難波賢二のe-bikeアラウンド

スペシャライズド「TURBO CREO SL」が待望の納車!! 納車時に銀座店でe-bikeの話もいろいろ聞いてみた

5月中旬に「S-WORKS TURBO CREO SL」の納車でスペシャライズド銀座店へ

4月から国内発売されたスペシャライズドのe-bike「TURBO CREO SL(ターボ クレオ エスエル)」。筆者が注文していた「S-WORKS TURBO CREO SL」(以下クレオ SL)も遂に納車準備完了ということで、営業再開したスペシャライズドのコンセプトストア「スペシャライズド銀座」へ受け取りに行ってきました。

スペシャライズド銀座は、新型コロナウイルスの影響でしばらく閉店していましたが、緊急事態宣言解除後に段階的に営業を再開。本稿執筆中には予約制だった営業も解除され、マスク着用とアルコール消毒のうえ、現在は通常どおり入店できます。

スペシャライズド銀座店

昨年末に初めてクレオ SLを試乗して以来、「e-bike遊びとは何なのか?」を追求する立場としては、日本に初上陸したスーパーe-ロードを自腹で購入して遊び方を実践せねばと考えました。ということで、クレオ SLのエクスペリエンスも全部体験してみよう! そこで、銀座店で予約してみました。時節柄財布の中は大変厳しいものの、納車されたからには楽しみ尽くさねばなりません。

スペシャライズド「TURBO CREO SL」はどんなe-bike?

クレオ SLはすでにご紹介していますが、あらためてどんなe-bikeなのかをおさらいしておきましょう。一般的にe-bikeは、高級なモデルになるほどドライブユニットのトルクが強力になり、ドの付く急坂をラクに上れます。そして、遠くに走っていけるようにバッテリー容量が大きくなる傾向にあります。しかし、スペシャライズドはロードバイクや新世代のMTBタイプを作るにあたって、「そこまで大きなトルクは必要なのか?」という点に立ち返って、自社開発の軽量でトルクの細めなドライブユニット「Specialized 1.1」を開発。

自社開発のドライブユニット「スペシャライズト SL 1.1モーター」

そして、バッテリーをフレーム内部に“完全内蔵”。サービス以外での脱着を不可能とすることで、バッテリー脱着のためのフレーム開口部をなくし、軽量化と高剛性を両立。肝心のバッテリー容量自体も、現状では高価格帯のe-bikeが500Whなのに対して、クレオSLシリーズは320Whと4割程度少なくなっています。

この結果、通常のスポーツサイクルに比べて、ドライブユニットとバッテリーの重量で約7kgほど重たくなるe-bikeの車体重量を約4.5kgに抑えています。筆者が購入したS-WORKSモデルの場合、カーボン製のフレームとホイール、最高級のシマノ製コンポーネンツなどを採用し、車体重量は約12.2kg。通常のロードバイクと比べると重いのは確かですが、e-bikeとして考えると圧倒的に軽量なバイクとなっています。

筆者が購入した「S-WORKS TURBO CREO SL」

ちなみに、25年前に購入したクロモリフレームのイタリア製ロードバイクは、当時としては先進のアルミエアロホイールを装備しており、12.3kgという車体重量に衝撃を覚えた記憶が鮮明に残っています。そして、そのバイクでレースを走っていたのです。四半世紀も経つと、電動アシストで100kmも走れてエアロホイールも付いて当時より軽いという、思えば遠いところまで来てしまいました。

スペシャライズドのe-bikeは売れているのか?

今後は日本でも積極的にe-bikeを展開していくスペシャライズドですが、旗艦店の銀座店も店内の展示バイクの半分以上がe-bike。時代の潮目がいよいよ変わってきたのでしょう。

店内には多数のe-bikeの展示が

筆者の納車時点で、すでに銀座店では10台以上のe-bikeを販売したとのこと。さすが最先端トレンドの街・銀座を感じさせる初速の速さです。e-ロードタイプのクレオ SLが4台、e-MTBタイプの「TURBO LEVO SL(ターボ リーヴォ エスエル)」が1台、そして残りはクロスバイクタイプの「TURBO VADO SL(ターボ ヴァド エスエル)」とのこと。ちなみに筆者の納車は5月中旬で、それから約1カ月でさらに注文が増えており、時節柄もあって街乗り用途で買う人も多いそうです。

銀座店店長に話を伺いました

直営店なので在庫も豊富だろうと、千葉や長野から銀座店に購入に訪れた人もいるそうです。年齢層は40~50代が中心で、既存サイクリストもいれば、e-bikeで初めてのスポーツサイクルという人もいるそうです。そして、そこに共通する大きな特徴は「新しいモノが大好きな人」とのこと。筆者も思い当たる節があるので納得です。

店内には多数の注文済みのe-bikeが

ちなみに、銀座店ではスペシャライズドの公式オンラインストアで注文すると、都内なら15,000円で自宅まで配送してもらえるサービスも用意されています。

納車の際の点検・整備記録
マニュアルや充電器などの一式

スペシャライズド「TURBO CREO SL」の走りは? 楽しみ方は?

