そこが知りたい家電の新技術
読者よりまず俺が欲しい!!!! ソニーの「マルチファンクションライト」は、Bluetoothスピーカー付きのLinuxベアボーン
2019年12月20日 00:00
ソニーが面白いものを発売した。しかし初期ロットが爆発的に売れて品切れ! 入手困難なので、直接ソニー本社に電話したら、売りものじゃないけど量産機が1台だけあるということで、「とにかく見せてくれ!」と土下座して取材してきた。家電 Watchで十年近く記事書いてるけど、こんなアプローチしたことネーよ!
それがコレ! ソニーの「マルチファンクションライト」だ。
メーカー名 | ソニーネットワークコミュニケーションズ |
---|---|
製品名 | マルチファンクションライト MFL-1000A |
価格(Amazon.co.jp) | 26,400円(税込) |
「なんだよ! ただのシーリングライトじゃん!」と思うことなかれ! 開発担当に話を聞いたら、スマートホームにも使えそうなプログラミングデバイスで、IT系男子垂涎のアイテムだったのだ!
何がマルチファンクションなのか? その醍醐味は? → 欲しい♪
「マルチファンクションライト」というぐらいなので、まずは何が"マルチファンクション"なのかを聞き出していこう。今回取り調べたのは、ソニーネットワークコミュニケーションズの横沢 信幸氏(横沢さん! 同志なのに容疑者にしてすいません!)。取調室の机には、カツ丼はおろか電気スタンドもなかったので、マルチファンクションライトをサイドから当てて、取り調べに当たった。
名刺には「博士(工学)」の文字! そこで専攻を聞いたら、化け学だという。吉本新喜劇なら「あれ? 何で?」と、みんなでズッコケるシチュエーション。どうやらLEDを研究していたというのだ。それ「光学」じゃん! 電子部品のLEDなので「工学」なのか!? そうして色々とお話をしていくと、どうやら秋葉原の秋月電子に出入りしている同志! と判明(編集部注:「秋月電子」とは、正式には「秋月電子通商」。電子部品や電子工作キットの販売や開発等を手がける企業で、秋葉原等に直営店がある。藤山氏などのような、かつての(今も?)ラジオ少年やマイコン少年の聖地的な存在)。
とはいえ取り調べに私情は禁物、容赦しない! 横沢氏の取り調べにより、マルチファンクションライトのポイント6点を検挙した。
01) Bluetoothスピーカー内蔵で好きな音楽やテレビの音が天井からも降り注ぐ! Magical Sound Shower!
02) ライトの内側に8個ついた赤外線リモコンで家電を制御!
03) 温度、湿度、人感センサーを内蔵し制御のトリガーとして利用可!
04) 時計機能内蔵で自然な灯りで心地よい目覚め!
05) 色温度と明るさが自由に変えられるシーリングライト!
06) スマートスピーカーとの連携OK! 音楽も!
マルチファンクションライトは、スマートフォン専用アプリ経由で、電源をON/OFFしたり、電球色~白色、常夜灯の明るさ~最大照度まで自由にコントロールできるシーリングライトだ。およそ10畳の部屋まで対応できる。またスマホと本体はインターネット経由で連携されるので、本体を部屋の無線LAN(IEEE802.11 b/g/n 2.4GHz帯)に接続すると、自宅のソファーからだけでなく、会社や学校などの出先からでもコントロール可能だ。
Bluetoothスピーカーは、スマホまたはAmazon EchoやGoogle Homeなどのスマートスピーカーとの接続も可能。もちろんスマホやウォークマンをはじめとしたBluetooth対応の音楽プレイヤーとの連携も可能だ。
またライトのすぐ内側8カ所に設けられている赤外線発光部は、今のところエアコンとテレビをコントロールする赤外線リモコンとして動作する。
市場には、スマホと連携して家電をコントロールするリモコンはたくさんある。でも対応できる家電製品が、ごくわずかに限られていたり、リモコンボタンの1つ1つを学習させなきゃいけなかったり、便利さ以上に不便さが目立つ製品もある。しかしマルチファンクションライトは、ほとんどの国産テレビとエアコンに加え、海外製のものまであらかじめプリセットされている点が、これまでの製品との大きな違いだ。
さらに内蔵されているセンサーやタイマーを使うと、それをトリガーにしてテレビやエアコン、またシーリングライトをコントロールできる。IFTTTのような煩わしさはなく、スマホの画面で条件をスイッチやテキストボックスなどで指定するだけでコントロール可能。プログラマーやエンジニアには、少し物足りないかもしれないが、簡単に条件付けの制御ができるのはワクワクするだろう。
次からはそれぞれの機能を少し詳しく紹介していくことにしよう。
天井には振動が響かず、音に包まれるaptX LL Codec搭載!
