難波賢二のe-bikeアラウンド

1台で様々な遊び方を実現!! キャノンデールのグラベルロードe-bike「Topstone Neo Carbon Lefty」

自転車のフレーム素材が、スチールからアルミフレームに変わり始めた1980年代後半から90年代前半。その時期に、極薄アルミメガチューブという現代にも続くアルミフレームのあり方を提案して、一世を風靡したキャノンデール。近代自転車産業の立ち上がり時期にアメリカ東海岸発の奇天烈なアイデアで時代の革命を牽引してきたブランドですが、いよいよ日本のe-bike市場にやってきました。

筆者が初めてキャノンデールのe-bikeに乗ったのは2013年の夏のこと、日本上陸までに随分時間がかかりましたが、欧米ではe-bikeの主要プレイヤーとして鍛え上げられてきただけあって、その完成度は相当なはず。

グラベルロードe-bike「Topstone Neo」とは?

アルミフレームのクロスバイクタイプのe-bike「Quick NEO(クイックネオ)」、e-Road(e-ロード)「Synapse Neo(シナプスネオ)」、そして今回ご紹介するグラベルロードタイプのe-bike「Topstone Neo(トップストーンネオ)」の3車種が日本に上陸しました。今回ご紹介するのは、そのフラッグシップに位置づけされる「Topstone Neo Carbon Lefty(トップストーンネオカーボンレフティ)」。

キャノンデール「Topstone Neo Carbon Lefty(トップストーンネオカーボンレフティ)」
メーカー名キャノンデール
製品名Topstone Neo Carbon Lefty
実売価格600,000円

ひと言でいえば、アメリカで流行りのグラベルロード風のe-bikeです。しかし、グラベルロードとは、ロードバイクをベースに林道などの比較的路面がキレイなオフロード走行も可能なタイヤや装備を持つツーリングバイクのこと。

とはいえ、トップストーンネオは単なるグラベルロードのe-bikeではありません。まず注目すべき点は、前後にサスペンションを採用したフルサスペンションバイクであること。キャノンデールはメジャーブランドとして、いち早く独自のサスペンションを搭載したメーカーです。そのアイデンティティとして、サスペンションメーカーのサスを搭載せず(一部モデルには搭載)に、フレームと一体開発した独自構造のサスペンションを90年代から絶えることなく搭載し続けているのです。

オンロードに強く、同時にそれほど凸凹でないオフロードも余裕でこなせる

21世紀に入ってからは、長らく片持ちフォーク「レフティ」を搭載していますが、このトップストーンネオにも、グラベルライディング専用に開発された30mmトラベルの最新鋭の「レフティ・オリバー」サスペンションを搭載しています。リアサスペンションは、典型的なエアスプリングと油圧ダンパーを採用したサスペンションユニットは使わずに、カーボンフレームにピボットを設けて、フレームのしなりを利用して衝撃を吸収するリーフスプリング式のサスペンション構造。

「レフティ・オリバー」サスペンションを搭載。タイヤもエアボリュームがあるので乗り心地も最高。しっかりノブがついているのでμの低いオフロードでもしっかりグリップ

減衰性能はカーボン素材に頼り、ほとんど発揮しないためサスペンションというよりスプリングなのですが、それでも衝撃の角を取るのには効果を発揮します。この構造をキャノンデールでは、「KingPin(キングピン)」サスペンションシステムと呼び、こちらも30mmのトラベルを実現しています。

一見ロードバイクのように見えるが、リアトライアングルにはピボットの設けられたサスペンション機構が入る

そして、メインフレームはカーボンで、ボッシュ製ドライブユニットのハイエンドモデル「Performance Line CX」と、インチューブタイプの500Whバッテリー「PowerTube 500」を採用しています。

フラットーサーフェイスでクリーンシートポスト取り付けはキャノンデールのお家芸
ボッシュのハイエンドモデルのドライブユニット「Performance Line CX」を搭載するが、オリジナルカバーで覆われている
バッテリーは500Whのボッシュ製「PowerTube 500」をダウンチューブに内蔵。ボトルケージも装着できるのが嬉しい
フラットバーハンドル用に設計されたコントローラーの装着位置には操作性、見やすさ共にやや難がある

自転車の様々な楽しみ方を実現してくれるe-bike

e-bikeのラインナップが充実するなか、「オンロードをメインで考えているのでフルサスペンションのe-MTBまでは……」「ロードバイクに乗り慣れているのでドロップハンドルのほうがしっくりくる……」「長年の経験でアルミよりはカーボンフレームがいい…」「バッテリーは見た目もスッキリしたインチューブタイプが欲しい……」「ドライブユニットはトルクのあるフラッグシップ系が良さそう……」「流行りのグラベルロード的な遊び方や荷物を積んでキャンプとか行ってみたい……」という欲張りな方もいるでしょう。

e-MTBばりのオフロード走破性は期待できないが、林道や舗装の荒れた村道を走る分には十二分。そしてオンロードも快適。週末になるとe-bikeで未知なる山奥の公道をディスカバリーしている筆者は非常に気に入りました

