そこが知りたい家電の新技術

唯一"クラウドAI"を採用する、富士通ゼネラル「ノクリア」Xシリーズの裏側

 富士通ゼネラルは、4年ぶりのフルモデルチェンジを行なったハイエンドルームエアコン「ノクリア」Xシリーズを"次世代エアコン"と位置づけ、さまざまな点を進化させている。

「nocria」Xシリーズ2019年モデル

 かつては、いかついフォルムが"ガンダムエアコン"とも称されたが、新モデルでは優しさや親しみやすさを感じさせるラウンドフォルムを採用しながらも、部屋全体に心地良い気流を届けるエアコンの左右ファン「デュアルブラスター」は健在。

 また各社の2019年モデルがAI機能を搭載するなか、「ノクリア」Xシリーズは唯一、ユーザーの設定温度や室温、操作履歴などの"ユーザーデータ"をクラウドへ蓄積し、エッジ(本体)とクラウドを連携させて、1つのAI機能を構成している。

 さらに"次世代エアコン"を実現すべく、無線LANアダプターを標準搭載し、スマートフォンやスマートスピーカーでの操作にも対応。リモコンにはBluetooth通信機能や温度と湿度を感知するセンサーも搭載する。またネットワーク経由のファームウェア更新で、多くの機能を、アップデートできるように設計。エアコン内のカビ菌を除去する「熱交換器加熱除菌」では、所要時間も半分程度に短縮されている。

 そもそも富士通ゼネラルは、今やエアコンの標準機能とも言える「フィルター自動おそうじ」機能を2003年に世界で最初に開発。さらに、エアコンの左右にファンを搭載することで部屋全体を快適にする「デュアルブラスター」を2013年から、室内機の熱交換器を加熱してカビ菌・細菌を除去する「熱交換器加熱除菌」を2017年から搭載するなど、エアコンに対して「新しい機能開発」を多く行なっている会社である。

先進技術を多く開発してきた「ノクリア」Xシリーズの進化。フィルター自動おそうじを始め、エアコンの新しい機能をさまざまに開発してきているのがわかる

"次世代エアコン"を目指した、2019年モデル

 そこで今回は、「ノクリア」Xシリーズの2019年モデルについて、"次世代エアコン"という位置づけと、その中心とも言えるエッジ&クラウドAIの開発経緯などのお話を伺った。

インタビューは、ちょうど桜の時期に富士通ゼネラル本社で行なわれた

 本モデルが"次世代エアコン"というコンセプトで進められたことについて、富士通ゼネラル 空調機事業統括本部 空調機商品企画部 主席部長・平 律志氏は、「本モデルをフルモデルチェンジをすることは、数年前から決まっていました。このモデルには、新たにAIを搭載してこれを柱にしよういうことになったので、"AIROUND(AI+AIR+ROUND、エアラウンド)"というコンセプトを決めました。このコンセプトに合うように、親しみやすく優しさの感じられるデザインも採用し、さらにはエアコンとしての機能も当然進化させようということで、開発を進めました。

 そして、柱となるAIについては、富士通研究所が30年以上培ってきた『Zinrai(ジンライ)』を利用しようと、グループ3社(編集部注:富士通、富士通研究所、富士通ゼネラルの3社)で開発を進めました。

 クラウド型AIである『Zinrai』により、高速処理と大容量データ処理による精度を担保できます。また無線LANアダプターを標準搭載していますので、本体内とクラウドの双方のデータやファームウェアをいつでもアップデートできます。持っているだけで、さらに進化できるポテンシャルを備えているのです」と語った。

富士通ゼネラル 空調機事業統括本部 空調機商品企画部 主席部長・平 律志氏

 Zinraiは、クラウド型のAIで、大量のデータを高速に処理できる点が特徴。搭載するセンサーなどが取得した室温・湿度・外気温、ユーザーの操作履歴などを、大量に集約・解析し、ユーザーの好みに応じた自動制御を実現するという。

