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今なぜ“紙パック”なの? ついに登場した日立の掃除機が使いやすいか試した
2023年1月19日 08:05
年末の大掃除で、家の掃除機が活躍した人も多いことだろう。もし今の掃除機に不満があるとしたら「次に買いたい掃除機」は、どんな製品だろうか? ダイソンなどに代表されるサイクロン式のスティック掃除機を思い浮かべるか、あるいはロボット掃除機に興味がある人もいるかもしれない。
2022年12月に日立グローバルライフソリューションズから発売されたのは、“紙パック式のスティック掃除機”だ。一部メーカーでは今も根強い人気の紙パック式だが、今や新しい掃除機の主流はサイクロン式のスティック型。紙パック式は本体とヘッドが別体のキャニスター型では新製品が出ているものの、スティックの紙パック式を現在販売しているのは一部メーカーに限られている。
筆者は個人的に、コードレス掃除機にとって必要なのは一に「軽さ」、二に「バランス」、三四がなくて五に「紙パック」だと思っている。今回テストした日立の「かるパックスティック PKV-BK3K」は、それが全部入っている。実際どんなモデルに仕上がっているのだろうか? メーカーの説明会に参加し、自宅でも試用したため紹介したい。
どのくらい軽いと、スティック型掃除機は操りやすい?
先ほど書いた通り、今のスティック型掃除機にとって絶対正義といえるくらいなのは「軽さ」。PKV-BK3Kの重量は1.1kgだ。
もともと、今のスティック型掃除機の始祖ともいえるモデルは、スウェーデンのエレクトロラックスが出したエルゴラピード。このモデルができた時は、まだバッテリー、モーターとも黎明期。とても重いバッテリーを積んでも、使えるのは標準モード20分くらいで、強だと数分だった。重いため、彼らが取ったのは“ほとんどの重量を床で支えてしまう”方法だった。2kg後半の重さの掃除機でも、手にかかる重さは数百g。いわゆる自立できる掃除機だ。出しっぱなしにして、すぐ掃除ができる。気になるところだけちょっと掃除するという新しい使い方を提案した。
今のように“手で支える”のは、それより後に出てきた。この形で頑張ったのが、ダイソン。ダイソンは世界には約2.2kgのモデルを、国内は1.9kg、1.5kgのモデルを導入している。世界標準より軽いのは、日本人の体型や好みを考慮したためだ。
しかし、日立の今回モデルは1.1kg。手首を返すだけで、ヘッドを天井まで持ち上げることができるほど軽い。大掃除で照明カバーをキレイにする、エアコンの吸い込み口をキレイにするのも自在。当然、前後左右に動かすのも思いのままだった。それほどまでに軽い。
ただ軽いだけでなく“バランス”がいい
軽くするというのは、後述する「バランス」、吸引力、掃除時間、他の機能との取り合いになる。特に、1.5kgを切ると何を切り捨てて、何を追求するのかを決めなければならない。“軽薄短小”は長年、日本の十八番とされてきたが、全機能をキープしたまま軽さを追求するのは難しい。
本体を軽くすると、最も影響が出やすいのが「吸引力」。というのも、吸引力を作り出すバッテリーとモーターは、掃除機で重たい2大パーツだからだ。小さくすると吸引力が落ちる。軽くするために素材変更すると、コストが跳ね上がる。
多くのメーカーは、軽量モデルにおいて、吸い込み口の径を小さく設計変更してきた。吸い込む空気量を抑えることができると、吸引力を強くすることができるからだ。コードありのキャニスター型掃除機の吸い込み口は基本30mmほど。今は販売終了してしまった「カール」のようなかなり大きめのスナック菓子を苦もなく吸えるレベルだった。吸い込み径を細くすると、ちょっとした大きめサイズのゴミを吸うことができなくなる。テストしてきたモデルでは、かっぱえびせんで詰まった経験もあったほどだ。
一方で、日立のスティック型はというと、28mm。その代わりにヘッドが小型になった。一度に吸引する量を少なくして、吸引力を保とうとしたわけだ。
小型のヘッドは、同じところを何度も往復させなければならないので面倒臭いと思う人もいるだろう。しかし、今回試した限りでは、結論からいうとあまり変わらなかった。
