e-bike試乗レビュー

モーターサイクルメーカーの本気が凄いっ!! ヤマハのe-bike「YPJ-MT Pro」でコースを走ってきた♪

ヤマハのe-bike「YPJ-MT Pro」2020年7月29日に発表され、e-bike界をザワつかせたフルサス(前後サスペンション)のe-MTBです。

ヤマハが東京モーターショー 2019(会期:2019年10月25日~11月4日)で披露した参考出展車は、「何あれカッコイイ!!!」「すげぇe-bikeが出てくるかも!!!」と大いに話題になりました。その参考出展車と非常に近いカタチで製品化されたのが、このYPJ-MT Pro。「うっわ、ホントに出てきた!!!」「やっぱりカッコイイ!!!」とザワついたわけですね。

こちらは東京モーターショー 2019の参考出展車、フルサスe-MTB「YPJ-YZ」
発売された「YPJ-MT Pro」。カラーは「ポディウムブルー/ニッケル」のみ。600,000円

いや~筆者は物凄く期待していたんですよ、あの参考出展車の製品化。だってe-bikeメーカーの老舗であり、世界で初めて電動アシスト自転車を発売したヤマハ発動機ですよ。ドライブユニットメーカーでもあり、かつ完成車メーカーでもあり、さらに世界屈指のモーターサイクルメーカーなわけですよ!!! そんなメーカーが放つフルサスe-MTBは凄い完成度で登場するハズ!!! と、ヤマハのハードテイルe-MTB「YPJ-XC」に乗って感動した筆者は思っていたわけです。

2020年モデルの「YPJ-XC」。こちらはフロントサスペンションのみのe-MTBで、最新のe-MTBであるYPJ-MT Proの兄弟的存在です。350,000円

そして、発売直後のYPJ-MT Proをお借りすることができましたので、3密を避けソーシャルディスタンスを取り手洗いを励行しつつ前のめりで試走してきました。以降、YPJ-MT Proのレビューをお届けします♪

YPJ-MT Proって、どんなe-MTB?

YPJ-MT Proはヤマハ製e-bikeのフラッグシップ・マシン。どんなe-MTBなのか、その細部を写真と説明文で見ていきましょう。

車体全長と重量は、フレームサイズ(L)が1,980mm・24.2kg、(M)が1,935mm・24.1kg、(S)が1,885mm・23.8kg。他社フラッグシップe-MTBより少し重いです。ポディウムブルー/ニッケルのカラーは陽の光の下でよく映える。ハンドル幅(車体全幅)は790mmで、e-MTBとしては平均的
斜め前方から見た様子。全体的にコンパクトでスリムに見える車体です
とりわけ目を引かれるのがフレーム。「ヤマハ Dual Twin フレーム」と呼ばれるアルミフレームで、トップチューブとダウンチューブは二分割構造です。チューブの間に隙間があり、そこにリアサスペンションやバッテリーが挟まれています。これによりスタンドオーバーハイトが低く抑えられ、トップチューブをまたいで立った状態でも股下に余裕が生まれ、サドル最低高もより低くできます。MTBライドではトップチューブをまたいで立ったり、サドルの後ろに腰を引く動作が多いので、このフレーム構造は理にかなっている感じ
「ヤマハ Dual Twin フレーム」は自転車としては非常に斬新な構造です。モーターサイクルのフレームみたいですね! カラーもヤマハモーターサイクルのレーシングカラーを彷彿させます♪
2本のダウンチューブの間には大容量バッテリーが挟まれて固定されていますが、充電は2本のトップチューブの間に見えるコネクターから行ないます。バッテリーは取り外し可能ですが、工具が必要になるので、通常の充電は車体に対して直接行なうことになるでしょう
ドライブユニットはヤマハ製「PW-X2」。ヤマハのドライブユニットの中では最小サイズで最軽量となるフラッグシップ・ドライブユニットで、ヨーロッパでは既に多くのe-MTBに採用されています。アシストモードと1充電あたり走行距離は、+ECO(プラスエコ)が197km、ECO(エコ)が133km、STD(スタンダード)が96km、HIGH(ハイ)が79km、EXPW(エクストラパワー)が73kmです。また、スイッチユニットのボタン(アシストアップボタン)を長押しすると、A:(オートマチックアシスト)が使えます。A:モードはECO/STD/HIGHの3モードの中から最適なアシストモードへと自動的に切り替えるというもので、このモードでの1充電あたり走行距離は87kmです
主要なドライブトレイン・コンポーネンツはシマノ「DEORE XT」。ギアはフロントが1速(36T)で、リアが11速(11-46T)。フロントのギアクランクはPRAXIS「E-Crank arm」で、クランクアーム長は全フレームサイズとも170mm
タイヤは「MAXXIS High Roller II」でサイズは27.5×2.8のセミファットタイヤ。650Bと呼ばれるタイヤですが、29インチタイヤと比べるとよりクイックな旋回に向くと言われています
フロントもリアも油圧式ディスクブレーキで、コンポーネンツは「MAGURA MT Thirty」。ローター径は203mmで、4つのピストンキャリパーで強力な制動力を安定的に発揮します。ハブは前後ともスルーアクスル対応
フロントサスペンション(フォーク)は「ROCKSHOX YARI RC boost」でストロークは160mm。コンプレッション(沈み動作の硬さ)やリバウンドダンピング(沈んだ後に戻る速さ)も調整できます
リアサスペンションは「ROCKSHOX Super Deluxe Select+」でトラベル量は150mm。リバウンドダンピングを調整でき、ロックアウト機構を使うと初期沈み量を抑えた硬いサスペンション動作とすることができます
ドロッパーシートポストは「TranzX JD」。ハンドル左側のレバー操作で、乗車したままシート高を変えられます。シート高可変範囲は、フレームサイズSが125mm、MとLは150mm
サドルは「VELO VL」。あっ、YAMAHAって書いてある!
ハンドル周辺の様子。幅790mm・ライズ30mmのワイドハンドルバーです。ハンドル左側にはドロッパーシートポスト用レバーの他にスイッチユニットが。スイッチユニットでアシストモードを切り替えます。ハンドル右側にはシフター、中央にマルチファンクションメーターがあります。なお、車両全幅(普通はハンドル幅のこと)が60cmを超える自転車は歩道を走行できません
走行速度やアシストモードなど各種情報を表示するマルチファンクションメーター。踏力を示すパワーメーター表示も可能です。手前にはUSBポート(microBタイプコネクター)があり、5V/1Aが出力できるので、スマートフォンなどを充電することもできます。Bluetooth Low Energy(BLE)対応のサイクルコンピューターなどを無線接続することもでき、対応プロファイルはCSCP(車速やケイデンスを送信)とCPP(車速やケイデンスやペダリングパワーや消費エネルギーを送信)
マルチファンクションメーターはハンドルより下の位置に取り付けられているので、転倒時などでも破損しにくいと思われます。ただし、スイッチユニットはハンドルの上となっています