Bluetoothスピーカー機能は、「さすがソニー!」と思う音質。ライト中央のユニットは取り外せる。この部分がコンピュータユニット&スピーカーユニットになっている。取り外したユニットのカバーを外すと、2/3ぐらいがスピーカーユニットだ。スピーカー自体は直径50mmほどのフルレンジスピーカーで、ユニットの大半はバスレフの空気室にあてられているようだ。スピーカーの横にある四角い穴がバスレフの開口部(ポート)。
こうして低音も天井から床に向けて降らせているため、天井に振動が伝わりにくい。また開発に当たってはスピーカーチームに参加してもらい、ソニーらしいこだわりの音作りをしたという。
集合住宅などで上階への音漏れが心配な方は、取り付けてから天井が共鳴していないことを手で触ってチェックするといい。
曲の録音レベルにもよるが、BGMとして聞く程度ならスマホのボリュームの1/4程度でもかなり大きく聞こえる。喫茶店のBGMぐらいの音量なら1/8~1/6ぐらいが適正音量とみていいだろう。
またスピーカーユニットには、メインアンプも載っているので、スマホや音楽プレイヤーのボリュームを最大にすると、かなり大きな音が出るので注意。
音楽再生デバイスとのペアリングは、スマホでマルチファンクションライトをペアリングモードに切り替える方法と、シーリングライトの元電源を壁スイッチで一旦OFFにして再度電源をONにする方法がある。さすがに本体にはペアリングモード切替スイッチはない。とはいえ頻繁に接続先を切り替えることはあまりないので、不便さを覚えることはなさそうだ。
いちばん気になるのは、音質と遅延。ひとくちにBluetoothと言っても、送信側と受信側には以下の規格(コーデック)がある。
規格名 | 特徴 | 遅延 |
---|---|---|
SBC | どのスピーカーやプレイヤーもサポートしている | 220ms |
AAC | iPhone系で主に使われる。AAC対応スピーカーも多い | 120ms |
aptX | Android系で使われる。aptX対応スピーカーも多い | 70ms |
aptX HD | ハイレゾオーディオ並の高音質版。かなり普及途中 | 105ms |
aptX LL | Low Latency(遅延が少ない)。送信側が普及途中 | 40ms |
多くのスマホや音楽プレイヤーが、AptXまたはAACに対応しているので、マルチファンクションライトで、CD音質での再生が可能だ。
問題はテレビの音を再生したとき。テレビのスピーカーと一緒にマルチファンクションライトで音声を同時再生すると、どうしても遅延が発生してしまう。70ms~120msの遅延があると「山のこだま」のようになってしまい、画面の口パクと音声が合っていないということも起きてしまう。
だがマルチファンクションライトはaptX LLに対応しているので、遅延が40msと短く、ほとんど遅延が気になることはない。ただしそれは、送信側もaptX LLに対応している場合のみだ。だか、いかんせんテレビのBluetoothコーデックは、よくてもaptX止まり、遅延の少ないaptX LLはまだ普及していないのが現状だ。
そんなときは、aptX LLのトランスミッターを購入するといい。Amazon.co.jpなどには数千円で買えるaptX LLのトランスミッターがある。これをテレビのヘッドホンジャックなどに差し込んで、マルチファンクションライトとペアリングすれば、遅延の少ないBluetoothオーディオが楽しめる。
それでも40msの遅延が発生してしまうが、実際に聞いてみるとこの遅延によって「擬似サラウンド」のように音が広がって聞こえる。野外コンサート会場などで反射した音がディレイして、2つの音が聞こえるアノ感じだ。これはこれで音の広がりを感じられて良いのだが、もし音楽コンテンツなどが二重に聞こえるのが気になるという場合は、Bluetoothを切って視聴するといいだろう。
だがマルチファンクションライトはモノラルなので、テレビのスピーカーと併用すると、左右のステレオ感(音位の分離性が)悪くなるなどのデメリットもある。しかし取材時に視聴させてもらった限り、サラウンド効果の方がより強い感じがした。先の横沢氏によれば、お客様の声は「テレビスピーカーと併用すると音に囲まれているようで臨場感がある」という声が多いそうだ。
低音が響くのが好みの学生さん~30歳代ぐらいの方が、音楽や映画などをライトに楽しむための、ベストマッチなスピーカーとしてオススメしたい。
暫定でエアコンとテレビだが海外製まで対応の鬼リスト!
