e-bike試乗レビュー
総額500万!! 4メーカーのフラッグシップのe-MTBを乗り比べてみた
2021年11月12日 08:05
職業柄いろいろなe-bikeを試乗しますが、その魅力をもっとも体感できるのが前後にサスペンションを装備したフルサスタイプのe-MTBです。実際にメーカー側も一番力を入れているカテゴリでもあり、数多くのe-MTBがラインナップされています。では、それぞれのモデルはどんな特徴があり、どれくらい性能差があるのか? 気になっている人も多いと思いますので、現行モデルの中ではトップクラスに位置づけられる4台を試乗し、その違いについてまとめてみました。
ドライブユニットもフレーム設計も異なる4モデルに試乗
今回、乗り比べたのはシマノ製ドライブユニット搭載モデルがサンタクルズの「Heckler 8(ヘクラー 8)」とメリダ「eONE-SIXTY 10K(イーワンシクスティ 10K)」。ボッシュ製のドライブユニットを搭載しているのがトレック「Rail 9.7(レイル 9.7)」、そしてスペシャライズドの「S-Works Turbo Levo SL(エスワークス ターボ リーヴォ エスエル)」は同社製のドライブユニットを採用しています。すべてフレームはカーボン製。4台分を合計すると、総額約500万円という贅沢な試乗です。
各社のトップグレードなので当然ですが、どれも上りも下りも高いレベルでこなせるため、大前提としてどのモデルを選んでも不満を感じることはないと断言できます。ただ、同じコースで乗り比べてみると、それぞれの個性が明らかになってきました。
まず、大きな違いがホイール径です。「Heckler 8」は前後とも27.5インチで、「eONE-SIXTY 10K」はフロント29インチでリアが27.5インチ。「Rail 9.7」と「S-Works Turbo Levo SL」は前後とも29インチです。
フレーム形状やリンク機構も各社の個性が出る部分なので、そのあたりの違いにも注目したいと思います。フレームの設計はライディングポジションに大きく影響する部分。フレームの上辺(トップ長と呼ばれます)が長いと、前傾姿勢がキツくなりペダリングの際にお尻の筋肉を使いやすくなります。つまり、長い距離を効率良く走れるので、クロスカントリー系のMTBに多く採用される作りです。逆にトップ長が短いと上体が起きたライディングポジションになり、ホイールベースも短くなるので小回りが効くようになります。これは、下りを重視するオールマウンテンやエンデューロと呼ばれるカテゴリーのMTBに多く採用されています。
下りで遊べるサンタクルズ「Heckler 8」
今回、試乗した4台の中でもっとも個性を強く感じたのは「Heckler 8」。前後27.5インチのホイールと、コンパクトなフレーム設計のおかげでとても良く曲がります。試乗したトレイルアドベンチャーのコースは、ほとんどのコーナーにバンクが設けられているので、ホイール径の大きなモデルでも曲がりにくく感じることはありませんが、「Heckler 8」はよりコンパクトに曲がれる印象です。ほかの試乗車から乗り換えて同じ感覚でコーナーリングすると、曲がり過ぎてしまうこともあるくらい。
もう1つ印象に残っているのはジャンプの飛びやすさ。トレイルアドベンチャーにはジャンプもできる大きめの凹凸が設けられたコースもありますが、そこを走った際に一番飛べたのがこのモデルでした。といっても、がんばって飛ぼうとしているわけではなく、サスペンションの反動でフワッと浮き上がるような感覚。ちょっとしたギャップでもジャンプできるので、下りはかなり楽しいです。
この楽しいハンドリングとジャンプのしやすさにはコンパクトなフレーム、リアサスペンションのリンク構造が効いているのだと思われます。サスペンションが沈み込んだ後、縦方向に反発するフィーリングがフワッと浮き上がるようなジャンプを可能にするのでしょう。コンパクトにクルクル曲がれるので、下りは楽しいの一言。一方で、上りはアシストのおかげで楽ではあるのですが、グイグイ加速していくような感覚ではなく、楽に上って下りを楽しむような特性。上りは楽をしつつ、下りで遊びたい! というライダーには最適なモデルでしょう。