実際に走る前の印象としては、フレーム構造の斬新さが魅力的です。MTB好きの人に二度見されるでしょうね~コレ。

それからちょっとコンパクトな印象があること。実際、29インチタイヤ(29er)を履いたMTBと比べると若干全長が短いと思いますが、それ以上に小さめのe-MTBであるような気がします。フレーム形状やカラーのためかもしれません。タイトな雰囲気が「日本の山と相性が良さそう」と感じさせます。

それと重さ。前述のとおり他社のe-MTBと比べると少々重いのですが、実際に持ち上げてみるとより重く感じられました。これは恐らく「手を掛ける場所が非常に少ないから」だと思われます。ツイデに、このフレーム形状だとまず「担ぐことができない」ですね。他社のフルサスe-MTBも同様ですが、担げず手を掛ける場所も少ないYPJ-MT Pro、トレイルによっては一瞬凄く疲れる場面があるかもしれません。

ただ、ある程度整備されているトレイルや今回走行するMTBパークのような場所では、ほとんど問題になることはないと思います。また上記の「重さ」も、実は走り出すとまったく重く感じられないのがYPJ-MT Proの凄いところ。ともあれ、試走に移りましょう。

e-MTB初心者がYPJ-MT Proの走りをどう感じたか?

 試走は神奈川県にあるMTBパーク「トレイルアドベンチャー・よこはま」で行ないました。MTB未体験者~初心者向けのやさしいコースです。ただ、少し難易度が高めのコースには連続するテーブルトップ(ジャンプなどもできる盛り上がり)や深いバンクがあったりしますので、ある程度はYPJ-MT Proの実力を体験できると思います。

トレイルアドベンチャー・よこはまは、比較的になだらかなMTBコースです。このようなテーブルトップもあり、腕のある人は、ここで連続ジャンプをキメたりしています
スピードを出せるような深いバンクも作られています。腕のある人なら、このコースを猛スピードで駆け抜けつつジャンプしたりもできますので、「トレイルアドベンチャー・よこはま=MTB未体験者~初心者限定コース」というわけでもありません。超初心者も、腕のある人も、どちらも楽しめるコースという感じですね

筆者のMTBの腕前ですが、こんなふうなMTBパークを数度走ったことがある程度。かなり初心者で、ジャンプなんか全然できませんし、バンクは深かろうと浅かろうと徐行。そんなレベルです。人力MTBでのオフロード走行の経験もありますが、単に荒れた山道を走っているといった程度。

MTBよりも、オフロードのモーターサイクルに乗っている経験のほうが長いと思います。オフロードのモーターサイクルはヤマハの「セロー250」。このバイクでたまに林道を(ゆっくり)走ったりしております。

2016年に購入したヤマハのセロー250
セロー250で、こんなふうな山道をたまに走ったりしています。あっ、こういう山道、e-MTBで行っても良さそうですね~♪

余談が長くなってしまいましたが、気を取り直してYPJ-MT Proで試走開始。トレイルアドベンチャー・よこはまは、まず上ってから下ってくるMTBコースです。なので、まずはYPJ-MT Proがどんなふうに登坂するか?

