老師オグチの家電カンフー

機能、性能、コスパではない「さしすせそ」からの家電選び

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
持っていると褒められる? 「さしすせそ」から家電を選んでみました

この連載で「ドヤ家電」を提唱してから6年が過ぎました。いまでも雑誌などでコメントを求められることがありまして、実にありがたいことです。たまにされるのが「ドヤ家電をどう選べばいいですか?」という質問です。ドヤ家電は自慢のための家電なので、心のおもむくままに選んだらいいじゃんと思うのですが、せっかくなので多少ロジカルに考えてみました。

自慢のベースにあるのは、「自分を良く見せたい」です。そこで参考になるのが、褒め言葉の「さしすせそ」。女性が男性を気持ちよくさせるテクニックとしてよく知られている言葉です。

さ:さすがですね
し:知らなかったです
す:すごいですね
せ:センスありますね
そ:そうなんですね

こんな簡単な言葉で気持ちよくなるなんて、男はバカだと思ってしまいますが、まあ気持ちよくなった者勝ちかもしれません。この「さしすせそ」をベースに、買って気持ちよくなれる家電の選び方を解説していきましょう。

さ:さすがですね家電

「さすがですね」は曖昧な褒め言葉ですが、分析すると、「さすが〇〇さん」と、その人らしさや個性を評価する言葉です。家電選びに当てはめると、自分らしさがアピールできるかが基準となります。機能や性能、値段は関係ありません。分かりやすいのは職業や趣味のための家電。その人らしさがそのまま伝わります。また、一般的でない家電ほど強く個性をアピールできます。例えば、二層式洗濯機を使っていれば、おのずと普通ではない信念や独自性を人に感じさせます。

水だけでなくジュースやワイン、日本酒などにも炭酸を注入できる炭酸ソーダメーカー「drinkmate(ドリンクメイト)シリーズ630」
ハイアールの二槽式洗濯機「JW-W80F」。使う人の個性やこだわりを強く感じさせることができる

し:知らなかったです家電

新たな知識や情報を提供できる家電です。ウンチクを語れる家電と言い換えてもいいでしょう。美味しいコーヒーを淹れられるコーヒーメーカーを買えば、なぜ美味しく淹れられるのか、そもそもコーヒーの美味しさとは? など、自らの知見を述べることができます。ただし、ウンチクに興味のない人間にとっては煩わしいのが普通。「早くこの話終わらないかな〜」と思われる諸刃の剣。あと、女性の「そうなんだ」、「知らなかったです」は条件反射的に発せられているだけで、興味は薄く、後から同じ話をしても同じ反応だったりします(うちの妻で実証済み)。

テスコムの「芯温スマートクッカー TLC70A」。一般的な低温調理器とは異なり、食材の中の芯温を測って調理するため、ローストビーフなどの美味しさをギリギリまで追求できる
三菱電機のコードレススティッククリーナー「iNSTICK ZUBAQ(ズバキュー) HC-JD2B」は、パイプとハンドルに中型ジェット旅客機「ボーイング787」の主翼製造時に発生する炭素繊維複合材料の廃材が再利用されている。マニアックな情報だが、航空ファンには響くかも

す:すごいですね家電

「すごいですね」は「パワーがある」と同義です。大きいからすごい、強いからすごい、お金持ちですごい、みたいな。これらは原始時代からの価値です。大きさは強さに直結し、強さは生存に直結していたので、女性がこれらに惹かれるのは当然のことです。現在では、強さは持っている富に比例しますから、お金を持っている事を証明できる高級家電は魅力的に映り、当然ドヤ度が高まるわけです。

「デロンギ ラ・スペシャリスタ・プレスティージオ グラインダー付きエスプレッソ・カプチーノメーカー」は同社のエスプレッソ・カプチーノメーカーにおける最上位モデルで、店頭予想価格は168,000円
上を見ればキリがないのが、時計の世界。セイコーの置き時計「悠久 AZ501L」は5台限定の受注生産品で660万円

せ:センスありますね家電

パワーとは別の軸の褒め言葉が「センスありますね」です。デザイン性が高い家電がこれに相当します。しかし、センスと自慢は相反する概念です。ドヤ顔すること自体がセンスないと思われる。言葉で語ってはいけません。ただそこにおしゃれな家電が置かれていることが、その人の評価を高めます。

各社がデザイン性の高さを追求し始めているのが、セカンド冷蔵庫や冷凍庫。写真はアクアの冷凍庫「AQF-SF11M」。横幅36cmとスリムでフリーザーには見えない
電動アシスト自転車、かっこ良く言えばe-bikeは外で使うだけにデザインがドヤを左右する。写真は個人的にオシャレで欲しくなっているBESV「CF1 LINO」

そ:そうなんですね家電

「そうなんですね」は、何かを納得したときに発せられる言葉です。新しい価値観や基準を感じさせる家電、今っぽい言葉で言えばニュースタンダードな家電。昭和の時代、家電にマイコンが搭載されていったように、平成で白熱電球がLED電球に置き換わっていったように、今後世の中を大きく変えていきそうな技術やコンセプトを持つ家電がここに入ります。

アピックスインターナショナル「レトルト亭 ARM-110」。お湯や電子レンジを使うことなく、直接レトルト食品を温められる
IoT家電もニュースタンダードを分かりやすくアピール。写真は、スマホでの調光調色が可能な「SwitchBot シーリングライト」

以上をまとめると、こうなります。

さ:さすがですね→人とは違う、個性的な家電
し:知らなかったです→ウンチクを語れる家電
す:すごいですね→高性能、高級な家電
せ:センスありますね→デザイン性が高い家電
そ:そうなんですね→ニュースタンダードな家電

ドヤ家電選びの新機軸を打ち出してみましたが、皆さんはこの記事を「さしすせそ」のどれで褒めてくれるでしょうか。

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>