中央のコンピュータユニットには、円状の8方向に赤外線発光部を設けている。これにより床の方に向かって複数の赤外線(赤外線なので実際に目には見えないが……)を出して、エアコンやテレビをコントロールできる。
通常この手の赤外線で他の家電をコントロールする装置は、どんなに対応数が多くても、ここ数年の国産メーカーのみ。しかしマルチファンクションライトの対応機器は膨大でとても紹介できる量ではない(テレビとエアコンを合わせてだいたい3,000機種とも)。以下は、対応している国産のエアコンとテレビの対応型番を列挙したPDFの画像だが、老眼の筆者は虫眼鏡がないと読めないぐらいの小さい字で、37ページに渡って対応型番が記載されている。
ただこれは氷山の一角(笑)。実はスマホの対応機種一覧には、中国や韓国、ヨーロッパ各国にアメリカのメーカーまで、国産の倍はあるかというメーカーをサポートしているのだ。
例えばLGやHisenseといった韓国や中国のメーカーはもちろん、さらには何人がそのメーカー名を知っているんだ! というRCAまで。エアコンもこの調子で膨大な機種に対応している。
国内でも唯一対応できないのは、富士通ゼネラル製の一部のエアコンで、赤外線ではなく無線でコントロールしているモデル。マルチファンクションライトが赤外線で機器をコントロールするので、対応できないというわけだ。
さてこのテレビとエアコンのコントロールは、2カ月間は無償で使えるが、以降はソフトウェアライセンス料が各1,500円ずつ必要になる。横沢氏曰く「製品価格に1,500円上乗せするのが通常だと思いますが、考えられる限り膨大な機器に対応しているものの、万が一対応できない機種があったお客様はリモコン機能が使えなくなるので、別料金としました」という。もし購入して家電を操作できなくても、家電操作機能に関する代金は損しないというわけだ。
テレビとエアコンそれぞれ1,500円というのは、あくまでもマルチファンクションライト1台に対する価格。複数のスマホでライトを操作できるが、その場合でも各1,500円だけとなる。しかも12月31日までなら、テレビのコントロールのソフトウェアライセンス料が無料になるキャンペーンも実施中。期日までにレシートなどをメールで送ると、なんとタダで利用できるというのだ。
本体の市場価格は一般的なシーリングライトとそれほど変わらない27,000円程度なので、ソフトウェアライセンスの1,500円を払っても30,000円。さらに12月31日までなら、28,500円。十分に安い買い物になるだろう。
他にも対応する家電が将来的に増えるのか? という質問に対しては「みなさんのお声がたくさんあれば、随時アップデートで増やしていきます」ということだった。
少なくとも筆者はHDDレコーダーの操作には対応してもらいたい。おそらくそういう同志も多いはず。ここは27,000円で、マルチファンクションライトという投票権を買って、ソニーにぜひアップデートしてもらおうではないか!
センサーとタイマーを使って簡易プログラミングできる楽しさ
またマルチファンクションライトには、温度センサー、湿度センサー、照度センサーが内蔵されている。また時計も内蔵されていて、タイマー機能も備える。
このライトの面白さは、これらのセンサーやタイマーと、ライトや警告音の報知、テレビやエアコンの制御ができる点だ。スマホでチョチョイと設定すると、ちょっとしたスマートホームが実現できるというわけ。プログラマーやエンジニアだと、マクロ機能欲しいところだが、それは敷居が高いので却下(残念)。
プログラミングの知識がまったくなくても、スマホのいつも使っているスイッチやテキストボックスなどの操作をするだけで、何かのセンサーをきっかけにして、ライトや外部機器の操作が可能だ。
そして詳しくは後述するが、マルチファンクションライトには隠し機能が多数用意されていて、現状はステータスの取れないセンサーや、アウトプットの方法も拡張できるようになっている。
シーリングライトとしての機能も申し分ない完成度の高さ
ここまでシーリングライト以外の付加価値ばかり紹介してきた。なぜなら、そっちの方が僕らにとって面白いから(笑)。でも商品名が「ライト」なので、やっぱりメインは照明だ。
結論からすると10畳用の照明機器としても申し分ない機能。というより他の照明機器メーカーにはない、とんがった機能で「シーリングライトなのになぜかソニーっぽい」というのがミソ。
電源ON/OFFや照明の明るさをスマホで変えられるのはもちろん、色温度も電球色から白色まで自由に変えられる。しかもスマホに表示される、照度と色温度のマップをタップすると、あらゆる色温度であらゆる照度に調整できる。しかもダサいリコモンなんて添付しないのがソニーの尖り方。よく使う照度と色温度は、プリセットに記録もできる。