漕ぎが軽くてよく進むメリダ「eONE-SIXTY 10K」
「Heckler 8」と同じシマノSTEPS「E8080シリーズ」のドライブユニットを装備しながら、まったく違った印象だったのが「eONE-SIXTY 10K」。“下りを楽しむ”特性だった「Heckler 8」に対して、こちらは上りや平坦路での漕ぎが軽く、スイスイと進みます。バッテリー容量が630Whと大きく、重量は23.2kgと重いにも関わらずです。
その要因の1つだと思われるのがフロント29インチ、リア27.5インチというホイール径。“マレット”という呼び方もされる前後異径のホイールサイズとすることで、29インチの走破性と直進安定性、27.5インチの敏捷性と加速の良さを両立しているのです。
これまでもシマノSTEPS「E8080シリーズ」のドライブユニットを搭載するe-MTBはいろいろと乗ってきましたが、これほど軽々と進む感覚のモデルは初めて。ドライブユニットに合わせた特性をかなり煮詰めている印象です。ホイールがDT Swissの軽量なカーボン製になっていたり、コンポーネンツがシマノのMTB用として最上級のXTRが採用されている点も、この軽快な乗り味に効いているのかもしれません。
もう1つ感じたのは、ギャップを越えた際に縦に飛ぶ特性だった「Heckler 8」に対して、「eONE-SIXTY 10K」は“いなす”ように越えていくこと。同じスピードでギャップに突入しても浮き上がることなく、タイヤは地面を捉えたまま通過できます。このへんは、リンク機構の設計の違いを感じる部分です。オフロードを走ることに慣れていない人も、安心して山道を楽しめそうです。
質感の高いフレーム塗装や、フラッグシップモデルにふさわしい豪華な装備も「eONE-SIXTY 10K」の魅力。FOX製の「FLOAT」サスペンションを前後に装備しているのも、しなやかな乗り味に効いていると思われます。妥協のない装備は所有欲も満たしてくれますし、初心者からベテランライダーまで、上りから下りまで幅広いシーンとユーザー層を満足させてくれるクオリティです。
パワフルなアシストで上りも下りも楽しめるトレック「Rail 9.7」
アシストがもっともパワフルに感じたのは「Rail 9.7」。ボッシュ製ドライブユニット「Performance Line CX」を搭載していることが最大の要因でしょう。このドライブユニットの最大トルクは75Nmなので、ほかのモデルに比べて押し出す力が強く感じられます。また、前傾姿勢も強いので、太腿の裏側の大きな筋肉を積極的に使えることも、推進力を強く感じる理由でしょう。
推進力が強く感じるのには、前後29インチというホイール径も関係していそうです。ホイール径が大きいため、走破性と速度を維持する力が強いのに加えて、前後に接地面積が大きいので駆動力を路面に伝えることができます。特に「Rail 9.7」は29×2.6インチという太めのタイヤを履いているため、接地面積がさらに大きく、パワフルなアシストを余すことなく駆動に活かせます。
上りだけでなく下りも得意で、「ABP(アクティブ ブレーキング ピボット)」というトレックの特許技術を採用したリンク機構が、ブレーキをかけながらでもタイヤを路面に押し付けてくれるので安定して下っていくことができます。
さまざまなコースやトレイルで試乗してきましたが、乗るたびに感じるのはバランスの良さと懐の深さ。これまでのシチュエーションで「ここは苦手だな」と感じたことはありません。アシストがパワフルなだけでなく、下りの性能も高いので初心者からベテランまで多くの人にオススメできる完成度です。発売当初は高価に思えた価格も、100万円オーバーのモデルが増えてきた今では安く感じます。2021年モデルから、バッテリーが625Whに容量アップしていることも考慮すると、コストパフォーマンスはかなり高いといえます。
