは「Rail 9.7」。ボッシュ製ドライブユニット「Performance Line CX」を搭載していることが最大の要因でしょう。このドライブユニットの最大トルクは75Nmなので、ほかのモデルに比べて押し出す力が強く感じられます。また、前傾姿勢も強いので、太腿の裏側の大きな筋肉を積極的に使えることも、推進力を強く感じる理由でしょう。

これまで何度も乗っている「Rail 9.7」。カーボンフレームにカーボンホイールを装備し、重量は22.77kg。価格は869,000円
パワフルなアシストでギャップもガンガン越えていくことができます

推進力が強く感じるのには、前後29インチというホイール径も関係していそうです。ホイール径が大きいため、走破性と速度を維持する力が強いのに加えて、前後に接地面積が大きいので駆動力を路面に伝えることができます。特に「Rail 9.7」は29×2.6インチという太めのタイヤを履いているため、接地面積がさらに大きく、パワフルなアシストを余すことなく駆動に活かせます。

上りだけでなく下りも得意で、「ABP(アクティブ ブレーキング ピボット)」というトレックの特許技術を採用したリンク機構が、ブレーキをかけながらでもタイヤを路面に押し付けてくれるので安定して下っていくことができます。

ホイール径は大きいですが、そんなことを感じさせないほど小回りも効きます

さまざまなコースやトレイルで試乗してきましたが、乗るたびに感じるのはバランスの良さと懐の深さ。これまでのシチュエーションで「ここは苦手だな」と感じたことはありません。アシストがパワフルなだけでなく、下りの性能も高いので初心者からベテランまで多くの人にオススメできる完成度です。発売当初は高価に思えた価格も、100万円オーバーのモデルが増えてきた今では安く感じます。2021年モデルから、バッテリーが625Whに容量アップしていることも考慮すると、コストパフォーマンスはかなり高いといえます。

TREKのロゴが輝くフレームには625Whのインチューブタイプのバッテリーが内蔵されますが、見た目は従来モデルと変わっていません
ボッシュ製ドライブユニット「Performance Line CX」は75Nmのトルクを発揮。ちなみに同じ「Rail」のアルミフレームモデルは85Nmまで高められています
フロントサスペンションはRockShox製の160mmトラベル「Yari RC」を装備
下りで絶大な安心感を提供してくれる「ABP」機構を装備。リアサスペンションはRockShox製「Deluxe Select+」
ディスプレイはカラー表示の「Kiox」を採用。スマートフォンアプリに走行データを連携させられます
コンポーネンツはSRAM製「NX Eagle」の12速。11-50Tの幅広いギアに対応しています
ボントレガー製のカーボンホイールを装着していて、軽快な走りに貢献

ベテランMTBライダーも満足できるスペシャライズド「S-Works Turbo Levo SL」

今回の比較試乗の中でもっとも高価なのが「S-Works Turbo Levo SL」。「Rail 9.7」の2倍近い価格1,694,000円は驚きです。ただ、実際に乗ってみると(払えるかどうかは別にして)、「それだけの価値はあるな」と思わせるだけの性能が実感できます。それは、一言でいえば軽さ。このモデルの重量は17.3kgで、ほかのモデルと比べると5kgくらい軽いのです。ほかの車種に乗っていても「重い」と感じることはなかったのですが、これだけ重量差があると、あらゆるシーンで操作に対する反応が変わってきます。

スペシャライズドのe-MTB「Turbo Levo」シリーズでも最上位に位置づけられる「S-Works Turbo Levo SL」
最初のコーナーで軽さを実感できるほど運動性能が高い

スペシャライズドのe-bikeには同社独自のドライブユニットが搭載されていますが、このドライブユニットは軽い分、発揮できるトルクは35Nmと他社に比べると数値はだいぶ低くなっています。ただ、トルクというのはペダルを1回踏み降ろす際に発揮できる力のことで、ペダルを高速で回転させて得られるパワーはまた別です。クルクル回すペダリングができれば、上り坂でもパワー不足を感じることはほぼありません。もちろん、足はたくさん動かさなければならないので、1日走って疲れが溜まってきた後半には、ちょっとツラくなる場面もありましたが……。