さて、すがすがしい朝の目覚めをサポートしてくれるのが、ライト&音楽のアラーム。アラーム設定時刻の少し手前から、サーカディアンリズムというヒトの体内時計のタイミングにあわせて、徐々に照度を上げていく。設定時間で最大照度となりスピーカーから音楽が流れるというものだ。
現状はライトにプリセットされた朝にふさわしい音楽のみを選べるようになっているが、将来的に声が多くあれば好きな音楽を本体に転送してそれを再生するようにできるということだ。
さらにスマートスピーカーとの連携も可能。Amazon EchoやGoogle Homeからシーリングライトを操作できるほか、これらで再生した音楽を本体のBluetoothスピーカーで再生できる。利用者の声によれば「リビングがちょっとしたカフェになる」と好評のようだ。
気になる取り付けやセットアップも簡単。まず本体を部屋の天井に取り付けるには、一般的な引っ掛けシーリングというコネクターに差し込んで、パチン! とロックするだけ。業者に頼る必要はまったくなし。引越しで外す場合も、ロックボタン一発で外れる。
マルチファンクションライトをネットワークに接続するのも、一般的な家電とほぼ同じ。まず本体とスマホを直に(アドホック)接続し、ネットワークのSSIDとパスワードを設定。あとは再起動すれば、本体が自宅のルーターに接続される。他と少し違うのは、WPSボタンに対応していない点だが、それほど設定は難しくないだろう。
実は法人向けの「裏Version」が見守りなどで活躍中
実はこのマルチファンクションライト、まったく同じハードウェアを使い、法人向けに隠し機能をフルで使える「裏Version」が存在する。とはいえ専用のクラウドサービスと専用のアプリが必要なので、個人利用としては使えないのが残念だ。
裏Versionで使える機能は、以下の通り。
・人感センサー
・本体内蔵マイク
・音楽(音声)ファイル再生機能
これらをフルに活用した業務用機能のひとつが「見守りサービス」だ。仕組みはこんな感じ。
・人感センサーでヒトの在/不在や動きを検知
・照明のON/OFF状況を検知
・ヒトの動きがなくなり、照明の操作がない日が続く
・スピーカーから「大丈夫ですか?」と声がけ
・声がけに反応があるかをマイクで拾ってファイルへ記録
・その音声を転送して人間がチェック
こうしたシステムで、お年寄りの見守りサービスを行なっている。賃貸住宅の付加価値として、マルチファンクションライトを導入している物件もあるという。
中身はLinux! 声があれば、どんどんアプデされるファンクション
この「人感センサー」は、個人用のモデルでは利用できないそうだが、マルチファンクションライトには、まだまだ何かありそうだ。さらに尋問を続けていくと、開発した横沢氏、いや容疑者からはこんな自供が得られたのだった。
「実はSDカードスロットがお客様に見つかってしまって(笑)、サポートにお電話いただいたことがあるんですよ。でも公式見解としては、将来の拡張用ですとお答えしました。インプレスさんのご質問にも、将来用としかお答えできません」
SDカードスロット! えーっ! マジー! コイツは裏Versionでも封印されている機能なのだという。さらには、マイクや音声ファイルの再生などなど、封印が解かれたら絶対面白いモノが多数あることが発覚。
最後に笑みを浮かべていたのでおそらく語尾には「乞うご期待!」という含みが混じっているようだ。なおPC Watchなどからお越しの方は、ここまで書けばもうお分かりのとおり。
中身は完全なLinuxマシン!
つまりアップデートすれば何でもできちゃうぐらい汎用性をもったマルチファンクションライトなのだ。製品としても素晴らしく面白く、お手ごろ価格なマルチファンクションライト。
僕らのHackのオモチャとしても相当に楽しめる……、"ルンバ Hack"に続き、"シーリング Hack"ブームが到来しそうな予感がしてならない。もちろん筆者は、Amazonでポチッ! シーリングライトとして、Bluetoothスピーカーとして、またスマートホームデバイスとして、さらにはSambaやDLNAサーバとして稼動する日も近いかも?
なお今回特別に、マルチファンクションライトを購入していなくても、「さくらの名の下にレリーズッ!」して欲しいという熱いラブコールなどをソニーさんの方で受け付ける窓口を作ってもらった(こんなヘンテコな記事に付きあってくださるのがソニーQuality!)。それだけでなく、こんなこともできるんじゃね? 的なアイディアもぜひ送ってみよう! もしかしたらマジ実装されっかも?
「マルチファンクションライト」は紛れもなく「It's a Sony」。そして、マルチファンクションライト専用妖怪ポストはこちらから。