これまで何度も試乗したクレオ SLですが、納車後にしっかり500kmほど乗ってみると、インプレ試乗ではわからなかった様々なことに気づかされます。それでも一番魅力を感じるのは「軽さ」です。乗って軽いというよりは、日常の取り回しで車体が軽いのは、今さらながらやっぱり気軽です。例えば、クルマのトランクに積んだり、メンテナンススタンドに載せたりといった様々な瞬間に「やっぱり軽いのは楽」とあらためて実感します。

ロードバイクにしか見えないスタイリングも魅力。数千メートルの獲得標高を1日で走るようなロングツーリングもしてみたいが、普段のチョイ乗りでも気持ち良い走りを実現

走りについてはすでにご紹介していますが、乗り込んでみるとロードバイク的な使い方をしていても、走るルートの選択肢がガラッと変わるのが意外でした。坂がラクなのでクルマの多い幹線道路をわざわざ走る理由がなくなるので、クルマが少ない坂道を繋いで走るようになります。そのためクルマの幅寄せでイライラすることもなく、トラックの風の巻き込みでヒヤリとすることがなくなるのは、精神衛生上非常に幸せです。こんなご時世なので、やはり自転車に乗っている時くらいは幸せでありたいものですから。その点、ロードバイクらしさを存分に味わえ、快適に自由なルートが選べるe-ロードは時代の最終解であることは間違いないでしょう。

ロードバイクらしくしっかり走るので、人力のスポーツバイクを知り尽くしている人でも、平坦路でのサイクリングでそこそこに楽しめるのがクレオ SLの魅力。これは今までのe-bikeにはなかった新しい経験
山間の景勝地を巡りながら、グループでロードバイクでのサイクリングを楽しめるところが、やはりe-ロードバイクの魅力
近くの坂道をちょっと巡ってみるだけで、今まで見たことのない景色が現れるので、そうしたちょっとした発見が嬉しくなる

ドライブユニットのトルクや出力は、舗装路を走っている限りは不満はまったくないものの、バッテリー容量は320Whでは一日中乗るのには全然足りないというのは事実です。しかし、オプションの小型サブバッテリーであるレンジエクステンダーを装着すると160Whが追加され480Whとなるので、ロードバイク的な乗り方をするならばほぼ丸一日走れます。さらに、バッテリーが少々減って来ても車体が軽量で巡航能力が高いので、「バッテリーが切れても自走で帰ればいいか」という安心感は今までのe-bikeでは感じ得なかった新しい感覚。レンジエクステンダーはむしろ自分自身だったという感じなので、バッテリーの底まで使い切って乗れます。

ドライブユニットのスペシャライズト SL 1.1モーターは、舗装公道の場合はトルクも十分だが、アシストオフ時のドラッグは少し気になる
Qファクター(ペダルとペダルの間の長さ)が少し幅広なので、気になる人は気になるかもしれない。ちなみに筆者は気になります
ステアリングコラム内蔵のフューチャーショック2.0は、ミニマムな機構ながら効果は絶大。e-bikeなのでこの程度の重量増は気にならず、単純に快適
スペシャライズドのサドルはいつの時代も秀逸。パッドなしの状態で乗ってもお尻が全然痛くならない。新世代のパワーサドルの出来栄えは絶品
シマノ デュラエースDi2とXTR Di2がミックスコンポされるというレース用でもないのに豪奢なコンポーネンツ。ローターも最高級のものを装備
レンジエクステンダーはボトルケージに装着できるので、2本積みで走ることもできる

いわゆるロードレース用のレーシングバイクとしてみると、走りの面では正面から比べるものではありませんが、8割は満足できるものとなっています。クレオ SL本来のフィールドは、信州や裏磐梯の1,000m級の峠を含んだロングツーリングではないでしょうか。しかも、体力差のあるグループでも楽しく一緒に走るといった遊び方。そうした遊び方をすると、現状国内に導入されているe-bikeをはじめ、自転車の中でクレオ SLが最有力候補になるのは間違いありません。

ウィズコロナの時代となり、人のいない場所に行って今までにない遊び方を真剣に考えるなら、クレオ SLがあれば楽しくて快適な時間を手に入れられるのは間違いないでしょう。

難波賢二

国際派自転車ジャーナリスト 1979年生まれ。20年近く昔のe-bikeの黎明期よりその動向を取材してきた自転車ジャーナリスト。洋の東西を問わず自転車トレンド全般に詳しく世界の自転車業界に強いコネクションを持つ。MTBの始祖ゲイリー・フィッシャーの結婚式にアジアから唯一招待された人物として知られる。