筆者もこれからe-bikeを始めるのならば、そうした要素を汲んだうえで検討すると思うのですが、目の肥えた既存サイクリストにこそ、よく見れば見るほどトップストーンネオは魅力的に写るのではないでしょうか。そして、お値段はなんと600,000円。超高級バイクであることは間違いないですが、唯一無二の装備とフラッグシップのドライブユニットを搭載することを考えると破格のプライスです。きっと目の肥えたユーザーならば、ご理解いただけるでしょう。日本市場攻略に向けたキャノンデールの本気が伝わって来ます。

倒木を超えたり、クルマに積んだりするときに握りやすい形状になっているトップチューブは好感触

その理由は試乗すれば、すぐにご理解いただけると思います。非常に快適なバイクです。前後サスペンションと42cタイヤの組み合わせは、オフロードを走っても快適そのもの。もちろん、オフロードでフルサスe-MTBまでの走りは期待できませんが、石畳や林道程度の凸凹ならば、アシストに任せてサドルに座ったまま快適に走ることができます。一方で、オンロードのアシスト領域外でも意外と走れますし、22km/h程度で軽いアシストを受けながら流すぶんにはタイヤのエアボリュームはこれくらいのほうが確実に快適です。

石畳や林道ぐらいのオフロード走行時には走りが軽く使いやすいWTB製タイヤ。WTBはアメリカの名門タイヤメーカー
ぬかるんだオフロードも走れるサイドノブと、舗装路での軽い走りを狙ったセンター部分が詰まり気味のノブ配置がバイクの性格を物語る
ちょっとしたオフロードの小道を見つけたら、気楽に走ってみれるのがe-bikeの魅力。シリアスではなくカジュアルなオフロード遊びがトップストーンの世界観に似合う

ヒルクライム性能は、Performance Line CXとフロント42Tとリア11-42Tのギア比で、舗装路で現れる坂道はすべてラクラク。カーボンメインフレームによってダウンヒルでの芯のあるコーナリングも楽しめることでしょう。

ハンドリングは、専門的な話になりますがフロントフォークのトレイル量が大きいため、少しクルーザー風味があります。よく言えば快適。悪く言えば退屈なハンドリングで、好みが分かれるかもしれませんですが、ツーリング用途のバイクなのでこのくらいの仕上げで良いのかもしれません。

ハンドルが「ハ」の字に少し開いたタイプのドロップハンドルは、下側を握って速く走るというより、長距離のツーリングで握る場所をいろいろ選べて、体に負担をかけないためのもの

キャンプ用品を搭載してのツーリングを考えると、インチューブタイプのバッテリーなので、ボトル2本装着可能となっています。しかし、片持ちフォーク「レフティ」ゆえにフォークバッグが装着できないのは残念。ハンドルバッグやシートバッグを駆使しての積載を考える必要があります。その一方で、フェンダーは装着可能な仕様なので、全天候用途では安心。ブレーキや変速関係はシマノ「GRX」が搭載されるので、過不足ありません。

ボトル台座が2本つくe-bikeは意外と少ない。しっかりとツーリングのことを考えた仕様になっている
カーボンのしなりを活かして衝撃を吸収するピボット付きのKingPinサスペンション構造。トラベルは30mm。
荒れたオフロードでもチェーンが脱落しないようにチェーンガイドも装着される
タイヤが太くてもアシスト速度域で走りの楽さは全然変わらないのがe-bike。なのでオンロードもゆっくり走るなら全然ラク。30km/h以上のスピードでの巡航は不向きというか、そんな気にならないまったりとした乗り物

現状で日本に登場したe-bikeを考えると、グラベルロードタイプでは、例えばスペシャライズド「TURBO CREO SL EXPERT EVO 」は、これよりもかなりオンロード向けです。また、ミヤタ「ROADREX 6180」はアルミフレームですから比較対象とならず、唯一無二のフルサス&フラッグシップのドライブユニット&カーボンフレームのグラベルロードという存在となります。

「オンロードもしっかり走りたい」「休日にキャンプ用品を積んで山や島に出かけたい」「夏には信州や奥磐梯の本気の峠を上って景色を眺めたい」「天気の良い日には通勤やカフェライドも楽しみたい」……等々すべてを1台でこなしたい派の人にトップストーンネオは最高の相棒となるのは間違いないでしょう。すでに10年以上自転車に乗って来たベテランの人が選ぶなら、自転車遊びの新発見があっておもしろい1台となると思います。

ロードバイクでは正攻法の真面目なデザインが多いキャノンデール。しかし、オフロードでは時代をひっくり返す仰天デザインが多い。トップストーンネオはどちらかと言えば後者寄りだが、機能と走りは理詰めのものだ

難波賢二

国際派自転車ジャーナリスト 1979年生まれ。20年近く昔のe-bikeの黎明期よりその動向を取材してきた自転車ジャーナリスト。洋の東西を問わず自転車トレンド全般に詳しく世界の自転車業界に強いコネクションを持つ。MTBの始祖ゲイリー・フィッシャーの結婚式にアジアから唯一招待された人物として知られる。