また、幅広ヘッドできちんとゴミを取る場合、ヘッド端から吸い込み口まで距離があると、それなりにゆっくり動かす必要がある。逆に、小さいと端が吸い込み口に近いため、それなりの速度でヘッドを動かしても問題ない。スピードで補うわけだ。
また、ポール(延長管)の厚みも薄くなっている。薄くても強度を上げるために、よく見ると独特の模様が施されている。この模様、個人的に好みではなかったものの、細かな部分からでも改善しようという意図が伝わってくる。
このように小さく軽いパーツを駆使し、PKV-BK3Kはうまくバランスを取っている。掃除機に大事な吸引力も、あまり変わらないと感じた一方で、動作音はかなり小さくなっていた。ざっくりいうと「強」でも今までの「弱」のよう。音が小さいと吸引力は弱いと思うかもしれないが、実際はそんなことはなかった。
ヘッドを外してハンディ型(本体のみ)にした時は、すぐ使えるように口にブラシが付いている。径はポール径のままで、かなり大口。しかし、その口径でも十分な吸引力があるようで、実際に使ってみると、よくゴミを吸い込んだ。日立が行なったデモでは、ゴミを吸った後でも、重いボウリングの球を吸って持ち上げられていたほどだ。
この小さな動作音も、バランスの良さの賜物。それなりの吸引力を持っているのに、小さく、くぐもった動作音のため、夜に掃除機をかけても、隣から苦情が来ないレベルだと感じた。これはちょっとうれしいポイントだ。
なぜ今も紙パックにニーズがある?
ここ2年のコロナ禍で、生活スタイルは大きく変わってしまった。外出が減り、家にいる時間が増えた。コロナをできるだけ避けつつ、気持ちよく暮らすためには、清潔なこと、すなわち丁寧な掃除が欠かせなくなっている。
一方で、ご存じの方も多いように、ダイソンがサイクロンシステムを作ったのは、1980年代当時の紙パック式の掃除機だと「使っているうちに吸引力が下がってしまう」からだった。当時の紙パックは、1層の構造。最終的には捨てるものだから、できる限り節約した形だ。このために、すぐ目詰まりが発生してしまい、吸引力が落ちたわけだ。
しかし、今私たちが着けているマスクが3層で長時間ウイルスから身を守ってくれるように、メーカーは紙パックを多層構造にしている。一番多いのは独ミーレ社の10層、日本の多くのメーカーは3層の紙パックだ。ミーレの家電は、欧州の富裕層に御用達であるように、性能第一であって高価。日本メーカーは、より多くの人に使ってもらうためと、同じ紙パックでも考え方が異なっている。
実際、今の紙パックは、満タンになるまで吸引力の低下をほとんど感じさせないレベルになっている。
どうして紙パックでも吸引力が落ちにくいのか
先ほどの動画で紹介したように、ゴミがたまってもボウリングの球を落とさないほどの吸引力を保つため、日立が今回のかるパックスティック PKV-BK3Kで特徴としているのは「パワー長もち流路」という新しい仕組み。
本体の集じん部の上下に、空気が流れる道(スペース)を確保しておくことで、もし紙パックがゴミで一杯になっても、空気の流れを邪魔せず、強力な吸引力が維持されるというわけだ。また、これまでのサイクロン式ラクかるスティックで開発した、小型軽量でも強力な三次元形状ファンの「ハイパワー3Dファンモーター」を、今回の紙パック式でも採用している。
一方で、今のサイクロン式には克服できていない課題がある。それはゴミを捨てる時に起きるもので、勢いよくゴミ箱などに移し替えると、軽いゴミやハウスダストなどが周囲に飛び散ってしまう場合があることだ。目に見えないゴミでも、アレルギー体質だと喘息の発作などを引き起こす恐れがある。捨てるときに自動で密封される紙パックだと、ゴミが飛び散ることもないし、そもそもゴミのつまったダストボックスが外から見える必要がない。
日立のかるパックスティックは、ゴミを捨てる時に紙パックが一杯になっていても、フィルターの枠がスライドして簡単に取り出せるほか、吸い込み口がシール状のフタで密閉できるため、よりホコリが舞いにくく、ゴミがこぼれにくい仕組みになっている。