ベテランMTBライダーも満足できるスペシャライズド「S-Works Turbo Levo SL」
今回の比較試乗の中でもっとも高価なのが「S-Works Turbo Levo SL」。「Rail 9.7」の2倍近い価格1,694,000円は驚きです。ただ、実際に乗ってみると(払えるかどうかは別にして)、「それだけの価値はあるな」と思わせるだけの性能が実感できます。それは、一言でいえば軽さ。このモデルの重量は17.3kgで、ほかのモデルと比べると5kgくらい軽いのです。ほかの車種に乗っていても「重い」と感じることはなかったのですが、これだけ重量差があると、あらゆるシーンで操作に対する反応が変わってきます。
スペシャライズドのe-bikeには同社独自のドライブユニットが搭載されていますが、このドライブユニットは軽い分、発揮できるトルクは35Nmと他社に比べると数値はだいぶ低くなっています。ただ、トルクというのはペダルを1回踏み降ろす際に発揮できる力のことで、ペダルを高速で回転させて得られるパワーはまた別です。クルクル回すペダリングができれば、上り坂でもパワー不足を感じることはほぼありません。もちろん、足はたくさん動かさなければならないので、1日走って疲れが溜まってきた後半には、ちょっとツラくなる場面もありましたが……。
そして、一番魅力を感じたのは、下りやフラットな路面でのコーナーリングや切り返しの場面です。取り回しがとにかく軽く、アシストのない普通のMTBと同じ感覚で車体が反応してくれます。MTBはロードバイクと違って前後左右、そして上下に車体を常に動かしているような乗り物なので、1つずつの操作に対する反応性や軽さは大きな魅力です。
通常のMTBに乗っていた人がe-MTBに乗ると「上りは圧倒的に楽だけど、もうちょっと軽ければ……」と感じることが多いようですが、「Turbo Levo SL」だと重さのハンデを感じることはほぼないでしょう。特に今回試乗した最上級の「S-Works Turbo Levo SL」はコンポーネンツなどのパーツも軽いので、上りはゴンドラやリフトに積めるゲレンデダウンヒルなどに持って行っても、十分にその魅力を味わえると思います。そんなe-MTBはほかにありません。
どんな人がどれを選ぶべき?
ボッシュ、シマノ、スペシャライズドと代表的なドライブユニットを採用した各社のトップグレードのe-MTBを乗り回すという贅沢な経験でしたが、いろいろ乗り比べているとそれぞれの特徴が見えてきました。もちろん、どのモデルを選んでも後悔することはないと断言できますが、どうせならライダーのレベルや使い方に合わせたe-MTBを選びたいところでしょう。そこで、ざっくりですがそれぞれのモデルがどんな人に合っているかをまとめておきます。
サンタクルズ「Heckler 8」はジャンプを飛んだり下りを楽しみたい人に向いています。前後27.5インチのホイールは小回りも効くので、曲がりくねったタイトなトレイルが一番楽しいでしょう。
メリダ「eONE-SIXTY 10K」は漕ぎが軽いので、上りも下りも楽しみたい人向け。素直で扱いやすい特性なので、初めてMTBに乗る人でも十分に楽しむことができます。トレック「Rail 9.7」も上りから下りまで幅広く楽しめますが、こちらはやや前傾のライディングポジションなこともあって、少しMTBに慣れている人のほうが真価を感じられそうです。
そして、スペシャライズド「S-Works Turbo Levo SL」はある程度の経験があって、e-MTBであっても通常のMTBと同等の軽さや反応の良さを求める人に向いているといえます。ドライブユニットの特性も、アシスト任せで上りたい人よりも、回すペダリングができる人のほうが魅力を引き出せると思います。
繰り返しになりますが、どれに乗ってもオフロードをe-MTBで走るのは最高に楽しいので、未経験の人はぜひ一度体験してみることをオススメします。