勾配に合わせて各アシストモードを試しましたが、意図してアシストモードを控えめにしたりしなければ、も~どんな坂でも力強く上れます。立ち漕ぎとか一切不要。息切れもナシ。見るからに急勾配で「ホントに上れるの?」って感じの箇所でも、サドルに腰掛けたままグイグイと♪

試走当日はコースが少し湿った状態。急勾配だと滑っちゃう? という心配もよそに、力強く泥の坂を上るYPJ-MT Proでした

そして下り。長めの下りコースはスピーディーに走れつつ、時々急カーブがありつつ大きな凸凹が連続したりもします。初心者にとってはなかなか手応えのあるコースなんですが……。

YPJ-MT Proで下ってみると、恐る恐るって感じなのは最初だけで、すぐに強気で走れるように。積極的に凸凹を超えてみたり、少し速めのスピードでカーブを曲がってみたり。

コースの下り。凸凹ありカーブありの下りですが、所々で小さな上りがあります。でもYPJ-MT Proならすべてを難なくクリアーできます
すぐに慣れてきて、徐々にスピードを出すようになったりして。YPJ-MT Pro、楽しぃ~♪

仕事を忘れ、どんどん楽しくなってしまいます。でも、そんな中で、ふと思ったことがいくつかありました。

ひとつはYPJ-MT Proの重さの件。乗車前は「ちょっと重いかな」と感じていましたが、走り出したら非常に軽快。前述のとおり、何でも来いって感じの登坂力があるYPJ-MT Proは、上り坂で車体の重さを感じさせることはありません。逆に、最大アシスト力が発揮されるEXPW(エクストラパワー)モードだと、急勾配では「そこまでアシストされると前輪が浮くかも!」と初心者としては焦っちゃうレベルで、アシストモードをひとつ下げたりするほど。

もうひとつ、路面をしっかり掴んで走っている感覚。フロントとリアのサスペンションが常にタイヤを路面に押し付けている感覚が強いんです。タイヤの性能も高いんでしょうし、サスペンションの挙動やバランスも良いのでしょう。それに加えて、たぶん、重心が低いことも、こういう走行感につながっているのだと思います。

やや滑りやすいコースコンディションでしたが、YPJ-MT Proで走っているとその滑りやすさを忘れるほど。途中で地面に足を着いたら、うっかり靴が滑ったというシーンもありました

YPJ-MT Proは総じて安定感が際立つe-MTBです。上りも下りも安定的。かと言って、小回りが利かないかと言えば全然そんなことはない。狭いカーブでもクイックに曲がってくれます。

ちょっとヘンな例えですが、考えてみると、YPJ-MT Proって前述のヤマハ「セロー250」にちょっと似たところがあるような気がします。セロー250って、わりとコンパクトな印象のオフロードバイクなんですが、走り始めると安定感があって、でも小回りも利くんですよね。だからと言って、YPJ-MT Proとセロー250の走りが同種ってわけではないんですが、なんと言うか、オフロードモーターサイクル乗りの琴線に触れるようなものを、YPJ-MT Proは持っているような気がするのでした。

ともあれ、YPJ-MT Proは筆者のような初心者でも十分MTBコースを楽しめるe-MTBだと感じられました。また、同行のMTB慣れしたライダーも終始「YPJ-MT Pro楽しいっすね~♪」と走りまくってましたので、幅広いライダーを受け入れる懐の深さもあるのでしょう。

試乗してみた結果、非常に欲しくなってしまいました。十二分なアシスト力を発揮してくれるし、抜群の安定感で走ってくれるし、サスの良さからか乗り心地もかなりイイんです。

あと、やはりヤマハ製という安心感。まず単純に、付属の説明書が非常に詳細。雑さ一切ナシのデキの良い説明書があるところから安心です。それに加え、他社より販路が広いとかサポート窓口が多いとか、3年間の盗難保険(無料)が付いているとか。「YPJ-MT Proならオーナーになっても後の心配や苦労が少なさそうだな」と思わせるあたり、大きな魅力です。

さておき、YPJ-MT Proは非常に完成度が高いe-MTBだと感じられました。凄くイイですYPJ-MT Pro。なのでゼヒ、実車に触れ、そして試乗してみてください♪

スタパ齋藤