高速処理と高精度を実現する「エッジ&クラウドAI」

 「ノクリア」Xシリーズが新しく搭載したAI機能の名称は、「エッジ&クラウドAI」という。このエッジというのは、室内機端末のことで、クラウド側から見た時に"末端"という意味だ。実は、この名称を紐解いていくと、富士通ゼネラルの考えるAIのあり方が見えてくる。

「エッジ&クラウドAI」は、室内機とクラウドのAIが連携して動作するため、スピードと正確さを備えた処理が可能になる

 図のようにエッジは、室温・湿度・外気温、ユーザーの操作履歴などのデータ収集と、AIによって生成された学習モデルを利用したエアコンの実制御を担う。ユーザーと対峙する水際として、まさに端末としての動作を行なっている。

 他方、クラウドは、エッジから送られてきたユーザーデータを格納しつつ、このデータをもとに、エアコン1台単位で「学習モデル」を生成し、エッジへ送る。

 学習モデルというのは、クラウド上のAIがエアコン1台ずつに応じて作成した、快適な温熱環境の実現を予測するための情報のことで、季節や時間帯などに応じて、ユーザーが快適だと感じるように温度などを調節したり、エアコン立ち上がるまでの時間を予測したりといった、エアコンの制御に利用される。これをエッジ側が読み取り、実際のエアコン制御を自動的に行なうのである。

 「エッジ部分は、通信せずにエアコンを制御できるので処理速度のアップが図れますが、一方データ容量やメモリが少ないので、計算可能な量に限りがあることがデメリットです。クラウドはほぼこの逆と言ってよく、豊富なデータ容量とメモリ容量で、大規模な計算をさせることができます。それぞれのメリットを活かしてエッジとクラウドを連携させることで『良いとこ取り』ができ、その結果として高レスポンスと高精度を実現できました」と平氏は説明する。

 このとき収集されるデータは、ユーザーによるエアコンの設定情報や操作履歴に加え、室内機のセンサーによる温湿度、リモコンのセンサーによる温湿度、室外機のセンサーによる外気温、室内機の人感センサーによる在室・不在などがある。

 同社 空調機商品開発本部 空調機商品技術部 第三技術部 部長・AI技術開発部 部長・河合 智文氏は、「これらのデータに、外部から取得した気象データも加え、それぞれのデータ差分や相関性、変動によって、ユーザーの環境を解析しています。

 このとき一番気を使ったのが精度の向上で、そのためにはノイズ(データ)を除去することが重要になってきます。例えば、お子さんが意味もなくリモコンを操作したような場合、その操作を「ユーザーの好み」と判断してしまうわけにはいきません。また通信環境が悪くて、クラウドへデータが来たり来なかったりといった環境も考えられます。

 そのように、関連性の低いデータがある場合に削除したり、データが連続していない場合に補完したりといったことを、学習前に行なうことで、AIの解析の精度を担保するようにしています」と説明した。

同社 空調機商品開発本部 空調機商品技術部 第三技術部 部長・AI技術開発部 部長・河合 智文氏

 またAIの解析では、エアコンが設置された部屋の状況も推定しているという。部屋の状況というのは、木造・鉄筋などの材質や断熱性能、部屋や室外機の日当たりレベル、部屋の広さ、換気量などがある。換気量というのは、例えば換気扇が稼働しているかといったことや、気密性の高い家かどうかといったことなどが含まれているという。

 これらの部屋の状況データは、エアコンの冷却・加温性能に大きな影響をもたらすが、エアコンそのもので計測できるデータには限りがある。そこで、各種センサーデータをもとに、AIで部屋の状況を表したモデルを推定し、エアコンの自動制御に利用しているという。

 こうして推定された部屋の状況を表したモデルに基づいて、エアコンの自動制御が行なわれる。主な自動制御には「体感温度予測」がある。これは、センサーの数値とユーザーの操作履歴を総合的に解析し、ユーザーの好みの温熱環境を予測して、自動調整する機能だ。

