トピック

中古家電、買っても大丈夫? 汚くない? ヤマダ電機のリユース工場で分かったこと

群馬県藤岡市の「ヤマダ東日本リユースセンター群馬工場」で2022年5月に新設された冷蔵庫・洗濯機生産棟

生活家電の中古品といえば、ハードオフやセカンドストリートといったリユースショップ、またはメルカリやヤフオクのような個人間取引を思い浮かべる人が多いだろう。

これまで、新製品を買うなら家電量販店、リユース品ならリユースショップか個人取引と、明確な線引きがされてきた。そもそも、家電量販店が生活家電のリユース品を積極的に扱ってこなかったのは、再生の手間がかかること、再生品として販売できる良質なリユース品の数が集まらないこと、なにより、家電量販店にとって主事業となる新品販売への影響が懸念されるから。

そのような中、家電量販トップのヤマダ電機は2001年から子会社で洗濯機・冷蔵庫・テレビの3品目のリユース販売をスタート。その後、2015年には直営店「ヤマダアウトレット店」を展開し、新品のアウトレット品(型落ちや店頭展示品)とともにリユース品の販売を本格化する。群馬県前橋市からスタートしたアウトレット店は現在、全国92店舗にまで拡大している。

これまで、ヤマダ電機では年間7万台のリユース家電を生産し日本全国で販売しているが、それでも「生活家電のリユース品ってきれいなの?」「買っても大丈夫なの?」という疑問や不安を抱いている人は多いはず。

百聞は一見に如かず。再生工場を見ればその疑問・不安に答えられると思い、2022年5月20日に最新式ハイテク工場を増設してリユース家電の増産体制を構築した「ヤマダ東日本リユースセンター群馬工場」(藤岡市)を見てきた。

高度にデータ管理されたリユース家電の生産ライン

同工場はヤマダ電機グループのシー・アイ・シーが管理・運営するもので、この工場だけで年間6万台のリユース品を生産してきた。

今回増設された「冷蔵庫・洗濯機生産棟」は敷地面積4,500坪、地上2階建ての大型施設で、新棟の完成により2022年度の生産台数は年間18万6,000台まで飛躍的に拡大。「18万6,000台は今年度の生産目標ですが、生産したものはほぼ売れてしまうので、イコール販売台数となります」と、ヤマダホールディングス経営企画室長サステナビリティ推進室長の清村浩一執行役員は説明する。なお同社は、最終的には年間30万台のリユース家電生産を目指している。

ヤマダホールディングス 経営企画室長 サステナビリティ推進室長の清村浩一執行役員

実際、取材に訪れた日も朝からひっきりなしに10tトラックが工場に横付けされ、大量の冷蔵庫・洗濯機が下ろされていた。群馬工場には、中部地方から北海道までの中・東日本各地のヤマダ電機店舗で買い取られた中古家電が1日約500台搬入されてくるという。10tトラック10台もの量が毎日搬入されるのだ。なお、関西以西の西日本で集められた中古家電は滋賀工場に搬入し、再生産される。

買い替えなどでお客から買い取った中古家電が毎日500台ほど搬入される

ヤマダ電機がお客から買い取る家電品は、洗濯機と冷蔵庫は12年前までの製品、テレビは10年前まで、エアコンは7年前まで。買い取り金額は使用年数と状態、付属品のありなしで変わるが、最低でも100円で買い取る。買い取った製品の販売価格は、これも製造年数と状態によるが、最高で発売時価格の半額を目処に値付けされて店頭に並べられるという。

「工場に搬入したリユース家電はすべて、買い取った店舗、買い取り金額、メーカー名、型番、製造年数といったデータを入力後に自動倉庫に搬入して管理します。最終的には修理履歴、再生産後にどの店でいくらで販売したかも入力します。リユース家電を販売した後も責任を持つためにトレーサビリティ管理をしっかり行なっているのですが、これらのデータは修理など販売後のサービスにも役立てています」(シー・アイ・シー 経営企画室の久保哲彦部長)。

搬入された中古家電は全品、メーカー名や型番、買い取り店舗などのデータを入力する。この後、洗浄や修理のたびにデータが入力され、トレーサビリティ管理を行なう
シー・アイ・シー 経営企画室の久保哲彦部長

データ入力された中古家電は自動倉庫に一時保管されるのだが、新工場の大きな目玉となっているのがこの自動倉庫。33×42×21m(幅×奥行き×高さ)、約7,000台の家電製品が収納できる巨大自動倉庫の新設により、洗浄・修理前の製品と、再生して出荷を待つ製品を一括管理できるようになった。搬入・搬出が迅速化することはリユース家電の生産数向上に大きく貢献し、また、店舗からの要望により、どの家電を優先的に洗浄・修理するか、どの家電をいつどこに出荷するかを効率的に管理できるため、お客の要望にも迅速に対応できるようになった。