紙パックの交換目安は約2カ月に1回となっており、交換用の紙パックの価格は6個入りで1,210円。ランニングコストは必要なものの、健康を守るためと考えれば高すぎるということはないだろう。
小さいゴミまで見える工夫。SDGsを考えたスリムデザインも魅力
昔と違い、いまの日本の建物は断熱材がたっぷり。そして24時間エアコンを使いっぱなしにすることがあるので、換気の機会も減っている。しかも外はアスファルト舗装。こうなると外から入ってくるゴミは、人の服に付着した細かいホコリや花粉などが主になる。
だから部屋に溜まるのは、人の衣類から出てくる繊維くずと紙類から出てくる紙粉、そして外から持ち込まれる花粉などになる。この繊維くずや紙粉がホコリになるのだが、そこに住むのがホコリダニ。このダニのフン、脱皮カス、死骸がハウスダスト、いわゆるアレルゲンとなる。花粉やハウスダストは、肉眼では捉えられないサイズで数十~数百μmと小さい。しかし、アレルギーを持つ人にとっては、この2つを確実に除去しないと安心して生活ができない。とても大事なことだ。
目に見えるゴミなら、どんな掃除機でもちゃんと使えばほぼ確実に除去できる。このため、花粉、ハウスダストをビジュアル化ことを目的にいろいろなメーカーが採用しているのが、緑色の光をゴミに当てて見る方法だ。これは白色光よりも小さいゴミまで目に見える。また、別の方法もあり、それは赤外線センサーで吸い込んでいるゴミのサイズを感知、花粉・ハウスダストサイズのゴミがなくなったら、LEDで知らせるものだ。
PKV-BK3Kで日立が採用したのは前者の緑色の光。使ってみると、肉眼では見えにくかったサイズの床のゴミまでよく見えて掃除できた。
軽く使いやすいPKV-BK3Kは、地球環境などSDGsを考慮したモデルでもある。家電でのSDGsへのアプローチは2つ。1つは省エネ、もう1つはいかに使用する樹脂量を抑えるかだ。このモデルで顕著なのは、樹脂量。本体が細身かつ軽量に設計されており、その影響はスタンドにも出ている。本体が軽いため、支える部分を余分に作らなくてもいいためだ。このためスタンドのサイズは1/2以下。この改善は、世界的な時流にも合っている。
ホコリに敏感な人や掃除機の音が気になる人に
今まで日立が培ってきた技術を活かした最新の掃除機であり、機能やデザインは一級品といえるが、惜しまれるのは発売したタイミング。昨今のエネルギー価格高騰なども背景に、結果として高価格にせざるを得ない状況になってしまったことだ。直販価格は81,730円で、今までに比べると高いと感じる人は多いだろう。
これは同社に限った話ではなく、家電を含む多くの市場で起きていることだ。メーカー努力で、できる限りの価格にはなっているものの、あと一声「まけて」と言いたいのも消費者としては正直なところ。
それでも、この掃除機をおすすめしたい人、ベストと推したい人がいる。まずは、アレルギーを持っている一人暮らしの人。完全にキレイにするなら、ダストセンサー付きの方が有利だが、そこは医療でも認められている喘息の予防法にもあるように、平米あたり20秒で、ゆっくり掃除することで対応可能。これは、少し前に流行った布団掃除機と同じだ。なお一部のテレビショッピングのデモでは、さっと撫でる様に吸い込むように使っていた例もあったが、これはハウスダストを除去する観点からいうと間違い。ハウスダストはダニ由来でトゲだらけなため、どこにでも引っ掛かり、瞬時に吸引はできないためだ。“ゆっくり掛ける”ことで、助けられることは多い。
次におすすめしたいのは、面倒くさがりの人。サイクロン式は、モデルや掃除する部屋によって異なるものの、だいたい1週間に1度のゴミ捨て、清掃が要る。日立のPKV-BK3Kは先ほど説明した通り1~2カ月に1度ほどの紙パック交換で問題ない。加えて、水洗いなどのメンテナンスもせずに済む。
あとは、動作時の静かさも実感できたため、マンション住まいの人にも注目してほしい。集合住宅での家電の騒音は問題になることも多いし、夜もしくは早朝しか掃除する時間がない人もいるだろう。そういった時の問題を、できる限り抑えてくれそうだ。
古いようで実は新しい、紙パックを使える「かるパックスティック PKV-BK3K」は、様々なポイントで、この冬の魅力的なスティック型掃除機といえる。