 室内機に加えてリモコンにも温湿度センサーを備えているため、屋外に近い壁際のエアコンが測定した室温と、ダイニングテーブルの温度が異なった場合に、ユーザーが行なった操作履歴も保有しており、ユーザーの体感に応じた自動制御が行なえるのである。

 また「立ち上げ予測」では、入タイマーで設定した時刻にユーザーの好みの温熱環境を実現する。従来は、設定時刻に運転が開始されていたが、各種データのほか気象データも同時に解析し、設定時刻の適温を実現したという。

 このほか、人感センサーによる在室・不在も判断しているため、"人がいないのに無駄に適温を保ってしまう"といった、AIの自動制御による特有の問題も回避できるのだという。

 またクラウド上に保存されたユーザーの各種データは、各エアコンの制御に利用される学習モデルの生成のほか、ビッグデータとしても利用されているという。ユーザーの傾向を把握するのはもちろん、自動制御後のユーザー操作を確認することで、AIが生成・推定した学習モデルについて、適切さの度合いを算出し、さらなる進化へ役立てているという。

 AIは「使えば使うほど最適化されて賢くなる」と言うが、それは1台ごとの運用に利用される学習モデルに対してだけでなく、大元となる、学習モデルを生成・推定するアルゴリズムの改善についても言えることがわかる。

据え置き型でBluetoothを採用した"未来形リモコン"

 リモコンを据え置き型にし、有機ELディスプレイやモーションセンサー、Bluetooth通信を採用した点も特徴だ。ここにも、富士通ゼネラルならではのユーザー視点がある。

 AIが学習して自動制御を行なうことで、ユーザーが操作せずとも「オーダーメイド快適」を届ける「ノクリア」Xシリーズでは、ゆくゆくはユーザーの操作が不要になる。これを見越して、リモコンでは「持つ」ことを前提とせず、据え置き型を採用したという。

 この新しいリモコンについて平氏は、「リモコンを据え置き型にした理由は、ほかにもあります。壁の高いところに設置された室内機にセンサーを搭載しても、実際に人がいる箇所の温度とは違ってきてしまいます。据え置き型リモコンなら、人のいる場所に近い温度が測定できるようになります。また据え置き型であるため、さまざまな角度からでも見やすい有機ELディスプレイを採用しました。

 また、"AIROUND"というコンセプトに合わせて、機械っぽさの少ない親しみやすいラウンドデザインを採用しました。そして、新しさということを考えたとき、モーションセンサーでの操作といった、新しい使い方も取り入れようとなったのです。

 Bluetooth通信を採用した理由は、操作データやセンサーの温度を送信するだけでなく、現在の設定などを受信して表示する必要があるからです。従来の赤外線通信では、確実な双方向通信は難しいのが現状です。

 なぜ双方向と受信する必要があるかと言うと、AIによる自動制御もそうですが、それ以外にもスマートフォンやスマートスピーカーで操作した後に、実際のエアコンの設定温度と、リモコンに表示される設定温度が異なっていて困った経験のある方もいるのではないでしょうか。

 複数の操作方法を備える現代のエアコンでは、他の操作端末で行なった操作を、それぞれの操作端末へ送ってやることで、ユーザーはどの操作端末からも、迷うことなく操作できるようになります」とコメントした。

センサーを内蔵する据え置き型のリモコンをBluetoothで双方向に通信させることで、複数端末でエアコンを操作しても、設定温度などに齟齬が出ない

既存機能を改良しながら、新しいデザインへ

 フルモデルチェンジが行なわれた本機では、これまで言われていた"ガンダムエアコン"からは程遠い、丸みを帯びた優しさのあるデザインが採用されている。このデザインも、AIを柱にした"AIROUND"というコンセプトに沿ったものだという。

 左右に配置され、冷温風を部屋の隅まで届けて、全体を快適にしてくれる「デュアルブラスター」も円形になり、さらに運転停止時には、吹き出し口が下向き回転することで収納され、スマートに。ゴツさをまったく感じないデザインに変化した。円形の据え置き型リモコンとも、相性の良いデザインになっている。