巨大な自動倉庫の中をリユース家電が縦横無尽に動き回る。以前はフォークリフトで人力で入出庫していたが、手間もかかるし収容能力も低かった

とことんチェック、とことん洗浄

リユース洗濯機の生産は「1次点検→洗浄→2次点検→最終点検→自動倉庫→出荷」という手順が踏まれる。1次点検では外観・付属品の確認だけでなく、家庭と同じ環境を作って10項目の動作点検も行なう。通電して水を入れ、洗浄・排水・乾燥といった一連の操作を行ない、機能・性能が正常に働くかチェックするものだ。

洗濯機の1次点検では1台1台通電し、注水して洗濯・乾燥運転が正常に働くかをチェックする

続いて洗浄。分解して洗濯槽、パーツ類を丁寧に洗浄する。洗濯槽は特注の自動洗浄機に入れて洗浄。本来ならパルセーターなどのパーツ類も自動洗浄機で同時に洗浄できるが、コロナ禍により自動洗浄機の部品調達が間に合わず、現在は手作業で洗浄している。もちろん、洗濯槽を外した洗濯機内部、さらには排水ホースの中も高圧温水とブラシを使って丁寧に洗浄している。「洗濯槽もパーツ類も全て50℃の温水を使った高圧ジェット水流による洗浄で、なるべく洗剤は使っていません。洗剤による環境汚染をできるだけ防ぐためです」(シー・アイ・シー 藤岡リユースセンターの我妻 恒センター長)。

洗浄前の洗濯槽。カビだらけで汚い
特注の自動洗浄機が温水と高圧ジェット水流で汚れを吹き飛ばす。洗剤は一切使わない
洗濯槽から落ちた汚れ。小さなカスも落ちており、隅々まで洗浄されているのが分かる
蓋の裏や洗濯槽の裏側など、細かい箇所もブラシを使って丁寧に汚れを落としていく
ドラム式洗濯乾燥機も分解して手作業で内部を丁寧に洗浄する
洗浄後の洗濯機はまるで新品のようにピカピカだ
排水ホースも汚れが溜まる場所。ブラシを使って丁寧に汚れを落としていく
シー・アイ・シー 藤岡リユースセンターの我妻 恒センター長

洗浄が終わったら組み立てて2次点検。もう一度、家庭と同じ環境を作り、給水・洗い・すすぎ・脱水・乾燥を行ない、水漏れや異音がないかをチェック。「完全分解しているので、洗浄や組立時にヒューマンエラーがあるかもしれません。だから、白いタオルを入れて洗浄し、汚れが残っていないかをチェック、さらに、搭載されている洗濯・乾燥コースはすべて確認します。操作パネルの故障で1つでも機能が働かないと、商品としては成り立ちませんから」(我妻センター長)。

真っ白なタオルを洗濯して汚れ残りがないかチェック。洗濯コースなどの機能もすべて実際に運転して動作確認する

なお、排水ホースや糸くずフィルターなどの消耗品が傷んでいたり、紛失している場合は新品またはリユース品で程度の良いものと交換するという。

ホースや糸くずフィルターなどの消耗品が大量に保管されている

外装の傷みが激しいなど、商品として再生はできないが中の部品の程度が良いものは分解し、何年に製造されたどの製品のどこのパーツ部品なのかをバーコード管理し、いつでもすぐに修理に使える体制を整えているのだ。「5,000パーツくらいを保管できるスペースを用意しています。保管場所もデータ管理しているので、必要な部品は端末操作ですぐに発見できます」(我妻センター長)。

製品として再生できないが、部品が生きている個体は部品取り用として活用される
メーカーから取り寄せできる場合は新品のパーツを使い、メーカーが既に保管をやめていたり入手困難なパーツはリユース品を使う
きれいに洗浄されて修理を待つドラム式洗濯乾燥機

冷蔵庫は洗剤と90℃の高温水で徹底的に洗浄&消毒

冷蔵庫も、「事前点検→1次点検→洗浄→最終点検」といった入念な工程で再生される。事前点検は外観のチェックと、通電して電源やコンプレッサー・ファンモーターの動作と異音を確認。その後、1次点検では24時間通電し、最高温度から最低温度まで庫内温度の変化、霜取り機能の動作確認を行なう。庫内の温度センサーが規定通りに稼働しているかどうかは、1日かけて通電しないと分からないという。

長時間通電して冷蔵室・冷凍室の最高温度と最低温度、温度センサー、霜取り機能が正常に働いているかをチェックする

次に洗浄だが、製氷機や引き出しなどの取り外し可能なパーツは、給食センターなどで使用する食器洗い機を改良した専用自動洗浄機に入れて洗浄。冷蔵庫は食品を扱うため、洗剤を使って入念に洗浄し、さらに90℃の温水で仕上げすすぎ洗いをして消毒する。冷蔵庫の外装および庫内は手作業での洗浄だが、最後は次亜塩素酸を使って洗浄消毒する。そして組み立てた後に再度通電して最終点検という流れになる。

給食センターなどで使う大型食器洗浄機を改良した洗浄機を使い、取り外し可能な棚や引き出し、細かいパーツを洗剤と90℃の温水で洗浄・消毒する
外装や庫内、パッキンの隙間なども手作業でくまなく洗浄