ペダルをひと漕ぎした際のトルクは低いですが、ペダルを回すペダリングができれば上りでもパワー不足は感じません

そして、一番魅力を感じたのは、下りやフラットな路面でのコーナーリングや切り返しの場面です。取り回しがとにかく軽く、アシストのない普通のMTBと同じ感覚で車体が反応してくれます。MTBはロードバイクと違って前後左右、そして上下に車体を常に動かしているような乗り物なので、1つずつの操作に対する反応性や軽さは大きな魅力です。

通常のMTBに乗っていた人がe-MTBに乗ると「上りは圧倒的に楽だけど、もうちょっと軽ければ……」と感じることが多いようですが、「Turbo Levo SL」だと重さのハンデを感じることはほぼないでしょう。特に今回試乗した最上級の「S-Works Turbo Levo SL」はコンポーネンツなどのパーツも軽いので、上りはゴンドラやリフトに積めるゲレンデダウンヒルなどに持って行っても、十分にその魅力を味わえると思います。そんなe-MTBはほかにありません。

前後左右に振るような動きが1つひとつ全部軽いので、思いどおりに車体を操ることができます
操作に対する反応がいちいち鋭いので、思わず笑顔になってしまう楽しさ
軽さのポイントの1つが自社製のドライブユニットで、コンパクトなうえにマグネシウムなどを多用して軽量化を図っています
インチューブタイプのバッテリーは、車体から取り外すことができませんが、これも軽さを追求するための工夫
ディスプレイは装備せず、バッテリー残量やモードの選択などはフレーム上面のLEDの光り方で把握する方式
ドライブトレインはSRAMのMTB用ではトップグレードとなる「Eagle XX1 AXS」。シフトのフィーリングも良く、わずかな動きで変速できます
ドロッパーシートポストは無線でコントロールできる「RockShox Reverb AXS」。微妙な調整もしやすく、動きも上質でした
フロントフォークは150mmトラベルの「Fox Float 36 Factory」。MTB乗りには憧れの存在で、剛性が高いだけでなく細かい動きも素晴らしい
リアのサスペンションもFox製でまとめられています。「Fox Float DPX2 Factory」を装備

どんな人がどれを選ぶべき?

ボッシュ、シマノ、スペシャライズドと代表的なドライブユニットを採用した各社のトップグレードのe-MTBを乗り回すという贅沢な経験でしたが、いろいろ乗り比べているとそれぞれの特徴が見えてきました。もちろん、どのモデルを選んでも後悔することはないと断言できますが、どうせならライダーのレベルや使い方に合わせたe-MTBを選びたいところでしょう。そこで、ざっくりですがそれぞれのモデルがどんな人に合っているかをまとめておきます。

サンタクルズ「Heckler 8」はジャンプを飛んだり下りを楽しみたい人に向いています。前後27.5インチのホイールは小回りも効くので、曲がりくねったタイトなトレイルが一番楽しいでしょう。

メリダ「eONE-SIXTY 10K」は漕ぎが軽いので、上りも下りも楽しみたい人向け。素直で扱いやすい特性なので、初めてMTBに乗る人でも十分に楽しむことができます。トレック「Rail 9.7」も上りから下りまで幅広く楽しめますが、こちらはやや前傾のライディングポジションなこともあって、少しMTBに慣れている人のほうが真価を感じられそうです。

そして、スペシャライズド「S-Works Turbo Levo SL」はある程度の経験があって、e-MTBであっても通常のMTBと同等の軽さや反応の良さを求める人に向いているといえます。ドライブユニットの特性も、アシスト任せで上りたい人よりも、回すペダリングができる人のほうが魅力を引き出せると思います。

繰り返しになりますが、どれに乗ってもオフロードをe-MTBで走るのは最高に楽しいので、未経験の人はぜひ一度体験してみることをオススメします。

増谷茂樹

乗り物ライター 1975年生まれ。自転車・オートバイ・クルマなどタイヤが付いている乗り物なら何でも好きだが、自転車はどちらかというと土の上を走るのが好み。e-bikeという言葉が一般的になる前から電動アシスト自転車を取材してきたほか、電気自動車や電動オートバイについても追いかけている。