室内機は、丸みをおびたデザインに刷新。とくにデュアルブラスターの吹出口は、スマートに変化した
冷房でのデュアルブラスターの効果。冷風が天井に沿って部屋全体に届く
暖房でのデュアルブラスターの効果。温風が床に沿って全体に届き、足元が温かい

 これまで別売りで外付けだった無線LANアダプターは、室内機へ内蔵。それに伴って内部構造も見直すことで、多くの機能を無線LAN経由でアップデートできるようになっている。構造の見直しにより既存機能を改良しながら、同時に新デザインも取り入れ、全体を進化させているのである。

 また、本モデルからは、熱交換器加熱除菌の時間が従来の約90分から約50分と、約半分程度に短縮されている。これについて、河合氏は「従来製品をお使いのユーザーからは、『時間が長い』『部屋が暑くなる』という声がありました。

 今回のモデルチェンジにあたり、検証して突き詰めることで、結果的に時間短縮を実施できました。除菌のために加熱している時間は、本機でも従来機でも変わらず10分です」と語った。

熱交換器加熱除菌は、約90分から約50分と、約半分程度に時間が短縮(イメージ)

 世界で初めて開発されたという「フィルター自動掃除」機能についても改良が施されており、ダストボックスの着脱性能がアップ。もちろんダストボックスは水洗いも可能で、より清潔を保てるという。

 また本モデルから、無線LANアダプターが標準搭載されたことで、スマートフォンでの操作も標準化。外出先からの宅内温度の設定や電気代の確認に加え、継続機能として、操作内容や外気温を音声で確認可能になっている。加えて、Googleアシスタント、もしくはAmazon Alexaを搭載するスマートスピーカーにも対応し、"次世代エアコン"を実現する。

「フィルター自動掃除」では、ダストボックスが水洗い可能
スマートフォンの操作では、電気代が確認できるほか、タイマー設定機能が追加された

これからのエアコンについて

 最後に、お二方へこれからのエアコンについて尋ねたところ、河合氏からは技術担当らしい、平氏からは企画担当らしい、答えが返ってきた。

 河合氏からは、「もうすぐゴールデンウィークですが、読者の皆さんには、本格的に暑くなる前のこの時期に、エアコンの試運転をお願いしたいですね。冷房を最低温度に設定して運転し、冷えれば問題ありません。

 というのも、本格的に暑くなってしまってから、エアコンを修理しようとすると、混み合って何週間も待たされてしまうこともあります。また暑い時期に買い替えようと思っても、欲しい機種が売り切れてしまっていたり、設置に時間がかかったりと、良いことがほとんどないのです。

 ですので、まずはゴールデンウィークに試運転をしていただき、問題があるようならこの時期に修理されること、買い替えされることをオススメします」と、暑くなる前の試運転の重要性についての話をいただいた。

 例年、盛夏の時期にエアコンが壊れたという話を聞くが、あの暑さでエアコンがないとすると、大変なことになる。ぜひ実行したいところだ。

 一方、平氏は、AI搭載が当たり前になる近未来のエアコンについて「AIを搭載するエアコンが当たり前になれば、同じようにユーザーの操作が不要になるのも当たり前だと思います。それが当たり前になったとき、お客様が製品を選ぶ指標がどう変わっていくのかを考えて、我々の出した答えは『技術の蓄積』と『精度』でした。お客様のお好みに、いかに正確に近づけるかということです。

 高い精度を実現するためには、さまざまなデータを取り込める容量が必要ですし、そのさまざまなデータを処理できる高性能なAIが必要になります。かといって、毎回の操作をクラウド上のAIが行なっていては、制御に時間がかかってしまいます。今回の『エッジ&クラウドAI』は、そういった未来の形として我々が考えたものです。

 このような大容量で高性能なAIシステムを搭載すれば、オンラインでアップデートすることもできます。"次世代エアコン"として開発した『ノクリア』Xシリーズをぜひご検討いただければと思います」と締めくくった。

協力:富士通ゼネラル