なお、洗濯機・冷蔵庫ともに、電源系統や基板を修理した場合、1,000Vの電圧をかけた耐電圧検査を行なうという。「年間十数万台のリユース家電を生産していると、ヤマダ電機は家電メーカーという位置づけになる。そのため、電気用品安全法の対象になります。耐電圧検査にクリアした製品は、ヤマダ電機としてPSEマークを貼付して出荷します」(清村室長)。

電源系統や基板を修理した製品は耐電圧検査を実施
耐電圧検査をクリアした製品は新たにPSEマークを貼付する

別棟で行なわれているテレビとエアコンのリユース生産も見てきた。テレビは冷蔵庫・洗濯機のような派手な洗浄作業はないが、背面や内部などホコリが溜まりやすい箇所のクリーニングを1台1台手作業で丁寧に行なっていた。ユニークだったのが動作確認。基板の取り替えなど修理後の製品は数時間、場合によっては1週間も通電して動作確認する。「液晶テレビの場合、気温や湿度、点灯時間など、エラーが発生する条件がシビア。長い時間をかけてチェックしないとエラーが発見できない場合があるのです」(我妻センター長)。

テレビは精密パーツの塊であり水気は厳禁なので、手作業で隅々まで丁寧に掃除する
故障の多い基板をメーカー・型番ごとに大量に保管

エアコンも、動作確認のための検査室を閉め切り、夏は部屋の温度を冷房で下げてから暖房のチェック、冬は部屋の温度を暖房で上げてから冷房のチェックと、時間をかけて徹底的に動作確認している。

エアコンの動作検査室。ドアを閉め切り、夏は暖房をかけて冷房運転のチェック、冬は冷房をかけて暖房運転のチェックを行なう。もちろん、全数検査だ

24カ月無料保証は品質への自信の表れ

「当社グループには長年蓄積したデータがあります。工場で修理したリユース品のデータだけでなく、ヤマダ電機店舗で販売した新品の修理データも加え、このメーカーのこの製品はここが壊れやすい、劣化しやすいという膨大なデータが蓄積されているのです。それに基づいて時間をかけて入念にチェックすることで、故障や劣化を見逃さない体制を作っています」(久保部長)。

こうした入念な点検と洗浄、修理、再度点検を経てリユース家電が店頭に並ぶことになるのだが、ヤマダ電機ではテレビ・冷蔵庫・洗濯機の3品目に関しては無料で24カ月保証をつけている。

「それだけ品質には自信があります。万が一、故障した場合は同等品とまるまる交換対応することになりますが、交換ではなくどうしても修理してほしいという場合には、ヤマダ電機がお客様に代わってメーカー修理を依頼します。修理費用はヤマダ電機が負担します」(清村室長)。

パソコンやデジカメ、テレビのようなデジタル機器のリユース品を買うことは既に一般的になっている。しかし、生活家電のリユース品はまだまだ一般的とは言い難い。口に入れるもの、身につけるものを扱う家電に対して、誰が使ったのか分からないので不潔、水を扱うものなので安全面に不安がある、といった悪いイメージが存在することが大きな理由だ。しかしヤマダ電機のリユース工場で、徹底的な洗浄・消毒と、何度も入念に動作確認する工程を見ると、生活家電のリユース品に対する悪いイメージは払拭されるだろう。

現在、家電製品は値上がりする傾向にある。コロナ禍による部品不足や円安の影響で生産コストが高騰しているためで、最近では店頭での値崩れ防止策を導入する(委託販売に準じた契約をする)メーカーも出ており、高値安定の傾向は今後も続くと見られている。

こうした背景により、ドラム式洗濯乾燥機や大型冷蔵庫のフラッグシップモデルは30万円を超える価格で高止まりしているが、一方で、リユース品は年式が数年落ちるものの、フラッグシップでも15万円以下、10万円以下の製品が並ぶ。こうした新品価格との大きな乖離により、リユース家電の売り上げは上昇している。

「少し前は、単身赴任者や学生が短期間の使用を前提に低価格なリユース品を求めたり、建築現場や農家などが作業着を洗うためのセカンド洗濯機、収穫物を入れるためのセカンド冷蔵庫をリユース品に求めていましたが、最近ではファミリー層がメイン機種として求めるケースも増えています」(清村室長)。特に、群馬工場の新施設がテレビなど各メディアで紹介されて以降、来店客の意識が変化してリユース家電の売れ行きはさらに加速しているという。

最新の機能・性能にこだわりがなく、景気回復するまで、新製品の価格が落ち着くまでの“とりあえずのつなぎ”や、ドラム式洗濯乾燥機などフラッグシップモデルを一度経験してみたいといったお試し的な感覚でリユース家電を購入していくケースも増えている。住宅から車、楽器に本と、既に大きな中古市場を形成しているジャンルは多いが、家電も中古品が選択肢に入るのが当たり前になる時代は、すぐそこまで来ている。

近藤 克己